• 85歳以上で身体活動量が多い人の食習慣――慶大TOOTH研究

     85歳以上の日本人500人以上を対象に、食事の傾向や身体活動習慣を調査した結果が報告された。高齢者の食習慣の特徴が浮かび上がるとともに、多くの植物性食品を取っている人はそうでない人よりも身体活動量が有意に多いことなどが明らかになった。慶應義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科の小熊祐子氏、於タオ氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に7月17日掲載された。

     質の高い食生活や活発な身体活動が健康の維持・増進につながることは広く知られている。ただし、それら両者の相互関係は十分研究されておらず、また、食事や身体活動に関するこれまでの研究の多くは、非高齢者または高齢者の中でも比較的若い世代を対象に行われてきている。こうした中、同大学百寿総合研究センターの新井康通氏らは、85歳以上の高齢者の健康に関する包括的研究「TOOTH(The Tokyo Oldest Old Survey on Total Health)研究」を実施している。小熊氏らは、このTOOTH研究の参加者のベースラインデータを用いて、85歳以上の日本人の食習慣の特徴を探るとともに、身体活動量と関連のある食事パターンの特定を試みた。

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     TOOTH研究の参加者は、2008~2009年に同大学病院から6km以内に居住する85歳以上の住民から無作為に抽出され、研究参加に同意した542人が登録された。このうち、データ欠落のない519人を今回の研究の解析対象とした。年齢は中央値87.3歳、男性42.2%、BMI21.4、独居者33.9%であり、MMSE(認知機能の指標)は中央値27(四分位範囲25~29)、バーゼル指数〔日常生活動作(ADL)の指標〕は同100(95~100)であって、認知機能や身体機能が維持されている人が大半を占めていた。

     登録時に行った、過去1カ月間での日常的な食品の摂取に関するアンケートの回答を基に、主成分分析という方法で特徴的なパターンを検討。その結果、緑黄色野菜などの多様な植物性食品、魚ときのこ、ご飯とみそ汁という3つの食品群の摂取割合の多寡により、食習慣を特徴付けられることが分かった。

     1つ目の多様な植物性食品を特徴とする食事パターンの主成分得点(主成分分析で得られるスコアで-1~1の範囲で表し、1に近いほどその食事パターンへの傾向が高いことを意味する)の中央値で二分し、栄養素摂取量を比較。すると、植物性食品の摂取割合の高い群は低い群に比べて、タンパク質、脂質、食物繊維、および大半の微量栄養素(ビタミンとミネラル)の摂取量が多く、炭水化物の摂取量は少なかった。2つ目の魚ときのこの摂取割合の多寡で二分した比較も、それとほぼ同様の結果だった。3つ目の食事パターン(ご飯とみそ汁)の主成分得点の中央値で二分した比較では、タンパク質と炭水化物の摂取量は有意差がなく、脂質の摂取量はご飯・みそ汁の摂取割合が高い群の方が有意に少なかった。

     次に、これら3つの違いで特徴付けられる食事パターンと、身体活動量との関連を検討。その結果、多様な植物性食品の摂取割合が高い群は低い群に比べて、ウォーキング、および、エクササイズ(筋力トレーニングや柔軟体操)による運動量(メッツ×時間)が多く、PAI(身体活動量の指標)が高いという有意差が認められた。また、2つ目の食事パターン(魚ときのこ)の高傾向群は低傾向群に比較し、エクササイズによる運動量が多いという有意差が認められたが、ウォーキングによる運動量やPAIには有意差がなかった。3つ目の食事パターンの低/高傾向群の比較では、ウォーキングやエクササイズでの運動量、PAIのいずれにも有意差がなかった。

     続いて、年齢、性別、BMI、ADL、MMSE、喫煙習慣、教育歴、就労・経済状況、糖尿病・高血圧・脂質異常症・腎臓病・心臓病・がんの既往を調整後、食事パターンと身体活動との関連を検討した。すると、多様な植物性食品を特徴とする食事パターンへの傾向と、エクササイズによる運動量〔偏回帰係数(B)=0.64(95%信頼区間0.02~1.25)、P=0.04〕、およびPAI〔B=1.41(同0.33~2.48)、P=0.01〕との間に、有意な正の関連が認められた。

