• お茶の成分がストレスによる脳萎縮を予防――マウスでの研究

    ストレスに長期間さらされていると、脳が萎縮したり認知機能が低下することが、動物実験で示されている。またヒトにおいても、たび重なるストレスと脳の前頭前野などの容積に関連が見られるとする研究報告がある。このような影響を避けるにはストレスがかからない環境に移ることが一番だが、それを簡単に実行できる人はあまりいない。が、ひょっとしたら、お茶を飲むことが脳の萎縮の予防につながるかもしれない――という研究結果が「Nutrients」1月8日オンライン版に掲載された。

     静岡県立大学茶学総合研究センターの海野けい子氏らは、お茶に最も多く含まれているアミノ酸で緑茶の旨味成分の1つである「テアニン」の機能性に着目し、これまでにテアニンがマウスのストレスを軽減し認知機能低下を抑制することなどを報告してきている。今回の研究では、テアニンがストレスによる脳萎縮を抑制するかを、東北大学加齢医学研究所の住吉晃氏らとの共同研究により磁気共鳴画像法を用いて検討した。

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     4週齢のマウスを5日間グループで飼育し環境に慣れさせた後、そのままグループで飼育する群と、仕切板により1匹ずつ個室で飼育した後に途中から仕切板を外して2匹の相部屋に移す群に分けた上で、さらにそれぞれを2分し、一方は通常の水、もう一方はテアニンを20μg/mL含む水溶液を与えるという計4条件で飼育した。個室から2匹相部屋に移す条件では、2匹のマウスが互いに相手を侵入者と見なしストレスがかかった状態になる。このストレス状態の期間は、0、1、2、4、6カ月の5パターン設定した。一連の実験は、ストレスに対する感受性が強い「SAMP10」というマウスと、比較対照として動物実験で一般的に使われる「ddY」という計2種類のマウスを用いて行った。

     まずSAMP10マウスの脳の容積を前記の4条件別に見ると、ストレスを負荷し通常水で飼育した群は、ストレスを負荷しテアニン水溶液で飼育した群や、ストレスを負荷せずに通常水で飼育した群に比較して、海馬(記憶を司り、アルツハイマー病では初期から萎縮する部位)や新皮質(脳の高次機能を司る部位)が有意に小さいことがわかった。

     次にこの変化を経時的に見ると、ストレス負荷1カ月の時点で新皮質が有意に萎縮したが(112.75±8.26mm3)、テアニン水溶液で飼育した群では2カ月目で回復した(123.75±7.57mm3)。また海馬ではストレスを6カ月間負荷した時点で、通常水で飼育した群(23.01±0.79mm3)とテアニン水溶液で飼育した群(26.02±1.46 mm3)に有意差が生じていた。

     これらの結果は、ストレスによってSAMP10マウスの海馬や新皮質で萎縮が生じるが、テアニンがその抑制や回復に寄与したものと考えられる。なお、グループ環境で8カ月間飼育した(ストレスを負荷しなかった)群では、通常水(25.75±1.69 mm3)、テアニン水溶液(25.54±1.91 mm3)の違いによる海馬の容積に差がなかった。

     一方、ddYマウスではストレス負荷1カ月時点で、通常水で飼育した群とテアニン水溶液で飼育した群のいずれも海馬容積が有意でないながら軽度に縮小する傾向が見られたが、2カ月目以降、両群ともに回復した。グループ環境で8カ月間飼育した群では、通常水で飼育したマウス(23.93±1.04 mm3)はテアニン水溶液で飼育したマウス(27.81±1.16 mm3)に比べ、海馬の容積が有意に小さかった。ddYマウスの検討では、海馬で見られたこれらと同様の変化が新皮質においても認められた。

     上記のほか研究グループでは、ストレス負荷がSAMP10マウスの遺伝子に及ぼす影響を検討した。その結果、Npas4やLcn2といった遺伝子の発現がストレスの影響を受けて変化し、テアニン水溶液で飼育したマウスではそれらの変化が抑制されることがわかった。

     海野氏らはこれらの結果を踏まえ、「ストレス負荷によって、ストレスに敏感なマウスの脳容積が減少する。これに対し、茶葉の主要アミノ酸であるテアニンは、ストレス応答遺伝子発現を修正することで脳萎縮を防ぐことが示唆される」とまとめている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

    軽度認知障害(MCI)のリスクをセルフチェックしてみよう!

