• 湯につかる入浴が終末期がん患者の苦痛を緩和――国内緩和ケア病棟での検討

     終末期がん患者の倦怠感をはじめとするさまざまな苦痛が、湯船につかる入浴により有意に緩和することが明らかにされた。横浜市立大学医学部看護学科の林ゑり子氏らの研究結果であり、「Journal of Hospice and Palliative Nursing」に9月20日、論文が掲載された。

     終末期がん患者は、痛みや吐き気、倦怠感、不安、抑うつなどを来しやすく、これらの症状は薬剤では十分改善しないことがある。一方、入浴にはストレス解消をはじめとするさまざまな効果があることを、多くの人が体験的に理解している。また日本人にとって、浴槽につかり心身を癒す行為は、生活文化の一部とも言える。

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     医学的研究からも、入浴によって痛みや心機能が改善するなどの効果を得られることが示されている。ただし、終末期がん患者を対象とした研究は数少ない。わずかに実施されている研究も、入浴後の患者の感想をまとめた報告などが主体であり、効果を定量的に比較した研究はほとんど見られない。この現状を背景として林氏らは、終末期がん患者に対する湯船につかる入浴の影響を詳細に検討する目的で、以下の研究を行った。

     研究対象は、2018年8月~2019年4月に神奈川県内の病院(単施設)の緩和ケア病棟に入院した患者で、自分ががん終末期にあることを理解していて、意識が清明で落ち着いており(リッチモンド不穏鎮静スケールの0点)、研究参加に同意した75人。入院期間中、患者の希望に応じて湯船につかる入浴が週に1~2回行われた。

     75人中、入院中に浴槽での入浴ケアを受けたのは57人だった。それ以外の患者が入浴ケアを受けなかった理由は、状態の悪化による入浴困難(8人)、患者の拒否(4人)、痛み、吐き気、めまい(各2人)。なお、入浴ケアを受けた群と受けなかった群とを比較すると、年齢や全身状態(パフォーマンスステータス)、がんの部位、食事摂取状況などに有意差は見られなかった。入院日数は前者が平均18.0日、後者が9.5日で、群間差の有意性は境界値(P=0.05)だった。

     入浴ケアを受けた57人は、年齢中央値77歳(四分位範囲70~83)で、男性53%だった。午前10時、入浴の30分後、および午後5時の3回、がんに伴う苦痛(エドモントン症状評価システム改訂日本語版。ESAS-r-J)と、倦怠感(CFS)の評価を行った。なお、ESAS-r-Jは、痛み、倦怠感、吐き気、抑うつなどの9症状を0~10点で判定する(点数が高いほど状態が悪い)。またCFSは15項目で構成されている質問票だが、本研究ではESAS-r-Jとの重複を避け、意欲、注意力、記憶力の3項目のみを評価した。

     入浴日と非入浴日とでESAS-r-JやCFSを比較できたのは、57人中42人だった。午後5時と午前10時のESAS-r-J総合スコアの差を入浴日と非入浴日で比較すると、入浴日の3.46±7.72に対して非入浴日は1.02±11.05にとどまっていたが、有意差は示されなかった〔効果量(ES)0.25、P=0.11)。ESAS-r-Jの9種類の項目を個別に見ると、倦怠感のスコアは入浴日の方が低く、非入浴日に対して有意差が認められた(ES0.35、P=0.02)。

     次に、入浴日の入浴前後で比較すると、ESAS-r-J総合スコアは入浴前の16.6±16.5から入浴後に12.4±13.6へと有意に改善していた(ES0.47、P<0.01)。またESAS-r-Jの個別項目のうち、倦怠感(ES0.40、P<0.01)、不安(ES0.36、P=0.01)、食欲低下(ES0.36、P=0.01)、健康状態(ES0.33、P=0.01)、痛み(ES0.31、P=0.02)、抑うつ(ES0.30、P=0.02)が有意に改善し、特に倦怠感の改善は24人(42%)で観察された。またCFSの3項目は全て有意に改善していた。