     著者らは本研究を、「85歳以上の高齢者集団で食事パターンと身体活動量との関連を検討した初の研究」としている。限界点として、研究参加者が都心部に居住し、かつ外出可能な身体機能が維持されている人に限られていること、横断研究のため因果関係には言及できないことなどを挙げた上で、「85歳以上であっても、より健康的な食習慣が身体活動量の多さと関連していることが示唆された」と結論をまとめている。

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  • 心血管疾患リスクが高くても身体活動量が多い高齢者は脳体積が大きい

     高齢者では身体活動量が多いほど脳の体積が大きく、心血管疾患リスクの高い集団においてもその関連が見られたとするデータが報告された。国立長寿医療研究センター予防老年学研究部の牧野圭太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に7月13日掲載された。

     中~高強度の身体活動が認知機能に対して保護的に働くことは複数の研究で示されている。ただし、高齢な人々や心血管疾患リスクが高い人々は、中~高強度の身体活動が困難であることも少なくないため、低強度の身体活動の有益性に関するエビデンスが求められている。そこで牧野氏らは、認知機能と密接に関連する脳の体積を指標として、強度別の身体活動量との関連を検討した。

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     同研究センターが行っている地域住民対象のコホート研究(NCGG-SGS)の参加者の中で、MRI検査によって脳体積が計測されている、愛知県高浜市の60歳以上の一般住民1,220人のデータを対象に横断的な検討を行った。この対象者のうち、認知症や精神神経疾患、心血管疾患の病歴を持つ人、重度の認知機能低下者(MMSEと呼ばれる検査の得点が21点未満)、要支援/介護認定者、および解析に必要なデータが欠損している人などを除外し、725人(平均年齢69.6±6.0歳、女性52.3%)を解析対象とした。就寝と入浴時以外は加速度計を身に着けて生活してもらい、日常生活における身体活動の強度と時間を把握。また脳体積は、皮質灰白質、皮質下灰白質、大脳白質と呼ばれる、3つの部位で評価した。

     まず、世界保健機関(WHO)の心血管疾患リスク予測チャートに則して、対象者を低リスク群(向こう10年間の心血管イベントリスクが9%以下)222人、中リスク群(同10~14%)269人、高リスク群(同15%以上)234人に分類して脳体積を比較。その結果、3つの部位の全てにおいて、低リスク群に比較し中リスク群と高リスク群は体積が小さく、かつ大脳白質については、中リスク群より高リスク群の方が小さいという有意差が認められた。

     次に、加速度計の記録に基づき、中~高強度身体活動と低強度身体活動それぞれの1日あたりの平均時間を四分位で4つのレベルに分類し、交絡因子(年齢、性別、教育歴、頭蓋内容積)を調整したうえで、脳体積との関連を検討。すると、中~高強度身体活動の時間が長いほど、皮質灰白質(傾向性P=0.041)や大脳白質(同0.021)の体積が大きいという有意な関係が認められ、さらに大脳白質に関しては、低強度身体活動の時間が長いほど体積が大きいという関係も確認された(同0.009)。

     続いて、前記の心血管疾患リスクの高低で対象者を3群に分類したそれぞれの群で、身体活動量と脳体積との関連を検討したところ、低リスクや中リスクの群では、中~高強度身体活動、低強度身体活動ともに脳体積との有意な関連が見られなかった。それに対して高リスク群では、中~高強度身体活動の時間が長いほど大脳白質の体積が大きいばかりでなく(同0.045)、低強度身体活動の時間が長いほど大脳白質の体積が大きいという有意な関連が認められた(同0.015)。

     まとめると、地域在住高齢者では強度にかかわらず身体活動量が多いほど大脳白質の体積が大きいことが明らかになった。心血管疾患リスクで層別化すると、ハイリスク集団では中~高強度身体活動だけでなく低強度身体活動についても、大脳白質との関係が有意だった。著者らは、本研究の限界点として、横断研究であり因果関係には言及できないこと、アルツハイマー病の既知のリスク因子であるApoE4などの影響を評価していないことなどを挙げた上で、「心血管リスクが高い高齢者では低強度の身体活動が、脳の老化抑制のための実行可能性の高い介入戦略となり得るのではないか」と述べている。

