• 糖尿病患者の便秘が冠動脈疾患に独立して関連――江戸川病院

     2型糖尿病患者の便秘が、冠動脈疾患と独立した関連のあることが報告された。江戸川病院糖尿病・代謝・腎臓内科の伊藤裕之氏らの研究結果であり、詳細は「Internal Medicine」に5月1日掲載された。

     糖尿病患者は合併症の自律神経障害などの影響のために、便秘になりやすいことが知られている。ただし、糖尿病の有無にかかわらず便秘はありふれた症状であり、治療を受けていない患者が多く、疫学的な調査があまり行われていない。最近まで便秘の統一された診断基準がなかったことも、疫学データが少ない一因と考えられる。これらを背景として伊藤氏らは、同院の2型糖尿病患者を対象に便秘の有病率や関連因子を検討した。

    糖尿病に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     対象は2019年8~9月に同院糖尿病外来を受診し、調査協力に同意した2型糖尿病患者410人。抗がん剤治療や緩和ケアを受けている患者、消化器がんの手術が予定されている患者、および炎症性腸疾患や認知症のある患者は除外されている。なお、消化器がんに対する内視鏡的粘膜切除術の既往者は対象に含まれている。対象者の主な特徴は、平均年齢66±12歳、女性42%、BMI25.8±4.4kg/m2、糖尿病罹病期間14±10年、HbA1c7.3±1.0%、インスリン療法27%、糖尿病性神経障害38%、冠動脈疾患13%など。

     便秘の有病率は患者自身の判断と、「慢性便秘症診療ガイドライン2017」の定義に基づく診断の2通りで検討した。前者の自己判断による便秘の有病率は29%だった。ただし、便秘を医師に相談したことのある患者は14%に過ぎず、症状のある患者の半数未満だった。

     ガイドラインに基づく診断では26%が慢性便秘に該当し、これに「普段から下剤を使用している」と回答した患者を加えると、有病率は36%(146人)になった。なお、自己判断で「便秘でない」と回答した患者の中にも、慢性便秘の診断基準を満たす患者が8%存在した。一方、自己判断で「便秘である」と回答した患者の32%は、診断基準を満たしていなかった。

     便秘のある群は便秘でない群(264人)に比べて、高齢で女性が多く、糖尿病罹病期間が長く、それぞれ有意差が存在した。また、インスリンやスタチンが処方されている患者が多く、糖尿病性神経障害や冠動脈疾患の有病率が高いという有意差が見られた。一方、BMIは便秘のある群の方が有意に低値だった。HbA1cは有意差がなかった。

     多変量ロジスティック回帰分析の結果、冠動脈疾患は便秘に独立して関連していることが明らかになった〔オッズ比(OR)2.00(95%信頼区間1.14~3.52)〕。冠動脈疾患以外の関連因子としては、インスリン療法〔OR1.80(同1.11~2.94)〕、女性〔OR1.73(同1.09~2.37)〕、糖尿病性神経障害〔OR1.60(同1.01~2.52)〕が抽出された。反対にBMIとは負の関連が認められた〔OR0.94(同0.89~1.00)〕。

     糖尿病患者は冠動脈疾患のリスクが高い。今回の研究で、糖尿病患者の冠動脈疾患と便秘との間に有意な関連のあることが明らかになった。著者らは、「便秘は有病率の高い症状であるため、日常診療で注意が払われることが少ない。しかし、冠動脈疾患のリスク評価のために、糖尿病患者の便秘を積極的に診断することが望ましい」と結論付けている。

    糖尿病のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月30日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • イソフラボンの摂取量が多い女性は頭痛が少ない――東京医科歯科大学

     イソフラボンの摂取量が多い閉経期以降の女性は、頭痛が少ないことが明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科茨城県地域産科婦人科学講座の寺内公一氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に3月14日掲載された。

     イソフラボンは大豆などのマメ科の植物に多く含まれている栄養素であり、抗酸化作用に加えて女性ホルモンであるエストロゲンに似た作用を持つことから、“植物性エストロゲン”と言われることもある。これまでの研究から、女性の健康を保護するように働く可能性が示唆されている。

    更年期障害に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     一方、頭痛は女性に多い症状で、特に閉経期の更年期症状の一つとして現れやすい。頭痛の起こりやすさの一因として食事スタイルの関与を指摘した研究報告があるが、閉経期の頭痛と栄養素摂取量との関連はよく分かっていない。寺内氏らは、同大学病院の更年期外来受診者を対象とする横断研究により、その関連の有無を検討した。

     更年期外来で実施されている健康栄養教育プログラムの参加者から、ホルモン補充療法を受けている人、年齢が40歳未満または60歳以上の人、および解析に必要なデータが欠落している人を除外した409人の女性(平均年齢50.1±3.8歳)を解析対象とした。

