• 糖尿病黄斑浮腫が透析で改善する

     糖尿病黄斑浮腫のために低下している視力が、透析を始めると改善する可能性のあることが報告された。国内多施設共同研究の結果で、福井大学医学部眼科の高村佳弘氏らによる論文が、「Scientific Reports」5月8日オンライン版に掲載された。

     糖尿病黄斑浮腫は、眼底の中央にあり視力を司る「黄斑」に浮腫(むくみ)が起き、視力が大きく低下してしまう糖尿病の合併症。同じように糖尿病の眼合併症の一つである網膜症は、治療の進歩により失明頻度が低下した一方で、黄斑浮腫に関しては効率の良い治療法の模索が続いている。

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     今回の研究では、新たに血液透析療法が開始された20歳以上の糖尿病黄斑浮腫患者70人、132眼を対象とし、黄斑部の網膜の厚さ(以下、網膜厚)と矯正視力(以下、視力)のデータを、1年にわたり後ろ向きに解析した。なお、70人中8人は、片眼に血管新生緑内障や牽引性網膜剥離を有していたため、対側眼のみを検討対象とした。

     主な患者背景は、平均年齢58.91±10.37歳、男性66%、糖尿病罹病期間16.18±9.03年、HbA1c8.52±1.01%、eGFR6.08±2.76mL/分/1.73m2。透析開始前時点で118眼(89.4%)に黄斑浮腫が認められた。観察期間中に行われた眼科的治療は、抗VEGF薬またはステロイドの局所投与が7眼(6.8%)であり、他の93.2%には網膜厚や視力に直接影響する治療は施行されていなかった。

     結果について、まず網膜厚の変化をみると、透析開始前は334.0±142.6μmだったものが、透析開始1カ月後には273.4±95.3μm、1年後は266.8±78.5μmで、有意に減少していた(すべての時点でP<0.0001)。ベースライン時の網膜厚が平均値よりも厚いケースに限って検討しても、373.2±149.5μmから1カ月後に285.5±102.5μm、1年後に268.5±68.7μmと有意な改善が認められた(すべての時点でP<0.0001)。また、網膜厚は両眼において同様の変化を示したことから、透析による全身状態の変化が網膜厚に影響を及ぼしたと考えられた。

     次に視力の変化を見ると、透析開始前の0.353±0.365から1カ月後には0.318±0.426(P=0.0011)、1年後は0.258±0.361(P=0.0030)と有意に改善していた(logMAR視力のため数値の低下は視力改善を表す)。両眼のうち、ベースライン時の網膜厚が厚い眼のみに限った解析でも有意な改善が認められた。

     ただし、透析開始前の視力が0.4以上と未満で群分けして解析したところ、0.4未満の群では有意な視力改善が得られていなかった。透析開始前視力が0.4未満の群でも網膜厚は透析によって有意に改善していたことから、透析開始時にすでに視力が悪い症例においては、透析の導入により浮腫が改善しても、良好な視力改善が得られない可能性が示された。

     このほか、漿液性網膜剥離のある眼において特に網膜厚の改善幅が大きいこと、HbA1cやeGFR、BUN、血圧、血清脂質などの全身性因子の値に関係なく、透析により網膜厚や視力の改善が期待できることが分かった。

     以上の結果から研究グループでは、「透析開始後、少なくとも1年間は、網膜厚や視力の改善効果が得られることが示された。透析開始前の視力が不良の場合、透析による視機能改善を期待できない可能性があることから、透析開始タイミングの判断に視力も考慮する必要があるかもしれない」とまとめている。また「この研究により、透析による全身状態の改善が、糖尿病黄斑浮腫の形態的、機能的改善に寄与することが示された」との考察を加えている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2020年6月15日
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  • ストレスで炎症性腸疾患の病状が変わる患者、変わらない患者の差異

    炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)の病状と、精神的ストレスの関係を詳細に検討した結果が報告された。精神的ストレスによって自覚症状が悪化すると感じている患者では、実際にストレスの強さと病状の間に相関が見られたという。大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学の飯島英樹氏らが「PLOS ONE」5月26日オンライン版に報告した。

     炎症性腸疾患の原因はまだ分かっていないが、複数の因子が関与しており、その一つとして精神的ストレスの影響もあるとされる。また多くの場合、発症後に症状の改善と悪化(疾患活動性)を繰り返すことが炎症性腸疾患の特徴の一つだが、そのような疾患活動性にも精神的ストレスが関与することが知られている。飯島氏らは、炎症性腸疾患の疾患活動性に及ぼす精神的ストレスの影響、および不眠症との関連を、多施設共同研究で調査した。

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     研究対象は、国内20カ所の医療機関で登録された1,078人(クローン病303人と潰瘍性大腸炎775人)。クローン病患者は平均年齢42歳、発症年齢24歳、女性27.7%、疾患活動性を表すCDAIスコアは80.6、抑うつの程度を表すCES-Dスコアは6であり、潰瘍性大腸炎患者は平均年齢48歳、発症年齢36歳、女性47.9%、疾患活動性を表す部分Mayoスコアは1、CES-Dスコアは5だった。

     まず、アンケート調査の結果から、患者自身が症状の悪化に精神的ストレスが影響すると考えているか否かを見ると、75.1%の患者が「影響がある」と回答した。クローン病(75.0%)と潰瘍性大腸炎(75.2%)とで、その割合は同等だった。多変量解析により、女性は男性より、精神的ストレスが症状に影響すると感じる患者が多い傾向が見られた(オッズ比1.52、P=0.021)。

     クローン病患者のCDAIスコア150以上、潰瘍性大腸炎患者の部分Mayoスコア2以上を「疾患活動性あり」と定義し、その有無で2群に分け、抑うつの程度(CES-Dスコア)を比較した。その結果、精神的ストレスが症状に影響すると感じている患者では、疾患活動性のある群とない群でCES-Dスコアに有意差が認められた(P<0.0001)。一方、精神的ストレスの症状への影響を感じていない患者では、疾患活動性の有無で分けた群間のCES-Dスコアに有意差がなかった(P=0.78)。また、精神的ストレスが症状に影響すると感じている患者では、CES-Dスコアと疾患活動性が正相関したが(クローン病:r=0.26、P=0.0004。潰瘍性大腸炎:r=0.21、P=0.0007)、精神的ストレスの症状への影響を感じていない患者では有意な相関がなかった。

     次に、不眠症症状をリッカートスコア(全く問題ないが1点、非常に問題が5点)3点以上で「不眠症あり」と判定すると、22.3%が不眠症に該当した。クローン病(25.7%)と潰瘍性大腸炎(21.0%)とで、その割合は同等だった。不眠症群における疾患活動性のある患者の割合(43.7%)は、不眠症のない群でのその割合(26.8%)より有意に高かった(P<0.001)。

     続いて、患者自身が精神的ストレスの症状への影響を感じているかいないかで、疾患活動性の有無と不眠症の有無の関連を検討。その結果、精神的ストレスの症状への影響を感じている患者において、不眠症のある患者の割合は、疾患活動性のある群(38.8%)の方が疾患活動性のない群(22.8%)より有意に高かった(P<0.001)。しかし、精神的ストレスの症状への影響を感じていない患者においては、不眠症のある患者の割合が同順に26.6%、18.7%であり、有意差が認められなかった(P=0.2030)。

     これらを踏まえ研究グループでは、「精神的ストレスが症状の悪化を引き起こすと感じている炎症性腸疾患患者では、実際に疾患活動性が精神状態と相関することが明らかになった。疾患の経過と環境要因の関連のメカニズム解明には今後の研究が必要だが、本研究の結果は個々の患者の精神的ストレスに基づくオーダーメード治療の開発につながる」とまとめている。

