産後は夫婦ともにメンタル不調になりやすい――国立成育医療研究センター

子どもの出産後、妻だけでなく夫もともにメンタル面の不調を抱えていることが少なくなく、日本国内で毎年3万組の夫婦が苦しんでいる可能性が報告された。国立成育医療研究センターの竹原健二氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」8月13日オンライン版に掲載された。
出産後の女性に産後うつなどの不調が現れやすいことはよく知られている。また近年では女性だけでなく、新たに子どもを授かった男性もメンタル不調に陥りやすいとする報告が多い。しかし、世帯単位の夫婦を調査対象とした研究はこれまで行われておらず、その実態は明らかでなかった。竹原氏らは、2016年の国民生活基礎調査のデータから生後1年未満の子どもがいる世帯のうち、夫婦のメンタルヘルス状態に関する調査データのある3,514世帯を対象として詳細な検討を行った。

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対象者の背景は、平均年齢が夫33.9±6.0歳、妻32.1±5.1歳、子どもが1人の世帯が45.3%、世帯支出額5万7,000円(月1人当たりの中央値。四分位範囲は4万~7万5,000円)。夫の99.3%は被雇用者で、26.4%は週に55時間以上勤務していた。妻の44.0%は有職者で、19.6%が週に1時間以上勤務していた。
メンタルヘルス状態は、Kessler心理的苦痛スケール(K6)という指標を用いて評価した。この指標は、緊張や絶望の感じ方や、努力が大切だと思うか、といった6項目の質問に対し0~4点で回答してもらい、24点満点のスコアで判定する方法。本研究では、9~12点を中等度の心理的苦痛、13点以上を重度の心理的苦痛と定義した。
結果をまず夫婦別々に見ると、夫の11.0%は中等度以上の心理的苦痛を感じており、さらに3.7%は重度の苦痛を感じていることが明らかになった。また妻の10.8%は中等度以上の心理的苦痛、3.5%は重度の苦痛を感じていた。これにより、産後の女性がメンタル面の不調に陥る頻度と同程度に、夫もまたメンタル不調になりやすいことが分かった。
続いて、夫婦単位で検討した結果を見ると、夫と妻がともに中等度以上の心理的苦痛を感じている世帯が3.4%に上ることが明らかになった。この3.4%という数値を国内の出生数(2019年は約86万5,000人)に当てはめて推算すると、毎年約3万組の夫婦が、子どもを授かった後に2人ともメンタル面の不調で悩んでいる可能性が考えられる。なお、夫婦がともに重度の心理的苦痛を感じている世帯も0.4%存在した。
多重ロジスティック回帰分析の結果、夫婦が同時期に中等度以上の心理的苦痛を感じている世帯に関連する因子として、夫の労働時間が週55時間以上〔調整オッズ比(aOR)1.61(95%信頼区間1.05~2.49)〕、妻の睡眠時間が6時間未満〔aOR1.81(同1.17~2.79)〕、1人当たりの世帯支出が中央値以上〔aOR2.09(同1.33~3.28)〕、子どもが生後6~12カ月〔生後6カ月未満に対しaOR1.58(同1.02~2.45)〕という項目が抽出された。夫婦の年齢や、夫婦以外の保護者の存在などは有意な関連因子でなかった。
研究グループは、「夫婦が同時期にメンタルヘルスの不調を来してしまうと、養育環境が著しく悪化しやすくなり、世帯全体に大きな影響が生じることが懸念される。それを防ぐためにも、産後のケアや支援の対象を母子に限定するのではなく、父親も含めた世帯全体をアセスメントすることが重要と考えられる」と考察している。また、「日本では働き方改革の議論が進んでいるが、特に子どもが幼い間は、父親の長時間労働が母親や子どもの健康や成長に影響を与える可能性があり、さらなる改革が急務」と述べている。
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