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10月 24 2020 産後は夫婦ともにメンタル不調になりやすい――国立成育医療研究センター
子どもの出産後、妻だけでなく夫もともにメンタル面の不調を抱えていることが少なくなく、日本国内で毎年3万組の夫婦が苦しんでいる可能性が報告された。国立成育医療研究センターの竹原健二氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」8月13日オンライン版に掲載された。
出産後の女性に産後うつなどの不調が現れやすいことはよく知られている。また近年では女性だけでなく、新たに子どもを授かった男性もメンタル不調に陥りやすいとする報告が多い。しかし、世帯単位の夫婦を調査対象とした研究はこれまで行われておらず、その実態は明らかでなかった。竹原氏らは、2016年の国民生活基礎調査のデータから生後1年未満の子どもがいる世帯のうち、夫婦のメンタルヘルス状態に関する調査データのある3,514世帯を対象として詳細な検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。対象者の背景は、平均年齢が夫33.9±6.0歳、妻32.1±5.1歳、子どもが1人の世帯が45.3%、世帯支出額5万7,000円(月1人当たりの中央値。四分位範囲は4万~7万5,000円)。夫の99.3%は被雇用者で、26.4%は週に55時間以上勤務していた。妻の44.0%は有職者で、19.6%が週に1時間以上勤務していた。
メンタルヘルス状態は、Kessler心理的苦痛スケール(K6)という指標を用いて評価した。この指標は、緊張や絶望の感じ方や、努力が大切だと思うか、といった6項目の質問に対し0~4点で回答してもらい、24点満点のスコアで判定する方法。本研究では、9~12点を中等度の心理的苦痛、13点以上を重度の心理的苦痛と定義した。
結果をまず夫婦別々に見ると、夫の11.0%は中等度以上の心理的苦痛を感じており、さらに3.7%は重度の苦痛を感じていることが明らかになった。また妻の10.8%は中等度以上の心理的苦痛、3.5%は重度の苦痛を感じていた。これにより、産後の女性がメンタル面の不調に陥る頻度と同程度に、夫もまたメンタル不調になりやすいことが分かった。
続いて、夫婦単位で検討した結果を見ると、夫と妻がともに中等度以上の心理的苦痛を感じている世帯が3.4%に上ることが明らかになった。この3.4%という数値を国内の出生数(2019年は約86万5,000人)に当てはめて推算すると、毎年約3万組の夫婦が、子どもを授かった後に2人ともメンタル面の不調で悩んでいる可能性が考えられる。なお、夫婦がともに重度の心理的苦痛を感じている世帯も0.4%存在した。
多重ロジスティック回帰分析の結果、夫婦が同時期に中等度以上の心理的苦痛を感じている世帯に関連する因子として、夫の労働時間が週55時間以上〔調整オッズ比(aOR)1.61(95%信頼区間1.05~2.49)〕、妻の睡眠時間が6時間未満〔aOR1.81(同1.17~2.79)〕、1人当たりの世帯支出が中央値以上〔aOR2.09(同1.33~3.28)〕、子どもが生後6~12カ月〔生後6カ月未満に対しaOR1.58(同1.02~2.45)〕という項目が抽出された。夫婦の年齢や、夫婦以外の保護者の存在などは有意な関連因子でなかった。
研究グループは、「夫婦が同時期にメンタルヘルスの不調を来してしまうと、養育環境が著しく悪化しやすくなり、世帯全体に大きな影響が生じることが懸念される。それを防ぐためにも、産後のケアや支援の対象を母子に限定するのではなく、父親も含めた世帯全体をアセスメントすることが重要と考えられる」と考察している。また、「日本では働き方改革の議論が進んでいるが、特に子どもが幼い間は、父親の長時間労働が母親や子どもの健康や成長に影響を与える可能性があり、さらなる改革が急務」と述べている。
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10月 24 2020 食事の多様性が脳の海馬の萎縮を抑制――国立長寿医療研究センター
多様性に富んだ食習慣の人ほど、加齢による脳の海馬の萎縮が抑制されることが明らかになった。国立長寿医療研究センターの大塚礼氏らによる日本人対象の縦断研究の結果であり、詳細は「European Journal of Clinical Nutrition」9月2日オンライン版に掲載された。
