• 慢性腎臓病+睡眠時無呼吸で死亡リスク上昇――国内医療費請求データの解析

     慢性腎臓病(CKD)に睡眠時無呼吸症候群(SAS)を併発している場合、死亡や心血管疾患などのリスクが有意に高いことを示すデータが報告された。名古屋大学医学部附属病院腎臓内科の田中章仁氏らが、国内医療機関の医療費請求データを解析した結果であり、詳細は「Frontiers in Medicine」に5月31日掲載された。SASに対して持続陽圧呼吸療法(CPAP)を行っているCKD患者では、リスク上昇が見られないことも分かった。

     CKD患者はSAS有病率が高いことが知られているが、両者の併発が予後へどの程度の影響を及ぼすかは明らかでなく、またSASに対してCPAP治療を行った場合に予後が改善するのか否かも不明。そこで田中氏らは、国内449病院の医療費請求データベースを用いて、この点の解析を行った。

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     2008年4月~2021年8月にCKDとして治療が行われたと考えられる92万4,238人から、年齢が20歳以上で血清クレアチニンが2回以上測定され1年以上の追跡が可能であり、ベースライン時に腎代替療法(透析療法、腎移植)を受けていない3万2,320人を解析対象とした。このうち1,026人(3.2%)がSASを併発していた。

     傾向スコアを用いて、年齢、性別、eGFR、ヘモグロビン、高血圧・糖尿病・心不全・心房細動・心房粗動の既往などをマッチさせ、SAS併発群と非併発群それぞれ940人からなるデータセットを作成。この両群を比較すると、アルブミン(3.76対3.87mg/dL)や総蛋白(6.83対6.94mg/dL)、およびカリウム(4.40対4.46mEq/L)はSAS併発群で有意に低値だったが、その他の臨床検査値やCKD病期(KDIGOステージ)、併発疾患有病率などは有意差がなかった。

     主要評価項目を、死亡、腎代替療法の開始、心不全・虚血性心疾患・脳卒中による入院で構成される複合エンドポイントとして、カプランマイヤー法で経過を比較すると、SAS併発群はイベント非発生率が有意に低値で推移していた。ただし、SAS併発群の35%に当たるCPAP施行群(330人)では、イベント非発生率がSAS非併発群と同レベルで推移していた。

     SAS非併発群を基準にイベント発生リスクを比較すると、未調整モデルではハザード比(HR)1.26(95%信頼区間1.10~1.45)であり、交絡因子(年齢、性別、eGFR、アルブミン、カリウム)を調整後にもHR1.25(同1.08~1.45)と、SAS併発群は有意にハイリスクであることが示された。

     次に、SAS併発群をCPAP施行の有無で二分して検討すると、CPAPを施行していない群では、未調整モデル〔HR1.42(1.22~1.65)〕、交絡因子調整モデル〔HR1.32(1.12~1.55)〕ともに、有意なリスク上昇が認められた。一方、CPAP施行群では、未調整モデル〔HR1.00(0.84~1.23)〕、交絡因子調整モデル〔HR0.96(0.76~1.22)〕であり、イベント発生リスクはSAS非併発群と同等であることが明らかになった。

     このほか、eGFRの低下速度を比較すると、有意差はないながらもSAS併発群で速く、特にCPAPを施行していない群で速いことが分かった(SAS非併発群は-1.7±5.7/分/1.73m2/年、SAS併発CPAP施行群は-2.0±4.7/分/1.73m2/年、SAS併発CPAP非施行群は-2.2±5.1/分/1.73m2/年)。

     著者らは、本研究が医療費請求データの解析であるため、SASの重症度を含めて詳細な患者背景が不明であることを限界点として挙げた上で、「SASを併発しているCKD患者は予後不良となりやすく、CPAP治療が予後を改善する可能性がある」と結論付けている。それらのメカニズムとしては、CKDによる体液貯留傾向とSASによる上気道の狭窄がともに心不全などの心血管イベントリスクを押し上げ、それに対してCPAPはSASとともに心不全を改善するように働くのではないかとの考察を加えている。

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    HealthDay News 2022年8月22日
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  • DAA治療後の肝がんリスクはIFN治療後と同等――国内勤労世代の患者での検討

