抑うつ症状と主観的認知機能低下による労働生産性への影響が明らかに

抑うつ症状があると労働生産性が低下することが知られているが、主観的な認知機能低下も労働生産性に、直接的な影響を及ぼすことが明らかになった。北海道大学大学院医学研究院精神医学教室の豊島邦義氏ら、および東京医科大学精神医学分野の井上猛氏らの研究グループによる研究の結果で、詳細は「BioPsychoSocial Medicine」5月4日オンライン版に掲載された。
抑うつ症状のある人は、本来なら欠勤すべきにも関わらず出勤を続けようとすることが少なくない。近年、そのような行動に伴う認知機能低下などが、労働生産性の低下につながる「プレゼンティズム(疾病就業)」への対策が注目されている。しかし、それらの因子の相互関係や影響力の程度はよく分かっていない。豊島氏らは東京医科大学病院で募集した協力者を対象に、主観的認知機能と抑うつ症状の労働生産性、プレゼンティズムへの影響を検討した。

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研究対象は20歳以上の被雇用者477人で、重篤な身体疾患や器質的脳障害のある人は除外した。主な背景は、平均年齢41.11±11.99歳、男性44.3%、既婚者64.1%で、11.1%は精神疾患の既往歴があり、4.0%は精神科治療中だった。また、65.8%に飲酒習慣、20.1%に喫煙習慣があった。
主観的認知機能は、双極性障害の評価ツール(Cognitive Complaints in Bipolar Disorder Rating Assessment;COBRA)で評価した。COBRAは最高48点で、スコアが高いほど主観的認知機能が悪いことを意味する。今回の研究対象の平均は8.45±6.53で、豊島氏らが以前に双極性障害患者で検討し報告したスコア(13.63±7.95)より良好だった。
抑うつ症状は、うつ病のスクリーニングや重症度の判定ツール(Patient Health Questionnaire 9;PHQ-9)で評価した。PHQ-9は最高27点で、スコアが高いほど抑うつ症状が強いことを意味する。今回の研究対象では平均4.23±4.30だった。プレゼンティズムについては海外で開発されたツール(Work Limitations Questionnaire 8;WLQ-8)の日本語版を用いて労働生産性などを評価し(スコアが高いほど生産性が低い)、COBRAやPHQ-9との関連を検討した。
検討の結果、COBRAスコアとWLQ-8労働生産性スコアに有意な正相関が認められ(ρ=0.470、P<0.01)、主観的認知機能が低下しているほど労働生産性が低いことが示された。また、PHQ-9スコアとWLQ-8労働生産性スコアも有意に正相関し(ρ=0.399、P<0.01)、抑うつ症状が強いほど労働生産性が低下していた。COBRAスコアとPHQ-9スコアにも有意な正相関が認められた(ρ=0.407、P<0.01)。
次に、WLQ-8労働生産性スコアを従属変数、COBRAとPHQ-9を独立変数とした重回帰分析を行うと、COBRA(β=0.36、P<0.001)、PHQ-9(β=0.22、P<0.001)は、いずれも労働生産性の有意な予測因子だった。なお、COBRAとPHQ-9には有意な交互作用は認められなかった。
続いて、労働生産性への影響をパス分析で検討。その結果、主観的認知機能は労働生産性に直接的な影響があると認められた(直接効果0.36、P<0.001)。また、抑うつ症状は労働生産性への直接的な影響(同0.22、P<0.001)に加え、主観的認知機能の低下を介して間接的にも影響を及ぼすことが分かった(間接効果0.15、P<0.001)。
研究グループは本研究を「主観的認知機能と労働生産性の関連を日本人で検討した初めての研究であり、プレゼンティズムへの取り組みの第一歩」と位置づけ、「抑うつ症状のみでなく、主観的認知機能の低下も労働生産性低下の重要なファクターである。今後の研究では、労働者の主観的認知機能の評価も必要」と結論付けている。
なお、数名の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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