     頭痛の頻度を「月に1回以下」、「週に1~2回」、「週に3~4回」、「ほぼ毎日」の中から四者択一で選択してもらったところ、14.7%が「ほぼ毎日」と回答。この14.7%を「頻繁な頭痛のある群」、前三者を対照群として、生活習慣、閉経状態(閉経前/閉経期/閉経後)、血管運動神経症状(寝汗やホットフラッシュなどの更年期症状)、精神症状、および栄養素の摂取量などを比較した。

     その結果、頻繁な頭痛のある群は、血管運動神経症状や不眠症、不安、うつレベルを表すスコアが対照群に比べて有意に高いことが分かった。一方、年齢や閉経状態、BMI、体脂肪率、喫煙・飲酒・運動習慣、基礎代謝量、体温、カフェイン摂取量などは有意差がなかった。

     栄養素摂取量については、検討した43種類の栄養素のうち、主要栄養素と大半の微量栄養素は有意差がなく、イソフラボンとビタミンKのみ摂取量に有意差が見られ、いずれも頻繁な頭痛のある群の方が少なかった。それらの摂取量は以下のとおり。イソフラボンは頻繁な頭痛のある群が20.7±15.7mg/1,000kcal/日、対照群が24.8±14.5mg/1,000kcal/日(P=0.009)、ビタミンKは同順に198±149μg/1,000kcal/日、209±101μg/1,000kcal/日(P=0.044)。

     多変量ロジスティック回帰分析により、イソフラボンの摂取量は頻繁な頭痛の独立した有意な負の関連因子として抽出された〔1mg/1,000kcal/日多いごとにオッズ比(OR)0.974(95%信頼区間0.950~0.999)、P=0.036〕。ビタミンKは有意な関連因子でなかった。栄養素摂取量以外では、不眠症と血管運動神経症状が頻繁な頭痛とそれぞれ独立して関連しており、不安やうつレベルのスコアは有意でなかった。

     次に、閉経前(過去3カ月間に定期的な月経あり)と、閉経期(過去3カ月間に月経がないか不規則)~閉経後(過去12カ月間に月経なし)に層別化して検討。すると、閉経期~閉経後の群では全体解析の結果と同様に、頻繁な頭痛の有無によりイソフラボンの摂取量に有意差が認められた(P=0.011)。しかし閉経前の群では、頻繁な頭痛の有無でイソフラボン摂取量に有意差は認められなかった(P=0.391)。

     この結果を基に著者らは、「閉経期以降の女性の頭痛の頻度は、イソフラボンの摂取量と逆相関している。イソフラボンの豊富な食事が中年期以降の頭痛を抑制する可能性がある」と結論付けている。またその機序として、既報研究を基に、「イソフラボンのエストロゲン様作用が更年期の血管運動神経症状や不眠症を抑制することを介して、頭痛を軽減するという経路が想定される」と考察。ただし本研究ではイソフラボンの摂取量と頻繁な頭痛との独立した関連が示されたことから、「イソフラボンの抗酸化作用やエストロゲン様作用が、頭痛抑制に直接寄与するとも考えられる」と付け加えている。

    更年期障害のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    更年期のセルフチェック。高齢女性の更年期の時期にすべての人がなるわけではありませんが「更年期障害」を及ぼすときもあります。どういったことが該当し、どういったことに気を付けてチェック項目をご紹介しています。

    更年期障害セルフチェックに関連する基本情報

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月30日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 抗菌薬の使用量と下水中の濃度からの推計値が一致

     下水中の抗菌薬の濃度から、各薬剤の使用実態を推測可能なことが分かった。大阪医科薬科大学薬学部の東剛志氏、国立国際医療研究センターの小泉龍士氏、松永展明氏、大曲貴夫氏らが、厚生労働省「環境中における薬剤耐性菌及び抗微生物剤の調査法等の確立のための研究」及び日本医療研究開発機構(AMED)「環境中の薬剤耐性菌のモニタリングによる院内感染リスクの早期探知と環境負荷軽減策の開発に係る研究」の一環として、同大学医学部、相愛大学人間発達学部、国立国際医療研究センターとの共同研究により行った成果であり、「Antibiotics」4月号に論文が掲載された。研究グループではこの技術を、抗菌薬による環境負荷の把握や薬剤耐性(AMR)対策に役立てられるのではないかと述べている。

     これまでにも、下水中から抗菌薬や薬剤耐性菌が検出されることが報告されている。下水中のそれらの濃度の高い状態が続いた場合、抗菌薬の環境への拡散により生態系に影響が及ぶことが懸念される。また、新たな薬剤耐性菌の出現リスクが高まる可能性も考えられる。その対策を確立する第一歩として、東氏らは下水中の抗菌薬の濃度を測定し、その値から各薬剤の使用実態の把握が可能かを検討した。

