• 外反母趾患者は全身の痛みも抱えている――国内多施設共同横断研究

     外反母趾の患者は足趾の痛みだけでなく、全身のさまざまな部位の痛みを感じており、他部位の痛みがある患者は足趾の痛みも強いという実態が報告された。千葉大学大学院国際学術研究院の山口智志氏らの研究によるもので、詳細は「Modern Rheumatology」に2月22日掲載された。

     足の親指が曲がる外反母趾では、突出した部分が靴などに擦れて痛みを生じる。しかし足趾の痛みだけでなく、転倒しやすくなったり、足趾以外の部位の痛みやこころの不調が合併する可能性も指摘されている。ただし、それらの頻度や重症度に関する報告は少なく、実態が不明。山口氏らは、外反母趾と足趾以外の痛みやメンタルヘルスとの関連を明らかにするために、横断研究を行った。

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     研究対象は、2017~2020年に国内9施設で、外反母趾の治療のために1カ月以内に手術が予定されていた20歳以上の患者102人。関節リウマチに伴う足の変形や、他の部位との同時手術が予定されていた患者、下肢手術の既往がある患者は除外されている。

     足趾以外の痛みについては、首、肩、肘、手首、背中、腰、膝など、全身の13カ所について、過去1カ月以内の痛みの有無で評価した。また、足部関連の生活の質(QOL)を、足部足関節疾患評価質問票(SAFE-Q)という指標で評価したほか、不安やうつのレベルをHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)という指標で把握した。痛みの程度は、ビジュアルアナログスケール(VAS)で把握した。

     なお、SAFE-Qは34項目の質問から成り満点は100点で、スコアが高いほど足部関連のQOLが高いことを意味する。HADSは不安やうつの程度をそれぞれ21点満点で評価する指標で、スコアが高いほど不安やうつのレベルが高いことを意味する。

     解析対象者の主な特徴は、年齢が中央値62歳(四分位範囲49~72歳)、女性89名(87%)で、BMIは中央値が23(同20~24)であり、17%は25以上30未満、4%は30以上だった。外反母趾角は中央値40度(同35~47度)、36%が中等症(母趾角30度以上40度未満)、58%が重症(同40度以上)と判定された。また、HADSが臨床でのカットオフ値である8点以上であった割合は、不安、うつともに25%だった。

     全体で55名(54%)と過半数の患者が、過去1カ月以内に足趾以外の部位の痛みがあった。痛みの部位の数は中央値3個(四分位範囲1~4個)であり、最も多い部位は腰(33%)で、2位が膝(28%)だった。

     足趾以外の痛みの有無で2群に分けて比較すると、年齢、性別、BMI、外反母趾角、併存疾患数、就労状況、教育歴に有意差はなかった。しかし、HADSスコアは、不安(5点対4点、P=0.04)、うつ(6点対3点、P=0.004)ともに、足趾以外の痛み経験のある群が有意に高かった。また、足趾以外の痛みがある群では独居者が多く(25%対4%、P=0.005)、十分な社会的サポートを受けている割合が低かった(78%対96%、P=0.02)。

     足部関連のQOLを表すSAFE-Qのスコアは、5つのサブスケール全て、足趾以外の痛みがある群の方が有意に低かった。痛みの程度を表すVAS値は、足趾以外の痛みがある群の方が有意に高かった。多変量回帰分析の結果、足趾以外の痛みを有することは、SAFE-QスコアとVAS値に独立して関連していた。さらに、足趾以外の痛みの部位が多いほどSAFE-Qスコアが低く、VAS値が高かった。

     著者らは、「手術が予定されている外反母趾患者の半数以上が、ほかの部位の痛みを有していた。臨床医は外反母趾患者のQOL評価に際して、全身の痛みを把握すべきだろう」と結論付けている。なお、今後の研究の方向性として、「外反母趾の治療により他の部位の痛みが軽減するか否か、また、他の部位の痛みに対する介入が外反母趾の治療効果に影響を及ぼすかを明らかにする必要がある」と述べている。

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    HealthDay News 2022年3月22日
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  • タンパク質摂取量と腎機能低下に関連なし――日本人高齢者での縦断研究

