• かかりつけ医のあり/なしでパンデミック中の予防医療実施率に有意差

     かかりつけ医を持っている人はそうでない人に比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の予防医療の実施率が有意に高いというデータが報告された。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部の青木拓也氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に3月16日掲載された。

     COVID-19パンデミックにより、検診受診率やCOVID-19以外のワクチン接種率が低下したことで、予防可能な疾患の罹患率が将来的に上昇するのではないかとの懸念が高まっている。一方、かかりつけ医は疾患罹患時の治療のみでなく、住民のふだんからの健康管理を担っており、パンデミックのような特殊な状況下でもその役割に期待がかかる。そこで青木氏らは、パンデミック発生以降の一般市民の予防医療実施率が、かかりつけ医のあり/なしによって異なるか否かを検討した。

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     この調査は、パンデミック第4波が発生していた2021年5月に実施された。日本リサーチセンターに登録されている一般住民パネルから、地域別人口構成(年齢と性別)に合わせて抽出された20~75歳の一般市民2,000人に回答協力を依頼し、1,757人(平均年齢50.1±15.1歳、女性51.1%)から有効回答を得た。

     かかりつけ医の有無は、「体調が悪いときや健康について相談したいときに、いつも受診する医師はいるか?」という質問に「はい」と答え、その医療機関が大学病院以外である場合に「かかりつけ医あり」と定義した。予防医療については、一般的な生活習慣病やがん、うつ病のスクリーニング、インフルエンザや肺炎球菌などのワクチン接種、および禁煙や体重管理などのカウンセリングの実施率で評価した。

     また、「JPCAT-SF」という評価指標を用いて、回答者がふだん受診している医師のかかりつけ医機能を評価した。JPCAT-SFは100点満点で評価され、点数が高いほどかかりつけ医機能が優れていることを意味する。

     解析の結果、全体の57.5%が「かかりつけ医あり」に該当した。かかりつけ医のある群とない群を比べると、前者は高齢で(平均53.1対45.9歳)、女性の割合が高く(53.9対47.3%)、非就労者が多く(29.7対20.2%)、慢性疾患の有病率が高い(慢性疾患が2つ以上の割合が34.5対11.9%)という差が認められた。

     予防医療の実施について見ると、まず疾患スクリーニングの実施率の平均は、かかりつけ医あり群56.3%、なし群45.0%で、住民属性を調整後の平均差が7.0%(95%信頼区間4.4~9.6)であり、かかりつけ医あり群の方が有意に高かった。ただし、スクリーニングの受診率を対象疾患ごとに見ると、生活習慣病やがんについては全般的に高いものの、うつ病のスクリーニングについては、かかりつけ医なし群で7.8%、あり群でも11.2%であり、かかりつけ医がうつ病の早期発見にあまり寄与していない可能性が示された。

     そのほか、ワクチン接種率の調整後平均差は7.9%(95%信頼区間5.4~10.3)、カウンセリングの実施率は同8.0%(1.6~14.3)であり、いずれもかかりつけ医あり群の方が有意に高かった。スクリーニング、ワクチン接種、カウンセリングの全てを統合した全体的な解析では、かかりつけ医あり群43.9%、なし群33.9%で、調整後平均差は7.2%(5.2~9.1)だった。

     次に、かかりつけ医あり群をJPCAT-SFスコアの四分位で4群に分類し、かかりつけ医なし群と比較した。その結果、JPCAT-SFスコア第1位四分位群(ふだん受診している医師のかかりつけ医機能が低い下位25%)であっても、かかりつけ医なし群よりスコアが有意に高かった〔41.1対33.9%、調整後平均差3.5%(95%信頼区間0.5~6.4)〕。

     この結果から著者らは、「COVID-19パンデミックという特異な状況においても、かかりつけ医を持っていることが予防医療の実施率向上に寄与することが明らかになった」と結論付けている。ただし、うつ病のスクリーニングを受けていた割合が低値であったことから、「かかりつけ医がメンタルヘルスの問題に取り組むことが、パンデミック中およびパンデミック後の重要な課題と言えるのではないか」と述べている。

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  • 育児休業を取った父親は赤ちゃんへの拒絶感が強い?――国内ネット調査

     父親が育児休業を取得することは、父子のボンディング(親の子どもに対する情緒的な絆)の強化につながらず、かえってマイナスの影響が生じてしまう可能性のあることを示唆する結果が報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究結果であり、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に4月2日掲載された。

     本年4月に育児・介護休業法が改正され、男性の育児休業取得がより強く推奨されるようになった。しかし、父親の育休取得と子どもとの絆との関連は明らかになっていない。米国では良い影響が生まれるとの報告がある一方で、ドイツからは負の影響の懸念が報告されている。藤原氏らは、全国規模で実施されたインターネット調査「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータを用いて、この点に関する検討を行った。

