• 1日350gの野菜摂取で日本人の疾病負担は大きく減る

     厚生労働省などが推進している国民健康づくり運動「健康日本21」では、成人の1日の野菜摂取量を350g以上とする目標が掲げられているが、この目標が達成できた場合、日本人の疾病負担を大きく減らせるという予測分析の結果が報告された。東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室の田中詩織氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Public Health」に4月21日掲載された。

     野菜の摂取量が少ないことは、さまざまな疾患のリスク因子の一つとして知られている。しかし日本人の野菜摂取量は年々減少していることが報告されている。このような状況を背景として田中氏らは、予測される日本人の野菜摂取量の変化と、その変化が心血管疾患、がん、糖尿病性腎臓病に伴う障害調整生命年(disability-adjusted life years;DALYs)にどのように影響するかを試算した。DALYsは、疾病による障害や早期死亡のために失われた健康的な生活の損失の程度を表す指標で、数値が小さいほど疾病負担が少ないことを意味する。

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     野菜摂取量は、1995年以降の国民健康・栄養調査のデータを基に、近年の摂取量減少傾向がそのまま続くと仮定したシナリオ1のほかに、以下の3パターンを設定した。シナリオ2は、健康日本21が掲げている1日平均350gという目標が2023年に達成され、その後はそのまま2040年まで維持されるという最善のシナリオ。シナリオ3は、1日平均350gという目標が2040年に達成されるという二番目に良いシナリオ。シナリオ4は、2004年(野菜価格高騰のため摂取量が過去最低だった年)の摂取量である1日240.2gに向かって2040年まで減り続けるというシナリオ。ただしシナリオ4でも、シナリオ1での予測値(2040年時点で1日平均237.7g)よりも、摂取量が多い状態で推移する。

     DALYsについては、2017年の世界の疾病負担研究(Global Burden of Disease;GBD)の日本のデータと、1990~2016年の社会人口統計学的データ(性・年齢別の人口構成など)、および喫煙・飲酒習慣、BMIなどのデータを基に、統計学的手法により2040年までの変化を予測した。その結果、全年齢で見た場合、平均寿命が延長するためDALYs自体は上昇するものの、野菜摂取量が増えるシナリオではその上昇が抑制されることが明らかになった。

     例えば20~49歳の女性の心血管疾患によるDALYsは、2040年にシナリオ1では298.8(95%信頼区間290.5~307.4)であるのに対し、シナリオ2では274.8(同267.2~282.7)、シナリオ3でも263.1(同255.8~270.6)であり、95%信頼区間が重複しなかった。また、がんについては全年齢の男女合計でも、シナリオ1の5510.8(同5372.1~5653.2)に対し、シナリオ2が5201.5(同5070.5~5335.9)、シナリオ3が5201.6(同5070.7~5336.0)であり、有意に抑制されることが分かった。糖尿病性腎臓病については、男性のシナリオ1が1965.9(同1928.3~2004.4)に対し、シナリオ2では1804.2(同1769.6~1839.5)と有意に低値だった。

     全体的に20~49歳の女性の野菜摂取量が増えた場合に、DALYsが大きく低下する傾向が認められた。これは、若年女性の野菜摂取量が将来的に低下すると予測されることが一因という。なお、シナリオ1とシナリオ4とでは、有意な違いは発生しないと考えられた。

     これらの結論として著者らは、「野菜摂取量が増えると、日本人の心血管疾患、がん、糖尿病性腎臓病のDALYsが大幅に軽減される」とまとめている。また、今回の研究について、「野菜摂取量が少ないことに起因する疾病負担を推定することにより、公衆衛生上の課題に対する的を絞った介入の設計に有用な情報を得ることが可能になる」と、研究の意義を述べている。

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    HealthDay News 2021年5月24日
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  • 健康的な食事・運動習慣は人を幸せにする――川崎医大

     健康的な食事・運動習慣を実践している人は幸福感が高いという調査結果が報告された。川崎医科大学健康管理学教室の高尾俊弘氏らが、特定健診受診者を対象に幸福感の調査を実施して明らかになったもので、研究の詳細は「Bio Psycho Social Medicine」に4月1日掲載された。

     食事・運動習慣が、身体的健康の予後と強く相関していることはよく知られている。しかし幸福感との関連についての研究は世界的にも少ない。特に日本国内の非高齢一般住民における、それらの生活習慣と幸福感の関係はほとんど分かっていない。高尾氏らの研究は、この点を明らかにする目的で行われた。

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     研究の対象は、2017年に同大学附属病院で健診を受診した人から、結果に影響を及ぼし得る因子(脳・心血管疾患、慢性腎臓病の既往、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物療法)が該当する人を除外した2,295人(平均年齢49.3±8.4歳、女性が54.3%)。

     幸福感は世界保健機関による指標(WHO-5)で評価した。これは主観的な幸福感を25点満点でスコア化するもの。本研究では第3四分位数である16点以上を「幸福感が高い」と判定した。食事・運動習慣については、特定健診の問診データを解析に用いた。

     年齢、性別、BMI、睡眠の質の影響を統計学的に調整した結果、食事・運動習慣と幸福感との間に、次のような有意な関連が認められた。

     まず、食習慣については、昼食の時間が20分超の人は10分未満の人に比較し、「幸福感が高い」に該当する割合が高かった〔オッズ比(OR)1.47(95%信頼区間1.03~2.11)〕。以下同様に、塩辛い物を好む人に比較し好まない人はOR2.10 (同1.35~3.25)、夕食を就寝2時間前以降に取る人に比べてそれ以前に取る人はOR1.32(同1.04~1.67)、夕食後の間食が週3回以上の人に比べて3回未満の人はOR1.27(同1.01~1.60)だった。食事を食べる速さや朝食欠食、野菜の摂取頻度は有意な関連がなかった。

     次に、運動習慣については、30分以上の集中的な運動を週に2回以上する人はしない人に比べてOR1.58(同1.24~2.01)、1日の歩行時間が1時間以上の人は1時間未満の人に比べてOR1.29(同1.06~1.58)だった。その他の検討項目である喫煙や飲酒習慣は、「幸福感が高い」に該当する割合との間に有意な関連がなかった。

     また、2016年の特定健診受診時にもWHO-5が評価されていた人については、2年間の食事・運動習慣の変化が幸福感に及ぼす影響も検討された。その結果、30分以上の集中的な運動を週に2回以上2年間継続していた人は、2年間行っていなかった人に比べてOR1.71(同1.24~2.36)、1日1時間以上の歩行を2年間継続していた人は、2年間行っていなかった人に比べてOR1.46(同1.12~1.91)と、「幸福感が高い」に該当する割合が有意に高かった。

     なお、食習慣に関しては、調整因子から睡眠の質を除外し、年齢、性別、BMIで調整した場合、夕食を就寝2時間前に‘取る’から‘取らない’に改善した人は、「幸福感が高い」に該当する割合が有意に高かった。また、2年間ともに就寝2時間前以降に夕食を取らなかった人や、2年間ともに夕食後の間食を週3回以上取らなかった人も、「幸福感が高い」に該当する割合が有意に高かった。

     これらの結果を著者らは、「日本人の非高齢一般住民において、良好な食事および運動習慣の実践が幸福感と関連している実態が明らかになった。特に身体活動に関しては、良好な習慣を継続することが、高い幸福感の維持につながる可能性が示された」とまとめている。

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    HealthDay News 2021年5月24日
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