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1月 12 2022 メタボ診断基準の腹囲長をABSIに換えると予後予測能が向上
メタボリックシンドローム(MetS)の診断基準に含まれる「腹囲長(waist circumference;WC)」を、新たな腹部肥満指標として近年注目されている「体型指数(A body shape index;ABSI)」へ置き換えると、動脈硬化進展や腎機能低下の予測能が有意に向上することを示すデータが報告された。東邦大学医療センター佐倉病院内科の永山大二氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Obesity」に11月25日掲載された。
MetSは、腹部(内臓脂肪型)肥満に基づく各種代謝異常が複数重複し、総合的には心血管イベントリスクが高い状態。その診断基準の設定は人種ごとに異なるが、腹囲長を腹部肥満の指標として用いる点では共通している。日本の基準では男性85cm、女性90cm以上の腹囲長がCT法での内臓脂肪面積100cm2以上に相当する腹部肥満であるとされ、MetS診断の必須項目となっている。しかし、このカットオフ値が最適なのか、そもそも腹囲長を腹部肥満の指標とすべきなのかという議論が長年続いている。腹囲長はbody mass index(BMI。肥満度を表す体格指標)と同様に内臓脂肪の蓄積を必ずしも反映しないため、現行の基準で診断されたMetSの存在意義を疑問視する声もある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。このような状況を背景として著者らは、腹囲長をABSIに置き換えMetSを診断することで、動脈硬化の進展や腎機能低下への予測能が向上する可能性を検討した。ABSIは腹囲長を身長と体重を用いて補正することで算出され、BMIとは関連しないことが特徴である。本研究では、日本人を対象に検討されたCardio-ankle vascular index(CAVI。全身の血管弾性を反映する指標。その高値は動脈硬化の進展を意味する)とABSIの関連を示す既報研究に基づき、「ABSI0.080以上(男女共通)」を3種類のMetS診断基準における腹囲長に代わる腹部肥満指標とした。
研究の対象は、日本健康増進財団が行っている健診に4年連続で参加した人からデータ欠落者などを除外した5,438人(年齢中央値48歳、男性43.5%、BMI中央値21.9kg/m2)。まず、日本のMetS診断基準において従来の腹囲長を用い診断したMetS(WC-MetS)の該当者と腹囲長をABSIに置き換え診断したMetS(ABSI-MetS)の該当者を比較すると、後者は前者よりも女性、高齢者の割合が高く、現喫煙者、習慣的飲酒者、肥満者(BMI25以上)の割合が低かった。
次に、日本の診断基準に加え欧米で用いられている基準(NCEP-ATPIII)および国際糖尿病連合(IDF)基準をWC-MetSとABSI-MetSにかけ合わせた計6種類の診断基準でMetS群/非MetS群に群分けを行った。各群のCAVI値を比較したところ、WC-MetSはIDF基準で診断された場合のみ、MetS群のCAVIが有意に高いという結果が認められた。日本の基準やNCEP-ATPIII基準では、WC-MetSの該当者と非該当者でCAVI値に有意差はなかった。一方、日本基準、IDF基準およびNCEP-ATPⅢ基準の全てで、ABSI-MetS該当者におけるCAVI値は有意に高かった。
続いて、各診断基準で判定したMetS該当者が、4年間の観察期間中に腎機能低下(eGFR60mL/分/1.73m2未満)を新規発症するリスクを縦断的に検討。開始時に395人に腎機能低下が既に認められ、4年間でさらに474人が新規に腎機能低下を発症した。
年齢や蛋白尿、糖尿病・高血圧・脂質異常症、CAVI値で調整したCox回帰分析において、日本基準で診断したWC-MetSの新規発症腎機能低下に対するハザード比(HR)は0.718(95%信頼区間0.487~1.057)であり、有意な予測因子ではなかった。それに対して、同じく日本基準で診断したABSI-MetSはHR1.623(同1.273~2.069)であり、有意な予測因子であることが確認された。なお同様のCox回帰分析において、IDF基準やNCEP-ATPIII基準で診断したWC-MetSおよびABSI-MetSは、いずれも新規発症の腎機能低下に対する独立した予測因子ではなかった。
これら一連の結果から著者らは、「現行のMetS診断基準の腹囲長をABSIに置き換えることで、動脈硬化や腎機能低下のリスクがある集団を、より効率よく検出できるのではないか」と結論。その背景として、MetSという病態の基盤にある内臓脂肪の蓄積を把握する上で、腹囲長は最適なマーカーとは言えない可能性を指摘している。ただし、本研究はCAVIや腎機能低下との関係のみを検討しているため、「ABSIを使用したMetSの診断が心血管イベントリスクや死亡率も予測し得るかを確認する必要がある」とも述べている。
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肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。
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1月 12 2022 パンデミックは人々の人生観を変えた?
