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4月 24 2023 歯の本数だけでなく、しっかりかめることが重要
残っている歯が少なく、食べ物をしっかりかめないことが、主観的健康観の低下と関連していることを示すデータが報告された。ただし、残っている歯が少なくても、食べ物をしっかりかめる状態になっていれば、主観的健康観は低下していないという。山形大学医学部歯科口腔・形成外科の石川恵生氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に12月5日掲載された。
主観的健康観(self-rated health;SRH)は、BMIや血液検査の値などとともに、生命予後のリスクと関連のある因子の一つとされている。これまでに、残っている歯の本数(残存歯数)が少ないほどSRHが低く、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いといったデータが報告されてきている。ただし、それらは主に高齢者を対象とする研究からのエビデンスであり、中年期成人の残存歯数とSRHの関連はよく分かっていない。また、残存歯数が少なくても、義歯などで適切に治療されていればSRHは低下せず、反対に残存歯数が多くても状態が悪ければSRHが低下する可能性が考えられるが、そのような視点での研究もほとんど行われていない。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。以上を背景として石川氏らは、山形県で行われている疫学研究「山形県コホート研究」のデータを用いた横断的な解析により、これらの点を検討した。同コホート研究の対象は、同県内の40歳以上の一般住民であり、今回の研究では2017~2021年に実施した郵送アンケート調査に回答した7,447人から、データ欠落のある人を除外した6,739人(男性33.9%)を解析対象とした。
SRHの評価方法は、「最近1カ月間の健康状態は?」という質問に対して、「極めて良好」~「悪い」の五者択一で選んでもらい判定した。統計解析に際しては、下位2項目(「普通」と「悪い」)を選択した人を「SRHが低下している」と定義した。
口の中の状態については、残存歯数を問う質問と(インプラントは残存歯数に入れずにカウント)、「自分の歯や入れ歯で、左右の奥歯をかみしめることができるか?」という質問に対して、「両方できる」、「片方だけでできる」、「どちらもできない」から三者択一で選んでもらい判定した。
このほかに、年齢、BMI、婚姻状況、疾患既往歴、メンタルヘルス状態に関する自己評価や、睡眠・喫煙・飲酒・運動習慣、地域社会活動への参加頻度なども把握。それらの指標とSRHとの関係について単変量解析を行い、有意性が示された指標を独立変数とする多変量解析を施行した。その結果、SRHの低下に独立した関連のある因子として、痩せ(BMI18.5未満)、運動頻度が少ないこと、抑うつ、睡眠時間(5時間未満または9~10時間)、がんの既往などとともに、以下に挙げる口の中の状態が抽出された。
残存歯数が20本以上あり「両方ともしっかり嚙みしめられる」群を基準とすると、残存歯数が20本未満で「どちらもできない」という状態〔aOR1.952(95%信頼区間1.265~3.014)〕、および、残存歯数が20本未満で「片方だけでできる」という状態〔aOR1.422(同1.015~1.992)〕が、SRHの低下に独立して関連していた。その一方、残存歯数が20本未満であっても「両方できる」という状態は、単変量解析の時点でSRHの低下に関連する有意な因子でなく、多変量解析でも有意性は示されなかった〔aOR1.099(0.884~1.365)〕。
反対に、残存歯数が20本以上あっても、「片方だけでできる」という状態や、「どちらもできない」という状態は、多変量解析では有意ではないもののオッズ比が上昇する傾向を認め、また単変量解析ではSRHの低下と有意な関連が認められた(単変量解析のオッズ比はそれぞれ1.458、1.876)。