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    クローン病はお腹の痛みや下痢などを主症状とする病気です。慢性の病気であり、クローン病のタイプや合併症の有無などによって体のさまざまな部分に症状が現れます。クローン病の特徴や自覚症状について触れながら、クローン病のセルフチェック方法についてみていきます。

    この症状はクローン病かも?そう思ったときのセルフチェック方法

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    HealthDay News 2020年6月15日
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  • 抑うつ症状と主観的認知機能低下による労働生産性への影響が明らかに

     抑うつ症状があると労働生産性が低下することが知られているが、主観的な認知機能低下も労働生産性に、直接的な影響を及ぼすことが明らかになった。北海道大学大学院医学研究院精神医学教室の豊島邦義氏ら、および東京医科大学精神医学分野の井上猛氏らの研究グループによる研究の結果で、詳細は「BioPsychoSocial Medicine」5月4日オンライン版に掲載された。

     抑うつ症状のある人は、本来なら欠勤すべきにも関わらず出勤を続けようとすることが少なくない。近年、そのような行動に伴う認知機能低下などが、労働生産性の低下につながる「プレゼンティズム(疾病就業)」への対策が注目されている。しかし、それらの因子の相互関係や影響力の程度はよく分かっていない。豊島氏らは東京医科大学病院で募集した協力者を対象に、主観的認知機能と抑うつ症状の労働生産性、プレゼンティズムへの影響を検討した。

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     研究対象は20歳以上の被雇用者477人で、重篤な身体疾患や器質的脳障害のある人は除外した。主な背景は、平均年齢41.11±11.99歳、男性44.3%、既婚者64.1%で、11.1%は精神疾患の既往歴があり、4.0%は精神科治療中だった。また、65.8%に飲酒習慣、20.1%に喫煙習慣があった。

     主観的認知機能は、双極性障害の評価ツール(Cognitive Complaints in Bipolar Disorder Rating Assessment;COBRA)で評価した。COBRAは最高48点で、スコアが高いほど主観的認知機能が悪いことを意味する。今回の研究対象の平均は8.45±6.53で、豊島氏らが以前に双極性障害患者で検討し報告したスコア(13.63±7.95)より良好だった。

     抑うつ症状は、うつ病のスクリーニングや重症度の判定ツール(Patient Health Questionnaire 9;PHQ-9)で評価した。PHQ-9は最高27点で、スコアが高いほど抑うつ症状が強いことを意味する。今回の研究対象では平均4.23±4.30だった。プレゼンティズムについては海外で開発されたツール(Work Limitations Questionnaire 8;WLQ-8)の日本語版を用いて労働生産性などを評価し(スコアが高いほど生産性が低い)、COBRAやPHQ-9との関連を検討した。

     検討の結果、COBRAスコアとWLQ-8労働生産性スコアに有意な正相関が認められ(ρ=0.470、P<0.01)、主観的認知機能が低下しているほど労働生産性が低いことが示された。また、PHQ-9スコアとWLQ-8労働生産性スコアも有意に正相関し(ρ=0.399、P<0.01)、抑うつ症状が強いほど労働生産性が低下していた。COBRAスコアとPHQ-9スコアにも有意な正相関が認められた(ρ=0.407、P<0.01)。

     次に、WLQ-8労働生産性スコアを従属変数、COBRAとPHQ-9を独立変数とした重回帰分析を行うと、COBRA(β=0.36、P<0.001)、PHQ-9(β=0.22、P<0.001)は、いずれも労働生産性の有意な予測因子だった。なお、COBRAとPHQ-9には有意な交互作用は認められなかった。

     続いて、労働生産性への影響をパス分析で検討。その結果、主観的認知機能は労働生産性に直接的な影響があると認められた(直接効果0.36、P<0.001)。また、抑うつ症状は労働生産性への直接的な影響(同0.22、P<0.001)に加え、主観的認知機能の低下を介して間接的にも影響を及ぼすことが分かった(間接効果0.15、P<0.001)。