大塚氏らは以前、多様性の豊かな食習慣が認知機能テスト(Mini-Mental State Examination)のスコア低下を抑制することを報告している。今回の研究では、より客観的に、MRI検査によって計測した海馬と灰白質の容積を指標とした検討を行った。海馬や灰白質は加齢に伴い萎縮していくが、アルツハイマー病などの認知症では早期から萎縮することが知られている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。検討対象は、国立長寿医療研究センターが行っている、地域住民を対象とした老化に関する長期縦断疫学研究の参加者のうち、2008年7月~2012年7月に実施した2時点の調査に参加した、認知症の既往者などを除く40~89歳の1,683人(男性50.6%)。2時点の調査でMRI検査を施行し海馬と灰白質の容積を計測。またベースライン時点では、3日間にわたって食事内容を記録してもらい、それを基に食事多様性スコア(Quantitative Index for Dietary Diversity)を算出した。
食事多様性スコアは、摂取した食品を13のグループに分けて評価した。このスコアが高いほどより多彩な食品を摂取していることを表す。ベースライン時の食事多様性スコアを性別の五分位に分けると、スコアの高い群ほど高齢で身体活動量が少なく、高血圧や糖尿病、脂質異常症の割合が高かった。また、穀類の摂取量は少ない一方、他の12のグループの食品摂取量が多かった。
ベースラインから2年後に再度MRI検査を行い、海馬と灰白質の容積を計測すると、海馬は平均(±標準偏差)1.00(±2.27)%減少し、灰白質は0.78±1.83%減少していた。
海馬や灰白質の萎縮に影響を及ぼす可能性のある因子(年齢、性別、教育歴、喫煙・飲酒・身体活動状況、脳卒中・脂質異常症・糖尿病・高血圧・心疾患の既往。モデル1)で調整の上、食事多様性スコアの五分位群で比較すると、海馬(傾向性P=0.004)、灰白質(傾向性P=0.018)ともに、スコアの高い群ほど容積の減少が少ないという有意な関係が認められた。調整因子にベースライン時の海馬または灰白質の容積を追加した解析(モデル2)でも、海馬(傾向性P=0.003)、灰白質(傾向性P=0.028)ともに、やはり同様の有意な関連が維持されていた。
2年間での海馬容積の変化率(モデル1の因子で調整)で比較すると、第1五分位群(食事多様性が最も少ない群)が1.31±0.12%の減少、以下、第2五分位群が1.07±0.12%、第3五分位群が0.98±0.12%、第4五分位群が0.81±0.12%の減少を示し、最も食事多様性に富む第5五分位群は0.85%±0.12%の減少にとどまっていて、食事多様性スコアが高いほど萎縮が抑制されていた(傾向性P=0.003)。また灰白質も、同様の関係が認められた(傾向性P=0.017)。
この結果について著者らは、「食事の多様性の高さが海馬や灰白質の萎縮と負の関連があることが示された。海馬の平均的な萎縮は2年間で1.00%であるのに対して、食事の多様性の違いによって萎縮度の差が最大0.5%に及ぶという顕著な違いが認められた。よって、さまざまな食品を食べることは、海馬の萎縮を防ぐ新しい効果的な栄養戦略になり得る」と研究の成果を強調している。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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10月 24 2020 温泉療法・水中運動で痛みが改善する
温泉などの入浴や、さらにそれに運動などを組合せた治療法(spa therapy)によって慢性疾患による痛みが軽減し、生活の質(QOL)が改善することが、国内外のランダム化比較試験のシステマティックレビュー(メタ解析を含む)の結果から確認された。東京農業大学大学院農学研究科環境共生学専攻の上岡洋晴氏らによる論文が、「International Journal of General Medicine」7月22日オンライン版に掲載された。
温泉浴や水道水を用いた一般的な入浴を活用した統合医療は、多くの国で行われており、その効果を検証するランダム化比較試験が多数報告されている。それらを対象としたシステマティックレビューも報告されているが、さらにそれらに基づき全体としてはどうなのか、ということをオーバービュー(総括)した研究はほとんど実施されておらず、上岡氏らはその最新の取りまとめを行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。対象論文の採用基準は、何らかの疾患の治療として温泉療法や入浴療法が施行されており、プラセボまたは他の異なる治療介入を対照としたランダム化比較試験に対してメタ解析を実施したシステマティックレビューで、2000年~2019年11月20日までに報告されたもの。アップデートされたシステマティックレビューについては新しい方を採用した。治療対象疾患は限定せず、国際疾病分類11版(ICD-11)にある全ての疾患を含めた。検索に用いたデータベースは、PubMed、CINAHL、Web of Scienceなどで、「温泉療法」「温泉医学」「入浴」などのキーワードを用いた。
