• ‘うま味’の味覚感度が低いと太りやすい――日本人対象の縦断研究

     食べ物の‘うま味’を感じとる味覚感度と、肥満や摂取エネルギー量との関係が報告された。うま味に対する感度が低い人には肥満者が多く、かつ、将来的に摂取エネルギー量が増加する人の割合が高いという。山陰労災病院循環器科の水田栄之助氏らの研究によるもので、詳細は「Hypertension Research」に12月7日掲載された。

     この研究の対象は日本人成人47人(男性14人、女性33人。平均年齢は37.4歳)。下記の味覚検査や体重計測、血液検査などを実施し、その9~12カ月後にも体重計測や血液検査を行い、初回の味覚検査の結果との関連を検討した。なお、糖尿病患者、および、味覚に影響を与えるとの報告のある薬剤が処方されている患者は、対象に含まれていない。

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     味覚感度の検査方法は、甘味と塩味については専用の試薬を用いて判定した。うま味に関しては、グルタミン酸ナトリウム(味の素)を0.03%に希釈した液体1mLを口に含んでもらい、味を感じとれるか否かで判定した。その他、「甘いもの/塩辛いものは好きか?」との質問に、「嫌い」「好きでない」「どちらとも言えない」「好き」「大好き」の五択で回答してもらい、味の好みを評価した。また、24時間思い出し法にて、ふだんの食事内容を把握した。

     初回の検査結果を基に、うま味を感知できなかった「低感度群」(22人)と感知できた「対照群」(25人)の2群に分類。年齢と性別で調整した上で、両群を比較した。

     すると、肥満者の割合(36.4対8.0%、P=0.011)、高尿酸血症の割合(13.6対0.0%、P=0.028)、甘いものが好きな人の割合(71.4対33.3%、P=0.033)は、いずれも低感度群で高いという群間の有意差が認められた。なお、甘味や塩味への感度が低下している人の割合や、塩味が好きな人の割合は、群間に有意差がなかった。また喫煙・飲酒習慣に関しても群間差がなかった。

     2回の食事調査を基に摂取エネルギー量の変化を比較検討すると、低感度群では初回に比べて2回目の摂取エネルギー量が増えていた人が、68.2%を占めていた。一方、対照群で摂取エネルギー量が増えていたのは36.0%であり、有意差が存在した(P=0.032)。BMIや腹囲長が増加した人の割合、尿酸値、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、中性脂肪値が上昇した人の割合などには有意差がなかった。

     まとめると、ベースライン時にうま味に対する感度が低いことは肥満や甘味の好みと有意に関連するとともに、前向きの追跡から判明した摂取エネルギー量の増大と有意に関連していた。

     これら一連の結果をもとに、著者らは以下の考察を加えている。まず、うま味に対する感度が低い人は、うま味よりも甘味を生かした食品で食の満足感を得ており、ショ糖(砂糖)を多く含む高カロリーの食品や菓子をたくさん摂取することで肥満になるのではないか、としている。その背景として、うま味成分であるグルタミン酸ナトリウムは舌甘味受容体の細胞外ドメインに結合し、甘味応答を調整していることが動物実験で明らかになっている、と述べている。

     著者らは本論文を、「検討対象者数が十分とは言えないものの、うま味の感度が低いことが肥満の新たな予測因子である可能性を、日本人対象の研究で示した初の報告」と位置付けている。また、「うま味を生かした食品から食事の満足を得られるような習慣が、肥満やメタボリックシンドロームの抑制につながるのではないか」とも語っている。

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    HealthDay News 2021年1月18日
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  • メタボの人は食事の量ではなく、摂食行動に問題――佐久コホート研究

     メタボリックシンドローム(MetS)の人は、食べ過ぎではなく、食事の食べ方(摂食行動)に問題がある可能性が明らかになった。三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学分野の森田明美氏らが、長野県佐久市で行われている住民対象コホート研究「佐久健康長寿プロジェクト」のベースラインデータを解析した結果であり、詳細は「Journal of Physiological Anthropology」に12月14日掲載された。

     解析の対象は、2009年5月~2013年3月に佐久総合病院人間ドックで健診を受け、研究参加に同意した成人4,446人(男性2,602人、女性1,844人)。平均年齢は男性59.2歳、女性58.4歳で、BMIは同順に23.7、22.3であり、MetS該当者率は20.6%と6.1%だった。

