糖尿病による自殺リスクは3.5倍――日本人労働者研究データの解析

 日本人労働者において糖尿病を有することで、自殺リスクが3.5倍上昇するとの研究結果が報告された。一方、前糖尿病(糖尿病予備群)では自殺リスクの上昇は認められなかった。国立国際医療研究センター疫学・予防研究部の福永亜美氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Psychosomatic Research」11月号に掲載された。

 生産年齢人口における主要な死因の一つに自殺が挙げられる。自殺の原因となるリスク因子として、慢性疾患への罹患が示唆されており、糖尿病もその疾患の一つであることが報告されている。しかしながら、海外からの報告も含めこれまでの研究において、自殺する数年前の糖尿病状態(糖尿病、前糖尿病、正常血糖)については検討されていない。特に前糖尿病と自殺に関する研究はほとんどない。また、自殺者の増加が懸念される労働者を対象に、この関連を検討した研究は限られている。以上を踏まえて、著者らは日本人労働者における糖尿病・前糖尿病と自殺との関連について検討した。

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 この研究では、国内の複数企業の労働者を対象とする職域多施設研究(J-ECOHスタディ)のデータを使用し、コホート内症例対照研究を実施した。2012年4月~2020年3月の追跡期間中に自殺し、自殺前の3年間の健康診断において空腹時血糖またはHbA1cの情報を得た56人を症例とした。各症例について年齢・性別・会社をマッチングさせた5人を無作為に抽出し、合計280人を対照群とした。

 自殺する直近に受けた健康診断の記録をもとに、対象者の糖尿病状態を「糖尿病」「前糖尿病」「正常」の3群に分類した。具体的には米国糖尿病学会の基準により、空腹時血糖126mg/dL以上、HbA1c6.5%以上、または糖尿病治療の記録があるものを「糖尿病」、これに該当せず空腹時血糖100~125mg/dLまたはHbA1c5.7~6.4%の場合を「前糖尿病」、これらいずれにも該当しない場合は「正常」とした。自殺した56人の糖尿病状態は、7人が糖尿病、13人が前糖尿病、36人が正常であった。対照群280人では同順に、11人、99人、170人であった。

 条件付きロジスティック回帰分析により、BMI、喫煙状況、高血圧、総コレステロールを調整の上、血糖正常群を基準に自殺リスクを比較した。その結果、糖尿病群ではオッズ比3.53(95%信頼区間1.05~11.91)となり、自殺リスクが有意に高いという関連が認められた。一方、前糖尿病ではオッズ比0.67(同0.32~1.41)と、有意な関連は見られなかった。

 著者らは本研究を、「糖尿病および前糖尿病と自殺リスクとの関連を前向きに調べた数少ない研究の一つ」と位置づけ、「日本人労働者において糖尿病を有することは、自殺リスクが高いことと関連している。ただし、前糖尿病での自殺リスク上昇は認められなかった」と結論をまとめている。今後は糖尿病と自殺との関連を説明する背景に着目する必要がある。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2020年11月9日
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