最初の検索でヒットした論文は40編で、そのうち採用基準を満たすものは18編だった。ICD-11に基づき治療対象疾患を分類すると、「筋骨格系および結合組織の疾患」が8編(44%)、「症状、徴候または臨床所見で他に分類されないもの」が5編(28%)、「循環器系の疾患」が4編(22%)、「神経系の疾患」が1編(6%)となった。
これらの一次転帰を見ると、「痛み(疼痛)」に関しては、入浴に水中運動をプラスしていたか否かを問わず、14編の論文のほぼ全てが有効と報告していた。また「QOL」について検討した5編の論文の全てが有効と報告していた。「体力」や「身体機能」に関しては、筋力やバランス能力、有酸素性能力などが検討されており、入浴に水中運動をプラスして介入した検討では、ほぼ全てが有効性を報告していた。
一方、水中運動を行わず、温泉浴(浸かる)などだけでは、体力や身体機能への有効性はほとんど認められなかった。「心不全」に関しては2編の論文があり、そのうち1編が有意な効果を報告していた。その他、慢性静脈不全、リンパ浮腫などへの介入効果の検討結果が報告されていたが、いずれも有意な改善は認められていなかった。
著者らは本研究を、「温泉療法と水中運動のランダム化比較試験を対象とし、2000年代の最新のシステマティックレビューをオーバービューした初の研究」と位置づけ、一連の結果から「温泉療法は、筋骨格系疾患や結合組織の疾患による疼痛緩和に有効であり、QOLを改善することや、何より患者から受け入れられやすいことが特徴である。入浴だけでなく、水中での運動を付加することで、さまざまな疾患の患者の体力と身体機能を改善する可能性がある」とまとめている。
また、今回の研究により温泉療法や水中運動に一定の有効性が確認されたことから、まだ臨床研究が十分に実施されていない疼痛を伴う慢性疾患における痛みを軽減する効果を発見し得る可能性があることに言及し、それを正しく評価するために「適切にデザインされた研究プロトコルで介入研究を実施する必要がある」と、今後の研究の方向性を述べている。
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10月 24 2020 朝食の欠食と遅い夕食が蛋白尿出現と関連――金沢市の健診データ
朝食を食べないことと夜遅い時間に夕食を食べることが、蛋白尿の出現に関連していることが報告された。金沢市医師会との協力により、金沢大学附属病院栄養管理部の徳丸季聡氏、同大学大学院腎臓内科学の遠山直志氏、和田隆志氏らが、一般住民の健康診断データを用いて実施した追跡研究の結果で、「Nutrients」に8月19日掲載された。
蛋白尿や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下で定義される慢性腎臓病(CKD)は、心血管疾患や末期腎不全のリスクであり、その発症抑制は公衆衛生上の重要な課題である。過剰なエネルギー摂取や栄養バランスの偏りは各種生活習慣病を介してCKD発症につながるが、今回の研究では、朝食の欠食などの好ましくない食習慣に着目して、蛋白尿出現との関連を後方視的に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象は、1998~2014年に健診を受けた40歳以上の金沢市の住民のうち、ベースライン時のeGFRが60mL/分/1.73m2以上で1年以上追跡可能であり、蛋白尿陽性、食習慣などのデータがない人を除外した2万6,764人。平均年齢は、68±9歳、男性が44%、BMI22.8±3.1、eGFR77±12mL/分/1.73m2。
好ましくない食習慣は、健診の問診票に基づき以下の4項目を検討した。朝食の欠食(朝食を抜くことが週に3回以上ある。該当者は全体の9%)、遅い夕食(就寝前の2時間以内に夕食をとることが週に3回以上ある。同19%)、早食い(人と比較して食べる速度が速いかという問いに、「速い」「普通」「遅い」から「速い」と回答した人。同29%)、夕食後の間食(夕食後に3食以外の夜食をとることが週に3回以上ある。同16%)。
結果について、まずベースライン時のBMIと好ましくない食習慣の関連を見ると、検討した四つの食習慣のうち、朝食の欠食を除き該当者の方が有意にBMIが高かった(遅い夕食の該当者のBMIが23.0、非該当者は22.7。早食いは同順に23.3、22.5。夕食後の間食は23.1、22.7。すべてP<0.001)。朝食の欠食はベースライン時のBMIとの有意な関連は認めなかった(該当者22.8、非該当者22.7。P=0.788)。
平均追跡期間3.4年で2,844人(10.6%)に蛋白尿が出現し、1,000人年当たりの罹患率は32.7だった。蛋白尿出現に影響する可能性のある、年齢、性別、BMI、収縮期血圧、eGFR、ヘモグロビン、中性脂肪、総コレステロール、HbA1c、尿酸、飲酒・喫煙習慣で調整の上、Cox比例ハザードモデルを用いて好ましくない食習慣と蛋白尿出現との関連を検討した。
