幼少期の逆境体験が高齢者の疾患リスクに――日本とフィンランドで同じ結果

子どもの頃に逆境体験(過酷な体験)をした人は成人後の主観的健康観が低く、生活習慣病の有病率が高いとする国際研究の結果が明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究グループの報告で、詳細は「BMJ Open」に8月20日オンライン掲載された。
この研究は高齢者を対象に、現在の主観的健康観や既往症(がん、心臓病または脳卒中、糖尿病)、BMI、喫煙歴と、幼少期の逆境体験(adverse childhood experiences;ACE)との関連を質問票により調査したもの。ACEは、親の離婚、家族内の恐怖(本人への身体的虐待や家庭内暴力の目撃)、経済的困窮という3項目をカウントした。

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対象は、日本の65歳以上の成人1万3,123人(平均年齢69.5歳、男性47.4%)と、フィンランドの60歳以上の成人1万353人(64.4歳、男性30.9%)。日本人については日本老年学的評価研究の登録データを用い、介護保険サービスを利用していない(要介助・介護状態でない)者を対象とした。
まず幼少期のACE体験の有無を見ると、日本では50.0%、フィンランドでは37.2%が1つ以上のACEを体験していた。次に、体験したACEの数と主観的健康観との関連を検討。年齢と性別で調整した[モデル1]では、日本のオッズ比(OR)1.43、フィンランドのORは1.39で、ACEを多く体験しているほど主観的健康観が低いという有意な関連が認められた。調整因子に教育歴、配偶者の有無、就労状況を追加した[モデル2]でもやはり有意だった(ORは、日本1.35、フィンランド1.34)。
ACEの数と既往症の関連も認められた。具体的には、日本における各疾患のORがモデル1で、がん1.16、心臓病または脳卒中1.14、糖尿病1.08であり、モデル2でも、がん1.20、心臓病または脳卒中1.10であって、それぞれACE数が多いほどリスクが上昇する有意な関連があった。フィンランドでは、モデル1で心臓病または脳卒中のORが1.14、糖尿病は1.18で有意に関連しており、糖尿病はモデル2でも有意だった(OR1.17)。このほか、ACE数が多いほどBMIが高値で現喫煙者・前喫煙者の割合が高いという有意な関連が、日本・フィンランドの双方で見られた。
ACEと成人後の疾患リスクの関連については、米国などの社会格差が大きい国からは既に報告されているが、その他の地域、特に日本からの報告は少ない。今回の研究で、日本とフィンランドという比較的格差が少なく、かつ平等な義務教育や医療保険制度が存在する両国においても同様の傾向が示された。著者らは「ACEと主観的健康観の低下、生活習慣病および健康行動との関連は、日本とフィンランド双方の高齢者で類似していた。この国際比較研究は、健康に対するACEの影響が文化的・社会的環境を問わず一貫していることを示唆している」とまとめている。

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