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     食事摂取量は自記式質問票の回答から摂取エネルギー量と栄養バランスを把握し、摂食行動は日本肥満学会の「肥満症診療ガイドライン」に取り上げられている食行動質問票で評価した。この食行動質問票は、食べる速度、欠食や夜食を取る頻度などに関する55項目の質問で構成されている。その回答を基に摂食行動を7種類のカテゴリー(食動機、代理摂食、食事内容、食生活の規則性など)のスコアとその合計で把握するもので、スコアが高いほど非健康的な摂食行動と判定される。

     対象者全体をMetSの有無で二分してエネルギー摂取量を比較すると、男性はMetSのある群が2,350±694kcal/日、MetSのない群が2,387±680kcal/日、女性は同順に1,880±519kcal/日、1,937±514kcal/日で、いずれも有意な群間差が認められなかった。年齢と摂取エネルギー量で調整した場合は、男性・女性ともに、複数の栄養素の摂取量が、MetSのない群で有意に多かった。

     摂取している食品群を比較すると、男性ではMetSのない群の方が、穀物、豆・大豆製品、緑黄色野菜、肉類、牛乳・乳製品、菓子を有意に多く摂取しており、一方で嗜好飲料はMetSのある群の方が有意に多く摂取していた。年齢と摂取エネルギー量で調整後、穀物に関しては有意差が消失したが、穀物以外については引き続き有意差が存在した。女性に関しては、年齢と摂取エネルギー量で調整後、MetSのある群の方が穀物の摂取量が有意に多い反面、芋類の摂取量はMetSのない群の方が有意に多かった。

     次に、摂食行動とMetSの関連をみると、7種類それぞれのカテゴリーとその合計スコアが、男性・女性ともにMetSのある群の方が有意に高かった。これにより、MetSのある人の摂取量はMetSのない人よりも高いとは言えないこと、その一方でMetSのある人は、摂食行動に問題があることが多い可能性が明らかになった。

     著者らはこの研究の限界点として、横断研究であるために因果関係には言及できないこと、喫煙・飲酒・身体活動習慣が考慮されていないこと、対象が健診受診者であるためにMetS該当者の割合が低い可能性があることを挙げている。その上で、「評価した全ての摂食行動のスコアが、MetSのない群よりもMetSのある群の方が明らかに悪かった。MetSは食事の『量』が多いために引き起こされるのではなく、食事スタイルの『質』に問題があることが示唆される」とまとめている。

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  • 手作り料理が少ない家庭の子どもは血圧が高い――足立区の中学生での検討

     家庭で手作り料理を食べる頻度と、子どもの心血管疾患リスク因子との関連が明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学の谷友香子氏、藤原武男氏らの研究によるもの。手作り料理の回数が少ない家庭の子どもは、拡張期血圧が高く、善玉コレステロールが低いという。詳細は「Nutrients」に12月16日掲載された。

     先進国を中心に、女性の就業率の上昇を背景として家庭内で料理を手作りする機会が減っている。例えば米国では1960年から2000年の間に、摂取エネルギー量に占める手作り料理の割合が約25%低下し、日本では1993年から2015年の間に、調理済み食品の支出が26%増加したと報じられている。このような変化が成人の健康状態に影響を及ぼしている可能性は既に報告されているが、子どもへの影響は明らかでない。

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     谷氏らは、東京都足立区で行われている「足立区子どもの健康・生活実態調査(A-CHILD研究)」のデータを横断的に解析し、この関連を検討した。対象は、足立区内の公立中学校7校の中学2年生(13~14歳)676人で、そのうち583人の生徒とその保護者が、家庭での食事に関する自記式質問票に回答した。質問票では、手作り料理の頻度のほかに、野菜摂取頻度、朝食摂食頻度、世帯収入などを調査した。

     手作り料理の頻度は、6日/週以上の頻度「高」が85%、4~5日/週の頻度「中」が11%、3日/週以下の頻度「低」が3.8%だった。また、野菜摂取頻度が3回/週未満の生徒が12.7%、朝食を毎日食べない生徒が16.9%、肥満(BMIが平均+1標準偏差を超える生徒)が10.8%存在し、世帯の10.5%は低所得(年収300万円未満)に該当した。

