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3月 16 2022 朝食のタンパク質の質が認知機能と関連――国立長寿医療研究センター
朝食に質の高いタンパク質を取ると、認知機能の低下予防につながるかもしれない。その可能性を期待させるデータが報告された。国立長寿医療研究センターと味の素(株)との共同研究による縦断研究の結果であり、詳細は「The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」1月号に掲載された。
食事として摂取されたタンパク質の中のアミノ酸は、神経伝達物質の前駆体として機能することが知られている。特に、体内で合成できない不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の摂取が、認知機能の維持にとって重要と考えられている。一方で近年、摂取する栄養素の量やバランスだけでなく、それらを「いつ」摂取するかによっても健康への影響に差が生じることが明らかになってきている。これらの知見から、タンパク質の質やその摂取タイミングが認知機能に変化を及ぼす可能性が考えられる。しかしそのエビデンスはまだない。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この点を明らかにするため共同研究チームは、国立長寿医療研究センターが行っている地域住民対象の長期縦断疫学研究のデータを用いた解析を実施した。2002年5月~2004年5月に研究参加登録された2,378人のうち、ベースライン時に認知障害がなく、データ欠落のない541人(平均年齢68.2±5.7歳、男性47.3%)を解析対象とした。
タンパク質の質は、「タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコア(PDCAAS)」という指標で評価した。PDCAASは0~100点の範囲で判定され、数値が高いほど必須アミノ酸をバランス良く吸収できる食事であることを意味する。本研究では、ベースライン時に行った3日間の食事調査から、朝食、昼食、夕食、それぞれのPDCAASを算出した。
一方、認知機能の評価にはMMSEという国際的な指標を用いた。MMSEのスコアは0~30点の範囲で判定され、数値の低さは認知機能の低下を表す。本研究では、軽度認知障害の疑いに該当する27点以下をカットオフ値とした。
平均4.2±0.4年の追跡で、145人(26.8%)が認知障害を発症した。認知機能に影響を及ぼし得る因子〔性別、年齢、ベースライン時のMMSE、摂取エネルギー量、摂取タンパク質量、BMI、教育歴、うつレベル(CES-D)、高血圧・脂質異常症・糖尿病・脳卒中・虚血性心疾患の既往など〕を調整後、朝食のPDCAASが低いことが、認知障害の発症と有意に関連していることが明らかになった。
具体的には、ベースライン時の朝食のPDCAASの第1三分位群(PDCAASスコア81.2±13.8)は、第2~3三分位群(同84.2±12.5)に比較して、追跡調査時に認知障害に該当する調整オッズ比(OR)が1.58(95%信頼区間1.00~2.50)だった。その一方、昼食〔OR0.85(同0.54~1.34)〕や夕食〔OR1.08(同0.71~1.65)〕に関しては、PDCAASと認知障害発症との間に有意な関連が認められなかった。
以上を基に著者らは、「朝食のタンパク質の質が低い食事は、摂取タンパク質量の多寡にかかわりなく、高齢者の認知障害の発症率の高さと関連していた。質の高いタンパク質を含む朝食の大切さを啓発する必要性が示唆される」と結論付けている。なお、PDCAAS第1三分位群の人の朝食は、豆類、牛乳/乳製品、魚介類、卵の摂取量が少なく、一方で穀物、砂糖/甘味料、油脂の摂取量が多かったという。
昼食や夕食ではなく、朝食のタンパク質の質のみが認知障害の発症と関連していることの理由として著者らは、「朝食は一晩絶食後の最初の食事であり、エネルギー代謝の面で最も重要な食事と位置付けられており、認知機能に関してもその重要性を裏付ける報告がある」と述べている。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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3月 16 2022 スマホ読書中は深い呼吸が減って読解力が低下する――昭和大
スマートフォンでの読書は印刷された本を読む時に比べて読解力が低下し、そのような影響の一部は、スマホ読書時に生じる呼吸の変化が関係している可能性が報告された。昭和大学医学部生理学講座生体調節部門の本間元康氏、泉﨑雅彦氏らの研究によるもので、「Scientific Reports」に1月31日、論文が掲載された。
スマホやパソコンなどの電子書籍は本のようにかさばらず、手軽に購読できるという点で優れている。しかしスマホ読書では本を読むのに比べて、眼精疲労や頭痛が起きやすく、読解力も低下する可能性がこれまでに指摘されている。ただ、読解力低下の原因は明らかになっていない。一方、過去の研究で、読解力は呼吸の状態や脳活動と関連性があることが報告されている。その知見を基に、同氏らは今回、スマホ読書では呼吸や脳活動に影響が生じ、それが読解力低下につながっているのではないかとの仮説を立て、以下の検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。検討の対象は、視機能障害や精神疾患などのない34人の大学生(平均年齢20.4±0.8歳、女性が20人)。村上春樹の小説(「ノルウェーの森」と「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」)の一部を、スマホおよび印刷物で読んでもらった後、その内容に関する10項目の質問に対する回答の正答率から読解力を判定した。また、エアロモニターという機器と機能的近赤外分光法(fNIRS)という測定法によって、読書中の呼吸の状態と脳活動を観察した。
試験デザインはクロスオーバー法を用いた。2分間の休息後に前記2点の小説のいずれかをスマホまたは印刷物で読むというもので、試行順序は無作為化した。スマホのサイズは5.0インチで、印刷物とスマホ画面とで文字サイズおよび媒体サイズが同じになるように設定した。また、読書時間は制限せずに任意とした。なお、研究終了後の聞き取り調査から、前記2点の小説を以前に読んだ経験のある参加者はいないことが確認された。
解析の結果、読了時間、および、目とスマホまたは印刷物の距離については、有意差が認められなかった。しかし、読了後に行った内容に関する質問の正答率は、印刷物を読むよりもスマホ読書の方が有意に低く、後者の条件で読解力の低下が認められた(2点の小説のいずれもP<0.05)。
呼吸の状態に関しては、スマホか印刷物かにかかわりなく、読書中は呼吸1回当たりの換気量の低下と、呼気時間・吸気時間の短縮が観察された。ただし、読書中の深い呼吸の回数は、印刷物を読んでいる時の方が多く、条件間に有意差が認められた(P<0.05)。fNIRSからは、印刷物を読んでいる時よりもスマホ読書時に、左側の前頭前野の活動が有意に高まることが分かった(P<0.05)。
媒介分析により、読書中の深い呼吸の回数と左側の前頭前野の活動との間には有意な関連があり(パス係数-0.29、P=0.021)、左側の前頭前野の活動と読解力も有意に関連することが分かった(同-0.34、P=0.003)。
著者らによると、前頭前野の活動の増加は一般的に、脳が負荷を受けていることを示唆するものだという。よって、本研究で観察されたスマホ読書中の前頭前野の過活動は、脳に過度の負荷がかかっていることを表しており、それが読解力の低下につながった可能性があるとしている。一方、印刷物を読んでいる時は脳に適度な負荷がかかり、それが深い呼吸の増加を引き起こしたと考えられ、そのような呼吸状態が前頭前野の過活動を抑制するように作用した可能性があるとのことだ。
結論として、「スマホ読書による読解力の低下は、深い呼吸の減少と前頭前野の過活動の連関が、少なくとも部分的な影響を及ぼすことによって生じると考えられる」とまとめられている。なお、スマホ読書時に深い呼吸が減少する原因としては、「ブルーライトの持つ覚醒や不安を刺激する作用が関係しているのではないか」との考察が加えられている。
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