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    HealthDay News 2020年1月27日
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  • 酸化ストレスの新規バイオマーカー「酸化メチオニン」――北里大

    必須アミノ酸の1つ「メチオニン」が、全身の酸化ストレスや血糖変動の指標になる可能性が報告された。酸化ストレスを定量的に評価でき、かつ、連続血糖測定(CGM)で把握された血糖変動性と有意に相関するという。北里大学医学部内分泌代謝内科学の七里眞義氏らの研究によるもので、「Scientific Reports」1月14日オンライン版に掲載された。

    酸化ストレスは体の防御機構以上の活性酸素が産生されている状態をさし、老化現象に加え糖尿病やがんなどの発症・進行に関係することが、これまでの研究で示されている。しかし酸化ストレスの強さを測定する、定量的かつ再現性の高い手法は確立されていない。七里氏らは、血中アルブミンの分子構造の147番目に位置しているメチオニン残基(Met147)が、酸化ストレスに対し素早く反応することに着目し研究を続けている。

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    今回の研究ではまず、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)という手法を用いて、Met147に占める酸化されたメチオニン残基(酸化Met147)の割合を定量的に測定、その再現性を検討した。検体の希釈度を変えたり、保存状態を変えたりするなど、さまざまな条件設定で繰り返し測定。その結果から、LC/MSによるメチオニン残基の酸化レベル測定の信頼性は、同氏らが以前に開発した方法に比べはるかに高精度で、再現性が高く実用的なレベルであることが確認された。

    次にこの手法を用いて、糖尿病患者124人(年齢54.3±13.9歳、1型糖尿病54人、BMI25.9±6.4、HbA1c9.0±2.4%)と、健康なボランティア40人(53.2±16.4歳、BMI22.5±2.8)の酸化Met147を測定した。すると糖尿病群は対照群に比べて酸化Met147が有意に高く、酸化ストレスが亢進していることがわかった。

    糖尿病群において酸化Met147と相関する因子として、多変量解析により、eGFR、総ビリルビン、HDL-C、およびグリコアルブミン(GA)とHbA1cの比(GA/HbA1c比)が抽出された。なお、平均血糖値を反映するHbA1cやGAは、それぞれ単独では単変量解析においても酸化Met147との相関が認められなかった。

    GA/HbA1c比の高さは血糖変動を反映することから、前記の対象者中の35人(糖尿病患者28人、健常者7人)にCGMを施行し、血糖変動と酸化Met147の関連を検討。すると、酸化Met147は、血糖値の標準偏差、変動係数、血糖値70mg/dL未満の時間が占める割合、140mg/dL以上の時間が占める割合と、それぞれ有意に正相関した。また血糖値が70~140mg/dL内の時間が占める割合とは有意な負の相関がみられた。その一方で、血糖値の平均値とは相関がなかった。

    続いて血糖変動を抑制する作用のあるSGLT2阻害薬の影響を、2型糖尿病患者18人を対象に検討したところ、同薬投与前に比べ投与開始28日後の酸化Met147は有意に低下していた。

    これらの結果から研究グループでは、「LC/MSによって定量的に測定した血清アルブミンMet147に占める酸化Met147の割合は、ヒトの血管内の酸化ストレスの影響を評価する上で十分な信頼性があり、かつ感度も優れている」と述べている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2020年1月27日
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  • ゴルフ好き男性、ウォーキング好き女性は、いつも笑顔で健康?