著者らは本研究の限界点として、口の中の状態を歯科検診ではなく自己報告に基づいて評価しており、治療状態も不明であること、調整されていない交絡因子が存在する可能性のあることなどを挙げている。その上で、「幅広い年齢層で実施された本研究から、良好なSRHの維持には、歯周病などのない健康な歯が20本以上あること、または残存歯数は20本未満であっても、きちんと歯科治療がなされていることが重要と考えられる」と結論をまとめている。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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4月 24 2023 妊娠中期のケトン体濃度が高いと産後うつリスクが高い
妊娠中期の血清ケトン体濃度が、産後うつリスクの予測マーカーとなり得る可能性が報告された。北海道大学大学院医学院産婦人科の馬詰武氏、能代究氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に2月2日掲載された。
国内の妊産婦の死亡原因のトップは自殺であり、その原因の一つとして、産後うつの影響が少なくないと考えられている。うつ病を含む精神・神経疾患のリスク因子として栄養状態が挙げられ、脂質をエネルギー源として利用する際に産生されるケトン体が中枢神経系に有益である可能性が、基礎研究から示されている。また、妊娠中には悪阻(つわり)の影響で低血糖傾向になりやすいが、ケトン体の一種である3-ヒドロキシ酪酸が低血糖に伴う神経細胞のアポトーシスを抑制するという報告がある。さらに、3-ヒドロキシ酪酸はアルツハイマー病やパーキンソン病の進行を抑制する可能性が報告されているほか、てんかんの治療法としては古くからケトン産生食(糖質制限食)による食事療法が行われている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。また、妊娠中のケトン体濃度は従来、つわりのある妊娠初期に高値になると言われていたが、馬詰氏らが行った以前の研究では、妊娠の後期になるほど高値になることが確認されている。以上の知見をベースとして同氏らは今回、妊娠中期以降のケトン体濃度が高いことが、産後うつリスクを抑制するのではないかとの仮説を立て、以下の検討を行った。
研究対象は、2021年1~6月に札幌市内の産科クリニック(単施設)で出産が予定されていた妊婦のうち、年齢が20歳以上の日本人で、妊娠36週以降に出産した女性126人。帝王切開による出産、多胎妊娠、妊娠前のうつ病の既往、他院への転院、データ欠落などの該当者を除外し、99人を解析対象とした。血清ケトン体は、妊娠中期(26.4±0.7週)と妊娠後期(34.8±0.5週)、および産後1日目と1カ月後(31.9±3.6日後)に測定。そのほか、産後うつリスクに関連する可能性のある、ビタミンD、甲状腺機能、鉄代謝を把握した。産後うつの評価には、エジンバラ産後うつ質問票(EPDS)を用い、また、母親の子どもに対する愛着を、標準化された評価指標(maternal–fetal bonding score)で把握した。
解析対象者の主な特徴は、年齢30.3±3.9歳、初産婦が53%、BMI21.0±2.4で、妊娠期間は39.3±0.8週。総ケトン体は妊娠中期が33.4μmol/L、後期が75.6μmol/L、産後1日は33.2μmol/L、1カ月後は48.0μmol/Lと推移。EPDSスコアは産後3日が3.39±3.1、1カ月後は2.85±3.0であり、産後1カ月時点で7人(7.1%)が、産後うつのカットオフ値(9点)以上だった。
産後1カ月時点でEPDSスコア9点以上だった群とその他の群を比較すると、年齢やBMI、妊娠期間、児の出生時体重には有意差がなかった。その一方、妊娠中期のケトン体(総ケトン体、3-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)はいずれも、EPDS9点以上の群が有意に高値だった(全てP<0.001)。ただし、妊娠後期や産後1日、1カ月後のケトン体レベルには有意差がなかった。また、ビタミンD〔25(OH)D〕、甲状腺機能(TSH、チロキシン)、鉄代謝(フェリチン、血清鉄、TIBC)は、妊娠中から産後にかけて全ての時点で有意差がなかった。
このほかに、産後3日のEPDSスコアと1カ月時点のその値は有意な正の相関があることや(r=0.534、P<0.001)、母親の子どもに対する愛着とEPDSスコアが正相関すること〔産後3日はr=0.384、1カ月後はr=0.550(ともにP<0.001)〕も明らかになった。