その結果、朝食の欠食〔ハザード比(HR)1.15(95%信頼区間1.01~1.31)〕および遅い夕食〔HR1.12(同1.02~1.22)〕と、蛋白尿出現との間に有意な関連が認められた。早食いと夕食後の間食は有意な関連を認めなかった。なお、朝食の欠食と遅い夕食との間に交互作用は認められなかった(P=0.222)。また、年齢(65歳未満/以上)、性別、BMI(25未満/以上)で層別化した解析では、それぞれの群間に交互作用は認められなかった。
この結果から、研究グループでは「朝食の欠食と遅い夕食は、蛋白尿の出現に関連している可能性がある。一般住民からのCKD新規発症を抑制することが重要であり、摂取量や栄養バランスだけでなく、これらの是正可能な食習慣の改善を促すことが、それに寄与する可能性がある」と述べている。
なお、著者らは今回の研究はあくまで観察研究であり、今後は因果関係などの検証が必要としているが、遅い時間帯の夕食は夜間のコルチゾールレベルの上昇、朝食の欠食は空腹ストレスを介して、ともに血圧を上昇させることなどの関与を考察している。
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糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。
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10月 24 2020 COVID-19レジストリ中間報告――国立国際医療研究センター
国立国際医療研究センターはこのほど、国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院患者のレジストリデータを解析した、中間報告を公表した。死亡率は欧米の3分の1にとどまることなど、国内の治療状況の詳細が明らかになった。
このレジストリには748施設のCOVID-19入院患者4,797人(8月3日時点)、国内の検査陽性者の12.3%に当たるデータが登録されている。今回公表された結果はそのうち、第二波の感染拡大が本格化する直前の7月7日時点までに登録された、227施設、2,638人のデータを解析したもの。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。まず、重症度の内訳を見ると、61.8%は最重症時でも酸素投与を必要としない軽症であり、酸素投与を必要としたのは29.7%、気管挿管や体外式膜型人工肺(ECMO)を必要としたのは8.5%だった。患者背景としては、男性、高齢者、喫煙者で、酸素投与などが必要になる重症例の割合が多かった。
具体的には、解析対象者全体では男性の割合が58.9%であるのに対し、酸素投与不要例では53.2%と少ない一方、酸素投与必要例では65.0%であり、気管挿管などを必要とした症例では78.9%を占めていた。また年齢は、対象者全体の中央値が56歳、酸素投与不要例は49歳であるのに対し、酸素投与必要例は68歳、気管挿管などを必要とした症例は66歳だった。喫煙歴のある人の割合は全体で36.3%、酸素投与不要例では32.0%、酸素投与必要例では43.1%、気管挿管などを必要とした症例では43.9%だった。
次に、併存疾患に関する解析結果を見ると、肥満が5.5%、軽症糖尿病(合併症なし)が14.2%、重症糖尿病(合併症あり)が2.5%などであり、欧米に比べて低値だった。例えば、英国からは軽症糖尿病22%、重症糖尿病8.2%、肥満9%、米国からは糖尿病28~35%、肥満40%といった数値が報告されている。
COVID-19に特徴的な症状として、味覚や嗅覚の障害が報告されているが、今回の解析では、味覚障害は17.1%、嗅覚障害は15.1%にとどまった。ただし、味覚・嗅覚障害の頻度は海外からの報告でもばらつきが大きく、また、それらがCOVID-19の関連症状であるとの認識が定着したことで、今後は報告が増える可能性があるという。
退院時転帰は、自宅退院が66.9%、転院が16.6%、療養施設などへの入所が9.1%、死亡が7.5%だった。重症度別に解析すると、酸素投与不要例では77.0%と8割近くが自宅退院し、転院が11.4%、死亡は0.4%だった。酸素投与必要例では自宅退院56.1%、転院23.0%、死亡14.7%であり、気管挿管などを必要とした症例では自宅退院30.6%、転院32.4%、死亡33.8%だった。なお、海外での死亡の割合は、英国26%、米国21~24%、中国28%と報告されており、それらに比べて3分の1程度と少ないことが示された。
本レジストリは今後、重症化因子の同定、薬剤の有効性の評価、生活習慣の関与の解明などにも活用されるという。
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10月 24 2020 「女性の身体活動量は男性より少ない」は本当か?――DOSANCO健康調査