    身体を動かすことを心がけている高齢者は少なくないが、日本人高齢者を対象とした研究から、ゴルフ好きの男性やウォーキング好きの女性は健康に対する自己評価が高く、抑うつ症状が少なく、生活の中で笑う頻度が多いことが明らかになった。千葉大学予防医学センターの辻大士氏らが日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを横断的に解析した結果で、詳細は「Journal of Sports Sciences」12月26日オンライン版に掲載された。

     調査対象は自立した生活を送っている65歳以上の高齢者13万1,962人。グループに参加して日常行っているスポーツの種類とその頻度、主観的健康感、日常生活での笑いの頻度、および老年期うつ病スコア(GDS-15)を測定した。

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     その結果、男性の33.6%、女性の37.4%がグループに参加し何かしらのスポーツを実践していた。スポーツの種目としては、男性はゴルフ(11.3%)、ウォーキング(8.4%)、グランドゴルフ(6.3%)、女性はフィットネス体操(13.8%)、ウォーキング(8.3%)、筋力トレーニング(6.2%)が上位を占めた。

     続いて、グループに参加し実践しているスポーツと、健康感やうつ病スコア、笑いの頻度との関連を検討した。結果に影響を与える可能性のある、性別、年齢、飲酒・喫煙習慣、婚姻状況、学歴、世帯収入、および高血圧、脂質異常症、糖尿病、心血管疾患、脳卒中、がん、筋骨格疾患の既往とフレイルスコアで調整の上、逆確率加重法により関連の強さを比較した。

     有意な関連がみられた項目を性別に挙げると、グループに参加しゴルフをしている男性は参加していない男性に比べて主観的健康感が「非常に良い」と回答した割合が1.13倍多く、「うつ傾向あり(GDS-15が5点以上)」の割合は0.70倍と少なく、「ほぼ毎日笑う」人の割合が1.12倍多いという結果で、評価した項目の全てにおいて良好な状態と有意に関連していた。またハイキングをする男性は主観的健康感が「非常に良い」人が1.95倍で、「うつ傾向あり」は0.62倍であり、ウォーキングをする男性は「うつ傾向あり」が0.82倍、「ほぼ毎日笑う」が1.06倍で有意な関連がみられた。

     続いて女性では、グループに参加しウォーキングをしている人は参加していない人に比べて主観的健康感が「非常に良い」と回答した割合が1.23倍多く、「うつ傾向あり」は0.79倍と少なく、「ほぼ毎日笑う」が1.06倍だった。またゴルフをしている女性も同順に、1.78倍、0.72倍、1.13倍であり、いずれも良好な結果と有意に関連していた。なお、女性において実践者が最も多かったフィットネス体操は、主観的健康感やうつ傾向、笑う頻度との有意な関連は見られなかった。

     これらの結果から研究グループは、「年齢や収入に関係なく、男性にはゴルフ、女性にはウォーキングが人気であり、グループに参加してそれらを実践している人はそうでない人に比べ、健康に関する自己評価が高く、うつ傾向が少なく、笑い声の多い生活をしている。よってゴルフやウォーキングは、高齢者に推奨するスポーツとして第一の候補となり得る」と述べている。

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    HealthDay News 2020年1月20日
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  • 一定期間の尿酸値の変動幅が腎機能低下速度と関連

    高尿酸血症は痛風との関連で取り上げられることが多いが、腎障害のリスク因子でもある。今回、ある期間の尿酸値の変化量が腎機能(eGFR)低下速度に独立して関連するという、日本人対象の研究結果が「Journal of Clinical Laboratory Analysis」12月27日オンライン版に掲載された。ベースライン時に高尿酸血症であった群よりもむしろ、追跡中に高尿酸血症を新規発症した群のほうが、eGFRの低下速度が速いことも示された。

     愛媛大学大学院医学系研究科地域医療学講座の川本龍一氏らは、住民健診受診者のうち、尿酸低下薬服用中またはeGFR15mL/分/1.73m2未満を除いた1,095人(男性460人、平均年齢68±10歳。女性635人、68±9歳)を3年間追跡し、尿酸値の変化と腎機能の変化の関連を後方視的に解析した。なお、高尿酸血症は尿酸値が男性7.0mg/dL以上、女性6.0mg/dL以上で定義した。

