動脈スティフネスの進行度に遺伝的要因が影響か 進行抑制には有酸素運動が効果的、産総研


一方で、この10年間に及ぶ観察研究からは、動脈スティフネスが進行しやすい遺伝的要因があっても、有酸素運動を習慣的に行うことでこのリスクを低減できる可能性があることも示唆された。詳細は「Journal of Applied Physiology」11月2日オンライン版に掲載された。
心血管疾患のリスク因子である動脈スティフネスは加齢とともに増大することから、心血管疾患の一次予防には動脈壁の硬化をいかに予防するかが重要と考えられている。
また、これまで動脈スティフネスの進行予防や改善には習慣的な運動が有効とする報告がなされているが、同じ対象者を長期にわたって観察した研究はほとんど行われていなかった。
研究グループは今回、動脈スティフネスの進行度への遺伝的な要因による個人差や習慣的な有酸素運動による影響を調べるため10年間の追跡調査を行った。
対象は、2003~2005年に動脈スティフネスの指標である上腕足首間脈波伝播速度(brachial-ankle pulse wave velocity;baPWV)を計測したボランティアの成人男女92人。初回参加時の平均年齢は52歳で、51人が男性であった。

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参加者には習慣的な運動習慣について尋ね、有酸素運動量を1週間当たりの消費カロリー(METs×時間)として推定した。
また、血管の緊張度の制御に関わるET-A受容体(血管収縮作用に関与)とET-B受容体(血管拡張作用に関与)の遺伝子多型のパターンを調べた。
解析の結果、10年間のbaPWVの増加量は、ET-A受容体の遺伝子多型がT/T型の場合と比べて、T/C型とC/C型の場合に有意に高く、ET-B受容体の遺伝子多型ではA/A型およびA/G型の場合と比べてG/G型の場合に有意に高かったことから、動脈スティフネスの進行度にはET受容体の遺伝子配列パターンが関係することが分かった。
また、ET-A受容体がT/C型またはC/C型の場合とET-B受容体がG/G型の場合をETに関連する遺伝子リスクと仮定すると、これらのリスク因子の保有数が増えるほどbaPWVの増加量が増えていた。
さらに、参加者を1週間の有酸素運動量で(1)運動量が少ない群(5METs×時間未満)、(2)運動量が中程度の群(5METs×時間以上、15METs×時間未満)、(3)運動量が多い群(15METs×時間以上)の3群に分けて10年間のbaPWVの増加量を比較したところ、運動量が最も多い群では他の2つの群と比べてbaPWVの増加量が3分の1程度に抑えられていた。
有酸素運動量とET関連遺伝子の保有リスク数はいずれも独立した動脈スティフネス進行のリスク因子であることも分かった。
以上の結果から、菅原氏らは「ETに関連する遺伝子多型に特定のパターンを持つ人は加齢に伴う動脈スティフネスの進行度が高い一方で、こうした人でも有酸素運動を習慣的に行うことで動脈硬化の進行を抑制できる可能性がある」と結論づけている。
また、15METs×時間以上の活動量は速歩やジョギングを1日30~60分、週4~5日行うことに相当し、今回の調査で運動量が多かった参加者は運動を過去10年間継続していると回答していたことから、「こうした有酸素運動の効果は短期的なものではなく、日々の積み重ねによる継続的な効果だと考えられる」と付け加えている。

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