     なお、身体活動と脳体積との関連の機序としては、身体活動が神経栄養因子の放出を誘導したり炎症を抑制したりすることを介して、神経変性を防ぐように働くのではないかとしている。また、心血管リスクの高い群で身体活動と大脳白質の関連が有意だったことに関しては、そのような集団では白質病変が進行していたり、心血管リスク因子が炎症を亢進させているケースが多いことから、その分、身体活動による恩恵を受けやすく、両者の関連性が強調された可能性があると考察している。

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  • 自分の歩行速度は速いと感じる人は心不全リスクが低い

     非高齢者の主観的な歩行速度が、心不全発症や心血管疾患の初回イベントのリスク判定に有用とする研究結果が報告された。同世代の他者よりも歩行速度が速いと感じている人は、交絡因子を調整後にも有意にリスクが低いという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に7月8日掲載された。

     歩行速度が心不全などの予後と関連があることは既に知られている。ただしその関連を示した研究の多くは、心不全や心血管疾患を発症後の患者または高齢者を対象に行われており、一次予防の対象である非高齢者での知見はほとんどない。さらに、正確な歩行速度の判定には時間やコストの負担が少なくない。現在、心不全患者が急増していて一次予防の重要性が高まる中、非高齢者集団を対象に簡便にリスクを評価できるツールが求められている。

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     金子氏らは、60以上の保険団体の健診および医療費請求データを用いて、主観的な歩行速度と心不全発症や心血管疾患イベント発生との関連を検討した。2005年1月~2020年4月の医療費請求データベースから、心不全・心筋梗塞・狭心症・脳卒中・腎不全の既往者、年齢20歳未満、および解析に必要なデータの欠落者を除外した265万5,359人〔年齢中央値45歳(四分位範囲38~53)、男性55.3%〕を対象とした。主観的な歩行速度は、健康診断の際の「同世代の他者より歩行速度が速いと思うか?」との質問で判定。この質問に対して46.1%が「はい」と答えていた。

     平均1,180±906日の追跡期間中に、5万991人(1.9%)において心不全の診断が記録された。年齢、性別、喫煙・運動習慣、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症で調整後、歩行速度が速い群は遅い群よりも心不全発症リスクが9%有意に低いことが示された〔ハザード比(HR)0.91(95%信頼区間0.90~0.93)〕。同様に、心筋梗塞〔HR0.90(同0.86~0.95)〕、狭心症〔HR0.94(0.92~0.95)〕、脳卒中〔HR0.94(0.92~0.96)〕のいずれについても、歩行速度が速い群の方が有意に低リスクだった。

     感度分析として実施した、歩行速度に影響を及ぼす可能性のある末梢動脈疾患の既往を調整因子に加えた解析や、追跡期間が1年以上の対象者に絞り込んだ解析でも、同様の結果が得られた。なお、年齢や性別、併存疾患の有無などでの層別解析の結果、高血圧や糖尿病を有する場合、歩行速度が速い群での心不全リスクがより低いという、有意な交互作用が認められた。

     以上を基に論文には、「主観的な歩行速度の速さは、一般人口における心不全や心血管イベントリスクの低さと関連していることが示された。一次予防を目的としたスクリーニングに主観的な歩行速度が有効である可能性がある」と述べられている。なお、歩行速度と心不全などとの関連のメカニズムに関しては、歩行速度が全身の身体機能の指標という側面があり、骨格筋量や筋力も歩行速度に反映されることや、炎症や酸化ストレスと歩行速度が相関するという報告があるとし、それらが疾患リスクの高低として現れる可能性を指摘している。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報

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  • 単回の中強度運動は腎血流量や腎機能を低下させない

     単回の中強度運動は腎血流量や腎機能に影響を及ぼさないことを示すデータが報告された。福岡大学スポーツ科学部の川上翔太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Physiological Reports」に8月4日掲載された。