著者らは、これらの結果について、「妊娠中のケトン体レベルは以前の研究と同様に妊娠の経過とともに上昇していた。一方、妊娠中期にケトン体レベルが高いことは、産後うつリスクの高さと正相関することが示され、この点は研究仮説と正反対の結果だった」と総括。その上で、「この関連のメカニズムは不明であるものの、妊娠中期のケトン体レベルから産後うつリスクの予測が可能なのではないか」と結論付けている。なお、ビタミンDレベルと産後うつリスクとの関連が認められなかった点については、「研究期間が新型コロナウイルス感染症パンデミック中であり、妊婦の外出頻度が少ないために日光曝露が減り、ビタミンDレベルに差が生じにくい状況だったことが、結果に影響を及ぼしている可能性もある」と考察している。
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4月 24 2023 子どもの朝食欠食も糖尿病リスクにつながる可能性――足立区の中学生で調査
朝食を食べない成人は2型糖尿病のリスクが高いことが報告されているが、同じことが子どもにも当てはまるかもしれない。その可能性を示唆するデータが報告された。東京都足立区内の中学校の生徒を対象とした研究で、朝食欠食の習慣がある子どもは、交絡因子を調整後も糖尿病前症に該当する割合が有意に高かったという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に2月22日掲載された。
2型糖尿病は、あるとき突然発症する病気ではなく、血糖値が糖尿病の診断基準に至るほどではないものの基準値より高い状態、「糖尿病前症」(国内では糖尿病予備群とも呼ばれる)という段階を経てから発症する。つまり、糖尿病前症に該当する場合は、その後、2型糖尿病を発症するリスクが高い。一方、2型糖尿病の発症リスク因子としては、家族歴や食習慣の乱れ、運動不足、肥満などが知られている。これらのうち、食習慣の乱れの一つとして朝食の欠食が挙げられ、朝食欠食により遊離脂肪酸レベルの上昇に伴うインスリン抵抗性の亢進、消費エネルギー量の低下、概日リズムの乱れなどを介して糖代謝に悪影響が及ぶと考えられている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。実際に、朝食欠食と糖尿病や糖尿病前症との関連は成人対象の研究で示されている。ただし、小児については報告が少ない。海外からはいくつかの研究結果が報告されているが、関連性を肯定するものと否定するものが混在している。また、食習慣が糖代謝に及ぼす影響には人種差があることから、日本の子どもたちを対象とする研究が必要とされる。以上を背景として藤原氏らは、足立区内の小中学生対象に行われた「A-CHILD Study」の中学生のデータを用いて、朝食欠食と糖尿病前症リスクとの関連を検討した。
解析対象は、2016年、2018年、2020年の調査に回答した中学校7校の2年生、計2,090人から、データ欠落者、および、糖代謝レベルを判定するHbA1cへの影響を考慮して、貧血(ヘモグロビンが12g/dL未満)に該当する生徒を除外した1,510人。
朝食を「毎日食べる」と回答したのは83.6%で、残りの16.4%は「時々食べる」、「ほとんど食べない」、「全く食べない」であり、それらを朝食欠食群と定義した。糖尿病前症をHbA1c5.6~6.4%の場合と定義すると、3.8%が該当した。糖尿病の診断基準であるHbA1c6.5%以上の生徒はいなかった。
糖尿病前症の有病率は、朝食を毎日食べる群が3.5%、朝食を欠食する群では5.6%だった。多変量解析で性別、世帯収入、糖尿病の家族歴を調整後、朝食欠食群の生徒は毎日食べる生徒に比べて、糖尿病前症に該当する割合が2倍近く高いことが明らかになった〔オッズ比(OR)1.95(95%信頼区間1.03~3.69)〕。
BMIで層別化したサブグループ解析では、BMIが平均から1標準偏差以上上回っている生徒の場合(全体の15.1%)、朝食を欠食することと糖尿病前症に該当することに、より強固な関連のあることが分かった〔OR4.31(同1.06~17.58)〕。その一方、BMIの平均からの逸脱が1標準偏差未満の群では、朝食欠食による糖尿病前症の有意なオッズ比上昇は観察されなかった〔OR1.62(0.76~3.47)〕。
このほか、朝食欠食の習慣のある生徒は、起床時刻が遅く、平日の睡眠時間が長く、運動をする頻度が低いという有意差が見られた。なお、前記の多変量解析の調整因子に、起床時刻と運動頻度を追加した解析の結果も同様であり、朝食を欠食する生徒の糖尿病前症に該当する割合は約2倍だった〔OR2.01(1.04~3.89)〕。