    治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     研究に使用した下水サンプルは、淀川水系に位置する下水を処理している施設から季節ごとに通年で採取した。検討した抗菌薬は、アンピシリン、クラリスロマイシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、テトラサイクリン、バンコマイシンなど国内の臨床現場で使用されている10種類。それらの下水中の濃度を測定した上で、製薬メーカーが公表している売上高、厚労省「薬事工業生産動態統計」に収載されている出荷量、および厚労省「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」の処方量という3種類の数値との関連を検討した。

     下水中から検出されたのは、検討した10種類の抗菌薬のうち7種類であり、濃度は11ng/L~4.3μg/Lの範囲だった。検出されなかった3種類の抗菌薬は、アンピシリン、セフジニル、セフポドキシムプロキセチルであり、全てβ-ラクタム系抗菌薬だった。著者らによると、β-ラクタム構造を持つ抗菌薬は環境中で分解されやすいことに起因している可能性が考えられるという。

     厚労省のデータから把握した各抗菌薬の出荷量と処方量は類似しており、有意差がなかった。また、出荷量、処方量ともに、下水中濃度からの推測使用値との比の対数値が1前後に集約し、これらはよく一致していた。10種類の抗菌薬の推測使用量と出荷量や処方量との間には、正の相関が見られた(出荷量とはr=0.72、処方量とはr=0.79)。

     ただし、製薬メーカーが公表している売上高は、厚労省データから把握した出荷量や処方量、および下水中濃度からの推測使用量に比べて全体的に低値だった。例えば、クラリスロマイシンは推測使用量の約5分の2、バンコマイシンは約10分の1、レボフロキサシンは約50分の1程度だった。これは、これら3剤が多数のメーカーから供給されており、製剤別売上高を公表していないメーカーが多いためと考えられるという。

     これらの結果を基に著者らは、「国内で一般的に用いられている抗菌薬の使用量を、下水中の抗菌薬の濃度から高い精度で推測できることが明らかになった。抗菌薬の過剰な使用が環境に影響を及ぼすことを示唆する研究報告が増えつつある現在、そのリスク評価や対策立案の際に、本手法が有用となり得るのではないか」と結論付けている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月23日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • ICU治療を受けた患者の4人に1人が失業――国内多施設共同研究

     集中治療室(ICU)での治療を受けた患者は、退院後に職を失いやすいことを示すデータが報告された。治療を受ける前に職に就いていて、退院後に自宅生活へ復帰できた人の24.1%が、1年後に失業状態にあるという。失業リスクに関連する因子も明らかになった。札幌市立大学看護学部成人看護学の卯野木健氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に3月18日掲載された。

     ICUで治療を受けた患者は、職場復帰が困難である実態が既に報告されている。その理由として、退院後も身体的な機能障害やメンタルヘルス不調が継続・発症しやすいこと、離職期間が長期に及ぶケースが多いことなどが指摘されている。ただし、国内では十分な調査がまだ行われておらず、ICU入室に伴う失業の実態やそれに関連する因子が明らかになっていない。卯野木氏らは、多施設共同研究「SMAP-HoPe研究」のサブ解析により、この点の詳細な検討を行った。

    鬱病に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     SMAP-HoPe研究は、集中治療後症候群(ICU退室後に身体・認知機能、メンタルヘルスへ影響が生じている状態)の実態把握のため、国内12のICU施設が参加して実施された研究。2019年10月~2020年7月に3泊以上ICUに滞在し、ICU退室から1年後に自宅で生活しており、入院前には職を有していた18歳以上の成人328人を解析対象とした。

     解析対象者の平均年齢は中央値64歳(四分位範囲52~72)、男性86%であり、55.5%はICU緊急入室患者で占め、重症度スコアのAPACHE IIは中央値14点(同10~19)。入院前の就業状況は、フルタイムが47.6%、パートタイム21.6%、自営業30.8%だった。ICU退室1年後の追跡調査では、就労状況のほかに、主観的認知機能(集中力と記憶力に関する質問へのリッカートスコアで評価)、家計の状況(入院前に比較し「良い」「悪い」「変化なし」の三択)、うつレベル(HADSスコア)、身体機能(EQ-5D-5Lスコア)を評価した。

     ICU退室の1年後、24.1%が失業していた。失業者は有職者に比べて高齢で(年齢中央値が69対62歳、P<0.01)、ICU入室中の重症度が高かった(APACHE IIスコアが16対13、P<0.001)。一方、ICU入室の理由には有意な群間差がなかった(P=0.183)。

     入院前のフルタイム勤務者で1年後に失業していたのは19.9%であるのに対して、入院前のパートタイム勤務者は46.5%が失業していた。家計の状況については、1年後の有職者では81.9%が入院前から不変であり、18.0%が悪化、失業者では48.1%が不変で51.9%が悪化と回答した。入院前より好転したとの回答は両群ともに0%だった。