これまでの疫学研究には、女性の身体活動量は男性よりも少ないとする報告が多い。しかし今回、それと相反する研究結果が発表された。北海道寿都町で実施された住民対象横断研究「DOSANCO健康調査」のデータを、東京医科大学公衆衛生学分野の天笠志保氏らが解析したもので、「Journal of Epidemiology」8月8日オンライン版に論文が掲載された。
健康の維持・改善には従来、中~高強度の身体活動を一定時間、動作を中断せずに連続して行うことが重要とされ、女性はその条件を満たす身体活動が男性よりも少ないと考えられてきた。その一方で近年、短時間の軽強度身体活動の積み重ねであっても有効であるとのエビデンスが蓄積されつつある。しかし、一般住民における軽強度の身体活動の性差は明らかになっていなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。天笠氏らが解析に用いたDOSANCO健康調査は、2015年に寿都町の3歳以上の全住民(特別養護老人ホームの居住者を除く)2,638人を対象に実施され、2,100人がアンケート調査に協力した。そのうちの771人は、加速度計を用いた身体活動量調査にも協力。参加者には連続14日間、就寝時以外は入浴、水泳などの水中での活動を除いて、常に加速度計を身につけて生活してもらった。
身体活動レベルは、1.5METs以下を座位、1.6~2.9METsを軽強度の身体活動、3.0METs以上を中~高強度の身体活動と判定し、また、中~高強度の身体活動については持続時間が10分以上と未満とを分けて評価した。加速度計の装着時間が1日当たり10時間に満たなかった人、および小児を除外し、最終的に634人(平均年齢57.9±16.9歳、男性43.8%)を今回の解析対象とした。
対象者の加速度計装着時間は平均873.4±91.6分/日だった。身体活動レベル別に見ると、座位が464.5±114.5分/日、軽強度の身体活動が361.5±96.2分/日、中~高強度の身体活動が47.1±30.6分/日であり、中~高強度身体活動の持続時間は、多くが10分未満だった(男性85.1%、女性87.3%)。
男性と女性を比較すると、女性は有職者率が低く有意差があったが(男性73.6%、女性55.5%。P=0.001)、身体活動ガイドラインの推奨(10分以上継続して行う中~高強度の身体活動を週150分以上)の順守者率(男性10.8%、女性9.9%)や歩数(男性4,899歩/日、女性4,580歩/日)に関しては、有意な性差はなかった。
続いて総身体活動量を性別に見ると、男性14.0METs・時間/日、女性16.1METs・時間/日であり、女性の方が有意に身体活動量が多いという結果が得られた(P<0.001)。身体活動レベルごとに分けて解析した結果、この差は中~高強度身体活動の時間ではなく、座位時間と軽強度身体活動を行っている時間の差によって生じていることが明らかになった。
具体的には、女性の座位時間は男性に比較し13.3%(95%信頼区間9.9~15.9)有意に少ない一方で、軽強度の身体活動時間は19.8%(同14.9~24.6)有意に多かった。それに対して、中~高強度の身体活動時間の性差は有意でなかった。この関係は、65歳未満と以上で層別化して解析しても同様に認められ、高齢者もやはり女性は男性より軽強度身体活動時間が長く、総身体活動量が多かった。
これらの結果のまとめとして著者らは、「軽強度の身体活動を含めて評価した場合、既報とは対照的に、日本人女性は男性よりも活動的であることが示唆される。従来のように、身体活動量を中~高強度の身体活動のみで評価すると、女性の身体活動量を過小評価し、軽強度の身体活動による健康へのメリットを見落とす可能性がある」と述べている。
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10月 24 2020 日本食で死亡リスクが低下――JPHC研究
日本食は、やはり体に良いようだ。日本食パターンのスコアが高い食生活を送っている人ほど死亡リスクが低いという、縦断研究の結果が報告された。国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)によるもので、詳細は「European Journal of Nutrition」7月16日オンライン版に掲載された。
今回の研究の対象者は、1995年と1998年に、全国11カ所の保健所管轄区域に住んでいた45~74歳の住民のうち、食事調査アンケートに回答した10万2,341人から、がん、脳卒中、心筋梗塞、慢性肝炎などの既往のある人や、摂取エネルギー量が極端に偏っている人(上位または下位2.5%以内)を除外した9万2,969人で、平均年齢は56.5±7.8歳、男性が45.9%。この人たちを2016年まで追跡して、食生活の日本食パターンと死亡リスクとの関連を調査した。
