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8月 31 2022 覚醒剤使用受刑者の4人に3人は小児期に逆境体験があり、希死念慮と関連
国内の覚醒剤使用による受刑者600人以上を対象とする調査から、小児期に逆境を体験している者の割合が高く、そのことが希死念慮や非自殺性の自傷行為のリスクの高さと関連していることが明らかになった。お茶の水女子大学生活科学部心理学科の高橋哲氏らの研究によるもので、詳細は「Child Abuse & Neglect」9月号に掲載された。
小児期の逆境体験(adverse childhood experience;ACE)が、成人後の薬物使用リスクに関連のあることが報告されている。あらゆる犯罪の中で薬物使用は最も再犯率が高く、受刑者に対する治療介入に改善の余地がある可能性が指摘されている。一方、ACEは成人後の希死念慮や非自殺性の自傷行為(non-suicidal self-injury;NSSI)のリスクとも関連があり、また受刑者が釈放された後の主要な死因の一つが自殺であることも知られている。ただし、これらの関連は主として海外での研究から報告されたもので、国内での実態は不明点が多い。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。このような背景のもと、高橋氏らは法務省法務総合研究所と国立精神・神経医療研究センター薬物依存部が共同で行った薬物使用犯罪者を対象とする調査のデータを用いた解析を行った。解析対象は、2017年7~11月に覚醒剤(メタンフェタミン)使用により全国78カ所(医療刑務所以外)の刑務所に入所した受刑者のうち、調査への参加拒否者や回答に不備のあった者を除外した636人。
質問票により、18歳以前のACE体験の有無を調査。家庭機能に関する7項目(保護者の飲酒、薬物乱用、精神疾患、死別や離婚、受刑、家庭内暴力など)と、虐待に関する5項目(身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクトなど)、計12項目を把握し、0~12点にスコア化して評価した。また、希死念慮およびNSSIの有無を把握した。NSSIについては、「自殺するつもりがなく、故意に自傷行為をしたことがあるか」との質問への回答で判断した。
解析対象者は、平均年齢43.4±10.0歳、男性65.7%、累犯者73.7%であり、性別での比較からは、男性の方が高齢で未婚者が多く、累犯者率が高いという有意差が見られた。全体の4人に3人以上(76.1%)に一つ以上のACE体験が認められ、半数以上(54.1%)は複数のACE体験を報告していた。なお、先行研究によると、国内の一般人口のACE体験を有する割合は32%、世界21カ国の平均は38%とされており、今回の研究ではそれらよりもはるかに高い値が示された。
ACEスコアは平均2.45±2.36で、女性(3.26±2.56)は男性(2.03±2.14)より有意に高値だった(P<0.01)。最も多く認められたACEは、親との死別または離婚であり、53.5%が該当した。希死念慮は28.9%(男性20.3%、女性45.4%)、NSSIは19.3%(男性8.1%、女性40.8%)が有しており、女性においてそれらの割合が高かった(いずれもP<0.001)。
希死念慮を目的変数、年齢、性別、過去の受刑回数、ACEスコアを説明変数とするロジスティック回帰分析の結果、女性〔調整オッズ比(aOR)2.84(95%信頼区間1.94~4.16)〕、ACEスコア〔aOR1.18(同1.09~1.27)〕が、それぞれ独立して希死念慮を有することに関連していることが分かった。また、NSSIについては、女性〔aOR6.96(同4.39~11.18)〕とACEスコア〔aOR1.18(同1.08~1.28)〕が有意な正の関連因子、年齢〔aOR0.96(同0.93~0.99)〕が有意な負の関連因子として特定された。希死念慮とNSSIを統合した解析では、女性〔aOR5.84(同3.36~10.17)〕とACEスコア〔aOR1.21(同1.10~1.34)〕が有意な関連因子だった。
著者らは、「われわれの研究結果は、トラウマ体験に対する早期の予防と介入の重要性を示唆している。また、世代間の虐待の連鎖を断ち切るために、特に女性受刑者に対してジェンダーの特性を考慮した介入が必要と考えられる」と述べている。さらに、「現在、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによりメンタルヘルス関連の問題が増加しており、違法薬物使用の潜在的なリスクが高まっているため、この問題への対策が急がれる」とも付け加えている。
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8月 31 2022 メタボ構成因子該当数とがん死リスクに有意な関連――J-MICC研究
