企業の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を検討した研究から、企業規模や業種によって対策の実施状況に明らかな差があり、対策をしっかり行っている企業ほど社員が効率よく仕事に取り組めていることが明らかになった。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の佐々木那津氏、川上憲人氏らが行ったオンライン調査の結果で、詳細は「Journal of Occupational Health」6月11日オンライン版、「Environmental and Occupational Health Practice」6月15日オンライン版に掲載された。

川上氏らは、緊急事態宣言発出前の3月19日~22日に、国内企業の正社員を対象とする横断調査をオンラインで実施。回答者が勤務している企業のCOVID-19対策実施状況や心理的なストレス、仕事のパフォーマンスなどに関し、自記式アンケートによる回答を求めた。回答者1,448人から内容に不備があったものを除き、1,379人の回答を解析した。その平均年齢は41.2±10.5歳、男性50.6%で、所属する企業規模(従業員数)は、1,000人以上が33.1%、300~999人が16.6%、50~299人が27.3%、50人未満が23.0%。

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まず、企業のCOVID-19対策の状況を見ると、回答した社員の79.9%はアンケート回答時点において、勤務先から感染予防対策に関する何らかの社員向け通知を受け取っており、手洗いなどの個人予防対策の励行は約8割の企業で実施されていた。ただし、高齢者や妊婦などのハイリスクとされる社員への配慮(39.8%)や、感染時の補償に関する情報提供(35.3%)、テレワークや在宅勤務の励行(26.8%)などの実施率は高いとは言えない状況が明らかになった。

企業規模別に見ると、従業員数が1,000人以上の企業社員は93.0%が何らかの通知を受け取っていたが、50人未満の小規模企業の社員ではその割合が56.8%と少なく、企業規模が大きいほど対策通知実施率が高いという有意な相関が認められた。同様の関係は対策の実施件数についても認められ、企業規模が小さいほど実施している対策の件数が少なかった(ともに傾向性P<0.01)。業種別では、製造業や情報・通信産業に比較し、小売・卸売業、運輸業では対策の実施件数が有意に少なかった(P<0.01)。

対策の実施件数は、社員の心理面にも有意な影響を及ぼしていた。例えば、対策実施件数が多い企業の社員ほど、COVID-19に対する不安が強かった(β=0.123、P<0.001)。しかしその一方で、対策の実施件数が多い企業の社員は、心理的ストレス反応が有意に低かった(β=-0.068、P=0.032)。さらに、仕事のパフォーマンスも、対策の実施件数が多い企業の社員の方が有意に高かった(β=0.101、P=0.002)。これにより、勤務先企業が対策を多く実施するほど、COVID-19に対する自覚が高まり不安を感じやすくなるものの、十分な対策に支えられて、労働者の精神的な健康と仕事には良い影響があることが示唆された。

これらの結果から著者らは、「この研究結果に基づき、政府や関連組織は企業に対して包括的な対策の実施を促すこと、規模の小さい企業や特定の業種での対策を支援することにより、COVID-19の感染拡大防止とともに労働者の健康維持が図られる」と期待を述べている。

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HealthDay News 2020年7月6日
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