     運動による代謝性疾患や心血管疾患などに対する予防・治療上のメリットは、既に強固なエビデンスで裏付けられている。ただし、運動によって筋肉への血流が増えて腎血流量が低下したり、運動後に尿蛋白が陽性になったりすることから、腎臓病の治療において運動はあまり強く推奨されず、むしろ運動を控える指導が行われることがあった。一方で、近年の研究で運動は慢性腎臓病(CKD)患者の蛋白尿を悪化させない可能性が報告されており、運動がCKD患者に対する治療の選択肢となり得る。しかしながら、CKD患者にとって安全で効果的な運動条件は整備されておらず、運動療法の基準を確立する必要性が高まっている。

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     他方、中強度の運動では腎機能への影響は少ない可能性を示す知見も徐々に蓄積されてきている。ただし、運動による腎臓への影響を、腎血流量と腎障害のバイオマーカーとにより総合的に検討した研究結果はこれまで報告されていない。川上氏らの研究はこのような背景の下で実施され、中強度運動の前から運動後の回復期間にかけて、超音波検査による腎血流量の変化を把握するとともに、クレアチニン、シスタチンC(腎機能マーカー)、アルブミン、KIM-1、L-FABP(腎障害マーカー)などの複数のバイオマーカーにより腎臓への負荷を検討した。

     研究参加者は、8人の健康な男性で、平均年齢38±8歳、BMI22.1±3.1kg/m2、eGFR79±6mL/分/1.73m2、VO2peak33.9±6.4mL/kg/分、乳酸閾値強度(血中の乳酸濃度が顕著に上昇し始める運動強度)60±18watts。自転車エルゴメーターによって乳酸閾値の強度で30分間の有酸素運動を実施した。運動前、運動直後、運動後30分、60分に採血・採尿と超音波検査を施行した(採尿は運動30分後を除く)。水分は自由に摂取可能とした。なお、サンプルサイズは既報研究に基づいて設定され、統計学的に適切と判断された。

     検討の結果、腎血流量については安静時が319±102mL/分、運動直後が308±79mL/分であり有意な変化がなく、回復期間も有意な変化を示さなかった(P=0.976)。また、アルブミンやクレアチニン、シスタチンC、KIM-1など、測定したバイオマーカーは全て、運動前から運動後60分までの回復期間にかけて、腎臓のダメージの発生を示唆する有意な変化を示さなかった。つまり、単回の中強度有酸素運動は腎血流量を変化させず、腎障害を起こさず、腎機能に影響を与えないと考えられた。

     一方、著者らは本研究には、研究対象が少数の腎機能正常者であること、環境温度が管理されている実験室内で水分摂取可という条件下での試験のため、発汗と脱水によって腎機能へ影響が生じる可能性を否定することはできないことなどの限界点があるとして、「異なる被検者や条件での追試が必要」と述べている。その上で、「中強度の運動は、腎血流量を低下させずに腎障害バイオマーカーの変化も生じさせないという新たな知見を得られた。この研究結果は、腎機能低下を防ぐための効果的な運動プログラムの確立に向けた、基礎データとなり得る」と結論付けている。

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    糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。

    糖尿病性腎症リスクを体の症状からセルフチェック!

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  • 高強度運動中は眼圧が低下する

     高強度の運動を行っている最中は眼圧が有意に低下するというデータが報告された。東都大学幕張ヒューマンケア学部理学療法学科の河江敏広氏らの研究によるもので、詳細は「Healthcare」に6月26日掲載された。低~中強度運動では有意な変化はなく、また高強度運動でも、負荷終了後の回復期間中の眼圧は負荷前と有意差がないという。

     血管新生緑内障や増殖糖尿病網膜症では、血圧や眼圧の変化が病状に影響を及ぼす可能性が指摘されている。一方、運動の習慣的な継続は血圧を下げるように働くが、運動の最中の血圧は上昇することが知られており、網膜の状態が不安定な場合、激しい運動を控えた方が良い場合もある。