日本人のメタボリックシンドローム(MetS)とがん死との関係を解析した研究結果が報告された。徳島大学大学院医歯薬学研究部医科学部門社会医学系予防医学分野の有澤孝吉氏らの研究によるもので、日本の診断基準でのMetS該当者はがん死リスクが高く、またMetSの構成因子を多く有している人ほどそのリスクが高いことが分かった。詳細は「PLOS ONE」に7月8日掲載された。
MetSは心血管疾患ハイリスク状態を早期に検出するために定義された症候群だが、がんリスク上昇とも関係のあることが示唆されている。ただし、MetSと日本人のがん死との関連についてのこれまでの研究結果は一貫性がない。有澤氏らは、国内多施設共同コホート研究「J-MICC研究」のデータを用いてこの点を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。J-MICC研究は、日本人の生活習慣病リスクの解明を目的として2005年から14カ所で継続されている前向きコホート研究。この参加者のうち、ベースライン時点でがん・脳心血管疾患の既往のある人や解析に必要なデータが欠落している人を除外し、2万8,554人(男性49.4%)を解析対象とした。MetSの判定には、米国コレステロール教育プログラム治療パネルIII(NCEP ATP III)の基準を用い、腹囲長の代わりに肥満の判定基準であるBMI25以上を使用した。また、日本肥満学会(JASSO)によるMetSの判定基準のうち、腹囲長高値をBMI25以上に置き換えた場合での検討も加えた。
MetS該当者はNCEP ATP III基準で16.5%、JASSO基準では8.9%だった。平均6.9年間の追跡で396人が死亡し、そのうち192人ががん死だった。
がん死リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、閉経前/後、喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴など)を調整後、NCEP ATP III基準でのMetSに該当することは、がん死リスクと有意な関連が見られなかった〔ハザード比(HR)1.09(95%信頼区間0.78~1.53)〕。MetSの構成因子別にがん死リスクとの関連を検討すると、高血糖(空腹時100mg/dL以上)のみが有意であり〔HR1.41(同1.05~1.89)〕、肥満、血圧高値、中性脂肪高値、HDL-コレステロール低値は有意な関連がなかった。
一方、JASSO基準でMetSに該当することは、がん死リスクの上昇と有意な関連があった〔HR1.51(1.04~2.21)〕。MetSの構成因子別にがん死リスクとの関連を検討すると、やはり高血糖(空腹時110mg/dL以上)のみが有意であり〔HR1.74(1.27~2.39)〕、他の因子は有意な関連がなかった。
次に、MetS構成因子の数とがん死リスクの関連を検討した結果、NCEP ATP III基準ではわずかに非有意だった(傾向性P=0.06)。一方、JASSO基準では該当する因子数が多いほどがん死リスクが高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.01)。より具体的には、該当因子がない場合に比べて、該当因子数が2項目でHR1.65(1.06~2.56)、3項目以上ではHR1.79(1.11~2.89)だった。
続いて、非肥満でMetS構成因子のない群、非肥満でMetS構成因子が一つ以上該当する群、肥満ながらBMI高値以外のMetS構成因子のない群、肥満でBMI高値以外のMetS構成因子が一つ以上該当する群という4群に分け、がん死リスクを比較検討した。その結果、NCEP ATP III基準で分類した場合と、JASSO基準で分類した場合ともに、肥満でBMI高値以外のMetS構成因子が一つ以上該当する群でのみ、有意なリスク上昇が認められた〔非肥満でMetS構成因子のない群に比較して、NCEP ATP III基準での比較ではHR1.76(1.10~2.80)、JASSO基準ではHR1.69(1.09~2.63)〕。
このほか、JASSO基準でのMetS該当者で見られたがん死リスクの上昇を、がんの部位別に検討すると、胃、大腸、肝臓、膵臓のがんによる死亡でハザード比が1を上回っていたが、有意なリスク上昇は大腸がんでのみ認められた〔HR2.95(1.04~8.40)〕。
まとめると、日本のMetS基準の腹囲長をBMIに置き換えた基準でMetSに該当する場合、がん死の有意なリスク上昇が認められ、かつMetS構成因子の該当数が多いほどそのリスクが高かった。特に高血糖ががん死リスクの上昇と関連していた。また、肥満かつMetS構成因子を有する「代謝的に不健康な肥満」でがん死リスクが高いことも明らかになった。
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肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。