• 趣味やスポーツ・就労で介護コストが13~25%減少

     高齢者が趣味やスポーツを行ったり仕事を継続した場合、介護コストを大きく削減できる可能性を示す研究結果が報告された。日本福祉大学社会福祉学部の斉藤雅茂氏らが行った、国内12市町村の高齢者を6年間前向きに追跡したコホート研究の結果であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月19日、論文が掲載された。

     この研究の対象は、2010年8月~2011年12月に日本老年学的評価研究(JAGES)の調査に協力した65歳以上の高齢者のうち、要介護認定を受けていない5万1,302人。この人たちを2010年8月から2016年11月まで約6年間追跡。転居により追跡不能となった人などを除外して、4万6,616人を解析の対象とした。このうち4,350人(11.8%)が追跡期間中に死亡し、7,348人(15.8%)が新たに介護保険の利用を開始していた。

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     介護保険の利用点数から介護コストを算出し、研究参加時に行った質問紙による調査に基づいて、社会活動(趣味、スポーツ、ボランティア)への参加や就労の有無別に、その後の介護コストを比較検討した。その結果、以下に示すように、社会活動に参加したり就労を続けていた人では介護コストが少ないことが明らかになった。

     まず、趣味に関する活動に全く参加していない人(全体の54.1%)では6年間で13.9%が死亡し、23.6%が要介護状態になり、1人当たり平均42.8万円の介護コストが発生していた。それに対して趣味活動に年数回参加している人(8.7%)の介護コストは21.4万円、1カ月1~2回の人(13.6%)は20.7万円、週1回の人(11.5%)は22.5万円、週2回以上参加している人(11.8%)は18.6万円だった。

     同様に、スポーツ活動に全く参加していない人(72.8%)は39.2万円であるのに対して、年に数回参加している人(4.1%)は17.2万円、1カ月1~2回の人(4.5%)は18.6万円、週1回の人(7.1%)は15.9万円、週2回以上参加している人(11.6%)は15.5万円だった。また、就労していない人(同76.1%)が37.9万円であるのに対して、就労している人は14.8万円だった。

     なお、ボランティア活動に関しても、参加していない人より参加している人の介護コストの方が低かった。ただし、ボランティア参加が高頻度の場合にコスト縮小幅が減少するという点で、他の社会活動への参加とは異なる傾向が見られた。

     次に、要介護リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、婚姻状況、独居か否か、併存疾患・障害、教育歴、収入、主観的健康感、物忘れの自覚、居住地域など)を調整した上で、同様の検討を行った。その結果、やはり研究参加時に社会活動に参加していた人や就労していた人の方が、有意に介護コストが低いことが確認された。全ての人が社会活動に参加したり就労を続けたと仮定して、6年間の介護コストを試算したところ、介護コストは趣味に関する活動で19.9%、スポーツ参加で25.3%、就労継続で13.4%抑制されると考えられた。

     著者らは本研究を、高齢者の社会活動参加や就労継続が公的な介護費の抑制に寄与することを示した初の研究と位置付けている。研究の限界点として、社会活動の内容の詳細が把握できていないこと、寿命の延伸に伴い生涯の総介護コストは増大する可能性を否定できないことなどを挙げた上で、「高齢者の社会活動と就労を促進することが、将来の介護コストの削減に役立つ可能性がある」と結論付けている。なお、ボランティア活動への参加頻度が高い場合に介護コスト抑制幅が減少することの理由として、「あまりに頻繁なボランティア活動は“無償の強制労働”という側面が生じてしまうのではないか」と考察を述べている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2021年7月12日
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  • 日本の子どもの睡眠負債の現状――2万人超の調査結果

     秋田大学大学院医学系研究科精神科の竹島正浩氏らの研究結果が「Scientific reports」に6月1日掲載された。2万人以上の小中学生の保護者を対象とする全国規模の調査から、日本の子どもたちの睡眠実態が明らかになった。日本の子どもは睡眠時間が不足している可能性があり、18.3%の子どもが何らかの睡眠障害に該当した。また、情緒・行動面の問題に睡眠に関する症状や睡眠潜時、中途覚醒時間の延長が関連していたという。著者らは、「子どもたちに情緒・行動面の問題がある場合、睡眠に関する問題を考慮する必要がある」と述べている。

