• どの栄養素を「いつ」取るかで血圧に差が出る――早大

     ナトリウム(塩分)の摂取量が多いと血圧が高くなりやすいことは広く知られているが、新たな研究から、ナトリウムの多い食事をいつ摂取するかによって、血圧への影響が異なる可能性が報告された。早稲田大学先端生命医科学センターの柴田重信氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に3月4日掲載された。朝食のタンパク質量が多いことや、昼食の食物繊維量が多いことと、血圧の低さとの有意な関連なども明らかになった。

     栄養学では長年、摂取する栄養素の量と健康との関連が研究されてきたが、近年、栄養素を「いつ」摂取するかという点も重要であることが分かり、「時間栄養学」と呼ばれる研究が活発に行われている。特に血圧は、朝から日中は高く、夕方から夜間は低下するという日内変動があり、栄養素の摂取タイミングの違いが血圧へ異なる影響をもたらす可能性が考えられ、動物実験からはそれを裏付けるデータが報告されている。ただし、ヒトではそのような視点での研究がまだほとんど行われていない。柴田氏らは、(株)Askenのモバイルヘルスアプリ「あすけん」の利用データを解析して、この点を検討した。

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     「あすけん」はユーザーが記録した食事内容を分析し、改善点をアドバイスするアプリであり、主に体重管理目的で利用されている。「あすけん」で解析した栄養素摂取量は、従来から行われている解析方法の結果と強く相関する(r=0.80)ことが報告されている。今回の検討では、「あすけん」利用者の中で、1カ月間にわたり1日3回の食事と間食のデータが記録されており、血圧値や身体活動習慣などに関するアンケートに回答した2,402人(平均年齢45.95歳、男性29.4%)を解析対象とした。

     血圧に関しては、収縮期血圧が110mmHg未満、111~120mmHg、121~130mmHg、131~140mmHg、141~150mmHg、151mmHg以上という6つのカテゴリーに分けて1~6にスコア化して評価した。なお、降圧薬服用者は解析対象から除外されている。栄養素摂取量に関しては、1カ月間の平均値を解析に用いた。

     結果について、まず性別で比較すると、年齢、BMI、身体活動量は男性の方が有意に高値であり、クロノタイプ(朝型か夜型か)は女性において夜型が有意に多かった。年齢とBMIは男性・女性ともに血圧と有意な正の相関があり、身体活動量は男性の血圧と有意な負の相関があった。

     続いて、重回帰分析にて、年齢、性別、BMI、身体活動量、クロノタイプの影響を調整後に、朝食、昼食、夕食、および間食の栄養素摂取量と血圧との関連を解析。その結果、以下のような有意な相関が認められた。

     まず、昼食のNa/K比(ナトリウム摂取量を、血圧を下げるように働くカリウムの摂取量で除した値)は、血圧と有意に正相関していた(β=0.072、P=0.001)。間食のNa/K比も血圧と正の相関があった(β=0.046、P=0.022)。一方、朝食や夕食のNa/K比は、血圧と有意な関連がなかった。

     摂取エネルギー量と血圧との相関は夕食においてのみ有意であり、正の相関が認められた(β=0.100、P<0.0001)。三大栄養素のうち、タンパク質は朝食のみ有意な負の相関(β=-0.046、P=0.027)、脂質は夕食のみ正の相関があった(β=0.059、P=0.007)。炭水化物の摂取量はいずれの食事に関しても、血圧との有意な関連がなかった。

     このほか、昼食の食物繊維と血圧との有意な負の相関なども認められた(β=-0.048、P=0.026)。食事と一緒に飲むアルコールの摂取量については、3食どのタイミングであっても、血圧との有意な関連がないことも分かった。

     著者らは、「本研究の対象がモバイルアプリユーザーに限られているため、結果の一般化には追試が必要」と解釈上の限界点を挙げた上で、「ナトリウムやカリウムなどの特定の栄養素を摂取するタイミングを変更することで、高血圧発症を抑制できる可能性がある」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年5月16日
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  • 心臓の病気が緑内障のリスク?――日本人での横断研究

     徐脈や心房細動などの不整脈、および左室肥大といった循環器系の病気が、緑内障のリスク因子であることを示唆するデータが報告された。JCHO三島総合病院眼科の鈴木幸久氏らの研究結果であり、詳細は「Biomedicines」に3月15日掲載された。

     緑内障は眼圧(眼球内の内圧)が高いために、視神経が障害されて視野が狭くなる病気。緑内障の中でも患者数が多い開放隅角緑内障は、緑内障発作(眼圧が急上昇し、失明回避のため緊急治療が必要となる状態)は起きにくいものの、徐々に視野狭窄が進むタイプであり、眼圧を下げる点眼薬による治療を継続する。しかし、眼圧を十分に下げても視野狭窄が進んでしまうことがあり、眼圧以外のリスク因子もあると考えられている。

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     開放隅角緑内障による視野狭窄にかかわる眼圧以外のリスク因子として、これまでの研究から、心房細動や低血圧などの循環器疾患の影響が想定されている。ただし、不明点が多く残されている。鈴木氏らはこの点に関する詳細な検討を行った。

     研究対象は、開放隅角緑内障患者581人(平均年齢71.6±10.2歳、男性49.1%)、および緑内障でなく、年齢と男女比が同等の比較対照群595人。無治療時の眼圧は緑内障群が右15.7/左15.9mmHg、対照群が12.6/12.7mmHgで、緑内障群の方が有意に高かった。

     緑内障の発症との関連を検討した項目は、高血圧(140/90mmHg以上)と低血圧(100/60mmHg未満)、および心電図異常。また、緑内障の重症度とそれらの関連も検討した。

     高血圧の有病率は、緑内障群34.3%、対照群29.4%で前者に多く(P=0.0005)、低血圧は同順に8.8%、11.8%であり後者に多かった(P=0.0008)。また心電図異常は41.3%、30.9%であり、前者に多かった(P=0.02)。心電図所見のうち、虚血性変化や心房細動、左室肥大、ST-T異常、期外収縮は緑内障群に有意に多く、QT延長、異常Q波、脚ブロックなどには有意差がなかった。また、緑内障群の4.8%、対照群の3.2%に徐脈が見られ、前者に多かったが、群間差は有意水準に至らなかった(P=0.08)。

     ロジスティック回帰分析の結果、緑内障の発症に関連する因子として眼圧〔オッズ比(OR)1.43(95%信頼区間1.36~1.51)〕のほかに、左室肥大〔OR2.21(同1.15~4.25)〕、徐脈〔OR2.19(同1.25~4.70)〕、心房細動〔OR2.02(同1.01~4.04)〕が抽出された。年齢や高血圧および低血圧などは、有意な関連因子ではなかった。

     緑内障の重症度(視野検査のMD値)と関連のある因子としては、年齢〔t=-6.22(同-0.15~-0.08)〕、眼圧〔t=-6.47(同-0.42~-0.23)〕、左室肥大〔t=-2.15(同-3.36~-0.29)〕という3つが抽出された。

     これらの結果から著者らは、「眼圧だけでなく、循環器疾患が緑内障の発症と重症度に関連があると推測される」と結論付けている。また、緑内障点眼薬として使用されるβ遮断薬は心拍数を減少させる作用があり、徐脈を持つ患者には禁忌である。徐脈は緑内障発症のリスク因子であるだけでなく、緑内障患者の4.8%に徐脈が見られたことから、「眼圧管理のための点眼薬としてβ遮断薬を処方する際には、心電図検査の施行や心拍数の確認が必要とされる」と述べている。

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    HealthDay News 2022年5月16日
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