著者らは本研究を、「アジア人の思春期児童で朝食の欠食と糖尿病前症との関連を検討した初の研究」と位置付けている。結論は、「糖代謝に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後も、中学生の朝食の欠食は糖尿病前症に該当することと関連しており、この関連はBMIの高い生徒で顕著だった」とまとめられている。また、食習慣は中学生になるよりもさらに早い段階で身に付き、それが成人後に引き継がれる可能性が高いことから、「子どもが幼い頃から毎日朝食を食べさせるようにするための、保護者を対象とする介入が重要ではないか」との考察を付け加えている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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4月 24 2023 尿酸値の低さが腎機能の急速な低下リスクと関連――日本人の健診データの解析
尿酸値が基準範囲内であっても低値の場合は、腎機能が急速に低下するリスクが高いという関連を示すデータが報告された。ただし、高齢者ではこの関連が見られないという。帝京大学ちば総合医療センター腎臓内科の寺脇博之氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に2月11日掲載された。
尿酸値が高すぎる状態「高尿酸血症」は、痛風だけでなく腎機能低下のリスクとなる。しかし、それとは反対に尿酸値が低いことの腎機能への影響はよく分かっていない。尿酸には強力な抗酸化作用があるため、理論的には、尿酸値が低いことも腎機能低下リスクとなる可能性も考えられるが、そのような視点での研究報告は少ない。そこで寺脇氏らは、健診受診者のビッグデータを用いてこの点に関する検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。都内の健診センターの1998~2001年度の4年間の受診者のうち、2002~2005年度にも受診していて4年以上の追跡が可能だった1万1,129人から、低尿酸血症(2.0mg/dL未満)、積極的な治療が必要とされる高尿酸血症(8.0mg/dL以上)、および糖尿病の治療を受けている患者を除外した1万547人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢53.3±11.6歳、男性50.4%で、BMIは22.9±2.99、尿酸値5.22±1.23mg/dL、eGFR83.1±10.1mL/分/1.73m2。なお、治療中の糖尿病患者を除外したにもかかわらず、501人(4.8%)は糖尿病ないし糖尿病疑いと判定された。
eGFRが1年間に3mL/分/1.73m2以上の速度で低下していた場合を「急速な腎機能低下」と定義すると、5.4±1.6年の追跡で333人(3.2%)がこれに該当した。急速な腎機能低下群と対照群のベースラインデータを比較すると、年齢や性別(男性の割合)、BMI、尿酸値には有意差がなく、血圧やeGFRは前者が高値、アルブミンは後者が高値という有意差が見られた。
ベースラインの尿酸値を基に全体を6群に分けると、急速な腎機能低下の発生率は以下のように、4.0~4.9mg/dLの群が最も低かった。2.0~2.9mg/dLでは4.5%、3.0~3.9mg/dLは4.0%、4.0~4.9mg/dLは2.4%、5.0~5.9mg/dLは3.3%、6.0~6.9mg/dLは3.1%、7.0~7.9mg/dLは3.4%。
尿酸値4.0~4.9mg/dLの群を基準として、他群での急速な腎機能低下の発生リスクを検討。その結果、交絡因子未調整では、2.0~2.9mg/dLの群〔オッズ比(OR)1.93(95%信頼区間1.01~3.70)〕と、3.0~3.9mg/dLの群〔OR1.72(同1.20~2.45)〕、および5.0~5.9mg/dLの群〔OR1.43(同1.05~1.96)〕で有意なオッズ比の上昇が認められた。
腎機能の低下速度に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、ヘモグロビン、ALT、血清アルブミン、eGFR、HDL-C、TG、CRP、糖尿病・高血圧・脂質異常症・脳卒中・虚血性心疾患の既往)を調整後も、3.0~3.9mg/dLの群では有意性が保たれていた〔OR1.73(同1.20~2.50)〕。ベースライン登録後に判明した糖尿病(ないし疑い)患者を除外した解析の結果も同様だった。