     研究グループは本研究を「主観的認知機能と労働生産性の関連を日本人で検討した初めての研究であり、プレゼンティズムへの取り組みの第一歩」と位置づけ、「抑うつ症状のみでなく、主観的認知機能の低下も労働生産性低下の重要なファクターである。今後の研究では、労働者の主観的認知機能の評価も必要」と結論付けている。

     なお、数名の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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    HealthDay News 2020年6月8日
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  • 妊娠中の早食いが妊娠糖尿病のリスクに

     食事を食べるスピードが速い女性は、妊娠糖尿病になりやすい可能性があることが報告された。環境省が行っている疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータを、大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座公衆衛生学の磯博康氏らが解析した結果で、詳細は「Nutrients」5月2日オンライン版に掲載された。

     妊娠糖尿病は妊婦の7%が発症すると報告されており、難産など出産時のトラブルが増えるだけでなく、出産後にも母児ともに代謝性疾患のリスクが高くなる可能性がある。磯氏らは、2011年1月~2014年3月にエコチル調査に登録された9万7,454人の妊婦のうち、単胎妊娠であり糖尿病などの基礎疾患がないなどの条件を満たした8万4,811人のデータを用い、摂食速度と妊娠糖尿病発症との関連を検討した。

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     摂食速度は、研究登録時に行った「あなたの食べる速度は?」との質問に対する回答を基に、「遅い」「中程度」「比較的速い」「非常に速い」の4群に分類した。それぞれの割合は、17.8%、41.1%、35.5%、5.7%だった。なお、感度分析のため、妊娠後期にも同様の手法で摂食速度を把握した。

     摂食速度が速い群は遅い群に比べて、高齢、BMIが高い、妊娠中の体重増加が大きい、身体活動量が多い、などの傾向が見られ、経産婦、喫煙歴のある人の割合が高かった。また食習慣に関しては、摂取エネルギー量が多く、脂質、白米、肉類、コーヒー、緑茶、マグネシウム、イソフラボンの摂取量も多かった。反対に牛乳の摂取量は少なかった。

     追跡期間中に妊娠糖尿病を発症した妊婦は1,902人だった。摂食速度が「遅い」群を基準として「非常に速い」群の妊娠糖尿病の発症リスクを、年齢、喫煙・飲酒習慣、妊娠中の体重増加、出産歴、巨大児分娩や多嚢胞性卵巣症候群、うつ病の既往、教育歴、職業、世帯収入、および前記の食習慣で調整した上で比較すると、オッズ比(OR)1.29(95%信頼区間1.05~1.59)と有意な関連が認められた。「遅い」群と比べて「中程度」群のORは1.08(同0.94~1.24)、「比較的速い」群のORは1.11(同0.97~1.28)で、有意な関連は見られなかった。

     調整因子に妊娠前のBMIを加えると、「非常に速い」群もORは1.14(同0.93~1.41)と両者の関連は弱まり、有意でなくなった。媒介分析からBMI高値は、摂食速度が速いことによる妊娠糖尿病リスク増大理由の64%を占めると計算された。

     次に、摂食速度の質問に対する回答が、研究登録時と妊娠後期とで一致していた6万4,183人(75.7%)に対を絞って解析。その結果、摂食速度が「遅い」群に対する「非常に速い」群の妊娠糖尿病の発症リスクは、妊娠前のBMI以外の因子で調整した場合のORが1.50(同1.16~1.92)、妊娠前のBMIを調整因子に加えてもORは1.32(同1.03~1.70)であり、いずれも有意だった。このことから、妊娠中に起こる摂食速度の変化が、BMIを調整因子に加えた主解析の結果が有意ではないことの一因と考えられた。

     以上より研究グループでは、「摂食速度の速さは妊娠糖尿病の発症率の上昇と関連しており、これは主としてBMIの増加によって媒介されると考えられる」と結論をまとめている。

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    HealthDay News 2020年6月8日
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