CMAH遺伝子を失うという「進化」がヒトという種に動脈硬化をもたらした? 筑波大グループ

進化の過程で「CMAH」という遺伝子を失ったことが、ヒトで動脈硬化が生じやすい要因となる可能性を、筑波大学医学医療系川西邦夫氏らのグループが報告した。研究の詳細は「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」7月22日オンライン版に掲載された。

動脈硬化は世界の死亡原因の3分の1を占める心血管疾患(CVD)や脳卒中の主要な病因だ。数千年前のミイラにも動脈硬化の所見が認められ、人類を古くから苦しめてきたと考えられる。動脈硬化のリスクとして、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、加齢などが知られているが、CVD初発患者の約15%はそれらのリスクを有しておらず、未知の危険因子の存在が想定されている。

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ヒトに近い遺伝子をもつチンパンジーの調査によると、チンパンジーはヒトより血清のコレステロール値や中性脂肪値が高く、血圧も高値でありながら、動脈硬化性病変が生じることはまれで、「CVDを伴わない心臓の線維化」で死亡するケースが多いことがわかっている。このことは、ヒトの種に特有の動脈硬化危険因子が存在する可能性を示唆している。

川西氏らは、所属していた米国カリフォルニア大学サンディエゴ校において、ヒトとチンパンジーの相違の一つである「CMAH(CMP-Neu5Ac水酸化酵素)」の有無に着目した。CMAHはヒト以外のほぼすべての哺乳類がもつ酵素で、細胞表面を覆う糖鎖の末端に位置するシアル酸Neu5Gcの合成に関わっている。しかしヒトではおよそ200~300万年前に生じた突然変異によって、CMAH遺伝子がその機能を失ったと考えられている。多くの微生物は細胞表面のシアル酸を認識して宿主に感染することから、ヒトがNeu5Gcを合成できないことは、人畜共通感染症のリスクを低下させる利点があったと考えられている。

同氏らの研究ではまず、ヒトと同じようにCMAHをもたないCmah遺伝子ノックアウトマウスを、動脈硬化モデル研究に用いられるLdlr遺伝子ノックアウトマウスと掛け合わせ、シアル酸を含まない高脂肪食で飼育し、動脈硬化の進展レベルを通常のLdlr遺伝子ノックアウトマウス(Cmah野生型)と比較した。するとCmah遺伝子ノックアウトマウスは野生型マウスに比べて1.9倍に拡大した動脈硬化性病変が形成された。血清コレステロール値や中性脂肪値は両群に有意差がなかった。他方、Cmah遺伝子ノックアウトマウスは耐糖能が悪化し、マクロファージの炎症性サイトカイン発現が亢進していた。

次に、Cmah遺伝子とLdlr遺伝子のダブルノックアウトマウスに、抗Neu5Gc抗体を誘導し、Neu5Gc含有高脂肪食で飼育したところ、他の条件に比べてさらに動脈硬化が早く進展することがわかった。Neu5Gcは、牛肉、豚肉、羊肉などの赤身肉に多く含まれている。CMAHをもたないヒトは抗Neu5Gc抗体を持つことが知られているが、赤身肉を過剰に摂取すると、体内に蓄積したNeu5Gcと抗Neu5Gc抗体による慢性炎症が惹起され、動脈硬化を進行させるリスク因子となる可能性が示唆される。

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HealthDay News 2019年8月5日
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