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3月 07 2023 独身者はCOVID-19罹患後に抑うつや記憶障害が現れやすい――大分県での調査
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期を乗り切った後にも、独身者は抑うつや記憶障害が現れやすいことを示唆するデータが報告された。特に、COVID-19急性期の症状が軽症だった人や40歳代の人で、配偶者の有無でのリスク差が大きいという。大分大学医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作氏らの研究によるもので、詳細は「Respiratory Investigation」3月号に掲載された。
COVID-19の急性期を脱した後にも長期間さまざまな症状が続くことが知られており、「post-COVID-19」または「long COVID」などと呼ばれている。Post-COVID-19のリスクに関連のある因子として、急性期の重症度の高さ、性別(女性)、社会経済的地位の低さなどとともに、婚姻状況(独身)が挙げられている。ただし、post-COVID-19に伴うメンタルヘルス症状と婚姻状況の関連は十分明らかになっていない。小宮氏らは、大分県と連携し、この点に的を絞った研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。大分県内の医療機関でpost-COVID-19の治療を受けた20~80歳の患者2,116人に無記名のアンケートへの回答を依頼。791人から回答を得て、データに不備のあるものを除外した749人(女性53%)の回答を解析対象とした。このうち72%は「配偶者がいる」と回答。なお、別居状態の人は配偶者ありとした。
COVID-19急性期の重症度を世界保健機関(WHO)の定義に基づき分類すると、軽症が82%を占め、中等症は13%、重症が5%だった。患者の希望により入院したものの酸素投与の必要がなかった患者は軽症に分類した。
COVID-19感染から1カ月後に見られた症状として、倦怠感、呼吸困難、集中力低下、抑うつ、味覚障害、不眠、記憶障害などが多く挙げられた。これらの症状を、婚姻状況別に比較。すると、抑うつの見られる患者の割合は、配偶者あり群18%、なし群26%であり、後者の方が有意に高かった(P=0.019)。そのほかの症状については、婚姻状況による有意差がなかった。
次に、COVID-19急性期の重症度別に、抑うつと記憶障害を有する割合を解析すると、どちらも重症だった患者でそれらの訴えが多く見られた。ただし、婚姻状況の違いで顕著な差が見られたのは軽症だった患者群のみだった。具体的には、急性期に軽症だった患者で抑うつを訴える割合は、配偶者あり群15%、なし群25%と、後者の方が有意に高かった(P=0.006)。また急性期に軽症だった患者では、記憶障害を訴える割合も同順に5%、9%であって、非有意ながら後者で高かった(P=0.071)。
続いて年齢層別に解析すると、40歳代の記憶障害を訴える割合は、配偶者あり群7%、なし群26%であり、後者の方が有意に高かった(P=0.007)。40歳代で抑うつを訴える割合も同順に22%、39%であって、非有意ながら後者が高値だった(P=0.061)。40歳代以外の世代では、配偶者の有無による顕著な差は認められなかった。
以上より著者らは、「COVID-19急性期に軽症で独身の患者には、心理的サポートが必要ではないか」と結論付けている。なお、40歳代で婚姻状況による差が顕著であるという結果について、「この世代はメンタルヘルスの問題が発生しやすい年齢であり、社会や職場などで多くの責任を担っていることなどのために、孤独な状況の影響を強く受けるのではないか」との考察を加えている。
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3月 07 2023 女性や北国の人はビタミンDの摂取量が多いほど死亡リスクが低い
ビタミンDの摂取量が多い女性は死亡リスクが低いことが、日本人を対象とする研究から明らかになった。福岡女子大学国際文理学部食・健康学科の南里明子氏らが、国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)のデータを解析した結果であり、詳細は「European Journal of Epidemiology」に1月31日掲載された。高緯度地域の居住者、カルシウム摂取量の多い人などでも、ビタミンD摂取量が多い群では少ない群に比べ死亡リスクが低い傾向があるという。
ビタミンDが骨の健康に重要であることは古くから知られている。しかし近年はそればかりでなく、血液中のビタミンDレベルの低さが、がんや循環器疾患、糖尿病、抑うつ、新型コロナウイルスを含む感染症など、さまざまな疾患の罹患リスクや死亡リスクの高さと関連のあることが報告されてきている。ただしビタミンDは、皮膚に紫外線が当たった時に多く産生されるため、食事からの摂取量と血液中のビタミンレベルとの相関が、ほかの栄養素ほど高くない。その影響もあり、ビタミンDの摂取量と死亡リスクとの関連についてのこれまでの研究結果は一貫性を欠いている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。今回、南里氏らは、日光を避けることの多い女性や高緯度地域に住んでいる人は、皮膚でのビタミンD産生量が少ないため、食事からのビタミンD摂取量の多寡が死亡リスクに影響を及ぼしている可能性を想定。また、ビタミンDの吸収を高めるカルシウム摂取量の多い人、何らかの疾患があり死亡リスクの高い人なども、摂取量の多寡の違いが強く現れているのではないかと考え、性別や居住地、栄養素摂取量、併存疾患などの特徴別に、ビタミンD摂取量と死亡リスクの関連を検討した。
研究対象は、1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、茨城県水戸、東京都葛飾区、新潟県長岡、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古など11の保健所管内に居住していた40~69歳の成人のうち、研究開始5年後の食事調査に回答し、かつ、がんや循環器疾患などに罹患していなかった9万3,685人(女性54.1%)。2018年12月まで追跡して、食事調査時のビタミンD摂取量と追跡期間中の死亡リスクとの関連を解析した。
平均18.9年(176万8,746人年)の追跡で、2万2,630人が死亡。年齢、性別、研究地域で調整後、ビタミンD摂取量の第1五分位群(下位20%)に比べて、第2~第5五分位群は全死亡のハザード比が有意に低かった(傾向性P=0.021)。ただし、調整因子にBMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病や高血圧の既往、摂取エネルギー量、カルシウムやオメガ3脂肪酸の摂取量、緑茶・コーヒー・サプリメントの摂取、職業などを加えると、有意性が消失した(同0.29)。
次に、事前に作成した解析計画に沿って、性別や居住地の緯度などで層別化したサブグループ解析を実施。その結果、女性はビタミンD摂取量が多いほど全死亡リスクが低いという有意な関連のあることが明らかになった(傾向性P=0.001)。また、高緯度地域の居住者やカルシウム摂取量が中央値以上の人、高血圧の既往のある人では、摂取量の第1五分位群に比べて第2~第5五分位群は全死亡ハザード比が有意に低かった(傾向性P値は同順に、0.085、0.19、0.058)。
続いて死因に着目すると、ビタミンD摂取量が多いほど脳梗塞による死亡のリスクが低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.029)、肺炎も有意に近い傾向が認められた(同0.09)。脳梗塞以外の脳・心血管疾患やがんによる死亡リスクについては、ビタミンD摂取量との有意な関連が見られなかった。
これらの結果を基に著者らは、「日光にあまり当たらない人や高緯度地域に住む人は食事からのビタミンD摂取を増やすことで、早期死亡リスクが抑制される可能性がある」と結論付けている。なお、ビタミンDを多く含む食品として、青魚やキノコなどが挙げられる。
著者の1人である国立国際医療研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏は、「日光を浴びる機会が少ない現代の生活様式がコロナ禍で加速しており、食事からビタミンDを摂取することの重要性が高まっている」とコメントしている。
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