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     ベースラインにおいて、男性の20.2%に当たる93人、女性の12.0%に当たる76人、計169人が高尿酸血症だった。高尿酸血症群は尿酸値が基準値内だった群に比べて、男性の割合、BMI、喫煙・飲酒者率、心血管疾患の既往、拡張期血圧、中性脂肪、降圧薬・血糖降下薬の服用者率が有意に高かった。一方、eGFR、HDL-C、脂質低下薬服用者率は有意に低かった。年齢や収縮期血圧、LDL-C、HbA1cは有意差がなかった。

     追跡期間中の尿酸値とeGFRの変化量の関連を検討すると、ベースライン時に高尿酸血症だった群(r=-0.184、P=0.017)、および基準値内だった群(r=-0.472、P<0.001)ともに、尿酸値の上昇幅が大きいほどeGFRがより大きく低下するという有意な相関が認められた。その相関は、高尿酸血症群よりも尿酸値が基準値内だった群のほうが有意に強かった(P<0.001)。

     eGFRの変化量と関連がみられた因子を説明変数、eGFRの変化量を目的変数とした重回帰分析により、年齢やベースライン時の尿酸値、HbA1c、eGFRとともに、尿酸値の変化量がeGFR低下の独立したリスク因子の1つであることがわかった。

     次に、ベースライン時と追跡終了時の尿酸値カテゴリーをもとに、対象全体を以下の4群に分類し、eGFRの変化との関連を検討した。ベースライン時と追跡終了時ともに尿酸値が基準値内だった「N→N群」(851人)、ベースライン時は基準値内で追跡終了時に高尿酸血症となった「N→H群」(75人)、高尿酸血症だったものが基準値内になった「H→N群」(77人)、高尿酸血症が持続していた「H→H群」(92人)。

     これら4 群の全てが追跡期間中にeGFRは有意に低下していた。追跡終了時のeGFRを多変量調整すると、N→N群70.0mL/分/1.73m2、N→H群65.8mL/分/1.73m2、H→N群70.8mL/分/1.73m2、H→H群69.5mL/分/1.73m2となり、N→H群(高尿酸血症を新規発症した群)のみ他の3群に比較し有意に低値であり(P<0.001)、他の3群の群間差は有意でなかった。

     以上の結果から研究グループは、「尿酸値の変化量が腎機能低下に独立して関連することがわかった。この背景に存在するメカニズムは不明だが、年齢、性別、血圧、脂質、HbA1cなどの交絡因子とは無関係と思われ、さらなる検討が必要」と結論をまとめている。

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    HealthDay News 2020年1月20日
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  • 犬を飼ったことがある人はフレイルになりにくい?

    犬を飼ったことがある人は、フレイル(要介護状態の予備群)になりにくい可能性が、日本人の高齢者を対象とした検討から示された。東京都健康長寿医療センター研究所の谷口優氏(現在の所属は国立環境研究所)らのグループの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」12月9日オンライン版に掲載された。

     この研究は、東京都大田区の住民を対象に行われている「大田元気シニアプロジェクト」の一環として実施した縦断調査。2016年に登録された65歳以上のフレイルでない地域住民7,881人のうち、2018年の追跡調査で再評価が可能だった6,197人(平均年齢73.6±5.3歳、うち女性53.6%)を対象とした。フレイルの定義は、Friedらの虚弱指標に対して併存的および予測的妥当性が確認されている日本人高齢者向けの指標によった。

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     ベースライン時点で犬や猫を飼っていたのは870人(14.0%)、過去に飼ったことがあるのは1,878人(30.3%)で、3,449人(55.7%)は犬・猫いずれも飼った経験がなかった。犬や猫の飼育経験がある人はない人に比べて年齢が若く、同居する家族や配偶者がいる割合、学歴、所得、生活体力指標(MFS)が高い傾向があった。一方、脳卒中や心疾患、呼吸器疾患、糖尿病、高血圧、脂質異常症の既往者率、運動習慣の有無、老年期うつスケール(GDS-5)に有意差はなく、喫煙者率は犬や猫の飼育経験者の方が高かった。

