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10月 28 2020 フレイルと交通格差の関係が明らかに――東京都健康長寿医療センター
国内の都市、郊外、農村に住む高齢者の移動手段を比較した研究結果が発表された。フレイルに該当する場合、どの地域に住んでいるかにかかわらず、移動手段が限定的になる傾向が見られたが、郊外や農村の居住者は都市部の居住者に比べて、他者が運転する車に同乗する人の割合が高いなどの相違が認められた。移動の機会や手段が限られることで、身体的フレイルに加え社会的フレイルが助長されることも懸念される。
フレイルとは、加齢による心身機能の低下などにより身体的・心理的ストレスに対する耐性が脆弱化した状態で、要介護予備群に相当する。適度な運動を継続し、社会との接点を保つことが予防対策として重要とされ、それには高齢者が気軽に外出できる環境の整備が必要とされる。交通インフラは地域によって異なり、都市に比べて郊外や農村は高齢者の移動手段が限られている。しかし、その違いがフレイル該当者の移動にどの程度影響を及ぼすかについては、これまで十分明らかにされていなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。東京都健康長寿医療センター研究所の阿部巧氏らは、国内3地域で実施された高齢住民を対象とした調査の結果を比較し、この点に関する詳細な検討を行った。その結果が「International Journal of Environmental Research and Public Health」に9月1日、掲載された。
解析には、東京都大田区(人口密度1万1,814人)を都市、埼玉県鳩山町(同541人)を郊外、群馬県草津町(同132人)を農村とし、それぞれの地域に居住する65歳以上で要介護認定を受けていない5,032人、2,853人、1,219人から得た調査結果を利用した。フレイルの判定は、東京都健康長寿医療センターが開発した「介護予防チェックリスト」に基づき、15点満点中4点以上をフレイルと定義した。移動手段は、歩行、自転車、自動車の運転、他者が運転する車への同乗、公共交通機関について、それぞれ週に1回以上利用するかどうかを評価した。
対象者9,104人の平均年齢は73.5±5.7歳、女性が51.1%、独居者が15.2%で、1,714人(18.8%)がフレイルに該当した。年齢、性別、独居か否か、脳卒中または骨・関節疾患の既往で調整後、フレイルに該当するか否かで移動手段を比較すると、都市、郊外、農村のいずれにおいてもフレイル該当者は非該当者に比べて、車への同乗を除き全ての移動手段の利用が有意に少なかった。
他者が運転する車の利用は、都市ではフレイル該当者と非該当者で有意差がなかったが〔非該当者に対するオッズ比(OR)1.08(95%信頼区間0.87~1.33)〕、郊外ではOR1.73(同1.32~2.25)、農村ではOR1.61(同1.10~2.35)と、フレイル該当者は有意に利用することが多いという、居住地域による相違が認められた。
次に、フレイルの有無による交通手段の利用状況により生じる交互作用を、都市での差を基準として比較した結果から、自身で車を運転する割合の差が、農村では有意に大きいことが分かった。その一方、公共交通機関の利用に関するフレイルの有無による差は、都市に比較し農村では有意に小さいことが分かった。ただし後者の公共交通機関の利用割合は、農村においてはフレイルの有無にかかわらず20%未満と少なく、都市(フレイル該当者58.7%、非該当者74.9%)より大幅に低かった。なお、歩行や自転車については、有意な交互作用は見られなかった。
これらの結果を著者らは、「フレイル該当者は非該当者に比べて移動の選択肢が限られており、その不利益は特に郊外や農村でより顕著であることが明らかになった」とまとめている。また、「フレイルに該当する高齢者のニーズを満たすための適切な移動手段を確保することが重要であり、都市と郊外・農村の交通格差を埋めるために、例えばライドシェアなどの代替手段を積極的に導入する必要がある」と結んでいる。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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10月 28 2020 ふくらはぎ周囲長のサルコペニア判定カットオフ値――早大
ふくらはぎ周囲長は年齢や肥満の有無にかかわりなく、サルコペニアのスクリーニングに有用との研究結果が「Geriatrics & Gerontology International」9月4日オンライン版に掲載された。早稲田大学スポーツ科学学術院の川上諒子氏らが、同大学の同窓生を対象とする「WASEDA’S Health Study」のデータを解析し、明らかにした。
