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6月 03 2020 生活習慣病による肝硬変が増加中――全国多施設共同研究の結果
わが国の肝硬変の原因に関する全国調査の結果が報告された。従来はC型肝炎による肝硬変が多数を占めていたが、その割合は近年減少してきており、かわって非ウイルス性肝炎による肝硬変が増加している実態が明らかになった。
この報告は全国79施設が参加して行われた多施設共同研究の結果。2018年の第54回日本肝臓学会総会において各施設から報告された、肝硬変患者の原因疾患のデータを、加納総合病院名誉院長の西口修平氏(研究時点の所属は兵庫医科大学肝胆膵内科)らが取りまとめたもの。詳細は「Journal of Gastroenterology」3月号に掲載された。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象患者数は合計4万8,621人(うち男性が61.6%)で、肝硬変の原因のトップはC型肝炎で48.2%だった。以下、アルコール性肝障害19.9%、B型肝炎11.5%と続き、第4位は、メタボリックシンドロームによる肝炎と考えられている非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が6.3%を占めた。
次に、肝硬変と診断された時期がはっきりしている4万5,834人(全体の96.4%)を対象として、経年的な推移を調べた。診断された年が2007年以前の患者(1万4,051人)、2008~10年の患者(6,506人)、2011~13年の患者(8,284人)、2014年以降の患者(1万6,993人)の4群に分け、原因疾患が占める割合を見ると、以下のように変化していた。
まず、C型肝炎による肝硬変は、2007年以前は58.6%、2008~10年は50.4%、2011~13年は45.1%、2014年以降は40.2%と減少。B型肝炎による肝硬変も同順に、13.6%、11.1%、9.9%、9.0%と減少していた。これらウイルス性肝炎による肝硬変は、2007年以前には7割を超えていたものが、2014年以降は5割足らずに低下したことになる。
一方、アルコール性肝障害による肝硬変は、13.7%、19.6%、23.8%、24.9%と増加。NASHによる肝硬変も、2.0%、4.7%、6.2%、9.1%と増加していた。アルコール性肝障害とNASHは、どちらも生活習慣の影響が強い肝障害と言える。それら生活習慣病を経て肝硬変に至る患者の増加が見てとれ、2014年以降に診断された患者では約3人に1人を占めることが分かった。
このほか、地域別の比較から、B型肝炎による肝硬変の割合は北海道や中国地方で高く、東北や九州では低いことが示された。アルコールによる肝硬変の割合は、北海道、東北、九州で高く、NASHによる肝硬変の割合は、北海道と関東で高かった。北海道ではC型肝炎による肝硬変の割合が低かった。ただしこれらの傾向は既報と一部一致しない点があり、調査手法の違いが影響している可能性もあるという。
以上の結果を基に研究グループでは、「日本ではC型肝炎がいまだ肝硬変の主要な原因ではある。しかしウイルス性肝炎による肝硬変は減少しつつあり、アルコールやNASHなどの非ウイルス性肝障害による肝硬変が増加している」とまとめている。なお、ウイルス性肝炎による肝硬変が減少したのは、近年の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及や肝炎ウイルスに対する医療政策の推進が寄与したのではないかと考察している。
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6月 03 2020 COVID-19治療薬の研究・開発、国内の動向
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大抑止のため緊急事態宣言の延長が決まった。一方で新規感染者数は減少傾向にあり、外出自粛要請解除といった出口戦略の模索も始まった。治療薬の研究・開発も加速している。その中から国内での主な動きをまとめる。
日本も治験に加わった米ギリアド・サイエンシズ社の「レムデシビル(商品名ベクルリー)」が今月8日、初のCOVID-19治療薬として厚生労働省に承認された。レムデシビルは、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、重症急性呼吸器症候群(SARS)などに対する抗ウイルス活性が、in vitroおよび動物対象試験で確認されている開発段階にあった核酸アナログ製剤。米国でCOVID-19への緊急使用が許可されたことに伴い、国内でも特例承認制度のもと認可された。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。日本発の治療薬の開発も急ピッチだ。最も早い認可が有力視されているのは、富士フイルム富山化学の「ファビピラビル(同アビガン)」だ。同薬は、他の抗インフルエンザ薬が無効な新型・再興型インフルエンザが発生し、国が必要と判断した場合のみ使用可能な治療薬として、2014年に承認済。現在に至るまでこの条件に合致する状況は発生していないが、国内に200万人分(新型インフルエンザ治療として用いた場合)の備蓄がある。3月からCOVID-19治療薬として第III相臨床試験が開始されており、今月4日には安倍首相が「月内承認を目指したい」と発言している。
既に臨床応用されている薬剤をCOVID-19に用いる試みも活発だ。帝人ファーマの「シクレソニド(同オルベスコ)」は喘息治療薬として使用されている吸入ステロイドだが、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で発生したCOVID-19に用いられたことで注目され、現在国内で治験が行われている。