性別のサブグループ解析からは、男性、女性ともに全体解析と同様の結果が示された。一方、年齢で層別化したサブグループ解析からは、65歳以上の高齢者では、尿酸値が低いことと急速な腎機能低下のリスクとの関連が非有意となることが分かった。
著者らは本研究の特徴の一つとして、尿酸値や腎機能に関連のある、血清アルブミンを含む多くの交絡因子を調整していることを挙げている。なお、血清アルブミンについては、著者らの研究グループが、基準範囲内でも低値の場合、急速な腎機能低下が発生しやすい可能性を既に報告している。一方、研究の限界点としては、腎機能低下との関連のある尿アルブミンや処方薬の情報が把握されていないこと、対象が健診受診者であるため健康リテラシーの高い集団と考えられることなどが挙げられるという。
論文の結論は、「われわれの研究により、特に若年から中年の成人において、基準範囲内で低レベルの尿酸値が腎機能の急速な低下のリスクと独立して関連していることが示された」とまとめられている。なお、その機序については文献的考察から、「尿酸はビタミンCを上回る抗酸化作用を有しており、そのレベルが低いことで、血管内皮細胞での酸化ストレスの亢進、アポトーシスの誘導、接着分子の発現などが生じることの影響が考えられる」と述べられている。また、高齢者では尿酸値低値の影響が非有意であることについては、「活動性が高い若年~中年期には酸化ストレス抑制のため尿酸の需要が高いのに対して、高齢期にはその需要が減るためではないか」と推察している。
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4月 12 2023 身長が5mm低くなっただけで死亡リスクが有意に上昇――日本人での縦断研究
加齢に伴い、わずかに身長が低くなっただけで、死亡リスクが有意に高くなる可能性を示唆するデータが報告された。2年間で5mm以上低くなった人は、そうでない人より26%ハイリスクだという。福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科の田中健一氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月3日掲載された。
身長は椎間板の変形や椎骨骨折などの影響を受けて、歳とともに徐々に低くなる。そのような身長短縮の影響は骨粗しょう症との関連でよく検討されており、また死亡リスクとの関連も検討されている。ただし後者については、2cm以上という顕著な身長短縮が見られた場合を評価した研究が多く、わずかな身長短縮と死亡リスクの関連は明らかになっていない。田中氏らは、特定健診研究(J-SHC study)のデータを用いて、軽微な身長短縮の死亡リスクへの影響を縦断的に検討した。
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平均4.8±1.1年の観察で、1,436人が死亡。死亡リスクの評価に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、ベースライン時の身長、BMI、喫煙習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・心血管疾患の既往)を調整後、身長短縮幅が5mm以上の群は、主要評価項目の全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが26%有意に高いことが示された〔対照群を基準とする調整ハザード比(aHR)1.26(95%信頼区間1.13~1.41)〕。性別に見ても、男性はaHR1.24(同1.08~1.43)、女性はaHR1.28(1.07~1.52)であり、ともに有意なリスク上昇が認められた。
二次評価項目として設定されていた心血管死については、全体解析〔aHR1.34(1.04~1.72)〕と女性〔aHR1.60(1.08~2.37)〕では、身長短縮幅が5mm以上の場合に有意なリスク上昇が認められたが、男性はこの関連が非有意だった〔aHR1.18(0.85~1.64)〕。男性では非有意となった理由として著者らは、心血管死が少なかったこと(全体で279人、男性は172人)が一因ではないかとの考察を加えている。
これらの結果を基に論文の結論は、「日本人を対象とする研究から、2年間でわずか5mmの身長短縮も全死亡リスクと関連のあることが明らかになった。身長の変化は、死亡リスクを層別化して評価するための、低コストで簡便なマーカーとして利用できるのではないか」とまとめられている。