     多変量解析から、ICU退室1年後に失業状態にあることに、高齢、入院前の就労形態、うつレベルの高さという3つの因子が独立して関連していることが明らかになった。オッズ比(OR)は以下のとおり。1歳高齢であるごとにOR1.06(95%信頼区間1.03~1.08)、入院前のフルタイム勤務者に対してパートタイムはOR2.28(同1.16~4.48)、自営業はOR0.27(同0.12~0.60)、HADSスコア11以上でOR1.13(同1.05~1.23)。性別や認知機能、身体機能は有意な関連がなかった。

     なお、感度分析のため、新型コロナパンデミックの影響を考慮してICU入室期間がパンデミック前であった患者に限定した解析と、定年の影響を考慮して60歳以下の人を除外した解析を実施。その結果、年齢に関しては有意性が消失したが、うつレベルの高さは引き続き、失業状態にあることと独立して有意に関連していた。

     以上より著者らは、「ICU入室前に職を有していた患者の24.1%が、ICU退室から1年後に失業しており、うつ状態は失業と有意に関連していた。ICUから生存退室した患者については、その後の雇用状況とメンタルヘルスのフォローアップと適切なサポートが必要と考えられる」と結論付けている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月23日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • どの栄養素を「いつ」取るかで血圧に差が出る――早大

     ナトリウム(塩分)の摂取量が多いと血圧が高くなりやすいことは広く知られているが、新たな研究から、ナトリウムの多い食事をいつ摂取するかによって、血圧への影響が異なる可能性が報告された。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に3月4日掲載された。朝食のタンパク質量が多いことや、昼食の食物繊維量が多いことと、血圧の低さとの有意な関連なども明らかになった。

     栄養学では長年、摂取する栄養素の量と健康との関連が研究されてきたが、近年、栄養素を「いつ」摂取するかという点も重要であることが分かり、「時間栄養学」と呼ばれる研究が活発に行われている。特に血圧は、朝から日中は高く、夕方から夜間は低下するという日内変動があり、栄養素の摂取タイミングの違いが血圧へ異なる影響をもたらす可能性が考えられ、動物実験からはそれを裏付けるデータが報告されている。ただし、ヒトではそのような視点での研究がまだほとんど行われていない。柴田氏らは、(株)Askenのモバイルヘルスアプリ「あすけん」の利用データを解析して、この点を検討した。

    高血圧に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     「あすけん」はユーザーが記録した食事内容を分析し、改善点をアドバイスするアプリであり、主に体重管理目的で利用されている。「あすけん」で解析した栄養素摂取量は、従来から行われている解析方法の結果と強く相関する(r=0.80)ことが報告されている。今回の検討では、「あすけん」利用者の中で、1カ月間にわたり1日3回の食事と間食のデータが記録されており、血圧値や身体活動習慣などに関するアンケートに回答した2,402人(平均年齢45.95歳、男性29.4%)を解析対象とした。

     血圧に関しては、収縮期血圧が110mmHg未満、111~120mmHg、121~130mmHg、131~140mmHg、141~150mmHg、151mmHg以上という6つのカテゴリーに分けて1~6にスコア化して評価した。なお、降圧薬服用者は解析対象から除外されている。栄養素摂取量に関しては、1カ月間の平均値を解析に用いた。

     結果について、まず性別で比較すると、年齢、BMI、身体活動量は男性の方が有意に高値であり、クロノタイプ(朝型か夜型か)は女性において夜型が有意に多かった。年齢とBMIは男性・女性ともに血圧と有意な正の相関があり、身体活動量は男性の血圧と有意な負の相関があった。

     続いて、重回帰分析にて、年齢、性別、BMI、身体活動量、クロノタイプの影響を調整後に、朝食、昼食、夕食、および間食の栄養素摂取量と血圧との関連を解析。その結果、以下のような有意な相関が認められた。

     まず、昼食のNa/K比(ナトリウム摂取量を、血圧を下げるように働くカリウムの摂取量で除した値)は、血圧と有意に正相関していた(β=0.072、P=0.001)。間食のNa/K比も血圧と正の相関があった(β=0.046、P=0.022)。一方、朝食や夕食のNa/K比は、血圧と有意な関連がなかった。

     摂取エネルギー量と血圧との相関は夕食においてのみ有意であり、正の相関が認められた(β=0.100、P<0.0001)。三大栄養素のうち、タンパク質は朝食のみ有意な負の相関(β=-0.046、P=0.027)、脂質は夕食のみ正の相関があった(β=0.059、P=0.007)。炭水化物の摂取量はいずれの食事に関しても、血圧との有意な関連がなかった。

