狭心症患者へのステント治療は無駄?

胸痛をもたらす代表的な疾患の一つである狭心症患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)で、一部の専門家が「これまでの循環器診療を変える可能性がある」と評する研究結果が示された。

この試験では、カテーテルを用いて狭窄した冠動脈を広げるステントを留置する治療〔経皮的冠動脈インターベンション(PCI)〕を受けた患者と、実際にはステントを留置しない偽のPCIを受けた患者の間に症状やQOL(生活の質)の差は認められなかったという。

この研究は英インペリアル・カレッジ・ロンドンのRasha Al-Lamee氏らが実施したもの。
研究結果は心血管カテーテル治療学会議(TCT 2017、10月29~11月2日、米デンバー)で報告されたほか、「The Lancet」11月2日オンライン版にも掲載された。Al-Lamee氏らは「患者によっては高価なステントを用いた治療を行わなくても薬物療法のみで十分であることを示す結果」としている。

RCTの対象は、英国の5施設で登録された70%以上の狭窄が1本の冠動脈のみに認められる18~85歳の安定狭心症患者200人(平均年齢66歳、女性27%)。
全員に6週間の至適薬物療法を行った上で、105人をPCI群、95人を偽の治療を行うプラセボ治療群にランダムに割り付けた。
PCI群では狭窄部位に薬剤溶出ステント(DES)を留置した一方、プラセボ治療群ではPCI群と同様、橈骨動脈または大腿動脈からカテーテルを挿入して冠動脈造影を実施したがステントは留置しなかった。
なお、いずれの群も処置中は患者にヘッドホンを付けて音楽を流し、周囲の音が聞こえないようにした。

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その結果、6週間後にトレッドミル検査での歩行時間がPCI群では28.4秒、プラセボ治療群では11.8秒延長したが、両群間に有意差は認められなかった。
また、患者の評価による症状の改善度も両群間で有意差はなかった。
ところが、瞬時血流予備量比(iFR)と冠動脈血流予備量比(FFR)によって評価した虚血の程度はPCI群で有意に改善していた。

Al-Lamee氏はニュースリリースで「この結果は特定の条件を満たした患者群でのみ認められたものではあるが、驚くべきことにステント治療は血流を改善したにもかかわらず、薬物療法のみと比べて症状を抑える効果が優れているわけではないことが示された」と説明。
「狭窄した冠動脈を広げることと症状の改善との関係は、考えられているほど単純な関係ではないのかもしれない」との見方を示している。

また、同氏は今回の研究結果について「全ての安定狭心症患者でステント治療を回避すべきという意味ではない。
安定狭心症でも薬物療法よりステント治療の方が望ましい患者が存在する可能性はある」と付け加えている。

この研究について米セントルイス・ワシントン大学のDavid Brown氏らは論文の付随論評で「画期的な研究であり、極めて重要かつ広範囲に影響を与える結果が示された」と評価。
この結果に基づき狭心症の治療ガイドラインを改訂するよう求めている。

一方、この研究結果について慎重な見方を示す循環器医も多い。
その理由として、この研究は狭窄がある冠動脈が1本のみで症状も比較的軽度の患者を対象としていたこと、追跡期間が6週間と短期間であったことなどが指摘されている。

米コロンビア大学医療センターのAjay Kirtane氏は「これまで数多くの冠動脈疾患患者を治療してきた医師として、この研究結果がより重度の症状に苦しむ患者を含む全ての患者の治療にも当てはまるものと拡大解釈されてしまうことを危惧している」とコメント。
また、米国心臓協会(AHA)のスポークスパーソンで米ノースカロライナ大学のSidney Smith氏も「狭窄部位にステントを留置しなかった患者に何が起こるのかを知るには、より長期間の追跡が必要だ」と強調している。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2017年11月2日
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