なお、身長短縮が全死亡リスクを上昇させるメカニズムについては、既報研究に基づき、骨粗しょう症による骨折リスクや骨格筋量の減少、サルコペニア、フレイル、心肺機能や消化器機能への影響などを介した機序に言及。また、身長短縮を防ぐための介入として、骨粗しょう症の治療や身体活動が有効なのではないかとしている。ただし、身長短縮を防ぐという目的での介入が全死亡リスクを低下させ得るかは、「今後、検討されるべき課題」と述べている。
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4月 12 2023 身体活動が少なすぎ/多すぎの双方がメンタルヘルス不良と関連――日本人での横断研究
身体活動の量や時間とメンタルヘルスとの間に、U字型の関連があるとする研究結果が報告された。東京医科大学精神医学分野の志村哲祥氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychology」に1月13日掲載された。
スポーツや運動、または仕事や家事なども含む「身体活動」は、一般的にはメンタルヘルスに良い影響を与えると考えられている。ただし、身体活動が多ければ多いほどメンタルヘルスがより良好になるのかという用量反応関係は不明。多すぎる身体活動がメンタルヘルスの悪化と関連しているとする報告もあるが、検証が十分行われておらず、最適な身体活動レベルも明らかになっていない。志村氏らはこのような状況を背景として、自記式アンケートを用いた日本人成人を対象とする研究を行った。
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アンケートでは、身体活動レベルを国際標準化身体活動質問票(IPAQ)で把握。IPAQは、余暇時間での運動と、家事や仕事、移動のための身体活動を質問し、その回答から1週間当たりの身体活動の量(MET分/週)と身体活動の時間(時/週)を推計した。そのほかに、抑うつ(PHQ-9)、不安(STAI-Y)、心理的レジリエンス(CD-RISC)、ストレスによる睡眠への影響(FIRST)などを把握し、身体活動レベルとの関連を解析した。
解析対象者全体の身体活動量は合計で平均2,480METs分(標準偏差±3,467METs分)/週で、身体活動時間は合計で平均10.4±14.3時間/週だった。なお、「METs」は運動量の単位で、例えば、料理は2METs、歩行は3METsに相当する。60分のウォーキングをすると、180METs分の運動量となる。
解析の結果、身体活動レベル(量と時間の双方)とメンタルヘルス評価指標との間に線形の関連はなく、U字型の有意な関連があることが分かった。つまり、身体活動が多ければ多いほどメンタルヘルスの評価指標が良好になるわけではなく、少なくても多くても不良となりやすい可能性が示唆された。本研究で示された、メンタルヘルス評価指標が最も良好な値となる身体活動レベルは以下の通り。
まず、身体活動量との関連では、うつレベルは6,953METs分/週、状態不安(一過性の不安)は5,277METs分/週、特性不安(不安を抱きやすい傾向)は5,678METs分/週、ストレスによる睡眠への影響は9,152METs分/週で、それぞれ最小となっていた。心理的レジリエンスに関しては、身体活動量と統計的に有意な関連は示されなかった。次に、身体活動時間との関連では、うつレベルは25.7時間/週、状態不安は21.6時間/週、特性不安は22.6時間/週、ストレスによる睡眠への影響は31.2時間/週、心理的レジリエンスは25.4時間/週で、それぞれ最小となっていた。
この結果を著者らは、「身体活動レベルと、さまざまなメンタルヘルス評価指標は、線形の関連ではなく、U字型の関連であることが確認された。週に約21~31時間の身体活動(毎日3~4.5時間)、または5.3~9.2kMETs分/週の身体活動である場合に、最適なメンタルヘルス状態であり、このレベルを下回るか上回る身体活動は、メンタルヘルスの評価指標の悪化と関連していた」と総括している。5.3~9.2kMETs分/週の身体活動とは、体重が60kgの人の場合、毎日750~1,300kcal程度を消費する身体活動に相当する。志村氏は、「デスクワークの人はなるべく体を動かすことを意識することが大切であり、一方で、仕事でかなり体を使っている人は、オフにはゆっくり過ごしても良いのかもしれない」と述べている。
