• 子どもへの読み聞かせの影響力は母親と他人では異なる

     本の読み聞かせによる子どもの脳活動への影響は、誰が読み聞かせても一律というわけではないことが分かった。福井大学医学部精神医学教室/魚津神経サナトリウムの髙橋哲也氏らが、子ども用に開発された脳活動測定機器を用いた研究により明らかにしたもので、詳細は「NeuroImage」に7月13日掲載された。自分の母親に読み聞かせてもらっている時は、ほかの大人が読み聞かせている時よりも脳内ネットワークの強度が高まるという。

     本の読み聞かせは、子どもの言語能力や認知能力、社会性の発達を促すとされ、米国小児科学会も生後のできるだけ早い時期から読み聞かせを行うことを推奨している。ただし脳画像研究の面からのエビデンスは十分とは言えず、読み聞かせている時に、視覚・聴覚情報処理やストーリーの理解・共感などの高次処理がどのように行われているのかは明らかでない。近年はそれらの脳活動を評価するためのさまざまなツールが開発されているが、子どもにも使用できるツールは限られている。

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     今回の研究では、新たに開発された子ども用の脳磁計を用いた。脳磁計は、脳活動に伴い発生する微弱な磁場を捉える装置で、MRIなどのように狭い空間に入る必要がないために、ふだんの生活の場面で生じている脳活動を評価可能。また時間分解能に優れていてミリ秒単位の変化を把握でき、脳機能の新たな評価法として期待されている。さらに放射線を用いないため被曝の懸念がない。現在、子どもに使用可能な脳磁計は世界に4台あり、国内には本研究に用いられた1台のみという。

     研究の対象は、4~10歳の発達障害のない子ども15人(平均月齢89.60±19.82月、女児が4人)。自分の母親に本を読み聞かせてもらう時(母親条件)と、見知らぬ女性に読み聞かせてもらう時(他人条件)の2つの条件で、脳磁計を用いて脳活動を計測した。また、行動面の反応を評価するために、ビデオカメラで子どもの表情を撮影した。

     その結果、母親条件では他人条件に比べて、アルファ帯域の脳内ネットワークの強度が脳全域で有意に強くなることが明らかになった。また母親条件では、効率的な脳内ネットワークが形成された状態を表す「スモールワールド性」が向上することも示された。スモールワールド性の高さは、脳の発達や精神疾患リスクの低さと関連することがこれまでの研究で示唆されている。

     行動面の反応については、母親条件では他人条件に比べて、子どもの集中度が高く、ポジティブな表情(例えば笑顔)を見せる頻度が高いことも分かった。また、それら行動面の評価結果は母親条件でのみ、脳磁計で把握された脳内ネットワーク強度、およびスモールワールド性と有意に相関していた。

     以上の検討により著者らは、「子どもと親密な関係にある人が絵本を読み聞かせることで、子どもが快適でリラックスできる状況を作り出すことができるようだ」と総括。また、「これまでの脳研究は主として特定の脳機能に焦点を絞った精緻な実験課題のもとで行われてきたが、脳磁計を用いることで、本の読み聞かせという自然な状態での脳活動を評価できた」と研究の意義をまとめている。さらに今後の展開について、「父親や保育士、教員などの読み聞かせ効果を検証し、子どもの言語能力、認知能力、社会性を高めるための効果的な読み聞かせの方法を探っていきたい」と述べている。

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    HealthDay News 2021年8月30日
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  • プライマリケアで使用可能な認知症予測モデル――久山町研究のデータから開発

     久山町研究のデータを基に、プライマリケアで使用可能な認知症リスク予測モデルが開発された。神経学的検査などの専門的な検査を含まない、9項目の一般的な指標のみで構成されており、C統計量0.755と優れた予測能を有するという。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治氏らの論文が、「Alzheimer’s & Dementia : Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」に7月28日掲載された。

     認知症の発症を予測するツールやスコアリングモデルはこれまでに複数開発されている。しかしそれらの多くは、リスク判定に神経学的検査や遺伝子検査を要し、汎用性が低くプライマリケアでは施行が難しい。また、開発に当たって認知症の発症を介護保険の申請などで判断しているため、一部の患者が見落とされている可能性がある。

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     これに対して今回発表された予測モデルは、長期間ほぼ99%の追跡率を維持している住民対象研究「久山町研究」のデータを用いて開発されており、認知症発症の見落としが少なく、また日常診療レベルの検査のみでリスク判定できることが大きな特徴。モデル開発のために、1988年12月から2012年11月にわたり、65歳以上の地域住民795人を前向きに追跡した。追跡期間中に町の65歳以上の住民の90%以上を対象とした認知症スクリーニング検査が5回行われ、認知症の疑いのある人には画像検査を含む詳細な検査を施行。精神科医と脳卒中専門医により確定診断された。なお、転居者にも追跡が続けられ、追跡不能者はいなかった。

     24年間の追跡中に364人が認知症と診断された。多変量解析の結果、認知症発症の有意な予測因子として、年齢、性別(女性)、教育歴9年以下、BMI18.5未満、高血圧、糖尿病、脳卒中の既往、現喫煙者、および座位行動の多さが抽出された。

     この結果を基に開発された予測モデルでは、以下のように認知症リスクを予測する。まず年齢により65~69歳を0点、70~74歳2点、75~79歳3点、80~84歳5点、85歳以上7点とする。これに、女性、教育歴9年以下、BMI18.5未満、高血圧、現喫煙者は各1点加算し、糖尿病、脳卒中の既往、座位行動の多さは各2点加算。これらの合計点数に応じて10年以内の認知症発症リスクが分かるという仕組み。例えば合計0点では4%、3点では10%、6点では22%、9点では46%であり、13点以上では80%以上と判定される。

     この予測モデルで判定された認知症リスクは、元データである多変量モデルとの高い相関が確認され(スピアマンの順位相関係数=0.993、β=0.977)、予測能のC統計量は0.755(95%信頼区間0.724~0.786)であった。著者らは、「新たに開発された認知症発症予測モデルは優れた予測能を有しており、一般住民の中で認知症リスクが高い高齢者を早期に特定できる可能性がある。また、リスク因子の蓄積状況の把握や生活習慣と認知症の関係の理解にも役立つ」とまとめている。

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    HealthDay News 2021年8月31日
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