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     JACSIS研究の回答者の中から、2歳未満の子どもがいて、妻(パートナー)が現在妊娠中ではないなどの条件を満たす1,194人の父親を解析対象とした。子どもとの絆の強さは、「日本語版赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS-J)」という指標で評価した。MIBS-Jは、「赤ちゃんをいとおしいと思う」、「赤ちゃんのためにしなくてはいけないことがあるのに、どうすれば良いかわからない時がある」などの10項目の質問からなる。合計30点満点で、得点が高いほど赤ちゃんへの否定的な感情が強いことを示している。また、下位尺度として「愛情の欠如」と「怒りと拒絶」の2項目を評価可能。

     このほか共変量として、年齢、教育歴、就労状況、世帯収入、子どもの人数と年齢、心理的ストレス(K6スコア)、祖父母(回答者の親)の子育て支援状況、里帰り出産か否かなどを質問した。

     解析対象者の33.5%が育児休業を取得していた。育児休業取得群と非取得群を比べると、平均年齢はどちらも約35歳で差はなかった。共変量として把握した前記の項目のうち、祖父母からの支援ありの割合が、育児休業取得群(58.0%)より非取得群(71.0%)の方が高いという違いがあったものの(P<0.001)、その他の因子は全て有意差がなかった。

     祖父母からの支援の有無を含む共変量の影響を統計的に調整した結果、以下のように、育児休業取得群の方がMIBS-Jの総合スコアが高く(赤ちゃんへの否定的な感情が強く)、下位尺度の「怒りと拒絶」のスコアが高いことが明らかになった。MIBS-J総合スコアはβ=0.51(95%信頼区間0.06~0.96)、「怒りと拒絶」のスコアはβ=0.26(同0.03~0.49)と有意差を認めたが、「愛情の欠如」のスコアは有意差を認めなかった。また、子どもの年齢(6カ月単位で4群に分類)の違いは、MIBS-Jスコアに影響を及ぼしていなかった。

     父親の育児休業取得が赤ちゃんに対する拒絶感を強めてしまう可能性が示されたわけだが、著者らは既報研究を基にそのメカニズムを3つにまとめている。具体的には、父親の子育てに関する自信の欠如、育児休業中に孤独感を抱きやすいこと、育児休業を取得することの罪悪感が、理由として想定されるとのことだ。論文の結論では、これらの考察の上で、「育児休業を取得して子どもと長期間過ごすことは、ふだん仕事に専念している父親にとって、依然として困難な経験となり得る。育児休業取得前に育児教室への参加を促すなどの対策が必要ではないか」と提言している。

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  • COVID-19予防行動の順守率は何から情報を得たかで異なる

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の情報をどのような経路で入手したかによって、感染抑止のための予防行動の順守状況に差が見られるとする研究結果が報告された。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Healthcare」に3月13日掲載された。

     COVID-19パンデミックの初期から、マスク着用や三密回避などの感染予防行動が繰り返し推奨されてきている。しかし、それらをどの程度順守するかは人によって異なる。草間氏らは、COVID-19関連情報の入手経路が予防行動の順守に影響を与えている可能性を想定して、以下の検討を行った。

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     解析対象は、2020年8~9月に実施した「日本における新型コロナウイルス問題による社会・健康格差評価研究」、および2021年2月に実施した「日本における社会と新型タバコに関するインターネット調査」という2つのWeb調査に回答した20~79歳の成人1万8,151人(平均年齢51.7±15.9歳、男性51.3%)。

     評価した予防行動は、マスク着用、部屋の換気、ソーシャルディスタンス、混雑回避という4項目。情報源については、人や組織(家族、友人、職場や学校、医療従事者、有名人、専門家、政府、学術機関)、SNS(YouTubeなどの動画共有サイト、LINE、Twitter、Facebook、Instagram)、メディア(Webニュース、新聞、雑誌、本、テレビニュース、テレビの情報番組、ラジオ)という計20種類の利用状況を把握した。そのほかに共変量として、性別、年齢、教育歴、所得、同居者の有無、ヘルスリテラシー(CCHLという指標で評価)に関する質問の回答を得た。

     結果について、まず利用率の高い情報入手経路を見ると、テレビニュースがトップで84.2%であり、Webニュース68.3%、テレビの情報番組66.2%、家族57.8%、新聞53.6%、友人46.4%、政府44.2%と続き、専門家は33.7%で9位、医療従事者は20.8%で13位だった。情報入手経路の下位は、Instagram(7.7%)、本(7.8%)、Facebook(8.9%)、学術機関(10.0%)、Twitter(14.1%)などだった。

     2020年調査における予防行動の順守率は、マスク着用86.2%、部屋の換気46.9%、ソーシャルディスタンス45.4%、混雑回避62.6%であり、2021年調査では同順に89.3%、38.2%、47.2%、61.6%だった。これら4種類の予防行動と情報入手経路との関連を、多変量解析にて前述の共変量を調整して検討した。その結果、以下の有意な関連が認められた。