     このほか、昼食の食物繊維と血圧との有意な負の相関なども認められた(β=-0.048、P=0.026)。食事と一緒に飲むアルコールの摂取量については、3食どのタイミングであっても、血圧との有意な関連がないことも分かった。

     著者らは、「本研究の対象がモバイルアプリユーザーに限られているため、結果の一般化には追試が必要」と解釈上の限界点を挙げた上で、「ナトリウムやカリウムなどの特定の栄養素を摂取するタイミングを変更することで、高血圧発症を抑制できる可能性がある」と結論付けている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月16日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 心臓の病気が緑内障のリスク?――日本人での横断研究

     徐脈や心房細動などの不整脈、および左室肥大といった循環器系の病気が、緑内障のリスク因子であることを示唆するデータが報告された。JCHO三島総合病院眼科の鈴木幸久氏らの研究結果であり、詳細は「Biomedicines」に3月15日掲載された。

     緑内障は眼圧(眼球内の内圧)が高いために、視神経が障害されて視野が狭くなる病気。緑内障の中でも患者数が多い開放隅角緑内障は、緑内障発作(眼圧が急上昇し、失明回避のため緊急治療が必要となる状態)は起きにくいものの、徐々に視野狭窄が進むタイプであり、眼圧を下げる点眼薬による治療を継続する。しかし、眼圧を十分に下げても視野狭窄が進んでしまうことがあり、眼圧以外のリスク因子もあると考えられている。

    緑内障に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     開放隅角緑内障による視野狭窄にかかわる眼圧以外のリスク因子として、これまでの研究から、心房細動や低血圧などの循環器疾患の影響が想定されている。ただし、不明点が多く残されている。鈴木氏らはこの点に関する詳細な検討を行った。

     研究対象は、開放隅角緑内障患者581人(平均年齢71.6±10.2歳、男性49.1%)、および緑内障でなく、年齢と男女比が同等の比較対照群595人。無治療時の眼圧は緑内障群が右15.7/左15.9mmHg、対照群が12.6/12.7mmHgで、緑内障群の方が有意に高かった。

     緑内障の発症との関連を検討した項目は、高血圧(140/90mmHg以上)と低血圧(100/60mmHg未満)、および心電図異常。また、緑内障の重症度とそれらの関連も検討した。

     高血圧の有病率は、緑内障群34.3%、対照群29.4%で前者に多く(P=0.0005)、低血圧は同順に8.8%、11.8%であり後者に多かった(P=0.0008)。また心電図異常は41.3%、30.9%であり、前者に多かった(P=0.02)。心電図所見のうち、虚血性変化や心房細動、左室肥大、ST-T異常、期外収縮は緑内障群に有意に多く、QT延長、異常Q波、脚ブロックなどには有意差がなかった。また、緑内障群の4.8%、対照群の3.2%に徐脈が見られ、前者に多かったが、群間差は有意水準に至らなかった(P=0.08)。

     ロジスティック回帰分析の結果、緑内障の発症に関連する因子として眼圧〔オッズ比(OR)1.43(95%信頼区間1.36~1.51)〕のほかに、左室肥大〔OR2.21(同1.15~4.25)〕、徐脈〔OR2.19(同1.25~4.70)〕、心房細動〔OR2.02(同1.01~4.04)〕が抽出された。年齢や高血圧および低血圧などは、有意な関連因子ではなかった。

     緑内障の重症度(視野検査のMD値)と関連のある因子としては、年齢〔t=-6.22(同-0.15~-0.08)〕、眼圧〔t=-6.47(同-0.42~-0.23)〕、左室肥大〔t=-2.15(同-3.36~-0.29)〕という3つが抽出された。

     これらの結果から著者らは、「眼圧だけでなく、循環器疾患が緑内障の発症と重症度に関連があると推測される」と結論付けている。また、緑内障点眼薬として使用されるβ遮断薬は心拍数を減少させる作用があり、徐脈を持つ患者には禁忌である。徐脈は緑内障発症のリスク因子であるだけでなく、緑内障患者の4.8%に徐脈が見られたことから、「眼圧管理のための点眼薬としてβ遮断薬を処方する際には、心電図検査の施行や心拍数の確認が必要とされる」と述べている。

    慢性心不全のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月16日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • かかりつけ医のあり/なしでパンデミック中の予防医療実施率に有意差

     かかりつけ医を持っている人はそうでない人に比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の予防医療の実施率が有意に高いというデータが報告された。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部の青木拓也氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に3月16日掲載された。

