サルコペニア患者の処方薬が減ると摂食量が増加――脳卒中後のポリファーマシー対策

 脳卒中後のリハビリが必要な高齢サルコペニア患者の多剤併用を見直すことで、摂取エネルギー量と摂取たんぱく質量が増加する可能性を示唆するデータが報告された。熊本リハビリテーション病院薬剤部の松本彩加氏、同院サルコペニア・低栄養研究センターの吉村芳弘氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に1月19日掲載された。

 筋肉量や筋力が低下した状態であるサルコペニアは、高齢者の要介護リスクを高め、特に脳卒中後のリハビリ中の患者では機能回復に悪影響を及ぼす。そのようなサルコペニアからの回復や予防には、筋力トレーニングとたんぱく質や必須アミノ酸などを中心とする栄養介入が推奨されている。一方、高齢患者に対する多剤併用(ポリファーマシー)が身体機能や栄養状態の悪化に関連していることが明らかになり、処方薬剤を見直す減薬が試みられるようになってきた。しかし、リハビリ領域でのポリファーマシー対策に関するエビデンスはほとんどないことから、松本氏らは以下の検討を行った。

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 2015~2020年に同院の回復期リハビリ病棟に入院した脳卒中患者849人のうち、65歳以上で入院時に6剤以上が処方されていた患者を登録。入院中の急性期治療のための転院・転棟、高度な意識障害(JCSで3桁以上)、データ欠落、研究参加不同意などのケースを除外。残った158人のうち、サルコペニアと判定された91人を解析対象とした。なお、サルコペニアの判定は、2019年のアジアワーキンググループの基準によった。

 解析対象患者の特徴は、平均年齢81.0±7.5歳、男性48.4%。低栄養リスクスコア(GNRI)は中央値91(四分位範囲84~99)であり、低栄養状態の患者が多くを占めていた。握力は男性17.5kg(同10.2~22.0)、女性9.2kg(4.0~13.3)、骨格筋量指数(SMI)は同順に6.1kg/m2(5.7~6.5)、4.8kg/m2(4.0~5.1)だった。

 入院時の処方薬数は中央値8剤(6~9)。入院期間は中央値107日(65~142)であり、退院時の処方薬数が入院時よりも減っていた減薬群が39人、それ以外の非減薬群が52人だった。前者は入院時の処方数が9剤(7~11)で退院時までの変化は-2剤(-3~-1)、後者は入院時7剤(6~9)で退院時までの変化は+1剤(0~2)であり、入院時の処方薬数(P=0.003)と、退院時までの変化数に有意差が見られた(P<0.001)。潜在的に不適切な薬剤(PIM)は両群ともに中央値1(1~2)だった。なお、薬剤数は、一過性の急性疾患(感染症など)の治療薬や点眼・点鼻・貼付薬、頓服薬、市販薬を除外してカウントしている。

 入院後の最初の3日間に、患者の残食量を基にトレーニングを受けた看護師と栄養士が摂取エネルギー量と摂取たんぱく質量を把握。経管栄養が施行されている場合はそれも加算した上で、1日当たりの摂取量を算出。摂取エネルギー量は中央値28.0kcal/kg/日(24.1~33.3)、摂取たんぱく質量は同1.1g/kg/日(0.9~1.2)であり、減薬群と非減薬群とで有意差はなかった。また、入院時点では、前記のとおり処方薬数に有意差があったことを除いて、評価した全ての指標(年齢、性別、脳卒中発症前の身体的自立度、GNRI、握力、SMI、アルブミン、ヘモグロビンなど)に有意差はなく、また入院期間も有意差がなかった。

 次に、退院時の摂取エネルギー量、摂取たんぱく質量、握力、SMIを比較すると、いずれも有意な群間差は認められなかった。しかし、入院時に評価した指標を共変量とする多変量回帰分析を行った結果、入院から退院までの処方薬数の変化と、退院時の摂取エネルギー量(β=-0.237、P=0.009)、および、摂取たんぱく質量(β=-0.242、P=0.047)との間に、有意な負の相関関係があることが明らかになった。

 まとめると、減薬により栄養摂取量が有意に改善していた。ただし、握力やSMIの向上は確認されなかった。減薬がサルコペニアの改善につながらなかった理由について著者らは、サンプルサイズや観察期間が十分でなかったためではないかとの考察を加えている。その上で、「処方の見直しに運動・栄養介入を組み合わせることで、リハビリ中の患者のサルコペニアを改善できる可能性がある。今後は、どのような薬剤の減薬が重要なのかを明らかにしたい」と述べている。

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HealthDay News 2022年4月11日
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