なお、本研究の限界点としては、横断研究であるため因果関係は不明であること、研究参加者が大学関係者を介して募集されており、一般人口の代表とは言えないこと、身体活動レベルを主観的評価で判定していること、研究の実施が新型コロナウイルス感染症パンデミック前であり、現在は人々の身体活動量やメンタルヘルス状態に変化が生じている可能性のあることなどが、論文中に記されている。
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4月 05 2023 経頭蓋磁気刺激療法でlong COVIDの精神症状改善の可能性――国内パイロット研究
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以降に症状が遷延している、いわゆるlong COVIDの精神症状に対して、経頭蓋磁気刺激療法を施行したパイロット研究の結果が報告された。抑うつ症状や倦怠感、認知機能を改善する可能性が示されたという。慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任准教授(新宿・代々木こころのラボクリニック副院長/東京横浜TMSクリニック技術顧問)の野田賀大氏らの研究によるもので、詳細は「Asian Journal of Psychiatry」3月発行号に掲載された。
Long COVIDでは、筋肉や関節の痛み、しびれ、頭痛、倦怠感などの身体症状のほかに、抑うつ、不眠、ブレインフォグ(頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態)などの精神症状が現れやすく、これらに対する治療法はいまだ確立されていない。一方、精神疾患の治療法として、磁気エネルギーによって脳内に微弱な電流を起こす「経頭蓋磁気刺激療法(TMS)」のエビデンスが蓄積されてきており、難治性うつ病に対しては保険診療として行われている。野田氏らは、long COVIDの精神症状に対するTMSの有用性と安全性を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、都内でTMSを行っているクリニック2施設のlong COVID外来患者を対象とするケースシリーズ研究として実施された。研究参加の主な適格条件は、PCR検査が陽性で、COVID-19罹患後に初めてうつ病または不安障害の診断基準を満たす状態となり、TMS治療を希望する20~70歳の患者であることなど。一方、除外基準として、神経変性疾患などの器質的疾患、原発性睡眠障害、双極性障害、統合失調症、てんかん、インプラントやペースメーカーの使用、妊婦などが設定されていた。評価項目は、うつ病の重症度(MADRS)、抑うつ症状(PHQ-9)、パフォーマンスステータス(PS)、認知機能(PDQ-D-5)などで、TMS施行前とTMSを20回試行した後でこれらの変化を検討した。
研究参加者は23人で、平均年齢38.2±11.7歳、女性13人で、COVID-19急性期に入院を要していた患者が7人であり、long COVIDの主訴は慢性疲労が12人、認知機能障害が11人。そのほかに大半の患者が、軽症以上の抑うつ症状も有していた。COVID-19罹患からTMS施行までの期間は48.6±30.2週だった。
では結果だが、MADRSはTMS施行前が21.2±7.0、施行後は9.8±7.8、PHQ-9は同順に12.9±4.7、8.2±4.6、PSは5.4±1.6、4.2±1.8、PDQ-D-5は10.0±5.2、6.3±4.7であり、いずれも有意に改善していた(全てP<0.0001)。サブ解析の結果、男性は女性より抑うつ症状がより大きく改善したこと、COVID-19急性期の入院の有無やワクチン接種歴は有効性に有意な影響を及ぼしていないことなどが明らかになった。
著者らは、本研究が小規模なパイロット研究であり、盲検化されていないこと、長期予後を評価していないことなど、多くの限界点があるとした上で、「難治性うつ病の治療に用いられているTMSが、long COVIDの精神症状の改善にも有用である可能性を、初めて示すことができた」と総括し、大規模な無作為化比較試験の必要性を述べている。
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4月 05 2023 PCI後の慢性冠症候群患者では高尿酸血症がMACEリスクを高める可能性