     野菜摂取頻度が3回/週未満の生徒の割合を、手作り料理の頻度別に見ると、頻度「高」の家庭では9.2%であるのに対し、頻度「中」では30.2%、頻度「低」では38.1%を占めていた。また、朝食を毎日食べない生徒の割合は、同順に、13.4%、30.2%、57.2%であり、手作り料理の頻度が少ないほど、野菜摂取頻度が低く、朝食欠食頻度が高いという有意な関係が認められた。

     一方、生徒の肥満の割合は、頻度「高」の家庭が9.2%、頻度「中」が22.2%、頻度「低」が14.3%であり、U字型の関係にあった。世帯収入との関連については、低所得世帯は手作り料理の頻度が低い傾向が認められた。

     次に、性別、世帯収入などの交絡因子で調整後の線形重回帰分析により、手作り料理の頻度と学校健診の結果との関連を検討した。すると、手作り料理の頻度が低い家庭の生徒は、拡張期血圧が高く(β=3.59、95%信頼区間0.42~6.75)、HDL-C(善玉コレステロール)が低い(β=-6.15、同-11.2~-1.07)という有意な関連が明らかになった。

     また、ロジスティック回帰分析の結果、手作り料理の頻度が「高」の家庭の生徒に比べて、「中」の家庭の生徒の肥満のオッズ比が有意に高かった(OR2.67、同1.37~5.23)。手作り料理の頻度「低」の生徒の肥満リスクは、「高」の家庭と有意差がなかった。

     媒介分析の結果、拡張期血圧が高いことの12.3%は朝食の欠食により説明でき、HDL-Cが低いことの9.7%は野菜の摂取頻度が少ないこと、14.9%は朝食の欠食により説明可能であることが分かった。一方、BMIは両者の関係を媒介しないことが分かった。

     一連の結果を基に著者らは、「手作り料理の頻度が低いことは、肥満の増加とは別の経路で子どもの血圧やHDL-Cに影響を与えるようだ。調理済食品の摂取量が多くなることなどが関係しているのではないか」とまとめている。また、手作り料理の頻度が「中」の家庭の生徒には肥満が多いにも関わらず、「低」の家庭の生徒では少なかったことについて、手作り料理の頻度の低さのために栄養不良が生じている可能性を指摘している。

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  • 小児への多剤併用、4剤以上は要注意――岐阜薬大

     小児患者に4種類以上の薬を併用すると、1種類のみに比べて副作用発生のリスクが有意に高まるとのデータが報告された。岐阜薬科大学病院薬学研究室の舘知也氏、寺町ひとみ氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に12月7日掲載された。

     近年、高齢患者に対する多剤併用(ポリファーマシー)による副作用発生のリスクが注目されるようになり、処方薬を減らす取り組みも始まっている。一方、小児患者への多剤併用による副作用発生の実態は不明な点が多く、研究報告はほとんどない。今回、著者らは岐阜市民病院の医療記録を基に、小児患者における多剤併用が副作用発生のリスク因子となるかについて検討した。

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     解析対象は、2015年半年間の同院の外来・入院患者のうち、薬剤が1剤以上処方されていた1~14歳の小児1,330人。年齢中央値3歳(四分位範囲2~7歳)、男児57.1%で、外来患者が73.5%であり、処方された薬剤数の中央値は2剤(同1~4剤)であった。罹患疾患は呼吸器系が78.9%で最多であった。

     この対象のうち、46人(3.5%)が副作用と考えられる症状が原因で受診していた。うち16人は入院管理となり、これは小児の緊急入院全体の4.5%に相当した。

     薬剤と副作用の因果関係は、「確実」が11.1%、「多分」が22.2%で、「可能性あり」が66.7%であった。副作用の症状は胃腸障害(42.6%)や皮膚および皮下組織障害(16.7%)が多く、重症度のグレードは1(軽症)が57.4%、2(中等症)が24.1%、3(重症)が18.5%であり、4(生命の危険があり緊急処置が必要)や5(死亡)の該当事例はなかった。被疑薬は、全身用抗感染薬が55.6%と過半を占めていた。

     使用薬剤が1剤の場合の副作用発生率は1.56%、2~3剤では3.60%、4~5剤では4.48%、6剤以上では7.50%であった。単剤処方に比較し、4~5剤(P=0.021)や6剤以上(P=0.002)で、副作用発生率の有意な上昇が認められた。ROC解析でも、副作用発生の有無に対する多剤併用のカットオフ値は4剤と算出された。

