パンデミック下の日本人の自殺の理由の変化

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での自殺の理由を、詳細に検討した結果が報告された。男性では主に仕事のストレスや孤独感、女性では家庭・健康・勤務問題が動機と考えられる自殺が増えているという。宮崎大学医学部臨床神経科学講座精神医学分野の香田将英氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に1月31日掲載された。

 これまで緩やかに減少傾向であった日本の自殺者数が、COVID-19パンデミック下で増加に転じたことが報告されている。特に女性における自殺者数の増加は、これまでにない傾向である。ただし、パンデミック下で自殺既遂に至った人の動機の傾向は明らかになっていない。COVID-19パンデミック下で増加している自殺理由を明らかにし、自殺予防対策を講じることは、公衆衛生上の重要な課題である。この状況を背景に香田氏らは、警察庁が集計し厚生労働省が公表している自殺統計データを用いて、自殺理由の詳細な検討を行った。

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 2014年12月~2020年6月の約5年間の自殺者データを基に、準ポアソン回帰モデルという統計学的手法を用いて、2020年1月~2021年5月の自殺死亡者数の予測値を算出した。実際の自殺死亡者数が予測値の95%予測区間の上限を超えた場合を「自殺による超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)の発生」と定義した。また、予測値に対する実際の自殺死亡者数の比を、「自殺による超過死亡割合」とした。自殺の理由は、自殺対策基本法に記載されている7つの大項目(家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題、男女問題、学校問題、その他)と不詳以外の52の小項目別に検討した。

2020年1月~2021年5月の自殺死亡者数は2万9,938人であり、そのうち自殺の理由が記されていたのは2万1,027人(男性が64.7%)だった。前記の自殺理由の大項目7つ全てについて、超過死亡が発生していた月が確認された。最も高い超過死亡割合は2020年10月の25.8%であり、性別では男性が6.1%、女性は60.8%に及んでいた。

 小項目別では、男性は失業による超過死亡が発生した月が1回あり、その超過死亡率は42.9%に達していた。そのほかに、仕事の失敗による超過死亡が複数の月で発生し〔超過死亡割合(複数月で超過死亡を認めた場合は最小値~最大値で表記)3.4~6.9%〕、仕事疲れ(同2.0~34.1%)、職場の人間関係(18.6%)、職場環境の変化(8.3%)、孤独感(7.4~25.0%)などの理由による自殺の超過死亡が認められた。女性では、親子関係の不和(4.2~4.5%)、夫婦関係の不和(4.3~39.1%)、子育ての悩み(22.2~40.0%)、介護・看病疲れ(25%)、身体の病気(15.4~20.4%)、うつ病(15.1~34.2%)、統合失調症(26.1%)、アルコール依存症(45.5%)、学友とのトラブル(60%)などの理由による自殺の超過死亡が認められた。

 著者らは、「本研究によって、COVID-19パンデミック下の日本人の自殺は、さまざまな理由で増えており、性別により理由が異なることが明らかになった。この結果は、パンデミック下での自殺者数の増加に対して、性差によって理由が異なることを念頭に適切な予防策を策定するための基礎資料となり得る」と述べている。

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HealthDay News 2022年3月7日
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