     2年間の追跡期間中に918人(14.8%)がフレイルを発症した。年齢、性別、居住地域で調整し、犬や猫の飼育経験がない人を基準にフレイルの発症リスクを検討すると、過去に飼っていた人はオッズ比(OR)0.85(95%信頼区間0.71~0.99)で有意にリスクが低く、現在飼っている人はOR0.90(0.72~1.13)だった。調整因子に、世帯規模、収入、脳卒中の既往、食事の多様性、GDS-5スコア、飲酒・喫煙習慣を追加した多変量調整モデルでも、過去に犬や猫を飼っていた人はOR0.84(0.71~0.98)で引き続き有意だった。

     犬の飼育者と猫の飼育者を分けて解析すると、過去に犬を飼っていた人のフレイル発症リスクはOR0.82(0.69~0.99)で有意であり、現在飼っている人のORは0.81(0.62~1.07)だった。一方、猫の飼育経験とフレイルの発症リスクの間には有意な関連はみられなかった。

     以上の結果から著者らは、犬を飼うことで散歩などによって運動量が増えることがフレイルリスクの低下に関連していると仮定し、年齢、性別の他にMFSスコアと運動習慣を調整因子として加えて解析。すると犬の飼育経験によるフレイルリスクの低下は有意でなくなった。また、犬の散歩によって近隣住民と会話をする機会が増えることが想定されることから、隣人との付き合いの深さ(接触なし、挨拶のみ、会話をする、より重要な関係で層別化)を調整因子に追加したところ、やはりリスク低下の有意性は消失した。

     これら一連の検討をもとに谷口氏は、「犬を飼育する経験は身体活動量と屋外で過ごす時間を増やすため、高齢者の身体的・社会的機能を高く維持することにつながり、フレイルリスクを抑制する上で重要な役割を果たす可能性がある」と述べている。

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  • 幼少期における米のタンパク質摂取が成熟期肥満を抑制――マウスでの検討

    幼少期に米の胚乳(精米後の白米)のタンパク質(Rice endosperm protein;REP)を摂取していると、成熟してからの高脂肪食摂取に伴う体重増加が抑制される可能性が報告された。新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター病態栄養学講座の細島康宏氏らと亀田製菓株式会社の共同研究によるもので、詳細は「Nutrients」12月2日オンライン版に掲載された。

    米の栄養素の約6%はタンパク質が占め、日本人のタンパク源として肉や魚に次いで3番目に多いが、その摂取量は減少傾向にある。こうした中、細島氏らはREPの機能性に関する研究を継続している。

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    今回の研究では、まず4週齢のマウスを2群に分け、1群は動物性タンパク質であるカゼインを含む通常食、もう1群にはREPを含む通常食で幼少期(10週齢まで)飼育。11週齢目以降の成熟期は、各群をさらに2分しカゼインまたはREPを含む高脂肪食で22週齢まで飼育し、これら計4群の体重や血液・尿検査値の変化および腸内細菌叢の組成を検討した。

    10週齢時点において、体重や除脂肪体重、血糖値などの検査値は、カゼイン摂取群とREP摂取群との間で有意差はなかった。しかし22週齢になると、幼少期・成熟期ともにカゼインを摂取した群の体重が最大(44.6±2.2g)、幼少期・成熟期ともにREPを摂取した群が最小(34.5±2.1g)となった。幼少期にREPを摂取し成熟期にカゼインを摂取した群は、成熟期での高脂肪食という負荷にもかかわらず39.3±3.7gであり、体重増加が有意に抑制されていた。

    また体重だけでなく、血圧、空腹時血糖、HbA1c、総コレステロール、中性脂肪、および尿中アルブミンや糸球体メサンギウム領域面積など腎機能関連指標にも同様の有意な関係が見られ、幼少期のREP摂取が成熟期に保護的な影響を及ぼしていると考えられた。

    このようなREPによる肥満抑制作用の機序について研究グループは、ヒトにおいても肥満との関連が報告されている腸内細菌叢の組成に着目し、マウス糞便を用いた細菌叢の遺伝子解析を行った。その結果、幼少期にREPを摂取した群は腸内細菌叢の多様性が高く、またグラム陰性菌である大腸菌のリポ多糖結合タンパク(内毒素)産生が抑制されていることが確認された。