     C型肝炎に対して直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療によって持続性ウイルス学的著効(SVR)を達成した患者の肝細胞がん(HCC)リスクは、インターフェロン(IFN)ベースの治療でSVRを達成した患者と同レベルに抑制されることが明らかになった。関西労災病院消化器内科の萩原秀紀氏らが、勤労世代の患者の医療記録を後方視的に解析した結果であり、詳細は「JGH Open」に5月18日掲載された。SVR達成後のHCC発症に、糖尿病やアルブミン低値などが有意に関連していることも分かった。

     C型肝炎の治療にはかつてIFNが軸として用いられていたが、治療期間が長く奏効率も高くなかった。これに対して近年はIFNを用いないDAAによる治療が普及し、短期間で100%近い奏効率を得られるようになっている。しかし、C型肝炎を有する勤労世代の日本人患者がDAA治療によりSVRを達成した場合に、HCCリスクがどの程度抑制されるかはまだ十分明らかになっていない。萩原氏らは、同院や大阪大学病院など27の医療機関が参加している「Osaka Liver Forum」のコホート研究データを解析し、この点を検討した。

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     同コホート研究の登録者の中から、SVRを達成した20~64歳のC型肝炎患者2,579人を解析対象とした。C型肝炎以外の肝炎患者や非代償性肝硬変患者、データ欠落者は除外されている。なお、肝硬変を来している患者は3~4カ月ごと、そうでない患者は半年ごとに経過観察が続けられた。

     2,579人のうち1,615人はIFNベースの治療、964人はDAA治療が行われていた。両群のベースライン(治療開始前)データを比較すると、DAA群はIFN群より高齢で糖尿病有病率が高く、肝線維化が進行していた。また、血小板数、ビリルビン、AST、ALT、α-フェトプロテイン(AFP)はDAA群の方が有意に低く、アルブミンはDAA群が有意に高かった。SVR後4年間のHCC累積発症率は、IFN群1.8%、DAA群3.4%でIFN群の方が有意に低かった(P=0.044)。

     次に、傾向スコアを用いて、年齢、性別、BMI、FIB-4インデックス、糖尿病、血小板、ビリルビン、AST、ALT、アルブミン、AFPをマッチさせ、各群644人のデータセットを作成して比較。IFN群はSVR後51.0カ月(中央値)の追跡で9人、DAA群は35.7カ月の追跡で11人がHCCを発症していた。SVR後4年間のHCC累積発症率は、IFN群1.6%、DAA群2.8%で群間差は非有意となった(P=0.186)。

     DAA群でHCC発症に関連する因子を検討すると、単変量解析では、高齢、FIB-4インデックス高値、糖尿病、血小板・アルブミン低値、ビリルビン・ALT・AFP高値などが有意に関連していた。これらを独立変数とする多変量解析の結果、高齢〔1歳あたりのハザード比(HR)1.139(95%信頼区間1.036~1.253)〕、糖尿病〔HR3.4(同1.266~9.132)〕、治療終了後24週(SVR24)のAFP高値〔1ng/mLあたりHR1.273(同1.186~1.365)〕が独立した正の関連因子、SVR24のアルブミン高値〔1g/dLあたりHR0.218(同0.070~0.683)〕が独立した負の関連因子として抽出された。

     ROC解析の結果、DAA群でのHCC発症予測のための最適なカットオフ値は、年齢は61歳(感度60.0%、特異度74.8%、AUC0.714)、SVR24のアルブミンは4.0g/dL(感度60.0%、特異度90.6%、AUC0.711)、SVR24のAFPは4.1ng/mL(感度85.0%、特異度69.5%、AUC0.812)であることが分かった。

     以上より著者らは、「C型肝炎に対しDAA治療によりSVRを達成した国内の勤労世代の患者におけるHCC発症率は、IFNベースの治療を受けた場合と同程度に抑制されていることが示された。一方、高齢であることや糖尿病、SVR24のアルブミン低値やAFP高値は、SVR後のHCC発症リスクと関連していた。これらのリスク因子を持つ日本人勤労世代の患者では、DAA治療によるSVR達成後も、より厳格なフォローアップが必要と考えられる」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年8月22日
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