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追跡期間中に2万596人(22.2%)の死亡が確認された。年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、摂取エネルギー量、降圧薬・脂質低下薬・血糖降下薬の使用、職業などで調整後、JDI8スコアの第1四分位群(スコアが最も低い群)を基準に、他の四分位群の、全死亡、がん死、循環器疾患死、心疾患死、脳血管疾患死のリスクを解析した。
その結果、第4四分位群(スコアが最も高い群)の全死亡のハザード比(HR)は0.86(95%信頼区間0.81~0.90)で、リスクが14%有意に低かった。さらに第3四分位群(HR0.91)や第2四分位群(HR0.95)も有意にリスクが低く、日本食パターンのスコアがより高いほど全死亡のリスクが低下するという関係が認められた(傾向性P<0.001)。循環器疾患死(傾向性P=0.007)や心疾患死(傾向性P=0.037)にも、同様の有意な関係が認められた。一方、がん死や脳血管疾患死のリスクとJDI8スコアとの間には、有意な関係が確認できなかった。
続いて、JDI8で評価した8種類の食品それぞれの摂取量を「多い/少ない」の2群にわけ、「少ない」群を基準に「多い」群の全死亡のリスクを検討。すると、海藻の摂取量が多い群はHR0.94で、リスクが6%有意に低かった。同様に、漬物ではHR0.95、緑黄色野菜ではHR 0.94、魚介類ではHR 0.97、緑茶ではHR0.89となり、これら各食品の摂取量が多い群の全死亡リスクが有意に低かった。ご飯やみそ汁、牛肉・豚肉に関しては、摂取量の多寡による全死亡リスクの相違は有意でなかった。
これらの結果を研究グループは、「日本食パターンスコアの高い食生活は、全死亡、循環器疾患死、心疾患死のリスク低下と関連している」とまとめるとともに、その理由について「日本食パターンのスコアが高い群では、海藻や漬物、緑黄色野菜、魚介類、緑茶に含まれる健康に有益な栄養素(食物繊維や抗酸化物質、カロテノイドやエイコサペンタエン酸など)の摂取量が多かったことが考えられる」と考察している。
なお、がん死との関連が有意でなかった点については、「食品や栄養素の種類とがんリスクの関係はがんの部位によって異なることから、全がん死では有意にならなかった可能性があり、今後のさらなる研究が必要」と述べている。
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10月 24 2020 幼少期の育てられ方と成人後の慢性疼痛が有意に関連――九大
幼少期の被養育スタイル(育てられ方)が、成人後の慢性疼痛の発症や心身医学的観点での治療の必要性に関与する可能性が報告された。慢性疼痛を訴える人には、養護的ではない過干渉な育て方をされた人が多いという。九州大学病院心療内科の細井昌子氏、九州大学医学研究院の柴田舞欧氏らの研究によるもので、「Medicine」7月17日オンライン版に論文が掲載された。
慢性疼痛は傷病による直接的な影響のみでなく、心理的因子や社会学的因子などが複雑に関係して発症し難治化することがある。他方、成人後の慢性疾患の一部は、幼少期の体験との関連が認められ、例えば幼少期に親を失うことや虐待を受けた人は虚血性心疾患、消化器疾患などのリスクが高いことが報告されている。しかし、幼少期の被養育スタイルに焦点を当て、成人後の慢性疼痛の難治化との関連を明らかにした研究はこれまでなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。細井氏らの研究は、慢性疼痛患者および一般住民を対象として、幼少期の被養育スタイルに関するアンケート調査を行い、その結果を解析したもの。調査対象は以下の4群。慢性疼痛治療のため九州大学病院心療内科を受療中の入院患者50人、同外来患者50人、および、地域住民対象コホート研究である久山町研究の参加者のうち慢性疼痛のある人100人、慢性疼痛のない人100人。いずれも35歳以上とし、精神疾患のある人や日本語を理解できない人は除外し、年齢と性別がマッチするよう調整した上で、コンピューター生成乱数により抽出した。
被養育スタイルは、親子関係の調査に頻用されるPBI(Parental Bonding Instrument)を用いて対象者自身に16歳までの体験を評価してもらい、養護因子および過干渉因子をそれぞれスコア化した。慢性疼痛は「過去3カ月以上続く痛み」と定義し、過去1週間の痛みの強さをビジュアルアナログスケール(VAS)で評価してもらった。
被養育スタイルのうちの養護因子スコアを前記の4群で比較すると、慢性疼痛のない地域住民、慢性疼痛のある地域住民、外来患者、入院患者の順で点数が低くなるという有意な関係が認められた(父親についてと母親について、ともに傾向性P<0.001)。それとは反対に過干渉因子スコアは、同順に点数が高くなるという有意な関係が認められた(父親と母親ともに傾向性P<0.001)。