    さらに肥満は近年、全身性の炎症反応が亢進した状態と捉えられるようになってきたが、今回の検討において、幼少期にREPを摂取した群は血液、腎、肝のいずれにおいても、IL-6やTNF-αという炎症性サイトカインの産生が抑制されていることがわかった。

    また研究グループでは、REPの有する作用について、そのペプチドの関与について検討した。カゼインとREPの人工消化から得られたペプチド画分を用いて大腸菌に対する抗菌活性を調べたところ、カゼイン由来のペプチドでは認められなかった大腸菌に対する抗菌活性がREP由来のペプチドでは濃度依存的に示された。よって、REPによる腸内細菌叢への影響は、REPの消化物であるペプチドの関与が示唆された。

    研究グループはこれらの結果を総括し、「マウスにおいて幼少期のREPの摂取は、成熟期の高脂肪食摂取に伴う肥満および肥満関連疾患の発症・進展を抑制する。今後は関与するペプチドについての詳細な検討やヒトでの研究も行い、REPの適切な摂取量・摂取時期を明らかにしていきたい」と述べている。

    なお、2名の著者が、亀田製菓株式会社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

    参考情報:リンク先リンク先2
    HealthDay News 2020年1月14日
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  • 人類は不安傾向が増加するように進化した?

    人類は進化の歴史の初期段階で、不安やうつ傾向が強まるように遺伝子を進化させたとする研究結果が発表された。このような進化によって、外部環境の変化に敏感に反応して慎重に対処できた可能性があるという。東北大学大学院生命科学研究科生態発生適応科学の佐藤大気氏、河田雅圭氏らが、「VMAT1」という神経伝達物質に関わる遺伝子の変異を調べた結果、明らかになったもので、詳細は「BMC Evolutionary Biology」12月2日オンライン版に掲載された。

    VMAT1は、脳内で情報のやりとりをしている神経伝達物質を輸送する蛋白質の1つ。VMAT1にはその遺伝子配列がわずかに変化した「変異体」があり、それによって神経伝達物質の取り込み能力が変わり、認知・情動も変化する。例えば136番目のアミノ酸がスレオニン(Thr)型の人はイソロイシン(Ile)型の人よりうつや不安の傾向が強いことが報告されている。人類は、そのときどきの環境に適した変異体を持つ個体がより多く生き残るという自然選択を受け、進化してきたと考えられる。

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    河田氏らは、VMAT1蛋白質を培養細胞で再現する技術を用いて、ヒトとチンパンジーの共通祖先から現代人に至る5段階のVMAT1を作成。その神経伝達物質の取り込み能力を測定し、人類がどのように変化してきたかを検討した。

    その結果、5段階の進化のうち1~4段階では、130番目のアミノ酸が、グルタミン(Glu)からグリシン(Gly)に変わり、136番目のアミノ酸はアスパラギン(Asn)からThrに変化し、この変化とともに神経伝達物質の取り込み能力は有意に低下したことがわかった。具体的には、1段階目の130 Glu/136 Asnと4段階目の130 Gly /136Thrを比較すると、取り込み能力は約34%低下していた。

    先行研究からは130 Gly /136Thrという変異体が130 Gly /136Ileより強い不安やうつ傾向と関連していることが報告されている。また、ネアンデルタール人やデニソア人も130 Gly /136Thrであることから、人類が進化する過程で、不安やうつ傾向が強まるように進化した可能性が考えられた。

    ところが約10万年前に5段階目の遺伝子変異として、136番目のアミノ酸がIleに変わった130 Gly /136 Ileが新たに出現。その神経伝達物質の取り込み能力は、前段階で現れていた変異体(130 Gly /136Thr)に比べて約43%上昇し、不安に拮抗するように変化していることがこれまでの研究から分かっている。

    これらの結果から研究グループは、「本研究の成果は、人類の認知や情動機能に関わる神経伝達物質の調節機構が独自の進化を遂げた可能性を示しており、現代人の精神的個性や精神・神経疾患の生物学的意義について示唆を与えると期待される」とまとめている。

