• 血圧が高い人ほど眼圧が高い

     日本人対象の大規模な横断研究から、緑内障を含む眼疾患既往歴のない一般住民において、収縮期血圧と拡張期血圧のいずれについても、その値が高いほど眼圧が高いという有意な関連のあることが明らかになった。慶應義塾大学医学部眼科の羽入田明子氏、筑波大学医学医療系社会健康医学の山岸良匡氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に10月19日掲載された。

     眼圧とは眼球内の圧力のこと。眼球の形を維持するために一定程度の眼圧が必要とされるが、高すぎる眼圧は視神経にダメージを与え、視野障害を引き起こす。現在、国内での視覚障害の原因のトップは緑内障であり、緑内障の治療においては眼圧をしっかり下げることで視神経への負担を抑制することが重要。

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     一方、高血圧も日本の国民病といわれるほど患者数の多い疾患で、かつ、高血圧も高眼圧の修正可能なリスク因子の一つであることが知られている。ただし、収縮期血圧と拡張期血圧のどちらが眼圧により強い影響を及ぼすのかといった詳しいことは分かっていない。これを背景として羽入田氏らは、国立がん研究センターなどによる次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)の眼科関連研究のデータを用いた検討を行った。

     2013~2017年に研究参加登録された茨城県筑西市の40歳以上の住民9,940人のうち、緑内障患者、白内障や屈折異常に対する手術を受けた人、極端な高眼圧または低眼圧の人(上下1パーセンタイル以内)などを除外した6,783人(男性40.9%)を解析対象とした。全体の46.5%が高血圧(140/90mmHg以上または降圧薬服用中)だった。

     眼圧に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、BMI、LDL-コレステロール、糖尿病、中心角膜厚など)で調整後、非高血圧群の眼圧は13.7mmHgであるのに対して、高血圧群は14.4mmHgであり、有意に高かった(P<0.001)。また、収縮期血圧が10mmHg高いごとに眼圧は0.32mmHg高くなり、拡張期血圧が10mmHg高いごとに眼圧は0.41mmHg高くなるという有意な関連が認められた(いずれも傾向性P<0.001)。

     前記と同様の因子で調整後、非高血圧群を基準として高眼圧症(21mmHg超)に該当するオッズ比(OR)を計算すると、高血圧群はORが1.88(95%信頼区間1.14~3.08)となり、9割近く高眼圧症の有病率が高いことが明らかになった。また、収縮期血圧、拡張期血圧ともに、その値が高いほど高眼圧症に該当するオッズ比が高いという関連が認められた(いずれも傾向性P<0.001)。

     次に、収縮期血圧120mmHg未満、120~159mmHg、160mmHg以上、および拡張期血圧80mmHg未満、80~99mmHg、100mmHg以上で層別化し全体を9群に分け、120/80mmHg未満の群を基準に高眼圧症に該当するオッズ比を比較。すると、160/100mmHg以上という収縮期/拡張期血圧の双方が最も高い群ではORが9.41(95%信頼区間3.26~27.1)と、9以上の高いオッズ比が認められた。さらに80mmHg未満/160mmHg以上という収縮期血圧のみが高い孤立性収縮期高血圧の場合、ORは17.4(同3.51~86.2)と17を上回るオッズ比が示された。

     著者らは、本研究が横断研究であるため因果関係は検討できないことなどを限界点として挙げたうえで、「国内の一般住民を対象とする研究から、収縮期血圧と拡張期血圧はともに眼圧と有意な正相関が認められ、血圧が高いほど眼圧が上昇する可能性が示唆される」と結論付けている。なお、血圧と眼圧が相関する理由については「不明」としながらも、血圧上昇に伴い房水(眼球内の水分)の流出経路に当たる毛様体などの血行動態に影響が生じて房水流出が阻害される可能性や、高血圧患者に生じている交感神経の亢進やストレスホルモンの増加が眼圧を高めるように働く可能性などを、考察として述べている。

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    治験・臨床試験についての詳しい説明

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    HealthDay News 2023年1月16日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
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  • ワーケーションで動脈硬化予防?