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     他方、眼圧の変化も網膜や視神経に影響を及ぼす可能性があるが、運動中の眼圧の変化はほとんど検討されていない。数少ない既報研究の中には、中強度の有酸素運動によって眼圧が低下したとする報告がある一方、1RM(1回だけ実施可能な最大負荷量)の80%の負荷で4回のウエートリフティング後に眼圧が上昇したとする報告があり、結果に一貫性が見られない。河江氏らは、運動強度によって眼圧への影響が異なる可能性を想定して本研究を行った。

     研究対象は、眼疾患、心血管疾患、筋骨格系疾患などのない健康な18人の男性(平均年齢24.6±2.7歳、BMI21.2±1.1)。全員が非喫煙者であり、眼圧は10~21mmHgの範囲であることを適格条件とした。最大酸素摂取量(VO2max)は平均53.4±8.0mL/kg/分だった。

     運動の負荷には自転車エルゴメーターを用いた。運動強度を、VO2maxの30%(低強度)、50%(中強度)、70%(高強度)とする3条件とし、それを全員に試行。各条件の試行には少なくとも1日以上の間隔を設け、また眼圧の日内変動に配慮して全条件の試行を19時から開始した。運動負荷前と、20分間の運動中の5分ごと、および回復段階(負荷終了の3分後)に眼圧を測定。また、全身への血液供給を反映するとされる平均血圧を、収縮期血圧と拡張期血圧測定の結果から算出した。運動中は呼気ガスのモニタリングにより、運動強度を一定に維持した。

     検討の結果、3条件いずれの強度でも、運動中の酸素摂取量は安静時に比べて有意に上昇していた。眼圧については、VO2maxの30%と50%の条件では、運動中および回復段階でも、負荷前の安静時と有意な変化がなかった。それに対してVO2maxの70%という高強度の負荷をかけた時の眼圧は以下のように、運動中は安静時より有意な低値を示し(すべての時点でP<0.05)、回復段階では有意差が消失した。安静時14.2±2.6、負荷開始5分後12.4±2.8、10分後11.5±2.68、15分後11.5±2.58、20分後11.6±2.88、回復段階13.1±2.3(単位はmmHg)。

     平均血圧については、VO2maxの30%と50%の条件では眼圧と同様に、運動負荷中および回復段階でも負荷前の安静時と有意差がなかった。VO2maxの70%では以下に記すように、運動中に安静時より有意な高値を示し(すべての時点でP<0.05)、回復段階には有意差が消失した。安静時の平均血圧は94.3±10.4、負荷開始5分後は110.0±12.4、10分後103.3±9.9、15分後102.2±7.5、20分後100.3±7.1、回復段階94.1±11.2(単位はmmHg)。

     また、酸素摂取量が高いほど眼圧が低いという、有意な負の相関が認められた(r=-0.15、P=0.026)。一方、酸素摂取量と平均血圧の関連は非有意だった(P=0.193)。

     以上の結果を基に著者らは、「健康な男性では、高強度の有酸素運動中に眼圧が有意に低下するが、低~中強度の運動では有意な変化は生じない」と結論付け、「健康な男性以外を含む多様な集団での追試が求められる」と述べている。また、眼圧降下薬の一種であるβ遮断薬は交感神経の働きを抑制し房水(眼球内の水分)の産生を抑えることで眼圧を下げるが、運動中には交感神経が亢進するにもかかわらず高強度運動で眼圧が低下したことから、「高強度運動による眼圧低下は、交感神経系とは異なる経路に対する機序で生ずるのではないか」との考察を加えている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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  • 好中球とリンパ球の比が男性のうつ症状と関連

     一般的な健康診断の測定項目に含まれている白血球の分画である好中球とリンパ球の比(NLR)の値が、男性のうつ症状と独立して関連しているとする研究結果が報告された。弘前大学大学院医学研究科麻酔科学講座の木下裕貴氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月3日掲載された。同氏らは、NLRが男性のうつ状態の簡便なマーカーになり得るのではないかと述べている。