急性膵炎治療薬として用いられている「ナファモスタット」は、蛋白分解酵素阻害作用によりCOVID-19ウイルス(SARS-CoV2)のエンベローブと細胞膜の膜融合を阻害することが基礎研究で示され、COVID-19治療への転用を目指し国内で治験が進行中だ。また関節リウマチ治療薬の抗IL-6受容体抗体である中外製薬の「トシリズマブ(同アクテムラ)」は、重症肺炎に伴うサイトカインストームの抑制効果が期待されており、海外では治験進行中で国内でも治験開始段階にある。
一方、COVID-19に焦点を当てた新規治療薬の開発も進められている。武田薬品工業は、米国のCSLベーリング社などと共同し高度免疫グロブリン製剤を開発中。今月8日には、その共同体の参画企業が10社に拡大したと発表した。今後、開発スピードをより加速させるという。塩野義製薬も2020年度内に新規抗ウイルス薬の治験開始を目指すことを発表している。
そのほかの国内医薬品企業のCOVID-19関連の動きとしては、ワクチンや診断薬・検査キットの開発に複数社が名乗りを上げており、後者については既に販売されているものも少なくない。さらにアカデミア発の新しい動きとしては、北里大学のグループがSARS-CoV-2の中和能を有する抗体の取得に成功したと、今月7日に発表した。今後、治療薬や検査薬の開発につながる可能性があるという。
なお、海外に目を転じると、米国からはCOVID-19治療に期待された抗マラリア薬の「クロロキン」に関して、食品医薬品局(FDA)が副作用に注意喚起する見解を発表した。COVID-19パンデミックの緊急性を背景に、安全性や有効性の検証が不十分なまま、さまざまな治療を試みる動きがあるとも報道されている。国内での新薬開発の迅速かつ安全な進展が期待される。
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治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
参考情報:ギリアド・サイエンシズ株式会社、富士フイルム富山化学株式会社、中外製薬株式会社、武田薬品工業株式会社、塩野義製薬株式会社、北里大学
HealthDay News 2020年5月11日
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6月 03 2020 糖尿病患者は緑内障になりやすい?――JPHC研究
糖尿病患者は眼圧が高いことが、国立がん研究センターなどの多目的コホート(JPHC)研究グループの日本人を対象とする研究から明らかになった。結果の詳細は「Scientific Reports」3月24日オンライン版に掲載された。
眼圧とは、眼球の内側から外側に向かう圧力(眼球の硬さ)のことで、眼球のかたちを保つためには一定の眼圧が必要。しかし、眼圧が高い状態が長く続くと視神経が障害されて、徐々に視野が狭くなる。視神経は再生しないため、一度失われた視野は回復しない。緑内障は、わが国の失明原因のトップを占めている。欧米からは、糖尿病が高眼圧症や緑内障のリスク因子であることが報告されているが、日本人を対象とした大規模な研究はこれまで行われていなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。今回発表された研究の対象者は、茨城県筑西市の住民を対象に行った眼科検診受診者のうち、血液検査や眼圧のデータがあり、緑内障の既往や眼科手術歴のない6,786人。このうち734人が糖尿病を有していた。
年齢、性別、BMI、高血圧、喫煙習慣、飲酒量で調整後、糖尿病の有無で眼圧を比較すると、非糖尿病群(全体の89.2%)の13.9mmHgに対し、糖尿病群(10.8%)は14.4mmHgと有意に高値だった。また、HbA1c6.0%を基準に二分した場合も、6.0%未満の群(76.7%)は13.9mmHg、6.0%以上の群(23.3%)は14.2mmHgで有意差が認められた。血糖値の高低で二分した場合も同様に、空腹時110mg/dL未満または非空腹時140mg/dL未満の群(86.1%)は13.8mmHg、空腹時110mg/dL以上または非空腹時140mg/dL以上の群(13.9%)は14.4mmHgで有意差が認められた(全てP<0.001)。
眼圧が21mmHgを上回るものを高眼圧症と定義すると、非糖尿病群の1.9%、糖尿病群の3.1%が高眼圧症に該当し、糖尿病群で有意に多く見られた(P=0.01)。年齢ほか前記の因子で調整の上、糖尿病の有無やHbA1cおよび血糖値の高低で高眼圧症の頻度を比較すると、糖尿病がある場合に高眼圧症であるオッズ比(OR)は1.75、HbA1c6%以上ではOR1.47、空腹時110mg/dL以上または非空腹時140mg/dL以上ではOR1.80と、いずれも有病率が有意に高いことが分かった(全てP<0.05)。
なお、糖尿病患者では一般に角膜が厚いことが知られている。それが眼圧に影響を及ぼす可能性もあるため、角膜の厚さを調整因子に追加して検討したが、結果はほぼ同様だった。
以上より、研究グループでは「欧米のメタアナリシスと同様に、日本人でも糖尿病や高HbA1c、高血糖では高眼圧症の有病率が高いことが分かった。角膜の厚さを調整してもこの関連を認めたことから、角膜の厚さに関わらず、血糖値が高いことで眼圧が上昇する可能性が示唆される」とまとめている。高血糖で高眼圧になる機序については「因果関係を明らかにするには前向きコホート研究が必要」と述べた上で、「血糖値が高いことで、眼の中を循環する水の出口が詰まりやすくなり、眼圧が上がる可能性が考えられる」としている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。