     COVID-19パンデミックにより、検診受診率やCOVID-19以外のワクチン接種率が低下したことで、予防可能な疾患の罹患率が将来的に上昇するのではないかとの懸念が高まっている。一方、かかりつけ医は疾患罹患時の治療のみでなく、住民のふだんからの健康管理を担っており、パンデミックのような特殊な状況下でもその役割に期待がかかる。そこで青木氏らは、パンデミック発生以降の一般市民の予防医療実施率が、かかりつけ医のあり/なしによって異なるか否かを検討した。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     この調査は、パンデミック第4波が発生していた2021年5月に実施された。日本リサーチセンターに登録されている一般住民パネルから、地域別人口構成(年齢と性別)に合わせて抽出された20~75歳の一般市民2,000人に回答協力を依頼し、1,757人(平均年齢50.1±15.1歳、女性51.1%)から有効回答を得た。

     かかりつけ医の有無は、「体調が悪いときや健康について相談したいときに、いつも受診する医師はいるか?」という質問に「はい」と答え、その医療機関が大学病院以外である場合に「かかりつけ医あり」と定義した。予防医療については、一般的な生活習慣病やがん、うつ病のスクリーニング、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種、および禁煙や体重管理などのカウンセリングの実施率で評価した。

     また、「JPCAT-SF」という評価指標を用いて、回答者がふだん受診している医師のかかりつけ医機能を評価した。JPCAT-SFは100点満点で評価され、点数が高いほどかかりつけ医機能が優れていることを意味する。

     解析の結果、全体の57.5%が「かかりつけ医あり」に該当した。かかりつけ医のある群とない群を比べると、前者は高齢で(平均53.1対45.9歳)、女性の割合が高く(53.9対47.3%)、非就労者が多く(29.7対20.2%)、慢性疾患の有病率が高い(慢性疾患が2つ以上の割合が34.5対11.9%)という差が認められた。

     予防医療の実施について見ると、まず疾患スクリーニングの実施率の平均は、かかりつけ医あり群56.3%、なし群45.0%で、住民属性を調整後の平均差が7.0%(95%信頼区間4.4~9.6)であり、かかりつけ医あり群の方が有意に高かった。ただし、スクリーニングの受診率を対象疾患ごとに見ると、生活習慣病やがんについては全般的に高いものの、うつ病のスクリーニングについては、かかりつけ医なし群で7.8%、あり群でも11.2%であり、かかりつけ医がうつ病の早期発見にあまり寄与していない可能性が示された。

     そのほか、ワクチン接種率の調整後平均差は7.9%(95%信頼区間5.4~10.3)、カウンセリングの実施率は同8.0%(1.6~14.3)であり、いずれもかかりつけ医あり群の方が有意に高かった。スクリーニング、ワクチン接種、カウンセリングの全てを統合した全体的な解析では、かかりつけ医あり群43.9%、なし群33.9%で、調整後平均差は7.2%(5.2~9.1)だった。

     次に、かかりつけ医あり群をJPCAT-SFスコアの四分位で4群に分類し、かかりつけ医なし群と比較した。その結果、JPCAT-SFスコア第1位四分位群(ふだん受診している医師のかかりつけ医機能が低い下位25%)であっても、かかりつけ医なし群よりスコアが有意に高かった〔41.1対33.9%、調整後平均差3.5%(95%信頼区間0.5~6.4)〕。

     この結果から著者らは、「COVID-19パンデミックという特異な状況においても、かかりつけ医を持っていることが予防医療の実施率向上に寄与することが明らかになった」と結論付けている。ただし、うつ病のスクリーニングを受けていた割合が低値であったことから、「かかりつけ医がメンタルヘルスの問題に取り組むことが、パンデミック中およびパンデミック後の重要な課題と言えるのではないか」と述べている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月10日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 育児休業を取った父親は赤ちゃんへの拒絶感が強い?――国内ネット調査

     父親が育児休業を取得することは、父子のボンディング(親の子どもに対する情緒的な絆)の強化につながらず、かえってマイナスの影響が生じてしまう可能性のあることを示唆する結果が報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究結果であり、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に4月2日掲載された。

     本年4月に育児・介護休業法が改正され、男性の育児休業取得がより強く推奨されるようになった。しかし、父親の育休取得と子どもとの絆との関連は明らかになっていない。米国では良い影響が生まれるとの報告がある一方で、ドイツからは負の影響の懸念が報告されている。藤原氏らは、全国規模で実施されたインターネット調査「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータを用いて、この点に関する検討を行った。

    治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     JACSIS研究の回答者の中から、2歳未満の子どもがいて、妻(パートナー)が現在妊娠中ではないなどの条件を満たす1,194人の父親を解析対象とした。子どもとの絆の強さは、「日本語版赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS-J)」という指標で評価した。MIBS-Jは、「赤ちゃんをいとおしいと思う」、「赤ちゃんのためにしなくてはいけないことがあるのに、どうすれば良いかわからない時がある」などの10項目の質問からなる。合計30点満点で、得点が高いほど赤ちゃんへの否定的な感情が強いことを示している。また、下位尺度として「愛情の欠如」と「怒りと拒絶」の2項目を評価可能。

