• 日本人long COVIDの特徴は?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の後遺症、いわゆる「long COVID」の日本人での実態が報告された。症状としては倦怠感や抑うつなどが多く、女性や就労が制限されている人および非就労者でパフォーマンスの低下が顕著だという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に10月31日掲載された。

     COVID-19罹患者のlong COVID発症率は25~60%とされており、研究対象によって大きな差がある。また、性別や年齢、就労状況、教育歴などの属性との関連も検討されていて、それらが関連ありとする研究と関連なしとする研究が混在している。加えてこれまでに報告されている研究は主として海外で行われたものであり、国内発のデータは少ない。日本は他国よりもCOVID-19の有病率と死亡率が低く、long COVIDの実態も海外とは異なる可能性が考えられる。これらを背景として藤原氏らは、日本人のlong COVIDの特徴の把握を試みた。

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     解析対象は、2020年1月6日~2021年10月2日に都内の外来診療所(ヒラハタクリニック)を受診したlong COVID患者のうち、COVID-19発症から28日以上経過後に持続、または発症した症状のある1,898人から、解析に必要なデータが欠落していた7人を除外した1,891人。平均年齢は37.8±12.2歳で、女性が59.7%を占め、受診の時期は、パンデミック第1波が1.8%、2波が5.9%、3波が41.8%、4波が18.2%、5波が32.2%。ワクチン接種が完了しているのは3.1%だった。

     Long COVIDの症状による日常生活動作への影響を、パフォーマンスステータス(PS)スコアという10点満点の指標で評価すると、平均3.1±2.4点だった。なおPSは、日常生活への影響が全くない場合は0点、終日臥床し全介助状態のいわゆる“寝たきり”の場合は10点と判定する。平均点に近い3点は、症状のために仕事を月に数日休む必要がある状態に当たる。実際、解析対象者のうち罹患前と同様に就労しているのは23.7%に過ぎず、14.2%は勤務時間を短縮して就労していて、20.9%は休職中か退職・解雇後だった(そのほか、8.3%は非就労、32.8%は不明)。

     訴える症状の数は平均8.4±3.2種類であり、頻度の高い症状は、倦怠感(90.3%)、抑うつ(81.2%)、ブレインフォグ〔頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態(76.2%)〕、頭痛(71.2%)、呼吸困難(68.9%)、不眠症(63.8%)、動悸(61.7%)、体の痛み(60.6%)、嗅覚障害(52.4%)、食欲不振(50.6%)、味覚障害(45.2%)、脱毛(44.8%)などだった。

     PSスコアが6点(週の50%以上を休息している場合)以上をPSが特に低下した状態と定義すると、24.0%が該当。年齢や性別、受診時期(パンデミック第何波に当たるか)、ワクチン接種状況、就労状況などを調整後に、PS6点以上であることと関連する因子を検討すると、女性〔β=0.27(95%信頼区間0.08~0.47)〕、時短勤務者〔通常勤務者を基準にβ=1.59(95%信頼区間1.27~1.91)〕、休職中または退職・解雇後〔同3.64(3.35~3.93)〕、非就労〔同1.67(1.22~2.21)〕が有意な関連因子として抽出された。

     発現している症状も調整因子に加えた場合、多くの個々の症状が有意な因子として抽出され(倦怠感β=1.11、抑うつβ=0.47など)、女性については有意性が消失した。ただし前記の就労状況に関する三つの状態は全て、引き続きPSが低いことと有意な関連が認められた。

     著者らは、「女性はlong COVID罹患時にPSが低下しやすいことが示唆され、就労状況とPSとの有意な関連も認められた」と結論を述べるとともに、「日本のlong COVID患者の特徴の全体像を把握するためには、さらなる研究が必要」としている。

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  • 家屋の断熱性が高いと冬の朝の交感神経活性化が抑制される可能性

     断熱性の高い家に住むと、気温が最も低下する冬の朝方であっても、交感神経の活性化が起きにくい可能性を示唆するデータが報告された。研究参加者に断熱性の高いモデルハウスに宿泊してもらい、自宅環境との差を検討するという、大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座の中神啓徳氏らが行った研究の結果であり、詳細は「Hypertension Research」に10月13日掲載された。研究参加者の全員が、モデルハウス宿泊時に睡眠時間が長くなるという変化も認められたという。

     寒い冬の朝には脳卒中などの心血管イベントが起こりやすいことが知られている。その理由として、低温に反応して交感神経が活性化され、血圧や心拍数などが上昇することが挙げられる。屋内の温度が低いことに加えて、暖房されている部屋とそうでないスペースとの温度の格差も、そのような交感神経活性の変化に関係していると考えられる。よって、屋内全体の暖かさを保つことが、寒い季節の心血管イベント抑制につながる可能性がある。中神氏らの研究では、この条件にマッチする家屋として、断熱性の高いモデルハウス(木造2階建て)が用いられた。

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     研究参加者8人(男性と女性各4人)を2群に分け、1群はモデルハウスで2日間滞在した後、自宅で2日間過ごしてもらい、他の1群は逆の順序で試行するという、クロスオーバー法により検討。家屋内の居間と寝室、洗面所にサーモセンサーを設置して、温度の変化を経時的に計測した。また研究参加者には、心拍数、交感神経活性(LF/HF比)、身体活動状況なども把握できる携帯型心電計を身に着けて過ごしてもらった。

     自宅滞在条件およびモデルハウス滞在条件のいずれについても、滞在2日目のデータを解析対象とした。その結果、まず室温については、モデルハウスではどのスペースでも20℃以上に保たれていた。それに対し自宅は全体的に低温であり、寝室で6.3℃を記録したケースも認められた。スペースによる室温の差も大きかった。

     心拍数や心電図所見、交感神経活性については、8人全員の平均としては条件間に有意差は認められなかった。ただし、4人の参加者は自宅滞在条件での起床直後に、交感神経の急な活性化が生じたことが観察された。また、睡眠時間は全ての参加者が、自宅よりモデルハウス滞在時の方が長いという結果が得られた。これは、モデルハウスの室温が睡眠に適していたためと考えられた。これらの結果は、快適な室温が冬季に生じる交感神経の活性化を緩和する可能性があることを示唆している。

     世界保健機関(WHO)は、風邪などの予防のために室内の温度を18℃以上に保つことを推奨している。それに対して日本の冬季の家屋内は、居間が平均16.8℃、寝室は12.8℃という報告があり、WHOの推奨よりも低い。一方、海外では、例えば英国は同順に19.3℃、18.3℃であり、米国ニューヨークは居間で23.3℃というデータがある。一般的に寒さの厳しい国ほど屋内を暖房する傾向がみられ、それによって冬季の超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)が抑制されることも報告されている。

     著者らは、「本研究は探索的な研究であって、サンプル数が小さいことなどの限界点があり、明確な結論を導き出すことはできない」とした上で、「冬季の自宅内での心血管イベントを防ぐには、適切な室温を維持する工夫が必要ではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2023年1月10日
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