     次に、単変量解析にて副作用の発生とP値0.25未満で関連が認められた因子を説明変数、副作用の発生の有無を目的変数とする多変量解析を施行した。解析にあたり使用薬剤数については、前記の検討で最適なカットオフ値として示された「4剤以上」と、小児の多剤併用の定義に用いられることの多い「2剤以上」の2通りの条件で行った。

     その結果、使用薬剤数(2剤以上、4剤以上のいずれも)が、独立して副作用発生のリスクを有意に高めることが分かった。

     著者らは本研究の限界点として、単一施設での後方視的デザインであることなどを挙げた上で、「小児患者においても多剤併用が副作用発生リスクの上昇につながることが明らかになった。高齢患者と同様に、薬剤処方に際しての慎重なリスク/ベネフィットの検討が求められる」と述べている。また、「副作用発生のリスクの点から、小児に対する多剤併用を4剤以上と定義するのが現実的である」と付け加えている。

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  • COVID-19によるストレスは学歴で異なる――日本人従業員での検討

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによるメンタルヘルスへの影響は、学歴によって異なる可能性が報告された。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の佐々木那津氏、川上憲人氏らがオンライン調査により明らかにしたもので、研究の詳細は「Journal of Epidemiology」に11月7日掲載された。

     2020年2~4月に発生した国内でのCOVID-19パンデミック第1波の際に、所得の低い人たちで心理的ストレスがより増大したことが別の研究で報告されている。また、自殺者数の推移を見ると、2~6月は前年比で平均10%以上少なかったが、8月に急増した。佐々木氏らはこの変化を、パンデミック第2波(6~8月)によって、地域社会におけるメンタルヘルスの悪化が蓄積した表れではないかと推測。この仮説を確かめるために、国内企業の正規雇用社員を対象に行った縦断的調査の結果を解析し、パンデミック第1波から第2波までの人々の心理的ストレスを評価、学歴との関連を検討した。

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     解析の基礎データとした調査は、オンラインによりこれまで3回行われている。初回は3月19~22日に実施され、1,448人が回答。失業者を除外し、5月22~26日に2回目、8月7~12日に3回目の調査が行われた。3回の調査の全てに回答した正規雇用社員は1,275人だった。

     心理的ストレスは、各調査を行った時点から過去30日間の状態を、18項目からなる質問(Brief Job Stress Questionnaire;BJSQ)に回答してもらい評価した。なお、BJSQスコアの合計は18~72点の間で、点数が高いほどストレスが強いことを意味する。

     全対象者を学歴により、16年以上の群(668人)と未満の群(607人)とに二分した。学歴の長い群は短い群に比べて、男性が多く(60.0対40.4%)、年齢が若く(40.0±10.2対43.2±10.6歳)、既婚者が多く(54.5対47.0%)、大企業での就業者が多い(勤務先が従業員数1,000人以上の企業の割合が41.1対24.5%)などの点で、群間に有意差が見られた。

     年齢階級、性別、婚姻状況で調整後のBJSQスコアは、学歴が長い群の初回調査は41.3±0.4、2回目の調査は40.9±0.5、3回目は41.5±0.5だった。一方、学歴の短い群では同順に、41.2±0.5、41.7±0.5、42.6±0.5だった。統計解析の結果、学歴が短いことは、初回調査から3回目の調査までの間のBJSQスコアの増加と有意に関連していることが明らかになった〔固定効果1.26(95%信頼区間0.28~2.24)、P=0.012〕。

     この結果を著者らは、「COVID-19パンデミック第2波の収束までの間に、学歴の短い会社員の心理的ストレスが悪化したことを示唆するもの」と述べている。またその理由を以下のように考察している。まず、学歴が短い人はテレワークに変えられない職業に就いていたり、予防に関する信頼できる情報へのアクセスの機会が限られていたりする可能性が高い。また、感染防御策が不十分なことの多い中小企業に勤務している割合が高く、社会経済の悪化による負荷を被りやすいと考えられる。これらの要因によって、ストレスが増大しやすいことが想定されるという。

     一方、本研究の限界点として、世帯収入や自宅の所有権(持ち家か賃貸か)を調査しておらず、さらに調査対象が正規雇用社員のみであることを挙げ、「この結果を一般化できるとは限らない」としている。その上で、日本では低学歴が自殺リスク因子の一つであるとされていることから、「学歴の短い人のCOVID-19による精神的ストレスの軽減のため、信頼でき理解しやすい感染予防情報や、財政的支援を得るための情報などを提供していく必要がある」とまとめている。