     うつ病の原因については不明点が多く残されているが、神経の炎症が関与しているケースがあることが知られている。その傍証として、うつ病患者ではインターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインが高値であるとする報告がある。ただし、IL-6やTNF-αの測定にはコストがかかり、多くの人を対象とするスクリーニング目的で行える検査ではない。

    うつ病に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
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     一方、一般的な健診の結果から簡単に計算可能なNLRや、血小板とリンパ球の比(PLR)が、IL-6やTNF-αと正相関することが知られており、NLRやPLRも神経炎症が関連する疾患のマーカーと成り得る可能性がある。実際、NLRやPLRと、統合失調症やてんかんなどとの間に有意な関連があることも報告されている。ただし、うつ病との関連はまだ十分検討されていない。木下氏らはこの点について、国内の地域住民を対象とする研究を行った。

     研究には、弘前大学が中心となって行っている「岩木健康増進プロジェクト」のデータを用いた。同プロジェクトに登録された弘前市岩木地区住民1,073人のうち、うつ病と診断されている人および解析に必要なデータのない人を除外した1,051人(男性41%)を解析対象とした。

     うつ状態の評価に用いられているCES-Dという指標で60点中16点以上の場合を「うつ症状あり」と定義すると、19.7%が該当した。性別の有病率は、男性19.1%、女性20.4%だった。

     男性・女性ごとにうつ症状の有無で2群に分けて比較すると、男性の習慣的飲酒者がうつ症状のない群で有意に多く、また男性・女性ともにうつ症状のある群でCES-Dスコアが有意に高かった。しかし、年齢、BMI、現喫煙者の割合、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の有病率、肝機能・腎機能・糖代謝指標などに有意差はなかった。

     男性のNLRは、うつ症状のない群が中央値1.54、うつ症状のある群が同1.76であり、後者の方が有意に高かった(P=0.005)。またPLRも同順に123.7、136.8であり、後者の方が有意に高かった(P=0.047)。一方、女性のNLRやPLRは、うつ症状の有無で有意差がなかった。

     次に、うつ症状ありを目的変数とし、うつ病との関連が報告されている、年齢、BMI、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の既往、およびNLRとPLRなどを説明変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、男性のうつ症状ありに独立して関連する因子として、NLRが抽出された〔1増加するごとの調整オッズ比(aOR)1.570(95%信頼区間1.120~2.220)〕。NLR以外では、習慣的飲酒が負の関連因子〔aOR0.548(同0.322~0.930)〕として認められた以外、年齢やBMI、併存疾患、およびPLRは有意な関連が見られなかった。また、女性に関しては、NLRも含めて検討した項目の全てが非有意だった。

     以上より著者らは、「男性ではNLRの高さがうつ症状に関連している可能性が示された」と結論付けた上で、「男性のうつ状態のスクリーニングにNLRを使用可能かの確認のため、大規模なコホート研究が求められる。また両者の因果関係の解明には、前向き縦断研究が必要」と述べている。なお、女性では結果が非有意だった点については、「NLRに影響を与えるエストロゲンのレベルが閉経前後で大きく変わるためではないか」との考察を加えている。実際に本研究でも、女性の年齢とNLRとの間に弱いながら有意な負の相関が認められたという。

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    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

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  • パンデミック中に糖尿病患者の受診頻度が有意に減少

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い、定期的に受診していた糖尿病患者の受診や処方頻度が有意に減少したことが明らかになった。特に女性患者に、より大きな変化が認められるという。福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室の前田俊樹氏らの研究によるもので、詳細は「Medicine」に7月22日掲載された。

     COVID-19パンデミック発生後に外来受診者数が減少したことについては、既に複数の報告がある。ただしそれらの研究の多くは、パンデミック前後での受診者数を比較したものであり、パンデミック以前から定期的に受診をしていた患者の受療行動の変化を検討した研究は少ない。糖尿病は受診中断が疾患コントロールの悪化につながり、合併症リスクを押し上げるという疾患特性があるため、患者の受療行動の変化の把握が重要と言える。そこで前田氏らは、糖尿病診療にかかわる医療費請求データを縦断的に解析して、この点を検討した。