次に、養護因子スコアと過干渉因子スコアを、既報に基づく以下のカットオフ値でそれぞれを2群に分類した。養護因子については、父親は24.0点未満、母親は27.0点未満を「低養護」と判定、過干渉因子については同順に12.5点以上、13.5点以上を「過干渉」と判定。その上で、「低養護かつ過干渉」に養育された人の割合を検討したところ、慢性疼痛のない地域住民、慢性疼痛のある地域住民、外来患者、入院患者の順に、その割合が増えるという有意な関係が認められた(父親と母親ともに傾向性P<0.05)。
続いてロジスティック回帰分析により、年齢、性別、配偶者の有無、教育歴、疼痛レベル(VASスコア)を調整の上、慢性疼痛のない地域住民を基準に、「低養護かつ過干渉」に養育された確率のオッズ比(OR)を算出した。その結果、母親については、慢性疼痛のある地域住民がOR2.76(95%信頼区間1.06~7.16)、外来患者がOR5.79(同1.71~19.61)、入院患者がOR6.77(同1.74~26.25)であり、いずれも「低養護かつ過干渉」に該当する確率が有意に高かった。一方、父親については、慢性疼痛のある地域住民がOR1.83、外来患者がOR3.05であったがともに有意でなく、入院患者のOR4.43(同1.24~15.84)のみが有意だった。
これらの結果を細井氏は、「16歳までの幼少期に受けた養育体験が、中年期以降の慢性疼痛の有無や、それによる心身医療の必要性に影響している可能性がある」とまとめている。なお、本研究の限界点として、疼痛の原因や持続期間を調査していないため、それらの影響が不明であることを挙げ、「この仮説の確認のため、さらなる研究が必要とされる」と述べている。
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10月 24 2020 厳格に管理された関節リウマチは骨粗鬆症のリスクではない
治療介入で疾患活動性が抑制された関節リウマチ患者の骨粗鬆症リスクは、関節リウマチでない群と同レベルであるとする論文が、「Osteoporosis and Sarcopenia」6月号に掲載された。吉井病院院長の吉井一郎氏らが同院の患者を対象として検討した結果、明らかになった。
関節リウマチは骨粗鬆症の独立したリスク因子であり、治療のためのステロイド薬もそのリスクを高める。一方、近年では発症後早期から生物学的製剤などで疾患活動性を積極的に抑制するとともに、ステロイド使用量を抑えるように変わってきている。吉井氏は、このような治療法の変化によって、関節リウマチが骨粗鬆症のリスク因子でなくなりつつあるのではないかとの仮説を立て、傾向性スコアを用いた統計的検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。2017年9月~2019年8月にDXA法にて骨密度測定を施行した741人の患者を、リウマチ群(332人)と非リウマチ群(409人)に分類。さらにリウマチ群については、治療開始から6カ月以内にDAS28-CRPが2.3未満になり臨床的寛解に到達した群(279人)と、寛解に至らなかった群(53人)に分類した。
対象者全体の平均年齢は79.2±10.2歳で、男性が9.7%、BMI21.9±10.2、ステロイド使用歴のある患者が30.8%を占め、ステロイド継続使用中が5.7%であった。脆弱性骨折の既往は30.1%で、骨粗鬆症薬が70.4%に処方されていた。筋肉量の指標である血清クレアチニン/シスタチンC比は0.661±0.134で、併存疾患数は平均11.4±6.2だった。
まず、リウマチ寛解群と非リウマチ群を比較すると、年齢や脆弱性骨折の既往者率は非リウマチ群の方が高く、反対に、ステロイド処方率、骨密度はリウマチ寛解群の方が高く、併存疾患数はリウマチ寛解群が多いという有意差があった。男女比、骨粗鬆症薬の処方率、血清クレアチニン/シスタチンC比は群間差がなかった。非リウマチ群におけるステロイド使用例は、全身性エリテマトーデス、巨細胞性動脈炎などの患者だった。
次に、傾向性スコアにより背景因子を調整するマッチングを施行。リウマチ寛解群から107人、非リウマチ群から108人を抽出した。この2群間に、年齢やステロイド処方率、併存疾患数をはじめ、評価した因子に偏りはなかった。
続いて、この2群の骨密度を部位別に比較すると、腰椎ではリウマチ寛解群0.994±0.179g/cm2、非リウマチ群0.960±0.235 g/cm2、大腿骨頸部では同順に0.690±0.122g/cm2、0.666±0.141 g/cm2であり、その他、大転子などの全ての測定部位において有意差を認めなかった。これにより、疾患活動性が十分にコントロールされた関節リウマチ患者では、骨密度低下の相対リスクは高くないことが示唆された。
なお、傾向性スコアでマッチングさせた後のリウマチ寛解群と、非寛解群を比較すると、寛解群では女性が多く、脆弱性骨折の既往は非寛解群で多いという有意差が見られた。また、年齢と性別で調整後、測定した全ての部位の骨密度は寛解群が有意に高く、ADLの指標であるバーサルインデックスも寛解群の方が有意に高かった。