     子どもの発達において睡眠は重要な役割を果たしている。子どもの睡眠負債は覚醒度の低下だけではなく多動、不注意などの症状とも関連する。また、子どもの睡眠障害はうつ病などの精神障害のリスク因子である。このように、睡眠と情緒・行動面の問題および精神疾患との関連について多くの研究がなされている一方で、日本の一般児童における睡眠実態や、睡眠と情緒・行動面の問題との関連については明らかにされておらず、医療、教育、支援の現場における理解はきわめて不十分である。

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     これらを背景に竹島氏らは文部科学省と各地域の教育委員会の協力を得て、北海道から九州の10県にある小学校148校と中学校71校の子どもたちを対象に睡眠の実態調査を行った。2009年12月~2010年4月に、6~15歳の子ども8万7,548人の保護者に対してアンケート調査を行い、回答のあった2万5,779人から内容に不備のあるものなどを除外した2万2,604人(平均年齢10.3±2.5歳、男児51.0%)を解析対象とした。

     子どもの睡眠習慣については、過去1カ月間の就床時刻、起床時刻、昼寝時間の平均を保護者が質問票に記載した。就床時間は就床時刻から起床時刻までの長さとし、総睡眠時間は就床時間から入眠潜時(寝付くまでに要した時間)、中途覚醒時間(寝付いてから起床するまでの間に覚醒した時間)を引いて算出した。睡眠効率は就床時間あたりの総睡眠時間の割合とした。

     対象児童の過去1カ月間の睡眠の状況については小児・児童用簡易睡眠質問票(BCSQ)を用い、就床時の症状4項目(就床抵抗など)、睡眠中の症状9項目(夜驚、悪夢など)、起床時の症状5項目(覚醒困難など)、眠気の症状1項目(突然眠る)を調査した。睡眠症状のサブスケール(就床時、睡眠中、起床時、眠気)を有する割合は、週2回以上の項目が1つ以上該当する場合に「あり」とし、BCSQの合計得点が24点以上の場合「睡眠障害の疑いあり」とした。

     情緒・行動面の問題については子どもの強さと困難さ質問票(SDQ)で評価し、Total difficulties scores(TDS)を算出した。

     では結果だが、睡眠習慣については就床時刻の変化が最も顕著であった一方で、起床時刻は概ね一定だった。小学校1年生から中学校3年生の9年間で就床時刻は約2.2時間後退し、その結果9年間で睡眠時間は2時間減少していた。

     BCSQでは18.3%の子どもが何らかの睡眠障害に該当した。睡眠症状のサブスケールについては起床時の睡眠症状が最多で41.7%、続いて就床時が34.5%、睡眠中が32.9%であり、日中は0.3%だった。SDQでは情緒や行動面の問題は学年が上がるに従い減少し、特に多動性と不注意を示すスコアが成長とともに大きく低下していた。

     続いてTDSを従属変数、年齢や性別、睡眠習慣、BCSQで測定した睡眠症状(就床時、睡眠中、起床時、日中)を独立変数として重回帰分析を行った。その結果、すべての睡眠症状および入眠潜時の延長、中途覚醒時間の延長が情緒・行動面の問題と有意に関連していたが、睡眠時間は関連していなかった。情緒・行動面の問題と睡眠時間に有意な関連が認められなかった理由として、最適な睡眠時間は人により異なることのほか、この研究では本人ではなく保護者が子どもの睡眠時間を判断したため、入眠潜時や中途覚醒時間の補正が正しくなされていなかった可能性があるという。

     著者らは本研究が横断研究であり因果関係には言及できないと述べた上で、「日本の多くの子どもたちが睡眠負債や睡眠障害を抱えている可能性があり、睡眠習慣や睡眠障害が情緒・行動面の問題に関連している」と結論付けている。

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    HealthDay News 2021年7月12日
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