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     研究に用いたデータは、都内の運輸業関連健康保険組合の2017年10月~2020年9月の医療費請求情報。2019年度時点の被保険者8万4,907人のうち、3,753人に血糖降下薬が処方されており、このうち前記の追跡期間に切れ目なく保険に加入していたのは3,014人だった。その中より2017年度中に1~3カ月おき、もしくは年に4回以上受診の上、血糖降下薬が処方された1,118人を研究対象とした。

     パンデミック前からの経時的な変化を把握するため6カ月ごとに期間を区切り、2018年10月~2019年3月(1期)、2019年4~9月(2期)、2019年10月~2020年3月(3期)、および、緊急事態宣言が発出されパンデミック第1波に当たる2020年4~9月(パンデミック期)という、計4期に分けて比較した。なお、パンデミックの第1波は、患者数はわずかであったものの、COVID-19の感染力や死亡リスクが明らかでなく、また治療法が確立されておらずワクチンもなかったことから、医療も含めて社会の混乱が大きかった。

     2018年10月時点での研究対象者の特徴は、平均年齢56.2±8.6歳、女性22.3%、被保険者83.5%(被扶養者16.5%)で、平均月収37.00±1.87万円だった。

     受診・処方の間隔が3カ月以上空いた場合を「受診・処方の遅延」と定義してその発生状況を見たところ、パンデミック前は1期が52件、2期63件、3期73件、パンデミック期は152件であり、発生率はパンデミック前が5.6%、パンデミック期は11.2%と有意差が見られた(P<0.001)。年齢、性別、被保険者/被扶養者、月収、季節による受診間隔の変動、および処方内容を調整後も、パンデミック期は受診・処方の遅延が約3.7倍多く発生していた〔調整オッズ比(aOR)3.68(95%信頼区間2.24~6.04)〕。感度分析のため、受診・処方の間隔が4カ月以上空いた場合で検討した結果からも、同様の関係が確認された〔aOR4.95(同2.54~9.66)〕。

     次に、年齢(平均値の57歳で二分)、性別、被保険者/被扶養者、月収(平均値の37万円で二分)、処方薬の種類などで層別化したサブグループ解析を施行。その結果、性別でのみ有意な交互作用が認められ、女性患者で受診・処方の遅延がより多く発生していた〔男性はaOR2.65(95%信頼区間1.55~4.52)、女性はaOR19.31(同5.24~71.15)、交互作用P=0.013〕。なお、57歳以上や被扶養者は非有意ながら、受診・処方の遅延の発生が多い傾向があった。

     著者らは、本研究ではHbA1cやBMIなどの臨床検査データを利用し得なかったこと、ワクチン普及後には状況が変化している可能性があることなど、解釈上の留意点を挙げた上で、「定期的に受診を継続していた糖尿病患者に、COVID-19パンデミックが及ぼした影響が明らかになった。受診・処方の遅延は女性患者でより多く発生していた」と結論付けている。また、「パンデミックにより発生した受診・処方の遅延が、糖尿病合併症罹患率をはじめとする臨床転帰に及ぼす影響を引き続き観察していく必要がある」と述べている。

     なお、男性に比較して女性にパンデミックの影響が強く表れていることの理由について、著者らは「不明」としながらも、「女性は男性よりリスク回避行動をとる傾向があること、女性は被扶養者であることが多いため、産業医からの受診継続の働きかけが届きにくいことなどが背景にあるのではないか」と考察している。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2022年9月5日
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  • ホタテ養殖への従事が納豆アレルギーの潜在的リスクの可能性――道北での調査

     北海道の漁業従事者を対象に行った調査研究から、ホタテガイ(ホタテ)の養殖で使う網などを素手で取り扱うことが、納豆アレルギーのリスクを高める可能性が浮かび上がった。北海道大学大学院医学院社会医学講座公衆衛生学教室の黒鳥偉作氏らの研究によるもので、詳細は「Allergology International」に7月8日掲載された。ただし黒鳥氏は、「一般の人がホタテを食べたり触ったりすることは納豆アレルギーと関係がなく、漁業従事者もリスクにはならない。また養殖に携わる人でも、網の修繕などの作業時に手袋をするといった対策により予防可能」として、誤解しないよう呼びかけている。