     このほか共変量として、年齢、教育歴、就労状況、世帯収入、子どもの人数と年齢、心理的ストレス(K6スコア)、祖父母(回答者の親)の子育て支援状況、里帰り出産か否かなどを質問した。

     解析対象者の33.5%が育児休業を取得していた。育児休業取得群と非取得群を比べると、平均年齢はどちらも約35歳で差はなかった。共変量として把握した前記の項目のうち、祖父母からの支援ありの割合が、育児休業取得群(58.0%)より非取得群(71.0%)の方が高いという違いがあったものの(P<0.001)、その他の因子は全て有意差がなかった。

     祖父母からの支援の有無を含む共変量の影響を統計的に調整した結果、以下のように、育児休業取得群の方がMIBS-Jの総合スコアが高く(赤ちゃんへの否定的な感情が強く)、下位尺度の「怒りと拒絶」のスコアが高いことが明らかになった。MIBS-J総合スコアはβ=0.51(95%信頼区間0.06~0.96)、「怒りと拒絶」のスコアはβ=0.26(同0.03~0.49)と有意差を認めたが、「愛情の欠如」のスコアは有意差を認めなかった。また、子どもの年齢(6カ月単位で4群に分類)の違いは、MIBS-Jスコアに影響を及ぼしていなかった。

     父親の育児休業取得が赤ちゃんに対する拒絶感を強めてしまう可能性が示されたわけだが、著者らは既報研究を基にそのメカニズムを3つにまとめている。具体的には、父親の子育てに関する自信の欠如、育児休業中に孤独感を抱きやすいこと、育児休業を取得することの罪悪感が、理由として想定されるとのことだ。論文の結論では、これらの考察の上で、「育児休業を取得して子どもと長期間過ごすことは、ふだん仕事に専念している父親にとって、依然として困難な経験となり得る。育児休業取得前に育児教室への参加を促すなどの対策が必要ではないか」と提言している。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月9日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • COVID-19予防行動の順守率は何から情報を得たかで異なる

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の情報をどのような経路で入手したかによって、感染抑止のための予防行動の順守状況に差が見られるとする研究結果が報告された。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Healthcare」に3月13日掲載された。

     COVID-19パンデミックの初期から、マスク着用や三密回避などの感染予防行動が繰り返し推奨されてきている。しかし、それらをどの程度順守するかは人によって異なる。草間氏らは、COVID-19関連情報の入手経路が予防行動の順守に影響を与えている可能性を想定して、以下の検討を行った。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     解析対象は、2020年8~9月に実施した「日本における新型コロナウイルス問題による社会・健康格差評価研究」、および2021年2月に実施した「日本における社会と新型タバコに関するインターネット調査」という2つのWeb調査に回答した20~79歳の成人1万8,151人(平均年齢51.7±15.9歳、男性51.3%)。

     評価した予防行動は、マスク着用、部屋の換気、ソーシャルディスタンス、混雑回避という4項目。情報源については、人や組織(家族、友人、職場や学校、医療従事者、有名人、専門家、政府、学術機関)、SNS(YouTubeなどの動画共有サイト、LINE、Twitter、Facebook、Instagram)、メディア(Webニュース、新聞、雑誌、本、テレビニュース、テレビの情報番組、ラジオ)という計20種類の利用状況を把握した。そのほかに共変量として、性別、年齢、教育歴、所得、同居者の有無、ヘルスリテラシー(CCHLという指標で評価)に関する質問の回答を得た。

     結果について、まず利用率の高い情報入手経路を見ると、テレビニュースがトップで84.2%であり、Webニュース68.3%、テレビの情報番組66.2%、家族57.8%、新聞53.6%、友人46.4%、政府44.2%と続き、専門家は33.7%で9位、医療従事者は20.8%で13位だった。情報入手経路の下位は、Instagram(7.7%)、本(7.8%)、Facebook(8.9%)、学術機関(10.0%)、Twitter(14.1%)などだった。

     2020年調査における予防行動の順守率は、マスク着用86.2%、部屋の換気46.9%、ソーシャルディスタンス45.4%、混雑回避62.6%であり、2021年調査では同順に89.3%、38.2%、47.2%、61.6%だった。これら4種類の予防行動と情報入手経路との関連を、多変量解析にて前述の共変量を調整して検討した。その結果、以下の有意な関連が認められた。

     Webニュースから情報を得た人は、マスク着用(絶対差7.3%)、部屋の換気(5.5%)、混雑回避(5.5%)という3種類の行動の順守率が有意に高かった。また、Twitterから情報を得た人は、マスク着用(3.8%)、部屋の換気(4.7%)、ソーシャルディスタンス(6.4%)という3種類の行動の順守率が有意に高かった。このほかに、医療従事者、専門家、政府、テレビニュースから情報を得た人は、4種類の予防行動のうちのいずれか2種類の順守率が有意に高かった。