     なお、1人の著者は、情報処理関連企業などとの利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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  • 食事を抜く女性は蛋白尿に要注意――阪大職員対象の研究

     朝食や夕食を食べない習慣のある女性は、蛋白尿が現れるリスクが高いことを示唆するデータが報告された。大阪大学キャンパスライフ健康支援センターの山本陵平氏らが、1万人を超える同大学職員を4年以上追跡して明らかになった結果であり、詳細は「Nutrients」に11月19日掲載された。

     朝食を抜くことがメタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患などのリスクと関連することは複数の研究から示されている。しかし、腎疾患との関連を検討した研究は少なく、さらに昼食や夕食の欠食による影響はほとんど検討されていない。そこで山本氏らは、阪大職員の健診データを用いた後ろ向きコホート研究を行い、それらの関連を検討した。

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     検討の対象は、2005年1月~2013年3月に健診を受けた19~60歳の職員1万5,226人から、eGFR60mL/分/1.73 m2未満や尿蛋白「±」以上、夜勤が月に15回以上の人などを除いた1万113人(女性5,439人、男性4,674人)。年齢の中央値は女性31歳(四分位範囲26~38歳)、男性34歳(同29~42歳)。

     ベースライン時に自記式質問票を用いて、朝食・昼食・夕食それぞれの摂食頻度を「ほぼ毎日食べる」「不規則」「ほぼ食べない」の三つから選んでもらった。なお、昼食と夕食に関しては摂食頻度が「ほぼ食べない」との回答がわずかだったため、「ほぼ食べない」を「不規則」に含めて解析した。蛋白尿については、尿試験紙検査で「+1」以上を陽性と判定した。

     ベースライン時のデータからは、欠食習慣のある群は、女性・男性ともに若年で、BMI、収縮期血圧、総コレステロール、HbA1c、および喫煙率が有意に高かった。また欠食習慣のある女性では飲酒頻度が有意に高かった。一方、eGFRは女性・男性ともに、欠食習慣の有無による有意差は認められなかった。

     観察期間中の蛋白尿出現者数を性別に見ると、まず女性については中央値4.3年(四分位範囲2.0~7.7年)の間に763人(14.0%)に蛋白尿を認めた。1,000人年あたりの蛋白尿出現率を摂食頻度別に比較すると、朝食を「ほぼ毎日食べる」群は24.3、「不規則」群は35.8、「ほとんど食べない」群は40.8だった。昼食に関しては「ほぼ毎日食べる」が26.3、「不規則/ほぼ食べない」が40.0、夕食では同順に25.8、46.3だった。

     次に、それぞれの食事の「ほぼ毎日食べる」群を基準に、欠食習慣のある群の蛋白尿出現率をCox比例ハザードモデルで検討した。なお、解析に際して蛋白尿出現に影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、喫煙・飲酒・間食摂取習慣、収縮期血圧、総コレステロール、中性脂肪、HbA1c、eGFR、尿蛋白±、糖尿病・高血圧・脂質異常症・心血管疾患の既往)、および食事の摂取頻度は調整した。

     すると、朝食を「不規則」に食べる群はHR1.35(95%信頼区間1.09~1.66)、「ほぼ食べない」群はHR1.54(同1.22~1.94)、夕食を「不規則/ほぼ食べない」群はHR1.31(同1.00~1.72)となり、欠食習慣のある人は有意に高リスクであることが分かった。ただし昼食の欠食によるリスク上昇は有意でなかった。

     一方、男性に関しては中央値5.9年(四分位範囲2.5~9.5年)の間に617人(13.2%)に蛋白尿を認めた。1,000人年あたりの蛋白尿出現率を摂食頻度別に見ると、朝食を「ほぼ毎日食べる」群は20.6、「不規則」に食べる群は22.7、「ほぼ食べない」群は23.9だった。昼食に関しては「ほぼ毎日食べる」群が21.0、「不規則/ほぼ食べない」群が23.7、夕食では同順に21.2、22.3であり、Cox比例ハザードモデルでの検討の結果、すべての群間に有意差は認められなかった。

