魚油の成分が糖尿病網膜症を抑制する可能性――名古屋大

オメガ3脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)が、糖尿病網膜症に有効な可能性が報告された。EPAが代謝されてできる物質が網膜において脳由来神経栄養因子(BDNF)の産生を刺激し、網膜神経細胞の障害が抑制されるという。名古屋大学大学院医学系研究科眼科学の兼子裕規氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes」2月6日オンライン版に掲載された。

糖尿病の合併症として起きる糖尿病網膜症は、治療が進歩した現在もなお、日本を含む先進国で成人の失明原因の上位に位置する。眼底検査での診断に先行して網膜の神経細胞の障害が始まるとされ、神経細胞が不可逆的に変化し始めるよりも前からの神経保護的な早期治療が重要と考えられている。

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一方、EPAは多価不飽和脂肪酸の一種で、魚油に豊富に含まれている必須脂肪酸。EPAの内服によって脳の視床下部ではBDNFの産生が増えることが報告されている。兼子氏らの研究は、EPAが眼内でもBDNF産生を増やし視機能を改善する可能性を検討したもの。

ラットを3群に分け、2群はストレプトゾトシン(STZ)という薬剤で糖尿病を誘発。そのうち1群はEPAを5%含む餌で飼育し(EPA群)、他の1群(STZ群)とSTZを投与しない比較対照群は、ひまわり油を5%含む餌で飼育した。8週間後、STZ群とEPA群は対照群に比し、高血糖と体重減少が見られ、ケトーシス(糖質利用が低下している状態)も観察された。

網脈絡膜(網膜と網膜の下にある脈絡膜)のサンプルを検討すると、STZ群では酸化ストレスが亢進しBDNF産生が低下していた。しかしEPA群ではそれらの変化が明らかに抑制されていた。また、網膜電図を用いた検討でも、網膜内神経細胞の1つであるアマクリン細胞の機能を反映する律動様小波がSTZ群で減弱したが、EPA群ではその減弱が軽減されていた。よって、EPA内服により、全身の糖尿病状態は改善されないものの、網膜に対しては保護的に働くことがわかった。

網脈絡膜のサンプル解析からは、いくつかのEPA代謝産物が見つかった。それらを用いた細胞実験にて、どの代謝産物がBDNF産生を刺激するのかを検討したところ、18-HEPEという代謝産物のみがBDNFの産生を増加させた。

そこで次に、18-HEPEまたは同量の緩衝液を眼球の硝子体に注射するという実験を行った。その結果、18-HEPEを注射した群で網膜電図の律動様小波が改善し、網膜内BDNF産生の増加が認められた。

これら一連の結果を踏まえ研究グループでは、「EPA内服によってBDNF産生が増加し網膜神経細胞障害が改善された。またEPA は体内で18-HEPEに代謝され作用していることがわかった。早期の糖尿病網膜症において、EPAの内服が網膜機能障害を抑制する可能性が示唆される」とまとめている。

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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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HealthDay News 2020年3月9日
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