• 心臓以外の手術でも7人中1人に術後の心筋障害リスク

    以前から、心臓以外の手術(非心臓手術)が術中あるいは術後の心筋障害(周術期心筋障害;PMI)のリスクや、それによる死亡リスクを上昇させる可能性が指摘されている。

    PMIは明らかな症状がないことが多いため見逃されやすいが、その頻度はこれまで考えられていたよりも大幅に高いことが、バーゼル大学(スイス)のChristian Puelacher氏らによる研究で明らかになった。
    高齢患者などリスクの高い非心臓手術患者約2,000人の約7人中1人にPMIが認められたという。
    詳細は「Circulation」12月4日オンライン版に掲載された。

    Puelacher氏らは今回、2014~2015年に同大学病院で人工関節置換術やがんの摘出術などの非心臓手術を受けた患者のうち、65歳以上の高齢患者および45歳以上で冠動脈疾患や脳卒中、末梢動脈疾患の既往歴がある高リスク患者2,018人(年齢中央値74歳、女性42%、手術件数は計2,546件)を対象とした前向き研究でPMIの発生頻度について検討した。
    PMIは術前評価で測定された心筋障害のマーカーである高感度心筋トロポニンT(cTnT)値が術後に14ng/L以上上昇した場合と定義した。

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    その結果、実施された非心臓手術2,546件中397件(16%)でPMIが認められた。術後30日の死亡率は非PMI例の1.5%に対してPMI例では8.9%と高かった(P<0.001)。
    また、PMI例のうち胸痛がみられたのは6%のみで、虚血に関連した症状がみられた例も18%にとどまっていた。

    Puelacher氏によると、PMIを引き起こしうる要因は多岐にわたるため、患者ごとにPMIの治療法は異なるが、薬物療法ではβ遮断薬やスタチンなどが選択肢となるという。
    なお、同氏をはじめ専門家らは「高齢であることや心疾患があることを理由に必要な手術を回避すべきではない」と強調している。

    この結果を受け、米国心臓病学会(ACC)リーダーシップ委員会外科部門のAlistair Phillips氏は「これまで、われわれは非心臓手術に伴う心筋障害の発生頻度を過少に見積もっていた」と指摘。

    ただし、今回の研究結果は「警告」としてではなく、手術患者の管理を向上させるためのデータとして前向きに受け止めるべきだとしている。

    その上で、同氏は「米国では心筋障害のマーカーであるcTnTの測定は最近承認されたばかりだが、cTnT測定が普及すればPMIを発症する手術患者をより管理しやすくなるのではないか」との見方を示している。

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    HealthDay News 2017年12月4日
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  • “バブルボーイ”の治癒に光、新たな遺伝子治療で有望な成績

    遺伝子の異常によって生まれつき免疫機能が働かない重症複合免疫不全症(SCID)の患児は、病原体の感染から身を守るために無菌空間(バブルルーム)で過ごす必要がある。

    このことから米国ではSCIDの患児は「バブルボーイ」と呼ばれることもある。
    この極めて重篤な疾患の治療法として、新たに開発された遺伝子治療が有望であることが、米セント・ジュード小児研究病院のEwelina Mamcarz氏らによる臨床試験で示された。
    同試験でこの治療を受けた7人のうち6人が自宅で家族とともに通常の生活を送れるようになったという。
    この結果は米国血液学会(ASH 2017、12月9~12日、米アトランタ)で発表された。

    SCIDの患児は細菌やウイルスなどの病原体に感染しやすく、風邪さえも命取りになることがある。
    SCIDの中でも最も頻度の高いX連鎖SCID(X-SCID)は男児にのみ発症し、米国では5万4,000人に1人の割合でみられる。X-SCIDの患児は生まれつき免疫細胞であるT細胞やB細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞を適切に産生できない。
    治療しなければ2歳までに死亡し、現時点で最善の治療法である造血幹細胞移植を受けても約30%が10歳までに死亡するという。

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    Mamcarz氏とともに研究に参加した同病院のBrian Sorrentino氏によると、新たな遺伝子治療は不活化したHIVをベクター(遺伝子の運び屋)として用い、患者の骨髄細胞の遺伝子を変化させるというもの。
    それによって3種類の免疫細胞を全て産生できるようにする。
    ベクターにHIVを選んだのは、このウイルスがヒトの免疫細胞に容易に感染する性質を持つためだという。
    これまではマウス由来の別のウイルスを利用していたが、細胞のがん化を活性化し、白血病を誘発する傾向があるという問題があった。
    HIVを用いた方法では同様の副作用はみられないとしている。

    この治療を乳児に行う際には、あらかじめ抗がん薬のブスルファンを投与する必要がある。
    今回の臨床試験には関与していない米ハーバード大学医学部のJonathan Hoggatt氏によると、骨髄移植を行う場合は事前に化学療法や放射線の全身照射により免疫系を死滅させる処置を行うことが多い。
    ただ、乳幼児に抗がん薬を使用することによる有害性を懸念する研究者は多く、SCID患者は免疫細胞を持たないため、抗がん薬投与の必要もないと考えられていた。
    しかし、抗がん薬を投与せずに遺伝子治療を行った患児では、T細胞の産生は認められたものの、B細胞とNK細胞の産生は認められなかったという。

    今回の試験では、コンピューターで患者ごとの必要最低限の用量を計算してブスルファンを投与し、遺伝子治療を実施した結果、3種類の免疫細胞の全てが産生されるようになった。
    一部の症例では、骨髄細胞の60%以上に正常な遺伝子の導入が認められたという。Mamcarz氏らは今後も追跡を続け、副作用のない安定した状態が維持されるかどうかを確認するとともに、ワクチンを接種した時の反応についても調べる必要があるとしている。

    なお、学会発表された研究は査読を受けて医学誌に掲載されるまでは予備的なものとみなされる。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2017年12月9日
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