緊急事態宣言で低下した身体活動量は宣言解除後も回復していない

 人々の身体活動が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴う緊急事態宣言によって減少し、宣言解除後も以前のレベルにまで回復していない実態が報告された。鹿児島大学医学部保健学科の牧迫飛雄馬氏らが、昨春の国内パンデミック第一波前後の変化を調べた研究結果であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に4月30日、論文が掲載された。

 COVID-19のパンデミックとそれに伴う緊急事態宣言によって、人々の身体活動が減少したとするデータが多く報告されている。しかし、緊急事態宣言解除後に人々の身体活動がどの程度回復したのかについては、あまり調査が行われていない。

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 牧迫氏らは「Yahoo!クラウドソーシング」のオンラインアンケートシステムを用い、2020年10月19~28日に国内在住40歳以上の成人を対象とする調査を実施。COVID-19出現前(2019年10月)、1回目の緊急事態宣言中(2020年4月)、宣言解除後(2020年10月)の身体活動の変化を検討した。なお、宣言解除後の身体活動についてはアンケート時点の活動状況を回答してもらい、前二者についてはそれぞれの時期の活動状況を思い出して答えてもらった。

 アンケートに回答したのは3,048人で、極端な身体活動時間(1日960分以上、または最大値が最小値の10倍以上など)を報告した回答や、身体活動に影響を及ぼし得る疾患(脳卒中、パーキンソン病、認知症、うつ病など)のある人を除外した1,986人(40~69歳)の回答を解析対象とした。身体活動レベルは、国際身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価した。また、「緊急事態宣言後に体力の低下を感じるか?」との質問の回答により、体力低下の自覚の有無を把握した。

 解析対象者の平均年齢は50.1±6.9歳で、38.9%が女性だった。また、重点的な感染拡大防止策が必要とされた特定警戒都道府県(東京、大阪、北海道など13都道府県)の居住者が71.2%を占めていた。

 身体活動時間は、COVID-19出現前の2019年10月が中央値355分/週(四分位範囲150~660)であったのに対して、緊急事態宣言中の2020年4月は同240分/週(80~540)と32.4%有意に減少し、宣言解除後の2020年10月も同300分/週(120~600)と15.5%有意に少ないままだった(いずれもP<0.001)。

 対象者の33.8%が体力低下を自覚していた。体力低下を自覚していた群は自覚していなかった群に比較して、女性の割合が高く、特定警戒都道府県の居住者が多かった。また、緊急事態宣言中の身体活動時間は、体力低下を自覚している群でより大きく減少していた〔270分/週(100~600)対180分/週(60~480)、P<0.01〕。COVID-19出現前および緊急事態宣言解除後については、体力低下の自覚の有無による身体活動時間の有意差はなかった。

 体力低下の自覚がない群ではCOVID-19出現前に比較して、緊急事態宣言中の身体活動時間が20.6%減少し、宣言解除後も11.8%少なかった。一方、体力低下を自覚している群では、緊急事態宣言中は50.5%減と半分以下に減少し、宣言解除後も25.0%少なかった(すべてP<0.01)。

 著者らはこの解析結果を解釈する際の留意点として、年齢や性別、収入などの交絡因子を調整していないこと、過去の身体活動を思い出し法で評価しているため正確でない可能性があること、体力変化の評価法が客観的手法でないことなどを挙げている。その上で、「緊急事態宣言下で日本人の身体活動は大きく減少し、特に体力低下を自覚した人で顕著に低下していた。また、緊急事態宣言解除後も、以前の身体活動レベルに戻ることが困難であることが示された」と結論付けている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2021年6月7日
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