     近年、サーフィンなどのマリンスポーツを行っている人は、納豆を食べることによるアレルギー反応(納豆アレルギー)の有病率が高いことが知られるようになった。これは、クラゲなどが産生する、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)という物質が原因とされている。クラゲに刺されることによって、極めてまれながらPGAの感作が成立する。そして、納豆のねばねばの成分にもPGAが含まれていることから、クラゲに刺される機会が多いと納豆アレルギーになるリスクが高まる。納豆アレルギーは特異的な検査法がないことに加え、食べてから症状発現までの時間が通常の食物アレルギーよりも長いため、診断が困難なことが多い。さらに病状が遷延し、アナフィラキシーになりやすい。

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     道北の日本海岸に位置する道立羽幌病院では、同地がマリンスポーツの盛んな土地ではないにもかかわらず、納豆アレルギーの患者が散発的に発生している。そこで黒鳥氏らは、2009年4月~2020年8月の同院入院患者の受療記録、および、2021年2~5月に同地区の漁業従事者を対象に行った匿名アンケートの結果を用いた解析により、納豆アレルギーの実態の把握とリスク因子の特定を試みた。

     前記期間の入院患者は7,789人で、このうち29人が食物アレルギーによるアナフィラキシーショックでの入院だった。この29人中6人に納豆アレルギーによる遅発性アナフィラキシーショックが見られ、全員がホタテ養殖の経験を有していた。全員が生存退院し、退院時に納豆を回避するように指導。平均31カ月の追跡期間中に、食物アレルギーによるアナフィラキシーの再発はなかった。

     アンケート調査は、ホタテ養殖関連団体に所属する223人と漁協組合員155人から回答を得た。後者のうち、ホタテの養殖にも携わり、かつ、両方のアンケートに回答した人や、必要なデータが欠落している人なども除外し、ホタテ養殖従事者211人、ホタテ養殖に携わっていない漁業従事者106人を解析対象とした。

     回答を集計した結果、ホタテ養殖従事者の23人(10.9%)、その他の漁業従事者の4人(3.8%)、計27人が「納豆アレルギーあり」と回答した。ロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整モデルで、ホタテ養殖従事者の納豆アレルギーのオッズ比(OR)が3.18(95%信頼区間1.07~9.43)と有意な関連が見られた。年齢、性別、クラゲに刺された経験、気管支喘息・花粉症・アトピー性皮膚炎・小児期の食物アレルギーの既往を調整したモデルでは、OR5.73(同1.46~22.56)と、より強い関連が認められた。また、「納豆アレルギーあり」と回答した漁業従事者の4人中3人(75%)が、発症時にホタテ養殖に従事していたと回答した。

     次に、ホタテ養殖従事者を「納豆アレルギーあり」と回答した23人と、「納豆アレルギーなし」と回答した181人に二分して比較した結果、前者は高齢で(P=0.01)、ふだん網の修繕作業をしており(P<0.01)、ホタテ養殖歴が長い(P<0.001)という項目で後者と違いが見られた。また、納豆アレルギーがあると回答した23人中22人(95.7%)は、ホタテ養殖に従事する以前は納豆摂取によるアレルギー症状発現の経験がなかった。

     著者らは本研究の限界点として、横断研究であり因果関係は不明であること、食物アレルギーの診断のゴールドスタンダードである経口負荷試験を実施していないこと、アンケート調査では納豆アレルギーの有無を自己申告により判定していること、未調整の交絡因子が存在する可能性のあることなどを挙げている。その上で、「ホタテ養殖では特殊な網を海中に長期間沈め、かつ、繰り返し使う。とくに、小さな稚貝を扱う網は細かく、修繕などを素手で行っている。その際に、クラゲに刺されることとは別の経路でPGAに感作されている可能性がある」とし、「ホタテ養殖従事者に対しては、素手で網に触れる作業を避けるなどの健康指導が必要ではないか」と結論付けている。

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    HealthDay News 2022年9月5日
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