「痴呆」から「認知症」に変わり家族の不快感は減った?

 現在「認知症」と呼ばれる状態は以前、社会的にも医学的にも「痴呆」と呼ばれていた。しかし「痴呆」には侮蔑的な含意があることから、2004年に厚生労働省などの主導によって「認知症」に変更され現在に至っている。筑波大学人間系の山中克夫氏らは、この変更により認知症本人の家族の不快感が減ったか否かをアンケート調査により検証、その結果が「Brain and Behavior」に12月21日掲載された。

 このアンケート調査は、2017年6~8月に茨城県内の複数の医療機関で実施され、認知症で医療機関を受診した人の家族153人から有効な回答を得た。回答者の主な属性は以下のとおり。年齢は50代が最も多く38.4%、次いで60代が27.2%、70歳以上が21.2%であり、女性が70.0%、患者との同居者が70.7%を占めていた。また続柄は娘が40.7%、息子19.3%、妻16.0%、夫9.3%だった。

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 アンケートは22問からなり、それぞれの質問に‘とても当てはまる’‘やや当てはまる’‘どちらとも言えない’‘あまり当てはまらない’‘全く当てはまらない’の五択で回答してもらい、前二者を‘同意’、後二者を‘非同意’として分類した。

 「痴呆よりも認知症の方が不快感が少ない」に対しては同意が71.6%と多数を占め、非同意は10.9%であり、「認知症は差別的な用語である」には同意が13.2%、非同意が57.0%だった。医療福祉従事者が認知症のことを「認知」と省略して呼ぶことに関連して設定された、「認知は認知症より不快感が強い」には同意が34.6%、非同意が25.2%で、‘どちらでもない’が40.1%と最多だった。「認知症に代わる、より不快感の少ない用語がある」への最多の回答は‘どちらでもない’の43.9%で、同意は14.8%、非同意は41.2%だった。

 認知症という用語を用いることに伴い不快感が生じるか否かに関しては、全体的に同意よりも非同意の回答の方が多かった。ただし、「認知症の本人に対して認知症という用語を使うことに不快感がある」への同意は34.2%で、他の家族や親戚との間で用いる場合の不快感への同意(24.1%)や、友人や隣人との間で用いる不快感への同意(28.8%)よりも高かった。

 一方、他者に認知症という用語を使用されることに認知症の人本人が不快感を抱いているか、家族の意見を尋ねたところ、全体的に非同意よりも同意(抱いていると思う)の回答の方が多かった。具体的には、当事者以外の家族や親戚が用いることの不快感には36.2%、友人や隣人が用いることの不快感は40.2%が同意した。

 アンケートには、認知症という用語に対する心情を問うこれらの項目以外にも、認知症の人や家族を取り巻く人々への心情に関する質問が設けられていた。例えば、「家族に認知症患者がいることを明らかにした場合、友人や隣人から温かい支援を受けられると思う」は約60%が同意し、非同意は10%未満だった。「家族に認知症患者がいることを伝えた場合に、友人や隣人との関係が悪化すると思う」への同意は5.3%とわずかだったが、37.5%は「何らかのかたちで友人や隣人に気を遣わせてしまうと思う」に同意した。また、「友人や隣人で認知症の正しい知識を持っている人は少ないと思う」には、47.1%と半数近くが同意した。

 このほか、上記の認知症の人や家族を取り巻く人々への心情と認知症という用語に対する心情との関連性について、探索的因子分析により抽出された因子をもとに構造方程式モデリングによる統計解析を行っている。それによると、認知症という用語に関するネガティブな印象には、認知症患者がいることの開示のためらいが影響しており、それには若年であることと、妻、夫、きょうだいなどの続柄が関係していた。

 これらの結果から、著者らは「全体的に見ると認知症の人の家族で、現在の認知症という用語を不快と感じている人は少なく、その意味で用語変更は成功したと考えられる。ただし一方で、医療福祉従事者が使うことのある認知という略語については約35%が不快と感じていることは注目に値する。この略語の使用者が意図していなくても、家族は侮蔑的な含意を感じとることがあり、注意が必要」と述べている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2021年1月25日
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