     著者らは本研究を「終末期がん患者の身体的・精神的苦痛が入浴により軽減することを示した初の研究」と位置付け、「湯船につかる入浴は、倦怠感を効果的に改善し得る。また、入浴後にはESAS-r-Jスコアが改善することから、浴槽入浴は衛生面だけでなく、症状管理上の意義があるのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2021年10月25日
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  • 労災認定された自殺者の過半数が精神障害発症30日以内の既遂

     労災認定された自殺者の生前の就労状況を詳細に検討した研究結果が報告された。業務に伴う精神障害を発症後30日以内に既遂に至った人が過半数を占めることや、時間外労働時間の変化は4つのクラスターに分類され、職位・職種や業種によってその傾向が異なることなどが明らかになった。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の西村悠貴氏らの研究によるもので、「International Archives of Occupational and Environmental Health」に9月25日、論文が掲載された。

     この研究は、同研究所の過労死等防止調査研究センターが管理している、労災認定された自殺者の全国規模のデータベースを用いて行われた。なお、精神障害が労災認定されるのは、発症前6カ月間に業務上の深刻なイベント(生死にかかわるような極めて強いストレスの生じる事象、または極端な長時間労働)があった場合であり、そのほかに、事故や災害の経験、業務上の失敗や過剰な責任の発生、仕事の量や質・職位の変化、対人関係、セクハラ・パワハラなどが影響している場合に認定されることがある。

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     2015年4月~2017年3月の2年間に、労災認定された精神障害は970件あり、このうち自殺既遂は167件で、その97.0%(162人)は男性だった。精神障害の大半(156人、93.4%)は、「気分(感情)障害」が占めていた。そのほかには、「神経症、ストレス関連、身体表現性障害」が8人(4.8%)、「統合失調症型障害及び妄想性障害」が3人(1.8%)だった。

     業種別に見ると、自殺者数が最も多いのは製造業で34人、2位は建設業の29人。自殺者数が多く、かつ発生率も高い業種としては、科学/技術関連サービス業(17人、100万人当たり4.83人)が挙げられる。職位・職種別に見ると、自殺者数では専門職・エンジニアの67人が最も多く(発生率は100万人当たり2.89人)、次いで管理職の25人であり、後者は発生率が最も高かった(同8.22人)。

     精神障害の発症時の平均年齢は40.1歳±10.2歳、自殺時の年齢は40.4±10.2歳だった。過半数の51.5%(86人)は、精神障害の発症から自殺までの日数が30日未満であり、30~89日が21.0%(35人)で、合計すると発症から89日以内に72.5%(121人)が既遂に至っていた。

     精神障害を発症する前の時間外労働時間をクラスタリング手法によって分類したところ、以下の4つのクラスターに大別できた。(1)慢性的に長時間の時間外労働が続き発症に至った群(30人)、(2)時間外労働時間が漸増し発症に至った群(43人)、(3)時間外労働時間が短期間に急増し発症に至った群(40人)、(4)時間外労働時間はそれほど多くなかった群(45人)。自殺前6カ月間の平均時間外労働時間は、同順に132.0±18.7時間/月、87.7±11.6時間/月、53.3±13.3時間/月、36.1±19.8時間/月だった。

     この4パターンの分布を業種や職位・職種で比較すると、管理職者はクラスター(1)や(2)に該当し、極端な長時間の時間外労働が記録されていたケースが多かった。一方、専門職・エンジニアはクラスター(2)に該当するケースが多かった。また、対人関係によって精神障害が発症し労災認定されていた場合は、クラスター(4)に該当するケースが多かった。

     著者らは本研究を、「自殺の背後にある就労状況をクラスタリング手法により客観的に検討した初の研究」と位置付け、「精神障害が発症する前の時間外労働パターンは、症例ごとに大きく異なっていた。時間外労働時間の“多さ(量)”だけでなく、時間外労働時間の推移や“その発生要因”を考慮することで、長時間労働とメンタルヘルスとの関連について、より深い洞察が可能となる」と述べている。その上で、「労働者の自殺予防のために、慢性的な長時間労働や時間外労働時間の漸増・急増、および対人関係への対策の必要性が明らかになった」と総括している。

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    HealthDay News 2021年10月25日
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