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4月 24 2020 「適度な運動」の効果を高めるには「脳への衝撃」が必要?
ウォーキングやジョギングによって脳に物理的な軽い衝撃が繰り返されることで、脳の働きが改善する可能性が報告された。国立障害者リハビリテーションセンター病院の澤田泰宏氏らの研究によるもので、「iScience」1月31日オンライン版に掲載された。
適度な運動は、身体疾患はもちろんアルツハイマー病やうつ状態などの精神疾患の予防にも有効。ただし、運動がなぜ精神面に好影響を及ぼすのかはよく分かっていない。澤田氏らは、運動により生じる脳への適度な物理的衝撃が、運動効果の一部に関与しているとの仮説を立て、以下の実験を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。まず、実験動物(マウス、ラット)を2群に分け、1群には1日に30分間、20m/分の速度で運動させ、もう1群は運動をさせない対照群とした。20m/分という負荷はラットの場合、適度な運動強度であることが先行研究で報告されている。
これを7日間続け、最後の運動から3時間後に前頭前皮質(大脳の一部)に高用量のセロトニン(脳内の神経伝達物質の1つ)を投与して幻覚を引き起こし、幻覚によって生じる首を振る動作の回数を計測した。すると、運動をさせた群は運動をさせていなかった群に比べて、首振りの回数が有意に少なかった(P=0.027)。
この実験では運動をさせた群のマウスに加速度計をつけ、頭部にかかる衝撃を計測した。その結果、人間が時速7km程度の軽いジョギングをしているときに頭にかかる衝撃と同レベルの約1Gの力がかかっていることが分かった。
そこで次に、運動させないマウスに麻酔をかけ、頭部へ上下方向に1Gの力を1秒間に2回、機械的に与えるという実験を行った。前記の実験と同様、1日に30分7日間続けた後セロトニンを投与したところ、対照群よりも首振り回数が有意に少なく(P=0.035)、頭部へ物理的な衝撃をかけたことで運動をしたのと同じような効果が脳にもたらされたと考えられた。
続いてマウスの脳を解剖したところ、運動をさせていたマウスでは、前頭前皮質の神経細胞でセロトニン2A受容体が、細胞の表面から細胞内へと移動(内在化)し、セロトニンに対する応答性が低下していることがわかった。また、頭部に1Gの力を与えたときのラットの脳の様子をMRIで確認すると、脳内の間質液が1 μm/秒で流動していた。そこでこの状態を、培養細胞を用いた実験で再現したところ、やはりセロトニン2A受容体の内在化が起こった。
最後に、マウスの前頭前皮質にハイドロゲルを注入して、脳内間質液の流動を阻害するという実験を行った。その結果、頭部に1Gの力を1日30分7日間与えたマウスでも、セロトニン投与後の首振り運動が抑制されず、セロトニンA2受容体の内在化も起きないことが確認された。
これら一連の結果を踏まえ、研究グループでは「運動がもたらす効果の少なくとも一部には、頭部にかかる適度な衝撃が関与している」とまとめている。またこの知見が将来的には、加齢や下肢の障害のために身体活動を十分行えない人にも健康維持・増進効果をもたらす可能性もあるとしている。
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4月 24 2020 日常会話からアルツハイマー病を見つける新技術
アルツハイマー病の患者を日常会話から検出できる可能性のある新技術に関する報告が「JMIR Mental Health」1月12日オンライン版に掲載された。日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所の山田康智氏らの研究によるもので、その識別力は90%以上に上るという。
アルツハイマー病をはじめとする認知症の症状が現れているにも関わらず、その診断を受けていない患者は少なくない。適切な治療やサポートがなされずに、患者本人と家族に負担が生じているケースもある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。こうした背景から、高齢者に負担の少ない方法で日常生活を継続的にモニタリングし、認知症症状を検出する技術の開発が期待されている。山田氏らは、日常会話に現れる話の繰り返しを自動的に抽出・定量化することで、アルツハイマー病による症状の変化を検出可能との仮説を立て、電話による会話型見守りサービス(株式会社こころみ)で交わされた日常会話を分析した。
会話型見守りサービスは、トレーニングを受けたコミュニケーターが週に1~2回、利用者と電話で10~20分日常的な会話を行い、その内容が文字情報に書き起こされ、利用者とは別の場所で暮らす家族へメールで送られるサービス。今回の研究では、このサービスを利用した2人のアルツハイマー病患者を含む15人の高齢者(平均年齢76.8±9.4歳、うち女性12人)の会話データを分析した。分析対象データは、1人当たり平均16.1カ月にわたる68.8回分で、合計1,032回分の会話。
分析ではまず会話中の「単語」の繰り返し、および「トピック」の繰り返しをそれぞれ自然言語処理および機械学習技術を用いて定量化した。続いてそれらを、「1回の会話」内で繰り返されたケースと、「異なる2回の会話」間で繰り返されたケースに分けて調査。後者の2回の会話については、会話間の日数、および、会話間の回数でそれぞれ別に傾向を比較した。
検討の結果、「単語」「トピック」ともに、一定期間の日数をあけた2回の会話間における繰り返しの程度が、アルツハイマー病患者と健康な高齢者との間で最も大きく違っていた。特に、約7日間間隔があいた2つの会話間での「トピック」の繰り返しの程度を比較したときに識別力が最大となり、ROC解析による曲線下面積(AUC)は0.91に達した。また、先行研究で示されている「テキスト特徴量」による識別力と比較しても、一定期間あけたときの単語・トピックの繰り返しの程度による識別力の方が高かった。
これらの結果について山田氏らは、「アルツハイマー病患者では、イベント発生後の時間経過とともに、健常高齢者との記憶の差が大きくなると考えられる。本研究で示された日常会話の中での『話の繰り返し』も、その現象が顕在化したものと考えられる」と述べている。そして、「日常会話を継続的にモニタリングし、異なる日での話の繰り返しを自動的に定量化することで、アルツハイマー病の検出、あるいは早期発見に活用できるかもしれない」とまとめている。
軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら
軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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4月 24 2020 糖尿病でも運動していれば介護リスクは糖尿病でない人と同レベル――新潟大
糖尿病患者は介護が必要になるリスクが高いものの、運動を続けていれば糖尿病でない人と変わらない程度にリスクが低下する可能性が報告された。新潟大学医学部血液・内分泌・代謝内科の曽根博仁氏、藤原和哉氏らが、新潟県三条市の医療ビッグデータを解析した結果、明らかになった。詳細は「BMJ Open Diabetes Research & Care」1月25日オンライン版に掲載された。
研究グループでは、三条市の特定健診と診療報酬請求および介護保険データを統合し、生活習慣病(糖尿病、高血圧、脂質異常症)および生活習慣(運動習慣の有無、現喫煙)と、介護保険の利用状況との関連を検討する後方視的コホート研究を行った。運動習慣の有無は「中等度の運動を週に2回30分以上、1年間継続していること」で判定した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。2012~2015年に健診を受け、少なくとも2年間追跡可能だった39~98歳の1万1,469人のうち、心血管疾患の既往がなく要介護認定を受けていない9,673人(うち男性4,420人)を3.7年(中央値)追跡。すると追跡期間中に165人が要介護認定を受けた(うち要支援49人)。
要介護状態の発生に関連する可能性のある既知の因子を統計的に調整した上でリスク因子を検討すると、加齢(5歳ごとのハザード比2.48、P<0.001)やBMI18.5未満(ハザード比1.63、P=0.043)とともに、糖尿病(同1.74、P=0.013)と運動習慣がないこと(同1.83、P=0.001)が有意な因子として抽出された。
続いて、前記3種類の生活習慣病と運動習慣の有無を加えた、計4つのリスク因子の保有数と要介護リスクを検討。リスク因子を1つも保有していない人に比較し、1つ保有している人はハザード比1.34(P=0.365)、2つの人は同1.95(P=0.036)、3つの人は同2.11(P=0.031)で、4つ全てを保有している人は同3.93(P=0.003)であり、2つ以上保有している場合のリスク上昇は統計的に有意だった。
次に、対象全体を糖尿病の有無と運動習慣の有無で4群に分け、糖尿病がなく運動習慣がある人の要介護リスクを基準に、他の3群のリスクを比較した。すると、運動習慣がない人では糖尿病がある場合に有意に高リスク(ハザード比3.20、P<0.001)であるのはもちろん、糖尿病がなくても有意なリスク上昇(同1.82、P=0.003)が認められた。ところが、運動習慣がある人では糖尿病であっても有意なリスク上昇は認められなかった(同1.68、P=0.244)。
曽根氏は、「我々は以前、日本人糖尿病患者の大規模研究で、運動が糖尿病患者の死亡率を低下させる可能性を示したが、今回さらに、運動が介護リスクを非糖尿病者並みに改善し、健康寿命を延伸できる可能性も示せた。また、BMI18.5未満が要介護の独立したリスク因子であったことから、フレイルによる要介護発生を防ぐために、運動介入とともに栄養介入も重要と考えられる」と述べている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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4月 24 2020 幼少期の被虐体験が高齢期の医療費増加の一因――東京医科歯科大学
幼少期に虐待を受けた人は高齢になってからの医療費が1年当たり11万円以上高いとする推算結果が、「JAMA Network Open」1月8日オンライン版に掲載された。日本全体では、年総額約3,330億円の医療費負担につながっているという。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の伊角彩氏らは、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータと健診および診療報酬請求データを用いて、高齢者の医療費を幼少期の被虐体験の有無で比較検討した。研究対象はJAGESに参加しているある政令指定都市の要介護認定を受けていない65~75歳の住民のうち、幼少期の被虐体験に関する質問に回答した978人(平均年齢70.6±2.9歳、うち男性が43.6%)。
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対象者978人のうち、4.5%が家庭内暴力の目撃、1.9%が身体的虐待、10.6%が心理的ネグレクト、5.7%が心理的虐待を経験していて、18.0%は何かしらの被虐体験があった。幼少期の被虐体験がある人はない人に比べ、教育歴が短く、主観的健康感が低く、腎疾患や筋骨格疾患などの有病率が有意に高かった。
幼少期の被虐体験の有無別に年間医療費(歯科医療費を除く)を試算すると、被虐体験がない場合は41万3,013円、被虐体験ありでは54万9,468円で、その差額は13万6,456円に上り、有意差が認められた。年齢と性別で調整すると差額は11万6,098円に縮小したものの引き続き有意だった。
虐待の種別に見ると、身体的虐待については経験なしで43万1,106円、経験ありで72万6,254円、差額29万5,148円、心理的ネグレクトは経験なしで41万2,082円、経験ありで57万3,481円、差額16万1,400円で、これらの差はいずれも有意だった(年齢と性別で調整後は非有意)。家庭内暴力の目撃の有無や心理的虐待の有無では有意差は認められなかった。
前述の11万6,098円という差額を基に、国内の前期高齢者医療コスト全体への影響を計算すると、歯科医療費を除いて年間約3,330億円の医療費が幼少期の被虐体験により発生していると推計された。
これらの結果を踏まえ研究グループでは、「幼少期に虐待を受けることが高齢期の医療費にまで影響する可能性が示された。児童虐待を未然に防ぐことや、早期に発見・介入することが重要だと考えられる。さらに、虐待を減らす取り組みは個人だけでなく社会全体の負担軽減にもつながるのではないか」とまとめている。
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