地域住民の認知機能が、知的活動と運動教室で改善――鳥取大

知的活動と身体運動および認知症や生活習慣に関する教育を組み合わせたプログラムの実施によって、地域高齢者の認知機能や身体機能が改善するというデータが、鳥取県の伯耆町で行われた研究から報告された。鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座の河月稔氏、浦上克哉氏らの研究グループによるもので、「Annals of Clinical and Translational Neurology」2月18日オンライン版に論文が掲載された。

 近年、全国各地で認知症予防教室が行われているが、その内容は自治体によって異なり有効性に差があるという報告も見られる。鳥取県の琴浦町では約15年前から、知的活動と身体運動およびコミュニケーションを中心とした認知症予防教室を開催しており、その取り組みを背景として今回の研究では、伯耆町において知的活動、身体運動、認知症や生活習慣に関する教育を組み合わせた独自の認知機能低下予防プログラムを開発し、認知機能低下が疑われる高齢者を対象に効果を検証した。

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 伯耆町に住む要介護認定を受けていない軽度の認知機能低下が疑われる65歳以上の高齢者136人(平均年齢77.3±6.3歳、男性が34.6%)を2群に分け、1群は6カ月の介入に続き6カ月の観察期間の順、もう1群はその逆の順序で介入するという非盲検クロスオーバー法により、認知機能や身体機能などの変化を検討した。なお、運動ができない心疾患患者と、座位から立ち上がれない人は除外した。

 介入期間中、参加者は11~15人ずつのグループに分かれ、グループごとに、作業療法士、保健師または看護師、認知症予防について知識のあるアドバイザーが各1人という3人からなるチームが指導にあたった。指導は1週間に1回、計24回で、1回につき、知的活動と身体運動を各50分間、休憩あるいは認知症と生活習慣についての講義を20分行った。講義は4週間に1回の頻度で計6回行い、講義を実施しない日は休憩時間とした。知的活動は、近時記憶、作業記憶、計算力、思考力、判断力、遂行力、注意力、視空間認知能力の8領域を刺激するプログラムとし、内容や難易度は指導者の裁量で適宜調整した。身体運動は有酸素運動と筋力運動を中心とするもので、強度は3~4 METsとした。

 認知機能の評価には、タッチパネル式コンピューターを用いた認知機能検査であるTDASを用いた。TDASスコアは0~101点で評価され、点数が低いほど認知機能が良好と判定される。

 全対象者のベースライン時のTDASスコアは7.0±5.7点だった。介入期間の前後および観察期間の前後でのTDASスコアの変化を比較すると、前者は-1.05±3.92点と低下、後者は0.74±4.78点と上昇しており、介入による認知機能の有意な改善が認められた(P<0.05)。

 認知機能だけでなく身体機能の改善も認められた。例えば、握力は介入期間前後で0.88±2.92kg増加したのに対し、観察期間前後では-0.87±2.96kgと低下した(P<0.01)。30秒間に椅子から立つ・座るという動作を何回できるかというテストも同順に、1.97±3.59回の増加と0.52±3.01回の増加で有意差があった(P<0.05)。座った状態での前屈も、2.07±5.17cmの増加と-0.46±4.11cmの減少で、やはり有意差が見られた(P<0.01)。

 なお、この介入に要したコストは、伯耆町管轄の施設や設備を利用したため、主に教室指導者の人件費と知的活動の消耗品費であり、クラス1回当たり2万円未満であった。

 これらの検討を踏まえ、著者らは「知的活動と身体運動、認知症や生活習慣に関する教育を組み合わせ開発したこのプログラムは、軽度の認知機能低下が疑われる高齢者の認知機能・身体機能を改善する効果があると考える。低コストであり、他の地域でも容易に導入可能と考えている」と結論をまとめている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2020年3月30日
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