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12月 21 2019 がんの家族歴がある人はがん罹患リスクが高い――JPHC研究
がんの家族歴のある人はがんに罹患するリスクが高いことが、日本人を対象とする前向き研究から明らかになった。全ての部位の合計では約1.1倍、部位別に見た場合、膀胱がんのようにリスクが約6倍に上るがんもあるという。国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの研究によるもので、詳細は「International Journal of Cancer」10月8日オンライン版に掲載された。
この研究は、1990年と1993年に全国10地域の住民を対象に行った生活習慣などに関するアンケート調査に参加し、がん既往歴のなかった40~69歳の人10万3,707人を、2012年末まで追跡したもの。アンケート調査の回答に基づき対象者全体を、がん家族歴の有無で2つのグループに分け、全部位のがん罹患リスク、および部位別のがん罹患リスクを比較検討した。なお、家族歴は、実父、実母、兄弟、姉妹に1人以上がんになった人がいる場合に「あり」とした。また、がんの部位別の検討では、各部位のがんごとに同じ部位のがん罹患リスクとの関連を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。がんの罹患に関連する可能性のある、年齢、性別、地域、BMI、喫煙、飲酒、身体活動、糖尿病歴、健診受診歴、および婦人科がんについては月経状況とホルモン剤の使用について統計的に調整して解析。その結果、全部位のがんをはじめ部位別のがんも、家族歴がある場合は罹患リスクが高いことが分かった。統計的に有意なリスク上昇が見られたがんとそのハザード比(HR)は以下の通り。
全部位のがん1.11、食道がん2.11、胃がん1.36、肝臓がん1.69、膵臓がん2.63、肺がん1.51、子宮がん1.93、膀胱がん6.06。このほか、大腸がん1.14、胆道がん2.33、乳がん1.50、前立腺がん1.47もHRの上昇は見られたが統計的には有意でなかった。
続いて本人の喫煙の影響を除外する目的で、喫煙歴の有無別に解析すると、家族歴があることでリスクの上昇が見られた前記のがんは、喫煙歴の有無にかかわらずリスクが高い傾向にあった。例えば全部位のがんは喫煙歴のある群もない群もHRはともに1.11だった。また、飲酒習慣や体格で群分けした検討においても同様の傾向が見られた。
なお、膵臓がんに関しては喫煙歴のない群で、家族歴がある場合にリスクが有意に上昇し、喫煙歴がある場合のリスク上昇は有意でなかった。この点について著者らは、喫煙の影響よりも家族性膵臓がんの影響の方が強いことを反映しているのではないかと考察している。
家族歴がある場合にがん罹患リスクが上昇する理由として、同じ生活環境を共有することによる環境的側面と、遺伝的側面が影響していると考えられる。今回の研究結果から、本人の喫煙や飲酒、体格にかかわらず、家族歴があることがリスク上昇と関連することが明らかになった。研究グループは、「がんの罹患にはさまざまな要因が関連する。家族歴がある人は、予防のためにリスクとなる生活習慣を避け、推奨されているがん検診を受けることが勧められる」と述べている。
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12月 21 2019 黄砂が飛来すると胎盤の早期剥離が増える
東アジア内陸部の砂漠から飛来する黄砂が、アレルギー症状や呼吸器疾患、循環器疾患の発症・増悪に関係していることは多くの報告で示されている。今回は産科の救急疾患である常位早期胎盤剥離(以下、早期剥離)との関係が新たに報告された。黄砂が飛来した1~2日後は早期剥離の発生が1.4~1.6倍に増えるという。東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野の道川武紘氏らの研究によるもので、詳細は「BJOG:An International Journal of Obstetrics and Gynaecology」10月26日オンライン版に掲載された。
早期剥離は全妊婦の約1%に発生するとされ、本来は出産後に子宮壁から剥がれる胎盤が、胎児が母親の胎内にいる時期に剥がれてしまうこと。これが起きると妊婦には大量出血、胎児には酸素や栄養供給が絶たれるというリスクが生じ、母児双方の命にかかわる。今のところ発生原因はよくわかっていない。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この早期剥離の原因について、東邦大学と九州大学および国立環境研究所の疫学研究グループは、環境という外的因子も関与しているのではないかと仮説を立てて研究を続けてきた。その一環としてさまざまな健康被害をもたらす黄砂に着目。日本産科婦人科学会が実施している周産期登録事業の登録データと、ライダーと呼ばれる黄砂観測装置のデータを利用した検討を行った。
研究の対象は、ライダーが設置されている9都府県(北は宮城、南は長崎で東京や大阪も含まれる)にある113病院で2009~2014年に出産した妊婦3,014人。多胎児出産(双子や三つ子など)は除外した。早期剥離のリスク因子と考えられている年齢、喫煙、血圧、および日によって変動する気温や湿度、気圧といった気象要因の影響を調整した上で、黄砂と早期剥離の関連性を分析した。
研究期間中の黄砂飛来日数は、15日(新潟県)~71日(長崎県)。早期剥離が発生した日付そのものは基礎データからはわからないため、先行研究を参考に早期剥離の発生から出産までの期間を1日以内と仮定し、出産日を起点に1~6日前の黄砂飛来状況を調査した。
その結果、出産の1~2日前に黄砂が飛来していた場合、黄砂のない日に比べて早期剥離が1.4倍に増加していたことがわかった。黄砂飛来時には大気汚染物質(二酸化窒素や二酸化硫黄、光化学オキシダント)の濃度が高くなる傾向があるため、統計的にそれらを調整してもなお黄砂と早期剥離の関連性が認められた。さらに、妊娠35週以降の緊急分娩に絞った分析では黄砂飛来との関連性がより強くなり、黄砂がない日の1.6倍に早期剥離が増加していた。
この研究は、黄砂が早期剥離を引き起こす機序にまで踏み込んだものではないが、道川氏らは黄砂に含まれている微生物や大気汚染物質の関与に触れている。例えば、黄砂とともに飛来する微生物の中にはグラム陰性桿菌も存在すると考えられ、そのグラム陰性桿菌の細胞壁を構成するリポ多糖は妊婦に炎症を引き起こし、早産の原因となることが知られているという。また、黄砂とともに飛来した大気汚染物質による炎症が早期剥離を増加させた可能性や、喘息をもつ妊婦の喘息症状が黄砂によって悪化し早期剥離につながった可能性も考えられるとしている。
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