     欠食が蛋白尿出現リスクを高める理由について、著者らは「食事回数が少ないことで食後の糖負荷が過大となり血管内皮機能が障害されたり、酸化ストレスが亢進することの関与が考えられる」と述べている。また女性でのみ有意なリスク上昇が認められたことの背景としては、「欠食習慣のある女性は月経困難症の有病率が高い。月経困難症では炎症や酸化ストレスが亢進していることが多く、それらが関係している可能性がある」と考察している。また欠食習慣のある女性は野菜や魚の摂取量が少ないとのデータがあり、そのような関連は男性では報告されていないという。

     著者らは本研究の結果を、「朝食や夕食を抜くことは、女性の蛋白尿出現のリスク因子であることが示された。女性は欠食をしないことが、慢性腎臓病の予防につながる修正可能な生活習慣の一つであるかもしれない」とまとめている。

    糖尿病性腎症のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。

    糖尿病性腎症リスクを体の症状からセルフチェック!

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    HealthDay News 2021年1月4日
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  • EPAが人を幸せにする?――日本人女性医療福祉職者での検討

     魚を食べると幸せになれるかもしれない――。日本人女性を対象に行った研究から、魚油に多く含まれている「エイコサペンタエン酸(EPA)」の血中濃度が高い人ほど、幸福感が高いという関連が報告された。ただし、同じように魚油に多く含まれている「ドコサヘキサエン酸(DHA)」については、やや異なる結果が示された。両者はいずれもオメガ3(ω3)脂肪酸という必須脂肪酸だが、メンタルヘルスへの影響は同等でない可能性がある。

     この研究は、金沢大学医薬保健学域の坪井宏仁氏らが、女性医療福祉職者を対象に行ったもので、詳細は「Nutrients」に11月11日掲載された。ω3脂肪酸には心臓血管系の保護作用があることが知られているが、メンタルヘルス上のメリットも指摘されている。しかしそれらの研究の大半はEPAとDHAを区別していない。EPAの血中濃度はDHAよりも低く、脳を構成する脂質はほとんどがDHAとアラキドン酸であるが、神経系への影響はDHAよりも強い可能性が基礎研究から示されている。そこで坪井氏らは、両者を区別したうえで、主観的幸福感や、やり甲斐との関連を検討した。

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     研究の対象は、静岡県内の複数の医療関連施設の女性看護師および介護福祉関連職員、計140人。年次健診に合わせて、主観的幸福感(Subjective Happiness Scale;SHS)とやり甲斐(Visual Analogue Scaleで評価)を調査した。乳び血清のためω3脂肪酸の測定に影響が生じる可能性のある参加者などを除外し、133人のデータを解析対象とした。

     解析対象者の平均年齢は45.4±13.2歳で、閉経前の人が53.4%を占め、ω3脂肪酸濃度はDHAが414.7±150.5μmol/L、EPAが184.5±113.1μmol/Lであり、体内でDHAやEPAに変換されるα-リノレン酸(ALA)は81.8±30.8μmol/Lだった。なお、以下に記す結果について、論文中ではω3脂肪酸濃度を多価不飽和脂肪酸に占める割合(%)との関連で述べているが、坪井氏によると実測値で検討しても同様の関連が認められるという。

     年齢、BMI、閉経前か後か、身体活動習慣、間食習慣で調整した上で、ω3脂肪酸と幸福感や、やり甲斐との関連を解析。その結果、DHAとEPAは、幸福感ややり甲斐と有意な正の相関が認められた。一方、ALAは幸福感との相関はなく、やり甲斐とは有意な負の相関が認められた。幸福感に対する相関係数は、DHAがr=0.20、EPAがr=0.27であり、EPAの方が相関が強かった。なお、やり甲斐に対する相関係数は、DHAがr=0.21、EPAがr=0.20であり、ALAはr=-0.30。

     次に、幸福感を従属変数とする回帰分析を施行。すると、EPAとの相関はβ=0.25(P=0.03)で引き続き有意だったが、DHAはβ=0.13(P=0.19)となり、有意性が消失した。また、月経のある参加者は閉経後の人よりも、幸福感が高かった。

     以上のように、本研究ではEPAとDHAとでは幸福感との関連に差が存在することが示された。このような差が生じる背景について、著者らは、中枢神経系における両者の作用機序の違いを述べている。EPAの代謝物は、幸福感を高めるカンナビノイド受容体への親和性がDHA代謝物より圧倒的に高いこと、また神経機能を阻害する炎症に関わる接着分子(VCAM-1やICAM-1)の働きを低下させる機能が影響しているのではないかと考察している。

