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11月 29 2021 げっぷに関する初の疫学調査――うつや睡眠障害などとの関連が明らかに
成人の曖気(げっぷ)に関する初の疫学調査の結果が報告された。大阪市立大学大学院医学系研究科消化器内科の藤原靖弘氏らの研究によるもので、げっぷの頻度が不安・うつや睡眠障害のレベルと有意に関連することなどが明らかになった。詳細は「Journal of Neurogastroenterology and Motility」に10月30日掲載された。
げっぷは胃や食道のガスが排出される生理的な現象で、それ自体は何かの疾患に特異的な症状ではないが、逆流性食道炎や機能性ディスペプシア(FD)などでは、げっぷの回数が増加することが報告されている。ただし、げっぷそのものの疫学調査はこれまで行われていない。そこで藤原氏らは、市立柏原病院での健診受診者を対象に本調査を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。胃食道逆流症の症状評価のための質問票にある「げっぷの頻度は?」との質問に対して、「全くない」と回答した場合は0点、「まれに」は1点、「時々」は2点、「しばしば」は3点、「いつも」は4点とし、3点以上を臨床的に無視できないげっぷ(clinically significant belching;CSB)と定義。すると、調査対象者1,998人のうち121人(6.1%)がこれに該当した。
CSBの該当者と非該当者で比較すると、年齢、性別、BMI、ウエスト周囲長、喫煙・飲酒習慣に有意差はなかった。その一方、逆流性食道炎の有病率はCSB群8.3%、非CSB群13.6%、FDの有病率は同順に27.3%、10.4%であり、CSB群ではFDが多く、有意差が認められた(P<0.001)。胸やけの症状を訴える患者の割合は、CSB群10.7%、非CSB群3.1%で、CSB群に多かった(P<0.001)。
また、CSB群は不安やうつ、睡眠障害のレベルが高いことが分かった。具体的には、HADSという21点満点の指標で評価した不安・うつレベルは、非CSB群が6.8±5.5点に対してCSB群は10.1±6.2点と有意に高かった。同様に、アテネ不眠尺度(AIS)という24点満点の指標で評価した睡眠障害のレベルは、非CSB群が3.5±3.1点に対してCSB群は5.2±3.3点と有意に高かった(いずれもP<0.001)。
ロジスティック回帰分析の結果、CSBと有意に関連する因子として、胸やけ〔オッズ比(OR)2.07(95%信頼区間1.05~4.09)〕、FD〔OR2.12(同1.33~3.36)〕とともに、HADSスコア8点以上〔OR2.29(同1.51~3.45)〕とAISスコア6点以上〔OR1.73(同1.14~2.61)〕が抽出された。
げっぷの頻度別に解析すると、「まれに」および「時々」の場合は、性別が男性であることも有意な関連因子として抽出された〔時々ではOR1.41(同1.10~1.80)〕。この点について著者らは、男性には摂食速度が速い人が多く食事中に空気を飲み込みやすい可能性があることや、アルコールや炭酸飲料の摂取量が多いこと、および、げっぷをすることの抵抗感が少ないことなどの影響ではないかと考察している。
なお、げっぷの頻度が「しばしば」の場合は性別の有意性が消失し、さらに頻度が「いつも」の場合、有意な関連はFDのみで認められた〔OR4.44(2.02~9.75)〕。
このほかにも、げっぷの頻度が高いほどFDの有病率が高いが逆流性食道炎の有病率とは相関がないこと、ただし、胸やけとげっぷの頻度は正相関することなどが明らかになった。
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11月 29 2021 補聴器で難聴の人の認知機能低下が緩やかに――日本人での縦断的検討
中等度の難聴の人が補聴器を使うと一部の認知機能の低下が抑制される可能性のあることが、日本人対象の研究から明らかになった。国立長寿医療研究センター耳鼻咽喉科の杉浦彩子氏らが行った縦断的研究デザインでの検討結果であり、詳細は「PLOS ONE」に10月13日掲載された。
難聴と認知機能低下との関連は多くの疫学研究で示されており、補聴器の使用が認知機能低下を抑制するとの海外からの研究報告も見られる。ただし、それを否定するメタ解析の結果も報告されている。また、補聴器の使用率は国によって異なり、例えば日本では多くの自治体で70dB以上の高度難聴者に補聴器費が助成されるために中等度難聴者の補聴器使用率は低く、患者対象の異なる海外での研究結果が日本人にも当てはまるとは限らない。これを背景として杉浦氏らは、中等度難聴のある地域在住高齢者を、補聴器使用の有無で2群に分け認知機能の変化を縦断的に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象は、同研究センターが行っている「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の参加者のうち、参加登録時に中等度難聴を有していた40~79歳の407人。平均年齢は74.6±5.3歳、男性が68.6%で、良い方の耳の聴力が45.0±5.8dB、教育歴は10.5±2.5年だった。なお、認知症の既往のある人や研究に必要なデータが欠落している人は解析対象から除外されている。中等度難聴は日本聴覚医学会の判定基準(良い方の耳で測定した500Hz、1,000Hz、2,000Hz、4,000Hzでの平均が40~69dB)に基づき定義した。
追跡期間は平均4.5±3.9年で、その間に2年ごとに追跡評価が行われ、認知機能の評価回数は平均2.9±1.7回だった。追跡期間中に補聴器を使用した人は128人であり、31.4%を占めていた。
ベースライン時において、補聴器使用群は非使用群に比較し、年齢が若く、聴力が低く、教育歴が長く、うつレベル(CES-Dスコア15点超の割合)が低いという有意差が存在した。ウェクスラー成人知能検査スケールの簡易版で評価した認知機能の下位尺度のうち、絵画完成と数字記号置換のスコアは補聴器使用群の方が有意に高かったが、一般的知識や類似性判断のスコアは有意差がなかった。
認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、教育歴、喫煙習慣、肥満、高血圧・糖尿病・脂質異常症・虚血性心疾患・脳卒中の既往、うつレベル、婚姻状況、聴力、職業、収入)で調整後、追跡期間中の認知機能は、絵画完成を除く3つの指標はいずれも有意に低下していた。また、ベースライン時に存在していた、絵画完成と数字記号置換のスコアが補聴器使用群で高いという有意差は、引き続き維持されていた。補聴器の使用と時間経過の相互作用には、一般的知識において有意差が認められた(P=0.040)。
得られたデータを基に、長期的な認知機能の変化を予測したところ、一般的知識は補聴器を使用した場合には12年後にも有意に低下せず(P=0.066)、一方、補聴器を使用しない場合は12年後に有意に低下し(P<0.001)、スコアの低下速度に群間差が生じると計算された(P=0.040)。類似性判断、絵画完成、数字記号置換のスコアの低下速度には、有意な群間差は生じないと予測された。
これらの結果から著者らは、「中等度難聴のある高齢者では、補聴器の使用が一般的知識の低下に対する保護効果をもたらす可能性がある」と結論付けている。また、そのメカニズムの考察として、「中等度難聴患者は情報を十分に取り入れられていない可能性があり、補聴器の使用によりそれが解消され、一般的知識が保持されるのではないか。ただし、補聴器使用者は絵画完成、数字記号置換などで把握される流動性知能(新しい環境に適応するために重要な能力)が高い傾向が示唆されており、この点も一般的知識の保持に影響した可能性がある」と記している。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。