人々の日常を一変させた、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生して約2年になる。このパンデミックは、個人の基本的な価値観である「中核的信念」をも揺り動かすほどの出来事である可能性があり、感染症対策の負担感の強さや収入の減少などが、そのインパクトに影響を及ぼしていたことが明らかになった。東北大学加齢医学研究所の松平泉氏らの研究によるもので、「Humanities & Social Sciences Communications」に11月23日、論文が掲載された。
中核的信念は長年の体験から培われる価値観であり、その人の考え方や行動の根本的な支えとなる。この中核的信念は通常、大きく揺らぐことは少ないが、環境の変化が予測できず、かつコントロールできないような状況では、中核的信念の再構築が必要になるとされる。COVID-19パンデミックはまさにそのような状況に該当する。松平氏らの研究は、パンデミックで生じたと考えられる、日本人の中核的信念の揺らぎに関連する因子を明らかにするためのもの。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究のための調査は2020年7月に、オンライン調査パネル登録者を対象に行われ、東京または仙台に住む30~79歳の一般市民1,200人が回答した。居住地を東京と仙台の2地点とした理由は、東京はパンデミック第1波で人口当たりの患者数が国内最多であったためであり、仙台は患者数が標準的な県都の一つとして設定した。
中核的信念の揺らぎは、9項目からなる質問票(core belief inventory;CBI)を用いて、0点(全くなかった)~5点(かなり強くあった)の6段階で評価。このCBIは、例えば「自分の将来への期待について、自分が信じてきたことを真剣に考えた」、「ほかの人との人間関係について、自分が信じてきたことを真剣に考えた」といった項目で構成されている。
CBIで評価される中核的信念の揺らぎに関連する可能性のある因子として、感染予防対策に対する考え方や負担感、パンデミックによるストレスの程度などを、ビジュアルアナログスケールで回答してもらった。また、Kessler心理的苦痛スケール(K6)を用いて心理的苦痛の程度を把握した。
本人または家族がCOVID-19に罹患していた4人を除外し、1,196人の回答を解析した。解析対象者の平均年齢は52.32±13.78歳、男性50%、都民50%、既婚者71%であり、収入が減少した人が26%、子どもの通学先が学校閉鎖になった人が14%含まれていた。CBIは1.35±10.23であり、幅広い範囲に分布していた。なお、東日本大震災を経験した大学生を対象に実施された調査からは、平均CBI1.73というデータが報告されているという。
重回帰分析の結果、中核的信念の揺らぎの大きさに影響を及ぼした因子として、感染対策への負担感(β=0.179)、感染対策への協力達成感(β=0.094)、パンデミックに伴う減収(β=0.071)、パンデミック自体に感じるストレス(β=0.068)という4つが抽出された。また、この4因子のうち、感染対策への協力達成感を除く3つの因子は、心理的苦痛の大きさにも寄与していた。加えて、中核的信念が大きく揺らいだ人ほど、心理的苦痛を強く感じていたという関連も確認された(β=0.389)。
なお、感染対策への負担感や協力達成感が中核的信念の揺らぎに寄与したという結果は、海外からの報告には見られず、日本独特の傾向という。この点について著者らは、「日本では諸外国のような強力なロックダウンが実施されず、感染対策をどの程度真剣に行うかは個人任せだった。自分自身が予防策を徹底しても他人が徹底していなければ感染抑止効果が不十分になってしまうという、コントロール不能の状態にあったことが、この結果に影響を及ぼしているのではないか」と述べている。
これらの結果と考察を基に著者らは、「COVID-19パンデミックが日本人の生き方を問い直させる事態であったことが示唆される」と結論付けている。また、「パンデミックという災禍の中で、ともに生きる者同士がより他者に敏感になることが、COVID-19との戦いにおいて必要なことかもしれない」と付け加えている。