サルコペニアは、筋肉量や筋力が低下して、転倒、骨折、死亡のリスクが高くなった状態。加齢に伴いその頻度が増えるが、筋力トレーニングなどによって予防・改善が可能。そのため、早期に発見することが重要とされる。サルコペニアの診断には、DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)などによる筋肉量測定が行われるが、多くの一般住民に施行するには、コストや時間、放射線被曝などのハードルが高い。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。サルコペニアの簡便なスクリーニング法として2019年にアジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)から、ふくらはぎ周囲長が「男性34cm未満、女性33cm未満」という基準が提案された。ただしこの値を日本人に適用可能かどうかは十分に検証されておらず、また肥満や年齢の影響もよく分かっていなかった。川上氏らは、これらの点を明らかにするために以下の検討を行った。
検討の対象は、2015年3月~2020年1月に早稲田大学同窓生対象の健康調査を受けた人のうち、ふくらはぎ周囲長、およびDXA法とBIA法(生体インピーダンス法)による筋肉量が測定された40歳以上の1,239人。
対象者のうち男性(827人)は、平均年齢が57±10歳、BMI23.8±3.0kg/m2、体脂肪率20.4±4.7%で、ふくらはぎ周囲長37.6±2.6cm、骨格筋量指数(SMI:四肢筋肉量を身長の二乗で除した値)はDXA法では7.9±0.8kg/m2、BIA法では8.3±0.9kg/m2、握力は37.9±5.8kgだった。一方、女性(412人)は平均年齢52±9歳、BMI21.4±2.9kg/m2、体脂肪率27.2±5.1%で、ふくらはぎ周囲長34.4±2.2cm、SMIはDXA法で6.1±0.7kg/m2、BIA法で6.4±0.6kg/m2、握力24.5±3.7kgだった。
サルコペニアをAWGSのDXA法によるSMI判定基準(男性7.0g/m2未満、女性5.4kg/m2未満)で定義すると、男性の8.6%、女性の12.9%が該当した。サルコペニア群と非サルコペニア群の比較で、男性・女性ともに年齢や身長、体脂肪率に有意差は認められなかった。
ふくらはぎ周囲長とSMIには、有意な正の相関が認められた(DXA法で男性r=0.78、女性r=0.76。BIA法で男性r=0.81、女性r=0.73)。サルコペニアの診断に用いられる握力とは、弱い正の相関であった(男性r=0.33、女性r=0.31)。
ROC解析の結果、ふくらはぎ周囲長によるサルコペニアの判定は、男性のDXA法による診断に対してAUC0.88、BIA法による診断に対して同0.93、女性では同順に0.84、0.89となった。スクリーニングに最適なふくらはぎ周囲長のカットオフ値は、男性のDXA法による診断に対しては35.8cm(感度81.7%、特異度80.4%)、BIA法による診断に対しては35.4cm(感度91.2%、特異度83.5%)、女性では同順に33.5cm(感度84.9%、特異度72.4%)、32.7cm(感度81.5%、特異度83.6%)という値が算出された。
次に、肥満の有無(DXA法での体脂肪率が男性25%以上、女性30%以上を肥満と定義)、および年齢(60歳未満/以上)で層別化しサブクループ解析を行った。その結果、全てのグループで、ふくらはぎ周囲長とSMIの有意な相関が引き続き認められ、スクリーニングのカットオフ値もほぼ同等だった。
これらより著者らは、「ふくらはぎ周囲長は肥満や年齢に関係なく骨格筋量と正相関し、サルコペニア診断の簡便な代理マーカーとなり得る」と結論づけている。
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10月 28 2020 医師発の外出自粛メッセージが効果大――緊急事態宣言下での東大の研究
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第一波、第二波の拡大局面では、行政府からの外出自粛要請に加え、各方面からステイホームの呼びかけが行われた。それらの呼びかけの中で、最も説得力があり市民の心に届いたのは、治療の最前線で働く医師が発したメッセージだったようだ。緊急事態宣言発出中に実施された調査の結果であり、詳細は「Patient Education and Counseling」8月21日オンライン版に掲載された。
東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野の奥原剛氏らは、緊急事態宣言下の2020年5月9日~11日に、年齢、性別、居住地域を日本の人口構成に一致させた18~69歳の1,980人を対象とするインターネット調査を実施。外出自粛を呼びかける5種類のメッセージの中から1つを無作為に示して、そのメッセージを読む前と読んだ後に、外出を自粛しようという意思がどの程度変化したかを答えてもらった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。5種類のメッセージとは、都道府県の知事、感染症対策の専門家、治療現場で働く医師、COVID-19に罹患した人、COVID-19流行が急拡大している地域の住民というそれぞれの立場から発した内容で、報道されている情報を基に作成した。外出自粛の意思は、COVID-19を理由に今後、(1)「人と会う」「外食をする」「イベントに参加する」などの予定をキャンセルや延期しようと思うか、(2)店での買い物の時間を減らそうと思うか、(3)人混みを避けようと思うか、という三つの質問に対し、「絶対にしない」から「絶対にする」までの6段階で回答してもらい、その平均値で評価した。
