腎機能正常な糖尿病患者の14%はeGFRが急速に低下する

糖尿病患者の中には発症後の腎機能低下が早く、一般的な経過よりも短期間で透析に至るリスクが高い群(early decliner)の存在が知られているが、その頻度は14%であることが報告された。また、収縮期血圧(SBP)高値、尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)高値などがそのリスク因子であることが分かった。東京大学大学院医学系研究科腎臓・内分泌内科の南学正臣氏らによる多施設共同研究によるもので、詳細は「BMJ Open Diabetes Research & Care」3月22日オンライン版に掲載された。
これまで糖尿病性腎症と定義されてきた腎障害の発症パターンは、典型的には先に微量アルブミン尿が出現・増加し、次にeGFRの低下が生じるとされていたが、アルブミン尿を伴わずに腎機能が低下する非典型例の報告が増えている。このため、ACR≧30mg/gCrかつ/またはeGFR<60mL/分/1.73m2の群はDiabetic Kidney Disease(DKD)と定義されるようになり、南学氏らの研究では、まずその実態を明らかにするため、国内15施設で横断研究を実施した。

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2,385人の糖尿病患者(年齢64歳、BMI24、HbA1c7.1%、eGFR70mL/分/1.73m2、いずれも中央値。男性62.8%、1型糖尿病7.8%)を、ACR30mg/gCr、eGFR60mL/分/1.73m2を基準値として4群に分類し、ACR低値かつeGFR高値の「非DKD群」(全体の48.4%)を基準に他の群と比較すると、各群に以下のような特徴が見られた。
ACR高値だがeGFRは保たれている「アルブミン尿群」(21.6%)は、網膜症のある割合やSBP、HbA1cが有意に高かった。ACR低値だがeGFRが低下している「腎機能低下群」(11.8%)は、高齢で尿酸値が高く、総コレステロールは低かった。ACR高値かつeGFR低値の「アルブミン尿+腎機能低下群」(18.2%)は高齢で女性が多く、網膜症のある割合、尿酸値、SBPが高かった。
次に、eGFR低下の速度とそのリスク因子を、平均追跡期間3.0年の縦断研究で検討した。複数回eGFRを測定している12施設2,761人のデータを解析した結果、全体の72%はeGFRが経年的に緩やかに低下していた(-1.7mL/分/1.73m2/年)。しかし全体の14%は、eGFRの年間の低下率が-3.5×年-16mL/分/1.73m2/年(4年間で約29mL/分/1.73m2低下)と急速に腎機能が低下しており、early declinerと考えられた。なお、この2群の他に、腎機能が維持または改善された患者が14%存在した。
続いて、経時的に連続するeGFRデータがありベースラインeGFR≧60mL/分/1.73m2の患者1,955名を対象として、症例ごとにベースラインと最終測定時点のeGFRの差を経過年数で割った傾きを計算。eGFR低下量に相関する背景因子に関して重回帰分析を行ったところ、ベースライン時の年齢(高齢であること)、収縮期血圧高値、eGFRおよびACR高値が有意に相関した。
著者らは、「本研究によってDKDおよびearly declinerの有病率と糖尿病患者における腎機能低下のリスク因子が明らかになった。腎症早期に対し十分な生活習慣病加療を受けていない場合、DKD進行リスクが高い可能性があり、その後の加療について特に注意が必要である」と結論をまとめている。
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