経皮的冠動脈形成術(PCI)後の慢性冠症候群患者では、高尿酸血症が主要心血管イベント(MACE)のリスクを押し上げる可能性を示唆するデータが報告された。自治医科大学附属さいたま医療センター循環器内科の藤田英雄氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に1月10日掲載された。
高尿酸血症が心血管疾患の関連因子であることは確かだが、高尿酸血症に併存することの多い肥満や脂質異常症、高血圧などの影響を統計学的に調整すると、両者の関連性が減弱または消失するため、因果関係の有無についてはいまだ議論が続いている。ただし、一般住民に比べてイベントリスクが高い、例えばPCIによる治療後の集団を対象に検討すれば、高尿酸血症の影響をよりはっきり把握できる可能性がある。このような背景のもと藤田氏らは、高尿酸血症以外の交絡因子のデータもあってそれらの影響も考慮可能な、PCI後の慢性冠症候群患者を対象とする以下の検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、国立循環器病研究センターと6大学の付属病院が参加しているレジストリ「Clinical Deep Data Accumulation System(CLIDAS)」のデータを用いた後方視的コホート研究として実施された。2013~2018年度にPCIが施行された連続9,936症例のうち、急性冠症候群以外の理由で再度PCIが施行された患者を慢性冠症候群症例と定義すると、5,138人が該当。それらの患者を解析対象とした。解析対象者の主な特徴は、年齢は中央値72歳(四分位範囲65~78)、男性78.4%で、BMIは中央値23.8(21.8~26.3)であり、尿酸値は同5.7mg/dL(4.8~6.6)。
ベースライン時(初回PCI施行時)に高尿酸血症(男性7.0mg/dL以上、女性6.0mg/dL以上、または尿酸降下薬の処方)が認められた患者は1,724人だった。高尿酸血症群と対照群を比較すると、BNP、クレアチニン、高血圧・心房細動・冠動脈バイパス術の既往や心不全入院歴を有する割合は高尿酸血症群の方が有意に高く、反対に糖尿病の既往者の割合、左室駆出率は対照群の方が有意に高かった。また、複雑病変(三枝病変、左冠動脈主幹部病変)は高尿酸血症群の方が多かった。一方、年齢と性別(男性の割合)は有意差がなかった。
主要評価項目は、追跡期間中のMACE(心血管死、心筋梗塞、心不全入院)の発生であり、副次的評価項目として、全死亡とMACEの各構成因子が設定されていた。中央値910日(範囲307~1,479日)の追跡で、MACEは445人に発生し、全死亡は381人だった。カプランマイヤー法による解析で、高尿酸血症群はMACE、全死亡、心血管死、心不全入院の発生率が有意に高いことが示され(全てP<0.001)、心筋梗塞の発症には有意差がなかった。
イベント発生リスクは以下の3種類のモデルで検討した。モデル1は年齢、性別、BMI、eGFR、高血圧・糖尿病・脂質異常症・心筋梗塞の既往、心不全入院歴、複雑病変を調整。モデル2は、モデル1に利尿薬の使用を追加。モデル3はモデル2にBNPと左室駆出率を追加。
解析の結果、高尿酸血症群は対照群よりMACE発生リスクが有意に高いことが示された〔モデル3でのハザード比(HR)1.33(95%信頼区間1.01~1.77)〕。副次的評価項目のうち心不全入院は、モデル3でも高尿酸血症群が有意にハイリスクと示された〔HR1.71(同1.21~2.41)〕。全死亡はモデル1では高尿酸血症群がハイリスクだったが〔HR1.26(同1.01~1.57)〕、モデル2では非有意となり、心筋梗塞については交絡因子未調整でも非有意だった。
著者らは本研究の強みの一つとして、多数の交絡因子を調整していることを挙げ、その検討の結果、「慢性冠症候群患者では高尿酸血症がMACEの独立したリスク因子である可能性が示唆され、特に心不全リスクとの関連が強いことが明らかになった」と結論付けている。一方で、後方視的観察研究であるため因果関係については判断できないこと、栄養素摂取状況を評価できていないことなどの限界点があるとし、「尿酸降下療法が慢性冠症候群患者のMACE抑制につながるのか否かを確認するための介入研究が望まれる」と付け加えている。
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