その結果、特別警戒地域に指定されていた都道府県の居住者(1,274人)の回答からは、医師のメッセージを読んだ時に、外出自粛の意思が0.34点上昇し、5種類の中で最も大きく変化することが分かった。2位は患者のメッセージで変化は0.21点、3位は専門家のメッセージで0.19点、知事と住民のメッセージは0.17点だった。医師のメッセージによる変化は、他のメッセージによる変化に比較して有意に大きかった(P=0.003)。
解析対象を全国に拡大しても、上昇幅が最も大きかったのは医師のメッセージの0.27点で、以下、患者0.22点、専門家0.19点、住民0.18点、知事0.17点と続いた。なお、全国対象の解析では、医師のメッセージと他のメッセージの変化の差は統計的有意水準に至らなかった(P=0.098)。
今回の調査で用いた医師のメッセージは以下の内容(一部省略)。「私の病院では、新型コロナウイルスの患者さんでベッドも集中治療室も埋まっていて、患者さんを新規に受け入れることができません。医師と看護師が総動員で治療にあたっていますが、マスクも防護服も不足しています。感染の危険と隣り合わせで、もう本当に限界です。同僚の一人でも感染したら、何人もの医師と看護師が自宅待機となり、治療を続けることができなくなります。もし皆さんの誰かが感染して重症化しても、治療できなくなるのです。私たちは踏みとどまって病院にいて治療を続けます。ですから、皆さんは家にいてください。皆さんが務めを果たすことで、私たちも務めを果たすことができます」。
著者らは本研究の結論を、「医療崩壊によって治療を提供できなくなる危機と、医療従事者の使命感を伝えるコロナ病棟の現場の医師によるメッセージが、外出自粛の気持ちを最も高めることが分かった」とまとめている。また、考察として、「知事や専門家のメッセージは、人の理性に向けた知識の提供や指示であり、情報の受け手が意図どおりに動くとは限らない。一方、現場の医師のメッセージは知識も指示も与えないが、危機感と使命感で感情に訴える。今後、再び外出自粛が要請される事態になった場合に、現場の医師が積極的にメッセージを発信することが重要だろう」と述べている。
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10月 28 2020 シニア女性の物忘れに銅が関係?――東京医科歯科大
銅の摂取量が多いシニア世代の女性は、物忘れが多いことが明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座の寺内公一氏らの研究による結果で、詳細は「Food Science & Nutrition」7月1日オンライン版に掲載された。
閉経期や閉経後の女性は、閉経前女性に比較して記憶障害が多いことが報告されている。その原因として、女性ホルモンの分泌量低下のほか、摂取栄養素との関係を示唆する海外からの報告も見られるが、詳細は分かっていない。そこで寺内氏らは、日本人女性を対象とする横断研究を行い、栄養摂取状況と物忘れの重症度との相関を検討した。
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物忘れの重症度は、本人の自覚を基に、物忘れの頻度が月に0~1回の場合を「物忘れなし」、週1~2回を「軽度」、週に3~4回を「中等度」、ほぼ毎日を「重度」と4段階に分類した。それぞれの該当者数は同順に、82人(33.5%)、87人(35.5%)、39人(15.9%)、37人(15.1%)だった。
この4群間に、年齢や閉経状態(閉経前/閉経期/閉経後の人が占める割合)、BMI、除脂肪体重、併存疾患、喫煙・飲酒・身体活動習慣などの有意差はなかった。ただし、物忘れの重症度が高いほど、不眠や不安、抑うつなどの訴えが多く、生活満足度が低かった。また、物忘れの重症度と有意な関連のある摂取栄養素は見つからなかった。
次に、対象者全体を40~54歳の中年群(166人)と、55歳以上のシニア群(79人)に分類した上で同様の検討を行った。すると、中年群では全体解析と結果が変わらず、物忘れの重症度と摂取栄養素の相関は見られなかった。一方、シニア群では、カリウム、マグネシウム、銅、ビタミンB1の摂取量が多いほど物忘れが重症という有意な関連が認められた。また摂取栄養素以外では、身体の自覚症状、生活満足度、不安、抑うつなども物忘れと有意に関連していた。
これら、有意な関連が見られた因子を独立変数とする多重ロジスティック回帰分析の結果、栄養素の中では銅の摂取量のみが引き続き有意な因子として残った〔10mg/kJ/日あたりの調整オッズ比(aOR)1.34(95%信頼区間1.11~1.66)、P=0.004〕。さらに、年齢やBMI、その他の背景因子を加えて調整しても、銅の摂取量が多いことは、やはり物忘れの重症度と有意に関連していた〔aOR1.25(1.08~1.50)、P=0.006〕。
この結果から著者らは、「銅の過剰摂取は高齢日本人女性の主観的な物忘れの重症度と正の関連がある。銅の摂取量を減らすことが、高齢女性の物忘れ症状を抑制するかもしれない」と述べている。銅の過剰摂取が物忘れにつながる機序については、「アミノ酸と結合した銅の一部は血液脳関門を通過して脳に到達し、酸化ストレスや細胞障害を惹起する可能性がある」などの考察を加えている。
なお、一部の著者が食品関連企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。
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