     著者らは今回の研究を、「幸福感とDHA、EPAの関係を個別に検討した初めての解析」と位置付けている。そして、横断研究であるために因果関係は不明なものの、「EPAがわれわれの幸福感の維持に多少なりともメリットがあるかもしれない」と、今後の研究に期待を示している。

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    HealthDay News 2020年12月21日
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  • COVID-19パンデミック時の自殺による超過死亡――警察庁データの解析

     2010年以降2020年9月までの国内の自殺による死亡者数を月別に解析した結果、2020年7~9月の女性の自殺死亡者数が統計的予測範囲を超過していたことが明らかになった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックによる影響が大きいと考えられ、自殺という最悪の結果を防ぐために、女性のメンタルヘルスに対する早急な対策が必要と言えそうだ。

     この研究は慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の野村周平氏らが、警察庁の月別自殺死亡者数データを解析したもの。結果の詳細は「Psychiatry Research」1月号に掲載された。

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     国内の自殺件数は近年減少傾向にある。しかし、COVID-19パンデミックに伴う外出自粛や社会的距離の確保などが市民の社会的孤立につながり、不安やうつなどのメンタルヘルス上の問題を引き起こしている可能性が報告されている。さらに、経済へのダメージは2008年のリーマンショックを上回るとされている。具体的に国内でも10月16日時点で6万6,000人以上がCOVID-19により失業したと推計されており、失業率は3%を超えた。このような状況が自殺件数を押し上げている可能性がある。

     野村氏らは、2010年以降2020年9月までの自殺による死亡者数をもとに、準ポアソン回帰モデルという統計学的手法を用い、各月の自殺死亡者数の予測値を算出し、実際の自殺死亡者数と比較した。95%予測区間の上限を超えた場合を超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)が認められた月と判定した。一方で、95%予測区間の下限を下回った場合を過少死亡の月とした。また実際の死者数と予測値および95%予測区間との差分のレンジ、さらにそれらの予測値に占める割合を、超過・過少死亡数および割合として報告している。

     国内でCOVID-19の感染拡大が始まった2020年以降のデータを性別に見ると、女性は2月の過少死亡率が-0.6~-13.8%、4月も同-8.8~-18.0%と、このふた月は自殺による死亡者数が予測値の下限を有意に下回った。しかし7月には22.1~32.3%の超過死亡が観察され、8月にも19.3~33.0%、9月には19.8~33.6%の有意な超過死亡が発生していた。なお、2019年以前は自殺による超過死亡は確認されなかった。

     一方、男性はパンデミック以前の2018年3月(超過死亡率4.9~20.2%)と2020年1月(同1.5~14.2%)に自殺による死亡者数の有意な増加が観察されたが、パンデミック以降の異常値は2020年4月の同-3.6~-14.0%という低値のみが有意だった。

     この結果について著者らは、いくつかの考察を述べている。まず、女性・男性ともに国内のパンデミック初期にあたる2020年4月に、自殺による死亡者数が予測値よりも有意に少なかった点については、「危機の初期には自殺リスクが低下し、その後、上昇に転ずるという科学的エビデンスと一致している」という。

     また、調査対象期間の原死因を問わない全ての死亡の超過率は1%未満である一方で、女性の自殺による超過死亡率が20~30%に及んだことは、COVID-19パンデミックが女性の自殺リスクに与えた影響が極めて大きいことを示しているという。COVID-19パンデミックの自殺リスクへの影響が、9月時点では女性に対してのみ有意であることに関しては、経済の停滞により特に女性の就業環境が悪化していることや、パートナーからの暴力の増加などが背景にあるのではないかと述べている。

     就業環境については、COVID-19パンデミックにより世界的に女性は男性より解雇されやすいなどの不平等な状況が存在すること、また政策や政府による女性への経済援助が効果的なサポートであることに言及している。パートナーからの暴力についても、世界的にパンデミック発生後から増加しており、配偶者暴力相談支援センターなど相談窓口を充実させる必要性を述べている。加えて国内での著名人の自殺報道が、いわゆる後追い自殺を招くことを指摘し、多角的な自殺予防への取り組みが必要であるとまとめている。

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    HealthDay News 2020年12月21日
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