東日本大震災後に高血圧関連腎症での透析導入が増加――気仙沼からの報告

東日本大震災の被災地では、高血圧関連腎症による透析導入が有意に増加していたことを示唆するデータが報告された。一方で、糖尿病性腎症は震災の前後ともに最も多いことや、他の腎疾患による透析導入件数には有意な変化がないことも分かった。東北大学病院総合地域医療教育支援部の阿部倫明氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Nephrology」に10月12日掲載された。
大規模災害発生後には種々のストレスにより、被災者の血圧が上昇することや、脳心血管イベントリスクが高まる可能性が指摘されている。しかしながら末期腎不全への進行は長時間を要し、さらにさまざまな生活習慣や疾患が関与するため、その影響に関する報告は少ない。阿部氏らは、東日本大震災前後の透析導入件数の推移を後方視的に検討し、この点を明らかにすることを試みた。

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研究の対象は、気仙沼市立病院で2007~2020年に外来透析治療を受けた全ての患者296人。この数値は同院での透析導入患者と、避難先などの他院で導入後に気仙沼に戻り同院で維持透析を受けた患者の合計であり、外来透析に移行できない患者は除外されている。なお、同院は気仙沼市内で維持透析が可能な唯一の医療機関で、近隣の他の透析施設とは数十km離れている。
解析対象者の平均年齢は69.1±12.4歳、女性が30.7%であり、透析導入件数は東日本大震災前が81人、震災後が215人だった。
まず、透析導入の原疾患にかかわらず全ての透析導入件数の推移を見ると、震災前の2007年から震災後の2015年まではほぼ変化がないものの、震災5年後の2016年に大幅に増加していた。その後2019年までは透析導入件数の多い状態が継続し、2020年に震災前の水準に戻っていた。この一過性の増加傾向について著者らは、「被災により気仙沼の人口が減少したにもかかわらず、透析導入件数が増加したことは注目に値する」と述べている。
次に、透析導入の原疾患を、糖尿病性腎症、腎硬化症を含む高血圧関連腎症、糸球体腎炎、その他の4群に分類した上で、その割合の震災前後での変化を検討した。すると、糖尿病性腎症は震災前が48.1%で震災後は34.9%、高血圧関連腎症は同順に16.0%、33.5%、糸球体腎炎は21.0%、17.2%、その他は14.8%、14.4%であり、高血圧関連腎症の割合のみが顕著に増加していた。なお、この研究における高血圧関連腎症とは、高血圧のみに長期間罹患し、末期腎不全に緩徐に進行する過程で検尿異常がなく、タンパク尿がごくわずかな症例と便宜的に定義している。
年齢、性別および震災を説明変数として、原疾患別に透析導入件数の変化に及ぼした影響を検討すると、高血圧関連腎症に関しては震災が有意な関連因子として抽出され〔震災前に対してオッズ比2.523(95%信頼区間1.3027~4.8875)〕、年齢や性別との関連は有意でなかった。また、糖尿病性腎症や糸球体腎炎は、導入件数の変化と有意な関連のある因子は特定されなかった。
これらの検討結果から、東日本大震災の5年後から認められた透析導入件数の増加は、高血圧関連腎症の増加によって生じたと考えられた。
大規模災害後の高血圧関連腎症による透析導入件数の増加の背景として、著者らは、「災害に関連するストレスは交感神経系を亢進させ、高血圧の発症や血圧管理不良のリスクとなり、また避難生活ではナトリウム摂取量が増加しやすく、『災害高血圧』と呼ばれる状態を惹起する。このような変化に伴い生じる血管内皮機能の低下や、不十分な血圧管理が腎機能低下につながるのではないか。この仮説の証明には今後もさらに検証が必要である」との考察を加えている。

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