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10月 11 2021 小児精神科初診患者の幻聴体験は自殺の行動化と関連――国内横断研究
小児精神科を受診する初診患者が幻聴体験を有する場合、受診時点での自殺行動との関連性が高いことを示すデータが報告された。横浜市立大学大学院医学研究科精神医学科の藤田純一氏らの研究によるもので、詳細は「Child and Adolescent Mental Health」に8月25日掲載された。
これまでの研究から、若年の精神科患者においては幻覚や妄想をはじめとする精神病体験が自殺リスクと関連することが示唆されている。ただしその関連性は、評価基準(希死念慮、自殺企図、自殺未遂など)により異なる可能性があり、さらにさまざまな精神病体験の中で多数を占める幻聴体験と幻視体験を分けて検討した研究はわずかしかなく、不明点が多く残されている。そこで藤田氏らは、小児精神科患者の自殺の前段階としての自殺計画と、実行した結果の自殺企図との関連性を、幻聴体験や幻視体験の有無別に比較検討する横断研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。研究参加者は、2015年4月~2018年3月に神奈川県内の3カ所の小児精神科外来を受診した10~15歳の初診患者のうち、知的障害がなく研究参加の同意が得られた1,248人(平均年齢は12.6歳、男児51.6%)。自記式質問票を用いて、受診前2週間での精神病体験(幻聴体験もしくは幻視体験)の有無、自殺行動(自殺企図、自殺計画)の有無を把握し、また「こころとからだの質問票(PHQ-9)」により抑うつ状態のレベルを判定した。
179人(14.3%)は精神病体験に関する質問に回答せず、精神病体験の有無を把握できたのは1,069人。そのうち230人(21.5%)は何らかの精神病体験があると回答し、その内訳は幻聴体験が158人(14.8%)、幻視体験が157人(14.7%)、幻聴体験と幻視体験の両方が85人(8.0%)だった。またPHQ-9が27点中14点以上を「大うつ病エピソード」と定義すると、全体の27.0%がこれに該当した。精神病体験を有する患者はそうでない患者よりも、大うつ病エピソードの有病率が有意に高かった。
自殺企図の認められる患者の割合を精神病体験の有無で比較すると、幻聴体験ありでは31%、なしで11%、幻視体験ありでは35%、なしで11%、両者の体験ありでは45%、両者なしで12%であり、いずれも有意差が認められた(全てP<0.01)。同様に、自殺の計画についても、幻聴体験ありでは15%、なしで3%、幻視体験ありでは14%、なしで3%、両者の体験ありでは21%、両者なしで3%であり、やはりいずれも有意差が認められた(全てP<0.01)。
年齢と性別、および、大うつ病エピソードで調整後、幻聴体験もしくは幻視体験いずれかの精神病体験がない群を基準に比較すると、自殺の計画は幻視体験のある群、自殺企図は幻聴体験のある群で、以下のようにオッズ比(OR)の有意な上昇が認められた。自殺の計画については、幻視体験ありの場合にOR2.5(95%信頼区間1.5~4.1)で有意、幻聴体験ありの場合はOR1.4(同0.8~2.4)で非有意だった。自殺企図については、幻聴体験ありの場合にOR2.8(同1.3~6.1)で有意、幻視ありの場合はOR1.8(同0.9~3.8)で非有意だった。なお、それぞれの自殺行動と幻視体験および幻聴体験の関連に、有意な交互作用効果は認められなかった。
著者らは本研究により、「小児精神科外来初診患者の5人に1人が精神病体験を有すること、幻聴は自殺企図と関連し、幻視は自殺の計画と関連していることが明らかになった」とまとめ、「精神病体験の中でも特に幻聴が認められる場合は自殺の行動化と関連性が高い可能性があることに、臨床医は注意する必要がある」と述べている。
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10月 11 2021 日本人では生涯最大BMIが早期透析導入リスクと関連
BMIが最も高くなった時の値「生涯最大BMI」が、50歳未満で血液透析が必要となることの独立したリスク因子であるとする研究結果が、「Obesity Facts」に8月13日掲載された。東邦大学医療センター佐倉病院内科の永山大二氏らの研究によるもの。糖尿病の有無にかかわらず、生涯最大BMIは早期血液透析導入のリスクと関連しているという。
この研究は、千葉県内の2カ所の血液透析センターで実施された。2010年6月~2016年5月に透析導入された患者のうち、研究参加に同意した724人を解析対象とした。全員が日本人で平均年齢は65.2±13.2歳、男性が72.2%であり、透析導入の原疾患は糖尿病性腎症48.2%、慢性糸球体腎炎18.7%、腎硬化症14.0%などだった。生涯最大BMIは28.0±5.2kg/m2で、35kg/m2以上だった患者も9.5%存在した。なお、透析導入時のBMIは22.8±3.9kg/m2だった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。生涯最大BMIの三分位で3群に群分けすると、最大三分位群(BMI29.8kg/m2以上)は最小三分位群(同25.3kg/m2以下)に比較して、透析導入時の年齢が若く、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome;SAS)、増殖糖尿病網膜症の有病率が高く、冠動脈血行再建術の既往者が多いという有意差があった。また、生涯最大BMIが高いほど透析導入年齢が若いという負の相関が認められた(R=-0.260、P<0.0001)。
50歳未満で透析導入に至った患者を「早期透析導入」と定義すると、145人(20.2%)が該当した。早期透析導入群は50歳以降の透析導入群に比較して、男性が多く(82.1対69.8%)、SASの有病率が高く(9.0対4.3%)、生涯最大BMIが高い(30.6±6.4対27.3±4.6kg/m2)という有意差が認められた。一方、脳卒中の既往者は50歳以降で透析導入された群の方が多かった。
ROC解析により、早期透析導入を予測する生涯最大BMIのカットオフ値は28.4kg/m2(感度63.4%、特異度62.5%)であり、その予測能はAUC0.653(95%信頼区間0.599~0.708)と計算された。
早期透析導入群と50歳以降での透析導入群との間に有意差が見られた前記の項目を共変量として、さらにROC解析で得られた生涯最大BMI28.4kg/m2というカットオフ値、および肥満手術の適応とされるBMI35kg/m2以上の生涯最大BMIを追加してロジスティック回帰分析を行ったところ、男性、生涯最大BMI28.4kg/m2あるいは35kg/m2以上、および、脳卒中の既往が早期透析導入に独立して関連する因子として抽出された。具体的には、男性はオッズ比(OR)1.94~2.00であり、生涯最大BMI28.4kg/m2以上はOR2.57、35kg/m2以上はOR4.98と有意な寄与を認めた。脳卒中の既往はOR0.378~0.383であり負の関連因子だった。
著者らは本研究を、「日本人の生涯最大BMIと血液透析導入年齢との関連を示した初の研究」と位置付け、高血圧や脂質異常症などを考慮していないことや横断的デザインであることなどの限界点はあるものの、「生涯最大BMIが糖尿病の有無にかかわりなく、早期に血液透析が必要となるリスクに関連していることが明らかになった」と結論付けている。また既報研究から、肥満患者の減量が腎機能改善に寄与することが示されていることを考慮し、「若年で肥満の慢性腎臓病患者の減量は、透析導入リスクの抑制に有効であると考えられる」と考察している。
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糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。