• 朝食のタンパク質の質が認知機能と関連――国立長寿医療研究センター

     朝食に質の高いタンパク質を取ると、認知機能の低下予防につながるかもしれない。その可能性を期待させるデータが報告された。国立長寿医療研究センターと味の素(株)との共同研究による縦断研究の結果であり、詳細は「The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」1月号に掲載された。

     食事として摂取されたタンパク質の中のアミノ酸は、神経伝達物質の前駆体として機能することが知られている。特に、体内で合成できない不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)の摂取が、認知機能の維持にとって重要と考えられている。一方で近年、摂取する栄養素の量やバランスだけでなく、それらを「いつ」摂取するかによっても健康への影響に差が生じることが明らかになってきている。これらの知見から、タンパク質の質やその摂取タイミングが認知機能に変化を及ぼす可能性が考えられる。しかしそのエビデンスはまだない。

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     この点を明らかにするため共同研究チームは、国立長寿医療研究センターが行っている地域住民対象の長期縦断疫学研究のデータを用いた解析を実施した。2002年5月~2004年5月に研究参加登録された2,378人のうち、ベースライン時に認知障害がなく、データ欠落のない541人(平均年齢68.2±5.7歳、男性47.3%)を解析対象とした。

     タンパク質の質は、「タンパク質消化吸収率補正アミノ酸スコア(PDCAAS)」という指標で評価した。PDCAASは0~100点の範囲で判定され、数値が高いほど必須アミノ酸をバランス良く吸収できる食事であることを意味する。本研究では、ベースライン時に行った3日間の食事調査から、朝食、昼食、夕食、それぞれのPDCAASを算出した。

     一方、認知機能の評価にはMMSEという国際的な指標を用いた。MMSEのスコアは0~30点の範囲で判定され、数値の低さは認知機能の低下を表す。本研究では、軽度認知障害の疑いに該当する27点以下をカットオフ値とした。

     平均4.2±0.4年の追跡で、145人(26.8%)が認知障害を発症した。認知機能に影響を及ぼし得る因子〔性別、年齢、ベースライン時のMMSE、摂取エネルギー量、摂取タンパク質量、BMI、教育歴、うつレベル(CES-D)、高血圧・脂質異常症・糖尿病・脳卒中・虚血性心疾患の既往など〕を調整後、朝食のPDCAASが低いことが、認知障害の発症と有意に関連していることが明らかになった。

     具体的には、ベースライン時の朝食のPDCAASの第1三分位群(PDCAASスコア81.2±13.8)は、第2~3三分位群(同84.2±12.5)に比較して、追跡調査時に認知障害に該当する調整オッズ比(OR)が1.58(95%信頼区間1.00~2.50)だった。その一方、昼食〔OR0.85(同0.54~1.34)〕や夕食〔OR1.08(同0.71~1.65)〕に関しては、PDCAASと認知障害発症との間に有意な関連が認められなかった。

     以上を基に著者らは、「朝食のタンパク質の質が低い食事は、摂取タンパク質量の多寡にかかわりなく、高齢者の認知障害の発症率の高さと関連していた。質の高いタンパク質を含む朝食の大切さを啓発する必要性が示唆される」と結論付けている。なお、PDCAAS第1三分位群の人の朝食は、豆類、牛乳/乳製品、魚介類、卵の摂取量が少なく、一方で穀物、砂糖/甘味料、油脂の摂取量が多かったという。

     昼食や夕食ではなく、朝食のタンパク質の質のみが認知障害の発症と関連していることの理由として著者らは、「朝食は一晩絶食後の最初の食事であり、エネルギー代謝の面で最も重要な食事と位置付けられており、認知機能に関してもその重要性を裏付ける報告がある」と述べている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年3月14日
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  • 「買い物リハ」で高齢者の身体・認知機能が改善

     買い物をナッジとして活用する「買い物リハビリテーション」によって、高齢者の身体機能や認知機能が改善することが報告された。雲南市立病院地域ケア科の毛利直人氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に1月5日掲載された。

     加齢に伴う身体機能や認知機能の低下予防・改善にはリハビリテーションが有効だが、リハビリ開始に至るまでの動機付けがネックとなることが少なくない。それに対して近年、行動科学の知見に基づき「ナッジ」(わずかに後押しする行為)を応用する試みがなされている。毛利氏らは、ナッジとして高齢者の買い物をサポートする試みを行い、その後の身体機能や認知機能の変化を検討した。

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     研究参加者は雲南市内に居住する高齢者72人。そのうち59人が6カ月間にわたる平均月4回の「買い物リハ」を終了した。

     買い物リハは同市内最大のショッピングセンターで、1回につき約120分かけて行われた。その内容は、まず、高齢者9~12人に対し作業療法士2人が付き添い、30分かけてショッピングセンター内で買い物をしてから、屋内イベントスペースでの60分ほどの体操を挟み、その後、再度30分のショッピングを楽しんでもらうというもの。このほか、自宅での運動方法を指導するなどの働きかけを行った。なお、参加者の95%は、自宅とショッピングセンター間の移動にシャトルバスを利用していた。

     介入を終了した59人の平均年齢は86.32±4.67歳で、93%が女性であり、64%が家族と同居、36%は独居だった。年齢や女性の割合、認知症有病率、飲酒・喫煙習慣、チャールソン併存疾患指数、居住環境(戸建てか共同住宅か)などは、家族同居群と独居群とで有意差はなかった。

     運動機能と認知機能の評価には、厚生労働省の基本チェックリストを用い、介入開始時点と介入6カ月後の計2回評価した。基本チェックリストは点数が高いほど要介護リスクが高いことを意味する。本研究では、既報論文を基に合計点数8点以上をリスクの高い状態と判定し、その割合を検討した。

     介入開始時点の基本チェックリスト合計点数は平均6.71±3.34点であり、家族同居群(6.87±3.22点)、独居群(6.43±3.60点)との間に有意差はなかった(P=0.632)。また、8点以上の割合は、全体の39%、家族同居群では37%、独居群では43%だった。

     6カ月間の介入により、基本チェックリスト合計点数が8点以上の割合は27%となり、有意に減少した(P=0.050)。ただし、家族との同居か否かで層別化した解析では、同居群では24%へと有意に減少していたが(P=0.050)、独居群は33%へと減少したものの介入前との差は有意でなかった(P=0.428)。なお、介入に伴う有害事象は観察されなかった。

     この結果を基に著者らは、「リハビリテーションに買い物を組み込むことで、基本チェックリストの点数が向上する可能性が示された。買い物という行動が高齢者の社会活動を刺激することで生活に変化が生じ、フレイルリスクの抑制、生活の質(QOL)の向上につながるのではないか」と結論付けている。なお、独居者は基本チェックリストの合計点数8点以上の割合がやや高く、かつ介入前後の変化が有意でないという結果に関連して、「家族の助けのない独居高齢者は、買い物の際、食料品を含む生活必需品を十分に入手できていない可能性も考えられる」とし、今後の詳細な研究の必要性を指摘している。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年2月21日
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