• 大豆食品摂取量と前立腺がん死亡が関連――JPHC研究

     大豆食品の摂取量が前立腺がんによる死亡リスクと関連することが、日本人対象の研究から明らかになった。国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)によるもので、詳細は「International Journal of Epidemiology」9月23日オンライン版に掲載された。

     大豆食品や大豆食品に多く含まれるイソフラボンは、これまでの疫学研究から、前立腺がんに対して予防的に働くことが報告されている。JPHC研究でも過去に、大豆食品やイソフラボンの摂取量が多いほど一部の前立腺がんのリスクが低いことを報告している。大豆食品による前立腺がんリスク低下のメカニズムとしては、イソフラボンの化学構造が女性ホルモンのエストロゲンに似ていることから、エストロゲン作用が前立腺がんの進展抑制に関与するのではないかと考えられている。

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     しかし、これまで報告されてきた一連の研究は、がんの進行度によって結果が異なり、前立腺がんによる死亡リスクとの関連も明らかにされていなかった。そこで今回、同研究グループでは、大豆食品やイソフラボンの摂取量と、前立腺がんによる死亡リスクとの関連を検討した。

     この研究の解析対象者は、1995年と1998年に、岩手県二戸、東京都葛飾、長野県佐久、沖縄県中部など全国11カ所の保健所管内の住民のうち、がんや循環器疾患の既往歴のない45~74歳の男性4万3,580人。食事調査アンケートの結果から、総大豆食品、および各大豆食品(納豆、みそ、豆腐類)、イソフラボンの摂取量を計算し、それぞれを五分位に群分けした上で、2016年まで追跡して前立腺がん死亡リスクを比較した。

     平均16.9年の追跡期間中に、221人の前立腺がん死亡が確認された。年齢、地域、肥満度、喫煙・飲酒・身体活動習慣、糖尿病の有無、健診の受診状況、コーヒー・緑茶の摂取頻度、果物・野菜類の摂取量で調整した解析により、以下のような関連が認められた。

     まず、総大豆食品の摂取量が最も少ない第1五分位群に比べて、摂取量が最も多い第5五分位群のハザード比(HR)は1.76で有意にリスクが高く、摂取量が多いほど死亡リスクが高まるという有意な関連が認められた(傾向性P=0.04)。また、イソフラボンについても、摂取量が多いほど死亡リスクが高まるという有意な関連が認められた(傾向性P=0.04)。

     大豆食品を個別にみると、みそについては、第3五分位群(HR1.64)と第5五分位群(HR1.73)で有意なリスク上昇が認められたが、傾向性P値は0.09だった。納豆と豆腐に関しても、有意な関連は認められなかった。

     以上の結果から著者らは、「大豆とイソフラボンの大量摂取が前立腺がんによる死亡リスクを高める可能性があることが示唆される」とまとめている。

     エストロゲンは、エストロゲン受容体に結合して初めて作用を発揮できる。しかし同研究グループによると、進行前立腺がんでは、エストロゲン受容体が減少するとの報告があり、イソフラボンの前立腺がん防止効果が弱まる可能性があるという。また、動物実験では、男性ホルモンのアンドロゲンが少ないマウスでは、イソフラボンはアンドロゲン作用を示すという報告があることから、前立腺がんの治療で用いられる抗アンドロゲン薬の効果をイソフラボンが妨げる可能性も考えられるとしている。

     なお、大豆食品摂取は前立腺以外の部位のがんによる死亡や、循環器疾患のリスク低下と関連することが報告されているため、研究グループは、「摂取量については他の疾患への影響を含めて総合的に考えることが大切」と付け加えている。

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    HealthDay News 2020年10月26日
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  • 特定保健指導の効果は限定的?

     2008年にスタートした特定健診(メタボ健診)における特定保健指導の効果が限定的であるという研究結果が報告された。男性を対象とする検討からは、腹囲やBMIの減少には短期的効果があるものの、心血管疾患危険因子への有意な抑制効果は認められなかったという。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の福間真悟氏らの研究によるもので、「JAMA Internal Medicine」10月5日オンライン版に論文掲載された。

     特定健診・保健指導は、動脈硬化が進展するメカニズムの基盤に位置するとされる内臓脂肪の蓄積を重視した保健システム。40歳以上75歳未満の国民全員を対象に、腹囲計測で内臓脂肪型肥満をスクリーニングし、血液検査などの結果とあわせてリスクレベルを評価。そのリスクレベルに応じて、内臓脂肪減少を目的とする、介入強度にめりはりのある保健指導が行われている。福間氏らは今回、建築関連企業保険組合の被保険者データを解析し、特定健診・保健指導の効果を検討した。

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     解析対象としたのは、2013~2018年に特定健診を受けた人のうち、データに欠落のない男性7万4,693人。女性は被保険者数や保健指導対象者数が少ないため、主な解析の対象から除外した。特定健診受診者のうち腹囲基準(男性は85cm)を超えていたのは53.1%だった。