     日本人高齢者では、タンパク質の摂取量と腎機能(eGFR)の低下速度との間に有意な関連はないとする研究結果が発表された。さらに、慢性腎臓病(CKD)の高齢者では、タンパク質摂取量が多いことが腎保護的に働く可能性もあるという。大阪大学大学院医学系研究科総合ヘルスプロモーション科学講座/森ノ宮医療大学の関口敏彰氏らの研究によるもので、「Geriatrics & Gerontology International」に2月10日、論文が掲載された。

     タンパク質の過剰摂取は腎臓に負担をかけるため、CKD患者にはタンパク質摂取量を控える指導が長く行われてきた。しかし近年、高齢者人口の増大とともに筋肉量が低下した高齢患者が増加し、そのような場合には筋肉量の維持のためにタンパク質をしっかり摂取することが重要であると認識されるようになっている。ただし、それにより腎機能低下が加速されるという懸念は払拭されておらず、高齢者のタンパク質摂取量を巡る議論が続いている。

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     このような背景を基に関口氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いて、タンパク質摂取量と腎機能変化との関連を縦断的に検討した。SONIC研究は2010~2013年に参加登録が行われ、69~71歳1,000人、79~81歳973人、89~91歳272人、計2,245人が登録されている。本研究ではそのうち、登録時にCKDステージ5以上(eGFR15mL/分/1.73m2未満)、透析治療中、解析に必要なデータの欠落者などを除外し、1,160人を解析対象とした。

     研究参加時に行った食事調査からタンパク質摂取量を割り出し、全体を四分位で群分けすると、第1四分位群のタンパク質摂取量は1.01±0.16g/kg/日、第2四分位群は1.32±0.07g/kg/日、第3四分位群は1.59±0.08g/kg/日、第4四分位群は2.07±0.30g/kg/日だった(P<0.01)。eGFRは平均69.15±14.4mL/分/1.73m2であり、群間に有意差はなかった。

     平均2.53年の追跡期間中のeGFRの変化は-1.89±2.98mL/分/1.73m2であり、有意な群間差はなかった。その一方で、体重はタンパク質摂取量の少ない群の方が大きく低下しており、有意差が認められた(P<0.04)。より具体的に、フレイル(要介護予備群)の診断基準に含まれている「1年当たり4.5kg以上の体重減少」の該当者の割合を比較すると、第1四分位群は47.6%と半数近くに及び、第2四分位群も42.9%を占めるのに対して、第3および第4四分位群は4.8%に過ぎなかった(P<0.01)。

     次に、腎機能低下に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、収縮期血圧、HbA1c、non-HDL-C、尿酸、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・心不全の既往、腎機能を評価した季節)を調整後、ベースラインの腎機能で層別化して解析を行った。

     その結果、ベースラインで腎機能が保たれていた群(eGFR60mL/分/1.73m2以上)では、タンパク質摂取量と腎機能変化量との間に有意な関連が認められなかった。一方、ベースラインで腎機能が低下していた群(eGFR60mL/分/1.73m2未満)では、タンパク質摂取量と腎機能変化量に正の相関が認められ(β=0.98、P=0.02)、タンパク質を多く取ることによる腎保護作用が示唆された。続いて、タンパク質を植物性と動物性に分けて検討すると、動物性タンパク質の摂取量に関しては、上記の総タンパク質摂取量の解析結果と同様の結果が得られた。

     以上の検討に基づき著者らは、「地域在住高齢者のタンパク質摂取量はeGFRの低下とは関連がなく、さらにCKDステージ3~4の場合には、総タンパク質および動物性タンパク質の摂取量が多いことが、eGFRを維持するように働く可能性がある。CKD患者を含む日本人高齢者には、タンパク質摂取制限をすべきではないと考えられる」と結論付けている。

     なお、高齢CKD患者ではタンパク質摂取量が多い方が腎機能の維持に有利であることの機序としては、「加齢に伴い増加するフレイルやサルコペニアでは、貧血を含む種々の因子が相互に影響を及ぼし、腎機能をはじめとするさまざまな身体機能が低下する。高タンパク食は、そのような病態の悪循環を抑制するのではないか」との考察を加えている。

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    糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。

    糖尿病性腎症リスクを体の症状からセルフチェック!

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年3月22日
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