     一方、順守率の低下と有意な関連の見られた情報入手経路もあった。例えば、Instagramから情報を得た人は、マスク着用の順守率が-18.9%、Facebookから得た人はソーシャルディスタンスが-6.8%、有名人から得た人は混雑回避が-4.7%だった。また、新聞から情報を得た人は、マスク着用の順守率が有意に高いが(3.1%)、部屋の換気の順守率は有意に低かった(-2.8%)。

     これらの結果を基に著者らは、「特定の情報源を利用していることが、COVID-19に対する予防行動の順守に関連していることが明らかになった。一方、検討した4種類全ての予防行動の順守と有意に関連していた情報源は観察されなかったことから、各情報源が発信していた情報が網羅的なものでなく、内容にむらがあった可能性がある。全ての人の予防行動を喚起する情報提供体制の構築が重要ではないか」と総括している。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先1リンク先2
    HealthDay News 2022年5月2日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • ビタミンK不足で認知機能が低下?

     ビタミンKの摂取不足が認知機能の低下と関連していることを示唆するデータが報告された。東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏、東浩太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に1月31日掲載された。

     ビタミンKは、血液凝固の必須因子としての役割が最初に見いだされていた脂溶性ビタミンで、その後、骨代謝にも関与することが明らかになり、それらの作用を用いた疾患治療薬が臨床応用されている。さらに近年、ビタミンKレベルが認知機能に関連している可能性が報告され始めている。ただしそれらの研究では、ビタミンKレベルを専門的な検査で測定していたり、食事調査からビタミンK摂取量を推測するという手法を用いており、汎用性や精度の問題があった。

    認知症に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     これに対して井上氏らは、既に国内で骨代謝関連検査として保険適用されている「低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)」という指標を用いて、その値と認知機能との関連を検討した。ucOCはビタミンKレベルのバイオマーカーであり、ucOC高値はビタミンK不足を意味する。

     研究対象は東京都板橋区在住の高齢者から無作為に抽出され、研究参加に同意した800人(平均年齢75.9±4.9歳、女性88.8%)。認知機能はミニメンタルステート検査(MMSE)で評価した。MMSEは30点満点で、スコアが低いほど認知機能が低下していることを意味する。本研究の参加者の平均は28.2±2.2であり、25.5%が28点未満、16.1%が27点未満だった。

     ucOCの三分位で3群に分け、認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙習慣、BMI、教育歴、高血圧・脳卒中・心臓病・糖尿病・脂質異常症・骨粗鬆症の既往)を共変量とするロジスティック回帰分析を施行。その結果、ucOCの第3三分位群は第1三分位群よりも、MMSE27未満で定義した「軽度認知障害(MCI)」の該当者が1.65倍、有意に多いことが分かった〔オッズ比(OR)1.65(95%信頼区間1.06~2.59)〕。なお、第2三分位群のMCIのオッズ比は、第1三分位群と有意差がなかった。

     ucOCのほかには、年齢がMCIのオッズ比上昇と有意に関連し〔1歳ごとにOR1.17(同1.12~1.22)〕、教育歴が長いことはオッズ比の低下と有意に関連していた〔10年以上は9年以下に対してOR0.37(同0.23~0.59)〕。その他、性別や喫煙習慣、BMI、高血圧・脳卒中・糖尿病などの既往は非有意だった。

     なお、MMSEの下位尺度別に検討すると、ucOCの第3三分位群は第1三分位群に比べて、見当識〔9点未満のOR7.46(同2.05~27.19)〕、計算〔5点未満のOR1.52(同1.04~2.24)〕、および言語〔8点未満のOR2.44(同1.00~5.94)〕という3指標が、低値に該当するオッズ比が有意に高かった。

     著者らは、「本研究はucOC値と認知機能との関連を調べた初の報告であり、ビタミンKが認知機能に重要な働きを担っている可能性を示している。ucOCというビタミンKレベル評価の簡便な検査が、認知機能に影響を及ぼす神経変性疾患のバイオマーカーとなり得るのではないか」と結論付けている。

     また、ビタミンKと認知機能との関連の機序については、「ビタミンKは多くの作用を持つことが明らかになっており、例えば核内受容体SXR(steroid and xenobiotic receptor)を介して抗炎症作用を発揮することからも、認知機能に対して保護的に働く可能性がある」と考察。ただし、ucOC高値は単にビタミンK摂取量が少ないことを表しているだけであり、残余交絡の存在も否定できないとして、「基礎研究や介入研究などによる検証が求められる」と述べている。

    軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

    軽度認知障害(MCI)のリスクをセルフチェックしてみよう!

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年5月2日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。