吉井氏は、「関節リウマチに対するT2T(トリート・トゥ・ターゲット)戦略は治療のパラダイムシフトを起こした。T2Tによって炎症が抑制されている限り、骨密度低下も抑制され、ADLの維持につながる」と結論づけている。
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10月 24 2020 CKD患者の貧血有病率とESA製剤使用状況――J-CKDデータベースの解析
国内の慢性腎臓病(CKD)患者のデータベース「J-CKD-DB」のデータ解析の結果から、CKD患者のヘモグロビンレベルやESA製剤の使用状況の詳細が明らかになった。香川大学医学部循環器・腎臓・脳卒中内科の祖父江理氏、川崎医科大学腎臓高血圧内科の柏原直樹氏らによる論文が、「PLOS ONE」に7月20日掲載された。
J-CKD-DBは、厚生労働省の臨床効果データベース整備事業、臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究事業の一環として、日本腎臓学会と日本医療情報学会が共同で構築しているデータベース。国内の主に大学病院受診患者のデータが登録されている。現時点で15大学病院から総計14万8,000人の患者データが収集されており、本邦のCKDの実情、診療実態の可視化が期待されている。今回の研究ではこのデータを基に、日本人CKD患者の貧血有病率と赤血球造血刺激因子(ESA)製剤の使用状況が調査された。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。7大学病院の外来CKD患者のうち、eGFRが5~60mL/分/1.73m2の成人3万1,082人のデータが解析に用いられた。急性腎障害(AKI)を除外するため対象を外来患者のみとし、また透析導入または腎移植後の患者を除外するためにeGFR5mL/分/1.73m2未満の記録がある患者は対象に含めなかった。
主な患者背景は、年齢中央値72歳、男性54.5%、eGFR中央値50.0mL/分/1.73m2、平均ヘモグロビン13.02±1.88g/dLで、CKDステージはG3aが65.7%、G3bが23.5%、G4が7.6%、G5が3.1%だった。性別のヘモグロビン値は男性13.6±1.9g/dL、女性12.4±1.6g/dLで、男性の方が有意に高かった。
全体をeGFR5mL/分/1.73m2ごとに11のグループに層別化した検討の結果、eGFRが低下するに従いヘモグロビンレベルが低下していることが明らかになった。また、全てのeGFRカテゴリーで女性は男性よりヘモグロビンレベルが低く、eGFR15mL/分/1.73m2未満の群を除いて有意差が認められた。
貧血有病率については、日本透析医学会やKDOQIなどによる、4種類の貧血の定義に基づいて検討。いずれの定義で検討しても、CKDステージが進むほど貧血有病率が上昇した。そのうち日本透析医学会による腎性貧血の定義による有病率については、CKDステージG3aで7.8%、G3bで18.1%、G4で40.1%、G5では60.3%であった。年齢、CKDステージ、アルブミン、CRPで調整しG3aを基準に貧血のリスクを検討すると、G3bはオッズ比(OR)2.32(95%信頼区間2.09~2.58)、G4はOR5.50(4.80~6.31)、G5はOR9.75(8.13~11.7)となった。
ロジスティック回帰分析の結果、CKD進行以外の貧血リスク因子として、65歳以上、女性、アルブミン3.5g/dL以下、CRP0.3mg/dL以上、Na-Cl30mEq/L以下が浮かび上がった。これにより、栄養不良や炎症、代謝性アシドーシスなども、貧血のリスク因子であることが示唆された。
ESA製剤を使用している割合は、CKDステージG3aは0.0%、G3bは0.7%、G4は7.9%、G5は22.4%だった。年齢階層別に見ると、75歳以上で特にESA使用率が低かった。
ヘモグロビンがガイドラインの示す管理目標内(ESAを用いていない場合は11.0g/dL以上、ESAを用いている場合は11.0g/dL以上13.0g/dL未満)にある患者の割合は、CKDステージG3aで81.2%、G3bで71.6%、G4で54.6%、G5で44.8%だった。
また、CKDステージG4の患者のうちESAが使われている患者のヘモグロビンは10.1g/dLで、ESAが使われていない患者(11.7g/dL)より有意に低かった。同様に、ステージG5の患者のうちESAが使われている患者のヘモグロビンは10.1g/dLであり、ESAが使われていない患者(11.1g/dL)より有意に低かった。これらより、国内のCKD患者に対するESA使用率は比較的低く、ヘモグロビンがガイドラインの管理目標を満たしていないケースも少なくないことが分かった。
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糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。