     Webニュースから情報を得た人は、マスク着用(絶対差7.3%)、部屋の換気(5.5%)、混雑回避(5.5%)という3種類の行動の順守率が有意に高かった。また、Twitterから情報を得た人は、マスク着用(3.8%)、部屋の換気(4.7%)、ソーシャルディスタンス(6.4%)という3種類の行動の順守率が有意に高かった。このほかに、医療従事者、専門家、政府、テレビニュースから情報を得た人は、4種類の予防行動のうちのいずれか2種類の順守率が有意に高かった。

     一方、順守率の低下と有意な関連の見られた情報入手経路もあった。例えば、Instagramから情報を得た人は、マスク着用の順守率が-18.9%、Facebookから得た人はソーシャルディスタンスが-6.8%、有名人から得た人は混雑回避が-4.7%だった。また、新聞から情報を得た人は、マスク着用の順守率が有意に高いが(3.1%)、部屋の換気の順守率は有意に低かった(-2.8%)。

     これらの結果を基に著者らは、「特定の情報源を利用していることが、COVID-19に対する予防行動の順守に関連していることが明らかになった。一方、検討した4種類全ての予防行動の順守と有意に関連していた情報源は観察されなかったことから、各情報源が発信していた情報が網羅的なものでなく、内容にむらがあった可能性がある。全ての人の予防行動を喚起する情報提供体制の構築が重要ではないか」と総括している。

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  • ビタミンK不足で認知機能が低下?

     ビタミンKの摂取不足が認知機能の低下と関連していることを示唆するデータが報告された。東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏、東浩太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に1月31日掲載された。

     ビタミンKは、血液凝固の必須因子としての役割が最初に見いだされていた脂溶性ビタミンで、その後、骨代謝にも関与することが明らかになり、それらの作用を用いた疾患治療薬が臨床応用されている。さらに近年、ビタミンKレベルが認知機能に関連している可能性が報告され始めている。ただしそれらの研究では、ビタミンKレベルを専門的な検査で測定していたり、食事調査からビタミンK摂取量を推測するという手法を用いており、汎用性や精度の問題があった。

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     これに対して井上氏らは、既に国内で骨代謝関連検査として保険適用されている「低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)」という指標を用いて、その値と認知機能との関連を検討した。ucOCはビタミンKレベルのバイオマーカーであり、ucOC高値はビタミンK不足を意味する。

     研究対象は東京都板橋区在住の高齢者から無作為に抽出され、研究参加に同意した800人(平均年齢75.9±4.9歳、女性88.8%)。認知機能はミニメンタルステート検査(MMSE)で評価した。MMSEは30点満点で、スコアが低いほど認知機能が低下していることを意味する。本研究の参加者の平均は28.2±2.2であり、25.5%が28点未満、16.1%が27点未満だった。

     ucOCの三分位で3群に分け、認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙習慣、BMI、教育歴、高血圧・脳卒中・心臓病・糖尿病・脂質異常症・骨粗鬆症の既往)を共変量とするロジスティック回帰分析を施行。その結果、ucOCの第3三分位群は第1三分位群よりも、MMSE27未満で定義した「軽度認知障害(MCI)」の該当者が1.65倍、有意に多いことが分かった〔オッズ比(OR)1.65(95%信頼区間1.06~2.59)〕。なお、第2三分位群のMCIのオッズ比は、第1三分位群と有意差がなかった。

     ucOCのほかには、年齢がMCIのオッズ比上昇と有意に関連し〔1歳ごとにOR1.17(同1.12~1.22)〕、教育歴が長いことはオッズ比の低下と有意に関連していた〔10年以上は9年以下に対してOR0.37(同0.23~0.59)〕。その他、性別や喫煙習慣、BMI、高血圧・脳卒中・糖尿病などの既往は非有意だった。

     なお、MMSEの下位尺度別に検討すると、ucOCの第3三分位群は第1三分位群に比べて、見当識〔9点未満のOR7.46(同2.05~27.19)〕、計算〔5点未満のOR1.52(同1.04~2.24)〕、および言語〔8点未満のOR2.44(同1.00~5.94)〕という3指標が、低値に該当するオッズ比が有意に高かった。

     著者らは、「本研究はucOC値と認知機能との関連を調べた初の報告であり、ビタミンKが認知機能に重要な働きを担っている可能性を示している。ucOCというビタミンKレベル評価の簡便な検査が、認知機能に影響を及ぼす神経変性疾患のバイオマーカーとなり得るのではないか」と結論付けている。

     また、ビタミンKと認知機能との関連の機序については、「ビタミンKは多くの作用を持つことが明らかになっており、例えば核内受容体SXR(steroid and xenobiotic receptor)を介して抗炎症作用を発揮することからも、認知機能に対して保護的に働く可能性がある」と考察。ただし、ucOC高値は単にビタミンK摂取量が少ないことを表しているだけであり、残余交絡の存在も否定できないとして、「基礎研究や介入研究などによる検証が求められる」と述べている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2022年5月2日
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