     都会を離れた落ち着いた環境でリモートワークをする「ワーケーション」によって、動脈硬化の進行が抑制されることを示唆するデータが発表された。米ハーバード大学医学部および奈良県立医科大学医学部客員教授の根来秀行氏らの研究によるもので、詳細は「Healthcare」に10月15日掲載された。

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以降、在宅でのリモートワークが広がり、さらにワーケーションも注目されるようになった。ワーケーションは一般的に、リゾート地などの自然豊かな環境で心身を休めながら仕事をすることを指し、そのような新しい働き方による労働生産性への影響など、主に社会経済的な視点からの関心が寄せられている。その一方、労働者の健康への影響という視点での研究はまだ少ない。根来氏らは、このような背景から本研究を行った。

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     研究対象は、大手民間企業の従業員20人(平均年齢33.9±8.9歳、女性11人、BMI22.3±2.8、体脂肪率26.5±9.3%)。全員が在宅勤務経験者で、前年の職場健診で異常を指摘されていない非喫煙者。千葉県勝浦市または静岡県浜松市の海岸沿いにある会員制リゾートホテルにて、4泊のワーケーションを行ってもらい、その前後およびホテル滞在期間中に、動脈硬化の進行に関連する検査を行った。

     滞在中のスケジュールは以下のとおり。朝7時に起床し、朝食とシャワーを済ませ、リンパマッサージを受けた後に、ミーティングとリモートワーク。11時30分~12時はウォーキングやラジオ体操などを行い、その後、昼食と仮眠。午後の就業は16時までとし、18~19時はジョギングや筋力トレーニングなどを行い、20~21時に夕食。22時に入浴し、23時以降の飲食は水、お茶、牛乳のみ摂取可とした。また、夕食後は電子機器の使用を禁止した。

     動脈硬化関連の検査として、朝食前に、AVI(中心動脈の血管壁の硬さの指標)、API(末梢動脈の血管壁の硬さの指標)、血圧、心拍数を測定した。また、研究参加者に3軸加速度センサーと携帯型心電計を身に着けて過ごしてもらい、それらのデータから、身体活動量や自律神経機能を評価した。

     これらの検査値のうちAVIとAPIはいずれも、ワーケーション期間中はベースライン(ワーケーション前)より有意に低値だった。収縮期/拡張期血圧は、測定部位や測定日による違いはあったものの、ベースラインより有意に低い値が複数のポイントで確認された。心拍数は滞在2日目に有意に低値だった。

     身体活動量については、運動以外での活動量と高強度運動の活動量が、ベースラインより有意に高かった。低~中強度運動の活動量は有意差がなく、総消費エネルギー量についても、ワーケーション期間の方が高値ではあったが有意差はなかった。自律神経機能に関しては、ワーケーション期間の睡眠時の高周波(HF)成分がベースライン値より有意に高値だった。これは、睡眠中に副交感神経の活性が亢進していたことを意味する。睡眠時のHF成分の値が高いほどAPIが低いという、有意な逆相関も認められた。

     まとめると、ワーケーション期間は睡眠時の副交感神経活性が亢進し、中心動脈と末梢動脈へかかるストレスが低下していたことが明らかになった。ただし、これらの有意な変化は、ワーケーション終了後の測定では全て非有意となり、ベースラインと同レベルに戻っていた。

     著者らは本研究には、研究参加者が1社のみの従業員であること、サンプル数が少ないことなどの限界点があるとした上で、「ワーケーションに健康上のメリットが存在することが示唆される。この知見は、COVID-19パンデミックで増加した在宅勤務労働者の健康維持対策に生かせるのではないか」と結論付けている。一方、今後の検討課題としては、ワーケーション終了とともに各検査指標がベースライン値に戻っていたことから、「日常生活においても、ワーケーションと同様のライフスタイルを維持できるような環境の模索が必要と考えられる」としている。

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    HealthDay News 2023年1月16日
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