勾配の多い環境に住む高齢者はうつ傾向が強い――島根県での調査

自宅周辺に勾配が多い環境で生活する高齢者は、うつ傾向が強い人が多いというデータが報告された。島根大学研究・学術情報本部地域包括ケア教育研究センターの安部孝文氏らが行った研究の結果であり、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に4月24日掲載された。
自宅周辺の環境が、うつのリスクに影響を及ぼすことが近年報告されている。例えば近隣の治安の悪さは、住民のうつリスクを高めるという。ただしそれらの研究の多くは都市部で行われており、農村部での研究は少ない。日本の農村の多くは丘陵地にあり、土地の勾配が少なくない。安部氏らの研究は、このような日本の農村の特徴に着目し、島根県の高齢者を対象に、自宅周辺の勾配の多さとうつとの関連を検討した。

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この研究では、2012年6~11月に島根県の3つの自治体(隠岐の島町・雲南市・邑南町)と共同で実施された島根CoHRE研究の一環として、健康診断受診者のデータを横断的に解析した。研究に参加した1,551人の高齢者のうち、データの欠落のない935人を解析対象とした。自己評価式うつ尺度(self-rating depression scale;SDS)でうつレベルを評価するとともに、国土交通省のデータを基に研究参加者の自宅から400m以内の土地の勾配を割り出し、両者の関連を検討した。
なお、SDSは20項目の質問からなり、合計点数は20~80点で、点数が高いほどうつレベルが高いと判定される。今回の検討では、40点以上を「うつ症状あり」と判定したところ、215人(23.0%)がそれに該当した。また、自宅周辺から400m以内という範囲は、人々の日常的な活動範囲として適切であることが既報で示されている。
うつ症状のある群とない群を比較すると、年齢や性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、座位行動の時間、居住地域、教育歴には有意差がなかった。一方で、うつ症状のある群では症状がない群よりも、腰痛のある人の割合(59.5対44.3%)や、睡眠不足の人の割合(40.0対13.9%)が、有意に高かった(いずれもP<0.01)。
多変量ロジスティック回帰分析にて、うつリスクに影響を与え得る因子(年齢や性別、教育歴など前述の因子)を調整後、腰痛〔オッズ比(OR)1.66(95%信頼区間1.19~2.30)、P<0.01〕や、睡眠不足〔OR4.24(同2.94~6.13)、P<0.01〕に加え、自宅周辺の勾配〔OR1.04(同1.01~1.08)、P=0.02〕も、うつ症状と有意に関連する因子として抽出された。
自宅周辺の勾配が高齢者のうつに関連しているというこの結果の背景として、著者らは以下のような考察を加えている。まず、勾配が多い環境での生活は筋骨格系に負担をかけ、その痛みそのものや身体活動量が少なくなることなどを介して、うつリスクを高める可能性がある。また痛みのために睡眠が障害されることがあり、睡眠障害はうつのリスク因子の一つである。今回の検討においても、うつ症状のある群では腰痛がある人や睡眠不足の人が有意に多かった。ただし一方で、起伏に富んだ丘陵地の風景は、メンタルヘルスに良いとする報告も見られ、詳細なメカニズムは不明という。
また本研究の限界点として、健診を受けていない高齢者が解析対象に含まれていないこと、自己報告によりうつレベルを評価していること、うつリスクに影響を与え得る因子のうち経済状況などの未調整の因子があること、横断的研究であることなどを挙げている。
結論として、「国内の農村部では自宅周辺の土地の勾配が、そこに暮らす高齢者のうつ症状と関連していることが示された。また、うつ症状と腰痛、睡眠障害が有意に関連することも明らかになった。これらの関連の因果関係の解明のため、縦断的観察研究が必要とされる」と述べている。

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