     対象者の平均年齢は52.1±7.8歳、腹囲は86.3±9.0cm、BMI24.5±3.4。評価項目は、特定健診受診後の肥満関連指標(腹囲、体重、BMI)と心血管危険因子(血圧、HbA1c、LDL-コレステロール)の変化とした。なお、特定保健指導の実施状況については2017~2018年のデータのみ利用可能であり、2017年は対象者の15.9%が指導を受けていた。

     要指導判定を受けた人の1年後の肥満関連指標は、体重が-0.29kg(95%信頼区間-0.50~-0.08、P=0.005)、BMIが-0.10(同-0.17~-0.03、P=0.008)、腹囲が-0.34cm(同-0.59~-0.04、P=0.02)と、いずれも有意な減少が認められた。ただし2年後は、体重が-0.33kg(同-0.61~-0.55、P=0.02)、BMIが-0.10(同-0.20~-0.01、P=0.03)であり、この2項目は引き続き有意な減少が認められたものの、腹囲は-0.33 cm(同-0.64~0.04、P=0.09)であり有意性が消失していた。さらに4年後には全ての肥満関連指標が、特定健診受診前と有意差がなくなっていた。

     一方の心血管疾患危険因子については、特定健診受診から1年後の時点で、収縮期血圧+0.28mmHg(同-0.53~1.47、P=0.36)、拡張期血圧-0.54mmHg(同-1.33~0.04、P=0.07)、HbA1c-0.01%(同-0.04~0.03、P=0.74)、LDL-コレステロール+0.42mg/dL(同-1.38~2.33、P=0.62)であり、いずれも有意な変化は認められなかった。また、2年目以降にも有意な変化が認められた項目はなかった。

     これらの結果を福間氏らは、「特定健診・保健指導による介入は、継続的な体重減少につながらず、また臨床的に意味のある心血管危険因子の抑制を検出できなかった」とまとめている。また、本研究では特定保健指導がどのように実施されたかが評価できていないことなどの限界点を挙げつつ、「特定健診・保健指導の効果を改善するために、改善方法の詳細な検討と前向きな議論が必要である」と提言している。

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    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

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    HealthDay News 2020年10月26日
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  • 抗うつ薬治療後の労働生産性は1年程度で回復――産業医大

     国内企業の従業員3万人以上を対象とする調査の結果、うつ病に対する薬物治療が終了してから約1年間は、自己評価による労働機能が有意に低い状態が続くことが分かった。うつ病治療後にも一定期間は職場環境や労働条件などへの配慮が必要であることを示す研究結果と言える。産業医科大学産業生態科学研究所の永田智久氏らによる論文が、「Scientific Reports」に9月24日掲載された。

     疾病を抱えた状態で無理に働くこと「プレゼンティーイズム(疾病就業)」は労働生産性の低下につながり、なかでもうつ病などのメンタルヘルス不調による経済的損失は全ての疾患の中で最も大きいと報告されている。うつ病では思考の鈍化や集中力の低下が現れやすく、その治療や再発予防と仕事を両立させることのできる環境の整備が近年、社会的に重要な課題となっている。

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     こうした中、永田氏らは、うつ病の治療経過と労働機能障害(生産性が低下した状態)との関連を明らかにするため、国内の大手企業13社の従業員を対象とする後ろ向きコホート研究を行った。4万5,404人に対し、労働機能障害に関するアンケート「WFun(Work Functioning Impairment Scale)」へ任意での回答を求め、3万3,415人から回答を得た。また、加入保険組合の医療請求データを基に、アンケート回答日の15カ月前からの受療行動を確認した。両者のデータの欠落のない3万409人のデータが最終的な解析に用いられた。

     WFunは産業医大が開発した質問票で、「丁寧に仕事ができない」「考えがまとまらない」など7項目の質問に1~5点で回答するもの。合計35点中21点以上は労働生産性が損なわれていることが多く、今回の検討においても21点以上を「労働機能障害あり」と判定した。

     解析対象者の主な背景は、男性が85%で、年齢は30歳未満19%、30代24%、40代32%、50代22%、60歳以上3%、役職は管理職が18%、一般社員51%で31%は不明。うつ病との診断の記録があり、かつ、抗うつ薬が処方されていた人のうち、双極性障害でない人を「うつ病で治療を受けた人」と定義。また後述のデータ解析に必要な、抗うつ薬の処方期間、および抗うつ薬治療終了後の経過日数が不明の場合は、検討対象から除外した。

     抗うつ薬の処方期間と労働生産性の関連の検討では、WFun回答前15カ月以内にうつ病の治療を受けていなかった人(2万9,564人)を基準として、抗うつ薬が処方されていた人の処方期間の長さ別に、労働機能障害の頻度を比較した。その結果、処方期間が4カ月未満の場合(該当者63人)では労働機能障害のオッズ比(OR)が3.2(95%信頼区間1.9~5.2)、4~10カ月未満(58人)ではOR2.6(同1.5~4.4)、10~14カ月未満(33人)ではOR2.3(同1.1~4.6)、14カ月以上~16カ月未満(250人)ではOR2.3(同1.8~3.0)となり、処方期間の長さにかかわらず労働機能障害に該当する頻度が有意に高かった。