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1月 12 2022 未治療の高血圧と大腸直腸がんに有意な関連――日本人200万人超の調査
高血圧と大腸直腸がんリスクの関連を示唆するデータが報告された。既知のリスク因子の影響を除外してもなお、有意性が維持されるという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らが、200万人以上の医療データを解析して明らかにしたもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に11月2日掲載された。
これまでの研究から、高血圧が大腸直腸がんのリスク上昇と関連する可能性が示されている。ただし、その関連を示した研究は、高血圧患者に肥満や糖尿病などの発がんリスク因子を有する人が多いことや、一部の降圧薬が発がんリスクに影響を与える可能性を考慮していないといった解釈上の限界があり、高血圧そのものと大腸直腸がんのリスクとの関連の有無は明らかになっていない。そこで金子氏らは対象を未治療の高血圧症例に絞り、肥満や糖尿病の影響を調整した上で大腸直腸がんリスクを検討した。
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解析対象者の平均年齢は44.1±11.0歳、男性が58.4%であり、米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の基準で判定したベースラインの血圧は、正常血圧52.4%、血圧高値15.8%、ステージ1高血圧21.0%、ステージ2高血圧11.2%だった。血圧高値以上のカテゴリーに該当する群は、正常血圧群に比べて高齢であり、男性、現喫煙者、習慣的飲酒者の割合、BMI、ウエスト周囲長、血糖値、HbA1c、LDL-コレステロール、中性脂肪が高く、HDL-コレステロールは低かった。
1,112±854日の追跡で6,899件の大腸直腸がん診断が記録されていた。Log-rank検定により、ベースライン時の血圧が高い群ほど大腸直腸がんリスクが高いという有意な関連が認められた(P<0.001)。
Cox回帰分析により大腸直腸がん発症に関連する可能性のある因子〔年齢、性別、肥満、ウエスト周囲長、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞の既往、喫煙・飲酒・身体活動習慣、非健康的食習慣(朝食欠食、就寝前の摂食など)、アスピリンの処方〕を調整後、ベースライン時にステージ2高血圧だった群は大腸直腸がんリスクが有意に高いことが分かった〔ハザード比(HR)1.17(95%信頼区間1.08~1.28)〕。また、収縮期血圧が10mmHg高いごとに大腸直腸がんリスクは4%上昇し〔HR1.04(同1.02~1.06)〕、拡張期血圧が10mmHg高いごとに6%上昇する〔HR1.06(同1.03~1.09)〕という関係が認められた。
なお、性別に検討すると、男性ではステージ2高血圧だけでなく、ステージ1高血圧でも有意なリスク上昇が認められた〔HR1.10(同1.00~1.20)〕。一方、女性は血圧カテゴリー別の検討では有意な関連が見られなかったが、拡張期血圧が10mmHg高いごとにリスクが4%上昇する〔HR1.04(同1.00~1.09)〕という関係が存在した。
これらの結果から著者らは、「血圧の上昇は既知の大腸直腸がんリスク因子を調整後にも、大腸直腸がんのリスク上昇と有意に関連しており、特に男性でその関連が強かった。血圧測定が大腸直腸がんハイリスク者の特定に役立つ可能性がある」と結論付けている。
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1月 12 2022 ロコモの進行は40歳過ぎから加速する――全国8千人超の調査結果
