• 中年期でも口の健康と栄養状態が有意に関連

     口腔機能が低下している高齢者は栄養状態も良くないことが知られているが、このような関連は非高齢者でも認められることが明らかになった。東京歯科大学老年歯科補綴学講座の上田貴之氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Dental Research」に11月17日掲載された。

     口腔機能の軽度の低下を表す「オーラルフレイル」が近年、フレイル(要介護予備群)の表現型の一つとして注目されている。口腔機能低下のために栄養状態に影響が生じ、両者の相互作用によって心身機能が加速度的に低下してしまうことから、高齢者のオーラルフレイルには早期介入が求められる。ただし、このようなオーラルフレイルのリスクは高齢者だけでなく、中年期から生じている可能性がある。しかしその実態はこれまで検討されていない。上田氏らの研究はこの点に着目したもの。

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     研究の対象は、東京都内の歯科医院(単施設)で2016年7月~2018年6月に歯科健診を受けた40~64歳の中年期成人117人(平均年齢50±7歳、男性37.6%)。健診データを後方視的に解析する横断研究として実施した。なお、急性歯科疾患や糖尿病、嚥下障害などを有する患者は除外されている。

     口腔機能は、残存歯数、口腔水分、口唇と舌の巧緻性、舌圧、口唇閉鎖力、および咀嚼能力で評価した。一方、栄養状態は、BMI、除脂肪量指数(FFMI)、および骨格筋量指数(SMI)で評価した。

     まず、評価結果を性別で比較すると、舌圧、口唇閉鎖力、BMI、FFMI、SMIは男性の方が高値であり、群間差が有意だった。その他の評価項目は性別による有意差はなかった。

     具体的には、口腔機能のうち舌圧は、男性が40.1±8.3kPa、女性は34.9±7.0kPaであり(P<0.01)、口唇閉鎖力は同順に13.6±3.9N、12.0±3.1N(P=0.04)だった。栄養状態はBMIが男性23.7±2.6kg/m2、女性22.7±4.2kg/m2、FFMIは18.3±1.5kg/m2、15.6±1.6kg/m2、SMIは10.2±1.0kg/m2、8.4±1.0kg/m2だった(いずれもP<0.01)。なお、残存歯数は中央値27で、義歯装着者は2人、インプラント装着者は1人だった。

     栄養状態関連指標を目的変数、口腔状態関連指標を説明変数とする線形重回帰分析の結果、以下のように全ての栄養関連指標について、舌圧および口唇閉鎖力が低いほど低値という有意な関連が認められた。BMIに関しては舌圧がβ=0.204(P=0.047)、口唇閉鎖力がβ=0.252(P=0.015)、FFMIは舌圧β=0.156(P=0.048)、口唇閉鎖力β=0.208(P=0.009)、SMIは舌圧β=0.149(P=0.048)、口唇閉鎖力β=0.200(P=0.009)。また、FFMIとSMIは性別も有意な関連があり、女性で低値だった。

     以上より著者らは、「中年期成人においても口腔機能が低下している人の存在が認められる」とした上で、「歯科医院外来の中年期患者では、舌圧と口唇閉鎖力がBMI、FFMI、およびSMIと正相関している」とまとめ、高齢者だけでなく中年期成人においても口腔機能と栄養状態に関連があると結論付け、「舌圧と口唇閉鎖力を測定することで、BMIやFFMI、SMIなどで把握される栄養状態を推定可能と考えられる」と述べている。

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    HealthDay News 2021年12月13日
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  • 2045年には高齢者の4人に1人が認知症――富山県実態調査からの推計

     2045年には、日本の高齢者の認知症有病率が25%を超えるとする推計データが報告された。敦賀市立看護大学の中堀伸枝氏、富山大学の関根道和氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に10月26日掲載された。同氏らは、「2045年はまだ先のことだと感じるかもしれないが、認知症抑制政策は効果発現に長い時間を要することから、早急な対策が必要」と述べている。

     この研究は、富山県認知症高齢者実態調査のデータを利用して行われた。同調査は1983年にスタートし、現在までに6回実施されている。調査対象は同県に居住する65歳以上の高齢者から無作為に抽出。一例として2014年の調査では、同県内の高齢者30万7,582人の0.5%に当たる1,537人に参加協力を依頼し、施設居住者を含む1,303人から同意を得た(同意率84.8%)。それ以前の調査では、高齢者人口の0.9~1%に協力を依頼し、同意率は90.0~96.8%の範囲だった。なお、富山県の人口高齢化は、日本の平均より若干早く進行しているという。

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     認知症有病率の推計には、認知症の診断を精神科医が行うようになった1985年以降の5回のデータを用いた。認知症の診断には、まず保健師らが改訂長谷川式簡易知能評価スケールで評価し20点以下の場合、または認知機能低下の既往のある場合などに、精神科医が改めて診察し診断を確定した。

     認知症患者数・有病率の推計には、まず1985~2014年の5回の調査における性・年齢別認知症有病率を算出。線形回帰分析により、2045年までの推定有病率の推移を予測し、それに都道府県別の性・年齢別高齢者人口予測値を乗算して、認知症患者数の予測値を求めるという方法をとった。続いて、算出された認知症患者数を各都道府県の高齢者人口の予測値で除して、有病率の推移を予測した。

     その結果、2025年には地方を中心とした5県(富山、長野、島根、山口、高知)で、高齢者の認知症有病率が20%を超えると予測された。2030年になると全都道府県で有病率が20%を超え、2035年までに42道府県(埼玉、東京、神奈川、愛知、沖縄以外)で25%を超えると予測された。そして2045年には、東京を除く全ての道府県で認知症の有病率が25%を超え、さらに12県(青森、秋田、山形、福島、鳥取、島根、高知、大分、長崎、宮崎、熊本、鹿児島)では30%を超えると予測された。

     都道府県によって予測される認知症有病率に差が生じる原因は、主として高齢者人口の予測値の違いにあるという。特に80歳以上の高齢者人口の急増が予想されている道府県では、有病率の上昇がより速いと予測されるとのことだ。

     著者らは、本研究の限界点として、「富山県のデータを全国の都道府県に外挿可能か」という点を挙げている。ただし、同県の認知症有病率は久山町研究の報告と大きな差がないことから、「結果が大きく外れている可能性は低いのではないか」としている。その上で、「都道府県別に認知症患者数を予測した研究はほとんどなく、本研究の結果は、地域ごとの認知症対策を進めるための重要な情報となり得る。2045年までに高齢者の認知症有病率は25%以上になると見込まれ、早急な対策が必要だ」と結論付けている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2021年12月13日
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