    なお、最も新しい変異体が現れた約10万年前は、アフリカ大陸に誕生した人類の一部がアフリカを後にして、全世界へと繰り出していった時期と重なる。河田氏らは、その前後に起こった環境の変化が、人類の遺伝子の進化に選択圧となって働いた可能性を考察として述べている。

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    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

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    HealthDay News 2020年1月6日
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  • 高齢の糖尿病患者では食べる量が少ないことも死亡リスクを高める

    高齢の糖尿病患者では「食べ過ぎ」だけでなく「食べなさ過ぎ」が死亡リスクの上昇と関連しているとの報告が「Geriatrics & Gerontology International」オンライン版に12月10日掲載された。東京都健康長寿医療センターの大村卓也氏、荒木厚氏らの研究グループが「J-EDIT研究」のデータを解析した結果、明らかになった。

    J -EDIT研究は65歳以上の高齢糖尿病患者への治療介入効果を検証した多施設共同研究。今回はこのJ -EDIT研究登録者のうち、食事摂取に関する記録がある患者756人を対象とした。アンケートの回答から推定した摂取エネルギー量を体重当たりに換算した値で全体を四分位に分け、6年間前向きに追跡し全死因による死亡率との関連を検討した。

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    対象者の摂取エネルギー量は1,397~2,086kcalの範囲に広がり、最も多い第4四分位群(2,086±361kcal)は最も少ない第1四分位群(1,397±223 kcal)の約1.5倍摂取していた。実測体重1kg当たりの摂取エネルギー量は、第1四分位群から順に、24.85kcal/kg以下、24.86~29.73kcal/kg、29.74~34.78kcal/kg、34.79kcal/kg以上だった。なお、4つの群の指示エネルギー量の平均は1,458~1,490kcalの限られた範囲にあった。

    追跡期間中に59人が死亡した。年齢、性別、BMI、HbA1c、収縮期血圧、LDL-C、eGFR、身体活動量、虚血性心疾患や脳卒中の既往、低血糖の頻度、および蛋白質摂取量で調整の上、死亡リスクを検討すると、摂取エネルギー量が最も少ない群と最も多い群ともに死亡リスクが上昇するU字型の関係が認められた。具体的には、第3四分位群を基準として、第1四分位群のハザード比は3.83、第2四分位群は0.92、第4四分位群は1.60であり、第1四分位群は有意にリスクが上昇していた(P=0.002)。

    最近まで指示エネルギー量算出の基準とされてきた標準体重〔身長(m)×身長(m)×22〕当たりの摂取エネルギー量で検討した場合も、同様にU字型の関係が認められた。ただしリスクが最小の第3四分位群の摂取エネルギー量は31.45~36.42kcal/kgであり、これは身体活動強度「中等度」の場合に用いる係数(30~35kcal/kg標準体重)に近いことから、身体活動強度「軽度」の係数(25~30kcal/kg標準体重)で摂取エネルギー量を設定すると、多くの高齢糖尿病患者に摂取量不足を招くと考えられた。

    さらに、このような摂取エネルギー量と死亡リスクの関係は、炭水化物、脂肪、食物繊維の摂取量で調整しても保たれていた(蛋白質については前記の検討時に調整済み)。よって高齢の糖尿病患者では、特定の栄養素の摂取量の多寡とは無関係に、十分なエネルギー摂取を確保することが重要であることがわかった。

    なお、今回の検討で最もリスクが高かった第1四分位群は、摂取エネルギー量と身体活動量が少ないにも関わらずBMIが最も高値で、サルコペニア肥満患者が多く含まれていた可能性があり、そのことによる死亡リスク上昇への影響が考えられた。また対象を65~75歳未満と75歳以上に分けて検討すると、75歳以上では第3四分位群が最も低リスクだったが、65~75歳未満では第2四分位群のリスクが最低であり(第3四分位群に対してハザード比0.63)、より高齢な患者ほど摂取エネルギー量不足の影響が大きいことが示唆された。

    これらの結果から研究グループは「高齢の糖尿病患者には、年齢を考慮し過不足なく摂取エネルギー量を設定することが望ましい」とまとめている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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    HealthDay News 2020年1月6日
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