     次に、抗うつ薬治療終了後の経過日数との関連を、上記の検討と同様にWFun回答前15カ月以内にうつ病の治療を受けていなかった人と比較すると、治療終了から3カ月未満(81人)では労働機能障害のORが2.3(同1.5~3.7)、3~8カ月未満(48人)ではOR2.0(同1.1~3.6)、8~11カ月未満(21人)ではOR3.0(同1.3~7.1)で有意に頻度が高かった。しかし、抗うつ薬処方終了から11カ月以上~14カ月未満(23人)ではORが1.4(同0.6~3.5)であり、うつ病の治療記録のない人と有意差がなかった。

     これらの結果を研究グループでは、「抗うつ薬治療中はその期間にかかわらず労働機能障害に該当する頻度が高く、特にうつ病の急性期と考えられる処方期間4カ月未満ではオッズ比が最も高かった。また、抗うつ薬治療終了後にオッズ比が有意でなくなるのは約1年後であり、その間は中等度以上の労働機能障害が認められた」とまとめている。その上で、「うつ病治療歴のある労働者に対して、労働安全衛生の専門家と精神科医が協力し、長期間フォローアップすることが重要」と述べている。

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  • 減塩効果のない高血圧には腸内細菌叢が関係――金沢大

     高血圧の予防や治療には減塩が重要だが、減塩しても血圧管理上のメリットを得られない人の存在が知られている。そのようなケースに、腸内細菌叢のパターンが影響を及ぼしている可能性が報告された。金沢大学大学院医薬保健学総合研究科の長瀬賢史氏、同医薬保健研究域保健学系の岡本成史氏、同融合研究域融合科学系の米田隆氏らのグループの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Medicine」に9月2日掲載された。

     減塩による血圧管理上のメリットを得られない場合の原因として、遺伝的な影響、腎疾患の存在、食事摂取量が多いことなどが指摘されているが、十分には明らかになっていない。一方、近年、腸内細菌叢のパターンの違いが、多くの疾患の発症や経過に影響を及ぼすことが報告されており、血圧へも影響を及ぼし得ることが動物実験の結果として報告されている。ただし、ヒトを対象とした研究報告は限られている。

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     今回発表された研究では、石川県志賀町で行われている生活習慣病に関する住民対象研究「志賀研究」のデータが用いられた。検討対象者は、志賀研究の参加者のうち便サンプルが採取されている人から、抗菌薬やステロイド薬が処方されていた人を除く239人。平均年齢は63±10歳、女性52.3%、BMI23.3±3.1、収縮期血圧136±17mmHg、拡張期血圧80±11mmHgで、44.8%が高血圧に該当した。また、食塩摂取量は9.4±1.9g/日(中央値は9.6g/日)だった。

     マイクロバイオーム解析結果の主成分分析により、腸内細菌叢のパターン(エンテロタイプ)を、タイプ1とタイプ2の2群に分類。かつ、食塩摂取量が中央値以下の群と中央値を超えている群の2群に分類。合計4つのグループに分け、臨床的背景を比較検討した。

     各群の高血圧有病率は、食塩摂取量が多い群のエンテロタイプ1では49.4%、エンテロタイプ2では46.7%であり、有意差はなかった(P=0.83)。一方、食塩摂取量が少ない群では、エンテロタイプ1が47.0%、エンテロタイプ2では27.0%であり、群間に有意差が認められた(P=0.04)。

     年齢、性別、BMI、エンテロタイプを説明変数とする多変量解析からは、食塩摂取量が少ない群ではエンテロタイプの相違が、高血圧と有意に関連する因子として抽出された〔タイプ2のタイプ1に対するオッズ比0.39(95%信頼区間0.15~0.99)〕。その一方で、食塩摂取量が多い群では、有意な因子は特定されなかった。

     次に、食塩摂取量と血圧との関連をエンテロタイプ別に見ると、タイプ2はタイプ1よりも両者の間に、より強い関連が認められた(近似直線の傾きが、収縮期血圧はタイプ1が1.23、タイプ2が2.00、拡張期血圧は同順に1.18、1.30)。

     これらの結果から、腸内細菌叢のパターンがエンテロタイプ1に該当する場合、減塩による血圧管理上のメリットが減弱する可能性が明らかになった。なお、エンテロタイプ1はタイプ2に比べて、Blautia、Bifidobacterium、Escherichia-Shigella、Lachnoclostridium、Clostridium sensuという6種類の微生物の割合が低いという有意差が存在した。

     以上の検討の結論として研究グループでは、「高血圧の予防や治療において減塩の効果のない人もいる。新しい介入法として、腸内細菌叢へのアプローチが期待され、両者の関連とメカニズムの詳細を探る今後の研究が求められる」と述べている。

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