プライマリケアで使用可能な認知症予測モデル――久山町研究のデータから開発

 久山町研究のデータを基に、プライマリケアで使用可能な認知症リスク予測モデルが開発された。神経学的検査などの専門的な検査を含まない、9項目の一般的な指標のみで構成されており、C統計量0.755と優れた予測能を有するという。九州大学大学院医学研究院衛生・公衆衛生学分野の二宮利治氏らの論文が、「Alzheimer’s & Dementia : Diagnosis, Assessment & Disease Monitoring」に7月28日掲載された。

 認知症の発症を予測するツールやスコアリングモデルはこれまでに複数開発されている。しかしそれらの多くは、リスク判定に神経学的検査や遺伝子検査を要し、汎用性が低くプライマリケアでは施行が難しい。また、開発に当たって認知症の発症を介護保険の申請などで判断しているため、一部の患者が見落とされている可能性がある。

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 これに対して今回発表された予測モデルは、長期間ほぼ99%の追跡率を維持している住民対象研究「久山町研究」のデータを用いて開発されており、認知症発症の見落としが少なく、また日常診療レベルの検査のみでリスク判定できることが大きな特徴。モデル開発のために、1988年12月から2012年11月にわたり、65歳以上の地域住民795人を前向きに追跡した。追跡期間中に町の65歳以上の住民の90%以上を対象とした認知症スクリーニング検査が5回行われ、認知症の疑いのある人には画像検査を含む詳細な検査を施行。精神科医と脳卒中専門医により確定診断された。なお、転居者にも追跡が続けられ、追跡不能者はいなかった。

 24年間の追跡中に364人が認知症と診断された。多変量解析の結果、認知症発症の有意な予測因子として、年齢、性別(女性)、教育歴9年以下、BMI18.5未満、高血圧、糖尿病、脳卒中の既往、現喫煙者、および座位行動の多さが抽出された。

 この結果を基に開発された予測モデルでは、以下のように認知症リスクを予測する。まず年齢により65~69歳を0点、70~74歳2点、75~79歳3点、80~84歳5点、85歳以上7点とする。これに、女性、教育歴9年以下、BMI18.5未満、高血圧、現喫煙者は各1点加算し、糖尿病、脳卒中の既往、座位行動の多さは各2点加算。これらの合計点数に応じて10年以内の認知症発症リスクが分かるという仕組み。例えば合計0点では4%、3点では10%、6点では22%、9点では46%であり、13点以上では80%以上と判定される。

 この予測モデルで判定された認知症リスクは、元データである多変量モデルとの高い相関が確認され(スピアマンの順位相関係数=0.993、β=0.977)、予測能のC統計量は0.755(95%信頼区間0.724~0.786)であった。著者らは、「新たに開発された認知症発症予測モデルは優れた予測能を有しており、一般住民の中で認知症リスクが高い高齢者を早期に特定できる可能性がある。また、リスク因子の蓄積状況の把握や生活習慣と認知症の関係の理解にも役立つ」とまとめている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2021年8月31日
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