高齢者糖尿病の血糖管理目標の分類と死亡リスクの相関が明らかに

 高齢の糖尿病患者の生命予後を改善するには、血糖値を厳格にコントロールするよりも、生活機能を重視すべきことを示唆するデータが発表された。『高齢者糖尿病診療ガイドライン』に示されているカテゴリー分類に則して患者を群分けして行った追跡研究の結果、高めの血糖管理目標が推奨されるカテゴリーに該当する患者は、交絡因子の影響を調整しても死亡リスクが高いことが分かった。東京都健康長寿医療センター糖尿病・代謝・内分泌内科の荒木厚氏、大村卓也氏らの研究によるもので、結果の詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に4月22日掲載された。

 近年、厳格な血糖管理がかえって予後を悪化させるケースのあることが明らかになり、管理目標を患者ごとに個別化することが推奨されている。特に高齢患者については、認知機能や日常生活動作(ADL)、低血糖リスクなどを考慮して患者をカテゴリー分けし、HbA1cの上限だけでなく下限にも配慮するという血糖管理目標が『高齢者糖尿病診療ガイドライン』に示されている。ただし、このガイドラインに示されているカテゴリー分類は、必ずしも明確なエビデンスに基づくものではなかった。荒木氏らは、国内で行われた高齢糖尿病患者対象の縦断研究「J-EDIT研究」のデータを用いて、この点を検証した。

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 解析の対象は、高齢糖尿病患者843人。平均年齢は71.9±4.7歳、男性が45.6%。ガイドラインの分類に当てはめると、カテゴリーI(認知機能正常でADL自立)が54.3%、カテゴリーII(認知機能軽度低下、または基本的ADLは自立しているが手段的ADLが低下)が41.9%、カテゴリーIII(中等度以上の認知症、または基本的ADL低下、または多数の併存疾患や機能障害)が3.8%だった。なお、認知機能の評価にはMMSEを用い(カットオフ値27以上/26~22/21以下)、手段的ADLは老研式活動能力指標(同12以上/11以下)、基本的ADLはバーセル指数(同19以上/18以下)で評価した。

 6年間の追跡で64人が死亡した。粗死亡率は、カテゴリーIが5.0%、カテゴリーIIが10.2%、カテゴリーIIIが15.6%だった。死亡リスクに影響を与え得る因子(年齢、性別、BMI、HbA1c、収縮期血圧、血清脂質、eGFR、重症低血糖頻度)の影響を調整したCox回帰分析により、カテゴリーIに比較して他のカテゴリーは死亡リスクが有意に高いことが明らかになった。具体的には、カテゴリーIIがハザード比(HR)1.83(95%信頼区間1.06~3.14)、カテゴリーIIIはHR3.05(同1.12~8.26)だった。

 また、以下の2つのモデルでの検討も行った。

 1つ目のモデルは、糖尿病患者に多い併発疾患(網膜症、腎症、神経障害、虚血性心疾患、脳血管障害、がん、肝疾患、うつ)のうち4つ以上が併存している場合には、前記のガイドラインの分類のカテゴリーIIIに追加するというもの。2つ目のモデルは、老研式活動能力指標とバーセル指数から抽出した8項目(買い物、食事の支度、預金管理、新聞を読む、友人の訪問、食事摂取、トイレ使用、歩行)からなる「生活機能質問票8」という指標の点数で3つのカテゴリーに分類するというもの。

 これらいずれのモデルでも、カテゴリーが進むにつれて死亡リスクが上昇した。

 大村氏は、「この結果は、認知機能やADLで評価したカテゴリー分類が、死亡リスクの段階的な上昇と関連しており、ガイドラインの考え方を支持するデータが得られた。個々の患者の生活機能や年齢、併存疾患、低血糖リスクなどを踏まえた上での血糖管理の重要性を改めて浮き彫りにしている。高齢糖尿病患者の治療では血糖管理以上に、『生活機能を維持することが大切』とも言える」と語っている。

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HealthDay News 2021年5月31日
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