関節や筋肉などの運動器の機能が低下した状態である「ロコモティブシンドローム」の関連因子が、若年者も含む8千人以上の日本人を対象とする調査から明らかになった。東京大学医学部附属病院企画情報運営部の山田恵子氏らの研究によるもので11月19日、「BMC Geriatrics」に論文が掲載された。
ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、運動器の障害のために身体の移動機能が低下した状態で、放置すると要介護リスクが高まる。ロコモ該当者は高齢者に多いが、高齢だからロコモになるのではなく、若い時期からリスクのある状態が続いていた結果としてロコモになると考えられる。しかし、これまでのロコモの疫学研究は高齢者を対象としたものが多く、非高齢者とロコモの関連はよく分かっていない。山田氏らは、この点を明らかにするため、若年者を含めた幅広い年齢層での調査を行った。
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歩幅や椅子からの立ち上がり動作、および25項目のチェックリストから移動機能を評価する、日本整形外科学会の「ロコモ度テスト」に基づき対象全体を、ロコモなし、ロコモ度1~3に分類。すると、ロコモ度1(移動機能の低下が始まっている状態)が31.6%、ロコモ度2(移動機能の低下が進行している状態)が5.8%、ロコモ度3(社会参加に支障をきたしている状態)が3.2%だった。
ロコモとの関連が想定される因子として、年齢、性別、BMI、喫煙・身体活動習慣、食習慣、併存疾患、就労状況などを調査。その結果、ロコモ度1~3に該当する人は、高齢で身体活動習慣のない人が多く、高血圧や糖尿病などの併存疾患の有病率が高いという点で、ロコモなし群との間に有意差が認められた。
続いて、多変量ロジスティック回帰分析にて、ロコモの関連因子を検討。その結果、ロコモ度1~3に独立して関連する、以下の因子が明らかになった。
まず年齢に関しては、40歳以上では1歳高齢であるごとに、ロコモ度1のオッズ比(OR)が1.05~1.20、ロコモ度2はOR1.04~1.22、ロコモ度3はOR1.05~1.22だった(いずれも有意であり、高齢層ほどオッズ比が高い)。一方、40歳未満では、ロコモ度1に関しては1歳高齢であるごとにOR1.03~1.04の有意な関連が見られたが、ロコモ度2や3に関しては加齢に伴うオッズ比の上昇は認められなかった。
BMIに関しては、25以上の肥満はロコモ度1~3の全てと有意な関連があった(ロコモ度1から順にOR1.56、3.19、2.87)。反対にBMI18.5未満のやせは、ロコモ度1のオッズ比が0.81で有意に低く、一方でロコモ度3のオッズ比は有意でないながら1.34と高かった。この点の理由として著者らは、ロコモ度1にはやせている若年者が多く含まれており、その人たちの移動機能が高い一方、ロコモ度3には高齢でやせている人が多く、その人たちの移動機能が低いことの表れではないかと考察している。
性別については、女性であることがロコモ度1~3の全てと有意な関連があった(同順にOR2.28、2.40、1.80)。そのほか、高血圧(OR1.20、1.99、2.10)や、糖尿病(OR1.62、1.57、2.10)とも、有意な関連が存在した。脂質異常症は関連がなかった。
一方、オッズ比の低さと関連する因子として、身体活動習慣が抽出された。具体的には、ロコモ度1に対しては月に数回程度の運動でも、ほとんど運動をしない人に比べてOR0.72であり、さらにロコモ度3に対しても月に数回の運動でOR0.53、ほぼ毎日の場合はOR0.36と、オッズ比の大幅な低下が認められた。
このほか、喫煙はロコモ度1のオッズ比上昇、多様な食品の摂取はロコモ度1~2のオッズ比低下と関連していた。また、貧血はロコモ度2~3のオッズ比上昇と関連していた。
著者らは、「40歳未満の加齢はロコモ度1とのみ関連があり、40歳以上の加齢はあらゆるレベルの移動機能低下と関連していた。健康なエイジングには、若年世代も含めた啓発が必要であり、特に女性を対象とした介入が不可欠」と結論付けている。
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